創業者株主間契約書のススメ(超基礎編) vol. 3/3

Shion Okamoto
Sep 6, 2018 · 9 min read

起業家や起業準備中の方の中には、「創業者株主間契約を締結しておいた方がよい」という話を耳にしたことがある方も多いのではないかと思います。「創業者株主間契約って聞いたことはあるけど、どんなものかよくわからない、、」という方向けに、3回に分けて基礎的な内容を解説いたします。

今回は3回のうちの第3回目です。


5.その他の条項について

Vol.1では、創業者株主間契約とは何か、誰が誰から株式を買い取れるのかについて、Vol.2では、買取価格、税金について解説しました。それでは、他にはどのような条項を定めておくことが考えられるでしょうか?

上記の他に創業者株主間契約に規定する内容としては、例えば以下のようなものが考えられます。

(1)競業避止義務

創業株主が、会社を辞めた後すぐに会社の事業とそっくりな事業を始めてしまっては困りますよね。そのような事態を防止するため、以下のような競業避止義務を定めておくことが考えられます。

第●条 競業避止義務

本契約の当事者は、会社の役員又は従業員としての地位にある間、及び会社の役員又は従業員のいずれの地位も喪失した日から[2]年間を経過する日まで、自ら又は第三者を通じて、発行会社の事業と競合する事業を直接又は間接に行わず、また、出資、コンサルティングその他の方法でかかる事業から利益を取得しないものとする。

競業避止義務は会社にとってはとてもありがたい規定ですが、退任創業者にとっては前職と同種の仕事を行うことができなくなり、やりたい仕事を選ぶ自由を制約されることになります。このような規定は退任創業者の職業選択の自由を害するものとして、公序良俗違反として無効となる場合があるという点に注意が必要です。

具体的には、労働者の地位(使用者の正当な利益を尊重しなければならない職務・地位にあったか)や、競業制限範囲の妥当性(競業制限の期間、地域、職業の範囲が妥当か)等を考慮して合理性がある制限かどうかが判断されます。よって、競業避止期間が長すぎたり、競業の範囲が広すぎるような場合には無効と判断される可能性があります。なお、義務の対象者が従業員である場合には、取締役である場合に比して厳しい基準で、制限の合理性を判断されることになるものと思われます。

詳細について知りたい方は以下のサイトを参考にしてみてください。実際に規定する場合には弁護士にご相談ください。

https://business.bengo4.com/category4/practice682

https://business.bengo4.com/category1/practice31

(2)社長がExitする場合の売却請求権

例えば株式の90%を保有する社長が株式を事業会社に売却してExitしたいと思った場合、事業会社としては、90%にとどまらず会社株式100%を買い取り、完全子会社化したいと思うことが多いです。なぜなら、完全子会社化することによって経営の自由度が高まったり、全株主の同意によって会社法上の手続の一部を省略することができたり、少数株主が会社法上保有している権利(株式買取請求権、 代表訴訟提起権、 役員解任請求権等)を行使されるリスクをなくせる等のメリットがあるからです。

もっとも、残りの10%を保有する創業者が売却に応じてくれない場合、100%買収が実現せず、最悪の場合には売買の話自体が破談になってしまう可能性もあります。こういった事態を防止するため、「社長が第三者に会社株式を売却する場合には、他の創業株主に対しても、同条件で株式を第三者に対して売却するよう請求することができる」という内容の条項を定めておく場合があります。この場合の社長の権利(売却するよう請求することができる権利)を、ドラッグ・アロング・ライト(Drag Along Right)と呼びます。具体的な条項例は以下のようなものが考えられます。

乙(社長)は、甲(他の創業株主)に対し、買収(※別途定義が必要)に応じるべき旨を請求する権利(以下「売却請求権」という。)を有する。乙が売却請求権を行使する場合には、(i)買収の内容及び諸条件並びに(ii)売却請求権を行使する旨を記載した書面(以下「売却請求通知」という。)を甲宛に通知するものとする。乙が、本項に基づき売却請求権を行使した場合には、甲は、売却請求通知に記載された条件で、買収に応じるものとし、買収を実行するために必要なあらゆる手続を行うものとする。

なお、ドラッグ・アロングはvol.1の2(1)「社長が大部分の株式を保有している場合」に、社長のみの権利として規定されることが一般的です。vol.1の2(2)「創業者2名以上がそれぞれ同じくらいの数の株式を保有している場合」に、相互にドラッグ・アロング権を有する形で定めることも可能ですが、一方創業者がExitを希望する時に、他方創業者の同意なく売却を強制できるという強い権利になります。創業者2名が対等な場合にそのような定めを置いてよいかどうかは、慎重に考えていただいた方がよいかと思います。個人的には、創業者2名が対等な場合には、2名とも合意した場合にのみExitを認めるべきだと思いますので、ドラッグ・アロングは規定しない方がよいと思います。

(3)コールオプション

社長によっては、今後株式を保有する役職員のパフォーマンスが優れなかった場合に、その役職員が保有する株式を買い取れるオプションを残しておきたい、と考えている方もいらっしゃるかと思います。そのような場合には、上記で議論した辞任時の買取に加えて、一定事由が発生した際に、社長が役職員の株式を買い取れる権利がある旨を定めることがあります。このような買取権のことをコール・オプション(Call Option)と呼びます。一定事由の例としては、契約違反・内部規則違反等の役職員の責任が明らかな場合や、一定のマイルストーンを達成できなかった場合等とすることが考えられます。

もっとも、役職員の立場からすると、会社を辞めてもいないのに株式を買い取られてしまうことには抵抗が大きいかと思います。特に上記のマイルストーン未達の例については、慎重に協議を行った上で、具体的に数値で判断可能なマイルストーンを明確に設定する必要があります。

また、この場合の買取価格をどうするかについても別途検討が必要となります。上記マイルストーン未達のように役職員に背信的な行為があったわけではない場面については、これまでの会社の成長に貢献した分のアップサイドが取れない当初の取得価格とするのではなく、少なくとも純資産額ベースの買取価格として、これまでの成長への貢献分を反映すべきという考え方も十分あり得るところです。

個人的には上記のようなケースにおいては、株式を譲渡した上でコール・オプションを定めるよりは、当初よりストック・オプションの授与にとどめることが望ましいように思います。


6.投資契約との関係について

ベンチャー企業が外部投資家から資金調達を行った場合、投資契約やその他の契約を締結することになります。その場合、創業者株主間契約と、投資契約の内容が矛盾しないよう注意する必要があります。

例えば、以下のようなケースを考えてみます。

・創業者Aが40株、創業者Bが40株、外部投資家が残り20株を保有

・AB間の創業者株主間契約上、いずれかが会社を辞めた場合には、他方が株式を買い取れる旨の定めあり

・投資契約上、以下の定めあり

第●条 経営株主による株式等の譲渡等

1. 経営株主は、投資者の事前の書面による承認なく、その保有する発行会社株式等につき、第三者に対する譲渡、担保の設定、その他の処分をしないものとする。

2. 経営株主が発行会社の取締役としての地位を辞する際は、投資者の請求に基づき、その経営株主が保有する発行会社の株式の全てを投資者又は投資者が指名する者に売却するものとする。この場合の1株あたりの売却価格は、当該売却対象株式の1株あたりの取得価額又は直近簿価純資産価額を発行済株式総数(潜在株式の目的となる株式の数を含む。)で除して得られる額のうち、低い方の額とする。

上記のケースでAが会社を辞めた場合、創業者株主間契約によれば、BはAの株式を買い取れるはずです。もっとも、投資契約によれば、外部投資家もAの株式を買い取れることになります。現実的にはこのようなケースにおいては、投資家・B間で協議した上で誰がAの株を買い取るかを決定することになると思いますので、大きな問題になることは稀だと思われます。もっとも、投資家・B間の関係が悪化している場合等にはトラブルのもととなりかねませんので、あらかじめ契約相互の矛盾が生じないよう整理しておくことが望ましいです。例えば上記ケースでいえば、投資家・A・B共に当事者となっている投資契約においてA又はBが辞めた場合の定めが整備してあるのであれば、創業者株主間契約を別途結ぶ必要がない場合もあり得ます。

なお、上記のケースでAがBに株式を売却したが、投資家も投資契約に基づき、Aに対して株式の売却を請求した場合はどうなるのでしょうか?その場合、AからBに対する株式譲渡そのものは有効となります。もっとも、Aは投資家との間で締結した投資契約に違反してBに株式を売却していますので、投資契約違反として債務不履行の問題が生じることになります。


いかがでしたか?少しでも創業者株主間契約についての理解を深めていただけましたら幸いです!

当ブログは、読者の皆様に法的助言を提供するものではありません。当ブログに掲載されている情報は個別の状況を念頭においたものではなく、現行の最新 の法制に合致するようアップデートされたものであることを保証するものではありませんので、個別案件につきましては弁護士に別途ご相談ください。当ブログは筆者の個人的な見解を掲載したものであり、筆者が所属する団体の見解を表明するものではありません。掲載内容 は随時変更する場合があります。

Shion Okamoto

Written by

Venture Capitalist at YJ Capital. Attorney at Law (Japan ane New York).

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