私たちは「中国スゴい」をどのように消費してきたか〜「中国スゴい」を一過性の議論で終わらせないために〜

Shogo Ieda
22 min readNov 3, 2018

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2017年夏頃から一気に注目を集めるようになった中国×スタートアップをはじめとする、中国×IT、中国×インターネット、中国×キャッシュレス、深セン、中国×QRといった言葉。

日本が中国に完敗した今、26歳の私が全てのオッサンに言いたいこと』この記事はFacebookで34,000回もシェアされるほど読まれた。

このような「中国スゴい」という文脈の記事でSNSは溢れ、ビジネスマンの中で「中国はなんかスゴい」が広く共通認識として持たれることになった。

自分は2011年に大学で現代中国を勉強する学科を選んでから、今に到るまで中国に関しては歴史、経済、政治など薄く広く関心を持って、書籍や新聞などを通じて勉強をしてきた。

また、2014年からは「中国×スタートアップ」に特化したブログメディアを立ち上げて、今に至るまでSNSなども使って継続的に情報を発信している。会社の調査業務として、ちょうど中国が注目されるタイミングで、上海と北京に住み、「中国スゴい」関連の特集などに色々協力させてもらった。

話が逸れるが、僕の中国の原体験は2012年上海で体験した反日デモ。実際にデモを見にいったところ、上海のデモはコースなどもコントロールされていた。一方日本では「中国全土で暴徒化したデモが行われている」という一辺倒な報道だった(と記憶している)。この情報格差が自分の情報発信へのスタンス(想像に任せます)になっている。(一応書き手のポジションの明確化)

Alibaba、Tencentに集約する構造はこのまま続き、「スタートアップ」は今ほど注目されなくなり(今もスタートアップがそこまで注目されているわけではないが)、インターネット企業の株価も下がり、レンタル自転車など注目を集めたビジネスが事業としてうまく回らないなど、今のような「中国スゴい」一辺倒な雰囲気はそろそろひと段落するだろう。

ブームが鎮静しそうなこのタイミングで、主に以下2つを目的にこの記事を書いてみることにした。

1:「中国スゴい」が一人歩きする中、何が議論され、議論されなかったかを振り返ることで、新たな議論が生まれるきっかけとしたい

2:このブームに携わった「個人」を署名として残したい

この文章を書くにあたって、何か特定のものを批判するような言葉は入れないよう心がけた。何かを批判する文脈で「メディア」という言葉も使っていない。こういった報道の振り返りをする時には、発信側である「メディア」側へに批判が集中しがちであるが、受け手にも問題はある。なので、「社会」や「私たち」といった表現にしている。

※ここで出てくる情報は2018/11/03時点でオープンになっているものだけにしています。淡々と描写するように心がけたが、気分を害してしまったらごめんなさい。事実誤認などありましたら、メッセージをいただくか、GoogleDocsの「提案モード」で直接編集してください。

話は2014年に遡る。

2014年の終わり〜:中国×スタートアップ黎明期

当時、上海で日本酒を中心にコンサル会社を展開する会社でインターンをしていた。レストランや百貨店への日本酒の営業、レストランオーナー向けの商品説明会の開催などがメインの仕事だった。

中国のインターネットの急成長を受けて、ネットで消費者にも日本酒を直接売ろうとなった。中国のEC事情を調査するようになり、その時初めて中国×インターネットの世界に触れた。当時同じくインターンをしていた学生がTaobaoやmomoを使いこなしていて、「何しに中国きているんですか?」とお叱りを受け、日常生活でも意識してインターネット・サービスを触るようになった。Xiaomiのスマホを買ったのもこの時。

当時はメディア人として活躍したいと思っており、個人ブログを運営していて、調べたことをブログで発信していた。自然と中国のインターネット事情も発信するようになり、まずは中国スタートアップの全体を俯瞰しようと、メディアやVCを整理した記事を書いていたところ、たまたまTechNodeという中国のスタートアップを英語で発信するメディアを運営しているCEOのLugang氏がTwitterで自分の記事を見つけて、声をかえてくれた。日本語版を検討していたらしく、市場調査していたそう。

ちょうどインターンが終わるタイミングだったので、終わってからはそこのメディアを手伝おうと思い、このメディアを日本でどのポジションとしてローンチさせるかを決めるために、日本で中国×インターネットがどのように報じられていたかを調べた。

当時NewsPicksでふるまいよしこさんが編集者、高口さんが翻訳という形で、CaixinやHuxiuなどの中国経済メディアやスタートアップメディアの記事を翻訳する連載「進撃的中国IT」を持っていた。Xiaomiが注目されたタイミングで、スマホ関連の記事が多かった。他には、TheBridgeが上記のTechNodeやTechInAsiaの記事の一部を翻訳して提供していた。

https://newspicks.com/user/9015/
http://thebridge.jp/author/technode

また、個人に目を向けると、山谷さんや高口さん、安田さんがネットメディアで連載を持っていたり、中国SNSに詳しい日本語お兄さんやAndroid関連のお仕事をされてる中尾さんが中国のSNS事情をブログで発信していた。他にも企業ブログがいくつかあったが、TheBrdigeやTechCrunchのようにスタートアップの調達を中心に報じているメディアはなかったので、このポジションでのローンチを考えた。

〜2014:中国×インターネット第一次ブーム

中国×インンターネットブームは、2010年頃に日本のインターネット企業がこぞって中国進出するタイミングで一度起こっている。2010−13年頃の情報を探すと、今はなきRenren関連の記事「世界をリードし始めた!?最新中国ソーシャル 人気アプリ22選【岡俊輔】」などが見つかる。

当時のNTTドコモ上海代表処首席代表Johnさんも個人ブログ「Skipper_John(石井良宗)の中国ビジネス・ブログ」を運営していた。2007年から2014年までブログを更新されていて、尊敬している。

同時期に、TaobaoやWebioが注目され、そのコンサルタント会社を運営する人が、Taobao攻略本などを出版していた。山本達郎さんの本「中国巨大ECサイト タオバオの正体」などがまさにそうである。

中国の翻訳家として活躍される永井さんなどは多くの中国ビジネス書の翻訳を出版していた。『ジャック・マー アリババの経営哲学』『シャオミ(Xiaomi) 世界最速1兆円IT企業の戦略』などが代表作だ。

よく日本人は日本語で中国の情報が少ないというが、このようなブログを初めとして、大手新聞社や業界紙は、中国コーナーなどを設けて定期的に情報発信をしている。日経テレコンで調べると、案外中国インターネット情報は発信されているのが分かる。

2015/03〜:ChinaStartupNewsを始める

TechNodeの日本語版の話は諸事情でなくなり、自分でドメイン「Chinastartupnews.com」とFBグループ「ChinaStartup(中国スタートアップ)」を作って、情報を発信することにした。当時、スタートアップという言葉が注目されていたので、「中国 スタートアップ」で第一想起を取ることを目標に、毎日資金調達系の情報を発信し、まとめ記事としてBATの投資リストやIDGやSequoiaなどVCの動向も追った。単位はほぼ取得しており、1日3~4時間ぐいらの時間を確保でき、記事を書くことができたのが幸運だった。

TechNodeの代表はTechCrunchChinaのイベントも主催していたので、2015年6月の上海と11月の北京のTechCrunchに招待してもらいレポートを書いたりもした。2015年の中国インターネットはAlipayとWeChatPayが配車サービスとフードデリバリーに投資をして、お金をばらまいていた時で、行くたびにフードデリバリーのバイク便が増えていて、社会はここまで早く変わるのかと驚いた。

2016年3月に大学を卒業し、今の会社に入社する。会社として中国の調査業務などは特にやっていなかったが、趣味で相変わらず中国スタートアップの調達情報は気にかけていた。

この時は「爆買」が世間のキーワードだった。「爆買」は起こっていたものの、まだ現金やUnionPayでの決済が主流で、どうやってWeibo、WeChatなどのSNSを駆使するか?という視点での中国×インターネットの報道だった。

この頃は中国×インターネットは世間ではあまり注目されていなかったように思う。

2017/06〜:無人コンビニブーム到来

上海で2017年6月に無人コンビニが誕生すると、AmazonGoを超えたか!?という期待と共に、日本で一気に注目が集まった。

日経BP上海支局長小平さんの無人コンビニ記事がよく読まれていた記憶がある。

アマゾン超えた?上海に登場した無人コンビニ」(2017/06/29)

https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278549/062800011/より

NewsPicksは『中国ITジャイアントという特集を組み、意識高いビジネスマンに「中国スゴい」が伝搬し始める。企画は川端さんで、自分も取材協力させてもらった。

中国でベンチャー投資と大企業向けコンサルを手がけるドリームインキュベータも約10回の中国ベンチャー特集『香港で上場、あの本間ゴルフが中国で復活していた最前線レポート~中国ベンチャー市場の全貌(第1回)』を組み、こちらも取材協力させてもらった。

さらに、ダイヤモンドが中国×インターネットで特集を組む。スタートアップ界隈->意識高いビジネスマン->一般のビジネスマンと、「中国スゴい」がデフォルトになったのは2017年秋頃ではなかろうか。

週刊ダイヤモンド 2017年 7/15 号 [雑誌] (中国に勝つ)

https://www.amazon.co.jp/%E9%80%B1%E5%88%8A%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89-2017%E5%B9%B4-15-%E9%9B%91%E8%AA%8C-%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AB%E5%8B%9D%E3%81%A4/dp/B073FGGD4Z

これはキャッチアップしないとやばいみたいな空気が出てきたのものこの頃で、中国視察にいきたいという人から色々お問い合わせを頂くようになった。

NewsPicksは『「中国崩壊論」の崩壊』という刺激的な特集を組み、経済学者の@tsugamit@kaikajiなどを巻き込みながら、中国を冷静に見ようという議論をなげかけた。

現地に取材に行かずに「キャッシュレスになったのは偽札が普及してたからだ!」をはじめとするトンデモ記事がではじめたのもこの頃。現地の事業会社で活躍する方が、現地取材を実施の上で執筆する丁寧な記事もちらほらあった。

もう人間はいらない? 中国で盛り上がる無人コンビニ」(2017/07/25)

現地取材しないトンデモ記事が氾濫する一方で、現地から@shao1555@tks@kinbricksnow@kerotto@YamayaT@YSD0118@Kiki_breroなど(上げるときりがないのでこの辺で…)が積極的に情報発信していた。こういった方はもちろんメディアでの連載を持っていたりするが、SNS、特にツイッターで情報を発信し、中国の最新、面白、正しい情報はツイッターでこのようなインフルエンサーから取得するのが当たり前になっていた。

The Informationが中国スタートアップのスクープを多く取って報道していた。中国のメディアですら、The Informationから引用することともあるほど。取る人は正しい情報をきちんと取るべきところから取っていた。

他には、中国で人事コンサルを展開する田中さんの連載、三菱東京UFJ銀行(中国)有限公司の調査レポート、中国Fintechを研究する李 智慧さんが出すレポートなど、中国専門家の方々が出す良質な情報も既に十分にあった。もちろん中国語がわかる人は、36krやitjuziなどから情報を集めていた。

そんな中、自分は2017年10月から、会社の調査業務として、2018年3月まで、上海と北京に滞在する。

X-Nodeという多分唯一の日本人が主体で運営しているコワーキング・スペースの田中さんにお世話になる。X-Nodeは最も多くの日本人が2018年に訪れた中国のスタートアップ関連施設だろう。

日本のメディアも現地での撮影込みの特集を組むところもあり、協力させてもらったりした。

https://plus.paravi.jp/business/000252.html

中国では、キャッシュレス戦争はひと段落し、ショートムービーが強烈に伸びていた時期だった。残念ながら、結局ショートムービーは、ライブに比べると日本ではあまり注目されず終わってしまったように思う。

@kinbricksnow@YamayaT@YSD0118がZhimaCreditなどキャッシュレスの次の話題を日本に放り込み(※@YamayaTが2015年12月に『中国の社会信用スコア「芝麻信用」で高得点を狙うネットユーザー』でレポートしており、これが初出ではない。)、「クレジット・スコアリング」という概念が日本に知られた(※クレジット・スコアリングは金融業界では当たり前に使われている言葉)。

しかし、その後に続く記事は「なにかクレジット・スコアリングはすごそうだ、怖いかもしれない」といったもので、ZhimaCreditが革命的だった「決済と与信情報をモバイルに入れたこと、クレカの返済履歴以外をスコアリングに組み込む」など先進国とは違う形で、ZhimaCreditが信用情報機関として役割を果たしていることにまで突っ込み、日本社会でクレジット・スコアリングがどうあるべきかまで議論は発展しなかった。

中国で普及する「人間バーコードバトラー」の深い闇』(2017/09/16)

「信用の可視化」で中国社会から不正が消える!?』(2017/09/11)

アリババが展開する生鮮食品スーパー「Hema」などもその分かりやすさから注目されたが、その労働力を支える社会構造、急上昇するオンラインでのユーザー獲得コスト、「孤独経済」と名付けられる消費の変化などの議論はあまり注目されなかった。「QRコードで商品情報をスキャンできるのがすごい」など表面的な議論に終わったように思う。(以下のように小売・チェーンビジネスの専門雑誌などではこの議論はあった。)

ダイヤモンド・チェーンストア 2018年3月1日号 特集●アリババ 「新小売(ニューリテール)」の世界

2017/12〜:決済の次?OMOとミニプログラム?

2017年12月にミニプログラムが全国的に普及しはじめ、決済の次の動きがかなり明確になってきた。決済の次の「ミニプログラム」「OMO」と言った言葉が改めて、注目された。自身のインタビューでもそういった言葉を使ってみたりした。

中国で「決済革命」の次は「OMO」だ

「ミニプログラム」はプラットフォーム戦略における世界で稀に見る面白い形態であり、いろんなケーススタディになる材料になると思ったが、これをGoogleのPWAやAmazonPay、ApplePayと絡めた議論はもっとあってよかったと思う。

プラットフォーム競争の文脈だと、EC発のAlibabaとチャット発のTencentのどちらが決済で勝つかも非常に面白いケーススタディだと思うのが、このあたりの議論もあまりなかったのではないか。

2018/04〜:キャッシュレス再びと中国情報の多様化

2017年で中国への関心は下がると思ったが、2018年4月に経産省が「キャッシュレス・ビジョン」を発表し、また中国のキャッシュレスに注目が集まり、お茶の間でも「中国はどうやらすごいらしい」みたいな認知を獲得した?のもこの頃だろうか。

絵になりやすい、QR決済と無人コンビニ、レンタル自転車、ライブEC、ZhimaCreditなどがネタになりやすかったが、日本でも躍進するtiktokが中国企業のBytedance傘下であると分かり、そちらへの注目も集める。

スタートアップが自社との類似事業・サービスを研究し、サービス設計や事業戦略に生かすところも多くなった(VC主導の日中のインターネット企業経営者同士の交流会は昔からあり、中国を調査するところは昔から調査しているが...)。同じ領域で、スケールした中国の事例を知ろうとする動きも増えた。

これまでの良質な記事は中国専門家が書くものが多かったが、事業会社の観点での良質な情報が増えた。Bytedanceに限って言えば、料理特化のショートムービー事業を展開するdelyのCTO大竹さんや中国メディアビジネス愛好家の松本さんが考察記事を出していたが、これらが一番まとまっていたのではないか。

中国最大のメディア企業『Bytedance』の超アグレッシブな拡大戦略

Musical.ly買収で話題。中国の2兆円ニュースアプリToutiaoを徹底解説

http://www.kikibrero.com/entry/2017/11/12/203549

MeetUpや勉強会で事業会社の人が積極的に情報発信する場も増えた。

China Meetup #1 中国市場で勝つためのスタートアップの戦略(マーケ・プロダクト・技術)

【増枠】中国IT研究会#9 「中国ニューリテールの現状と方向性」

いわゆるライター以外の人が、ツイッターで中国情報を発信する傾向も顕著になった。自身の専門分野と掛け合わせて情報発信できるので、有益な中国情報が多くなった。ラッパーの@chinshonatsuyo、VCの@kyu_kaishu@yusukeshantianなど。中国のスタートアップ事情を継続的に発信をする@chnpassglotechtrendsカタパルトスープレックスなどのメディアも生まれ現在も続いている。中国最大のスタートアップメディアの36krも2018年8月に日本語版を出すなど、中国のスタートアップを知るには十分な環境が2018年春頃には整ったと言えるのではないか。

さらに、東洋経済がネット以外の産業にもフォーカスした中国特集『週刊東洋経済 2018年9/15号 [雑誌] (中国vs.日本 50番勝負 中国の強さは本物か)』を組んだ。

https://www.amazon.co.jp/%E9%80%B1%E5%88%8A%E6%9D%B1%E6%B4%8B%E7%B5%8C%E6%B8%88-2018%E5%B9%B49-%E4%B8%AD%E5%9B%BDvs-%E6%97%A5%E6%9C%AC-50%E7%95%AA%E5%8B%9D%E8%B2%A0-%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AE%E5%BC%B7%E3%81%95%E3%81%AF%E6%9C%AC%E7%89%A9%E3%81%8B/dp/B07G1YS97Q

NewsPicksは現地インターネット企業の取材にこだわった特集『中国最前線 ユニコーンが止まらない!』を組み、ユーザーベースは自社開催の大規模カファレンスで中国がテーマのセッション『中国市場に勝機あり。急成長の日本人スタートアップに聞く』を組むなど、より現地を深掘りしたイベントや記事などが多くなった。

ビービットは中国最大の保険発の金融コングロマリットである平安グループの組織構造やUX戦略など、中国インターネット企業の競争優位の源泉について考察を行なった書籍『平安保険グループの衝撃―顧客志向NPS経営のベストプラクティス』を翻訳。

ビービットのエバンジェリストである宮坂さんは「顧客本位の業務運営」を彼からを学ぼうということで、多くの講演会などを通じて啓蒙活動を続けている。

今後〜:「中国すごい」の見直し

「中国すごい」ブームの基礎を作り、その発展を支えて来た@kinbricksnow@YamayaT@YSD0118などによって、過剰、一辺倒な「中国スゴい」論を見直そう、検証しましょうといった動きもある。

最近、「中国すごい、それに引き換え日本は……」というネタをよく目にします。個人的にはあまりそそられない話です。中国は世界第2の経済体、日本は3位です。どちらの国にもすごいところはあって当然。そして世界中のどの国もだめなところはあるわけで、片方のいけてるところだけを集め、もう片方のだめなところをディスれば一丁上がりの話だからです。

ちょっと前まで「中国崩壊論」が流行っていましたが、その裏返しと考えればわかりやすいでしょうか。いいところだけをみるか、悪いところだけをみるか。僕も含めプロならば、「中国すごい」でも「中国まもなく崩壊」でもどっちでもすぐに書けます。良心さえ捨てれば、ですが。

プロの書き手であっても、そういう記事を書きたい欲求に駆られてしまうことは多々あります。というのも大半の日本人読者は海外のことには本当の意味では興味がなく、「日本がやばい!」とか「日本すげー」とかいう切り口がなければ、読みたいという欲求がないからです。注目を集める記事を書くためには読まれる切り口が必要です。

僕はこれを「海外ライターの暗黒面」と呼んでいます。偉そうに言っている私として無縁ではありません。常に誘惑にさらされています。時々負けかけています。それでも安易な切り口に逃げたくないという理想があります。たいして儲かる仕事でもない物書きをやるのならば、自分が満足できるものを、自分が「面白い」と思った具体的な情報を人に伝えたいという思いがあります。

渾身の記事を書きました、「海外ライターの暗黒面」に陥らないために(高口)

「楽しみすぎる。圧倒的先進国、中国。ここから学ばないと次の時代は生き残れないだろう」

こちらは今年(2018年)10月8日、オリエンタルラジオの中田敦彦さんがNewsPicksのアリババ関連の記事に寄せたコメントです。

圧倒的先進国かはさておき、中国は「スゴい」。昨今、日本の現役社会人世代の間では、いつの間にかそんな評価が市民権を得ています。中国発のイノベーションがもてはやされ、なんと今年の夏にはオシャレ雑誌の『Pen』が中国(深セン)特集を組んだほど。

つい5年ほど前まで、ニセモノ商品の氾濫や食品安全問題を揶揄するような「危ない中国」特集が毎週のように週刊誌やワイドショーで取り上げられ、書店では中国経済崩壊論の書籍が大ブームだったのが、ウソみたいな変わりぶりです。

だが、世間でなにかが流行ると、極端な話が出てくるのもいつものこと。実際のところ中国の正体は、「危ない中国」もといトホホで意識の低いB級中国と、「圧倒的先進国」感が漂わなくもないスゴいS級中国のごった混ぜ。日本の隣にそびえる謎の巨人は、怪しい魅力に満ちたリアルサイバーパンクな国なのです。

今年4月に開催して人気を博したイベント「中国B級ニュースはなぜ死んだのか?」の続編として、ジャーナリストで翻訳家の高口康太さん、ルポライターの安田峰俊さん、アジアITライターの山谷剛史さんの中国ライター3人に、神田桂一さんを司会に迎えトークライブをお送りします!

高口康太×安田峰俊×山谷剛史「B級中国 vs. S級中国 怪しい巨大な隣人を丸裸にする」

「スゴい中国」を見る前に、「日本企業」の先進性や戦略を再評価しようと自分は訴えている。ここでは詳細は述べないが、ドコモのクレジット事業参入、JR東日本の駅ナカビジネス、丸井の小売と金融の一体化モデルなど、どれも中国企業の戦略に劣らない優れたものだろう。

冒頭でも述べたが、中国のスタートアップの事業の先行きが悪くなる中で、中国・日本共に再評価する動きはもう少し増えるだろう。

終わりに

大雑把ではあるが、私たちが「中国スゴい」をどのように消費してきたかを振り返ってみた。

ZhimaCreditの社会的インパクト、(この文章では触れなかったが)中国政府のスタートアップに対する態度、中国のスゴさをどう日本社会に持ち込むのかなど、議論すべきだができなかったことは多くあるように感じる。

上記のような「中国スゴい」の冷静な議論が継続してあるといいなと思う。

事業を推進する上で有益な中国情報は引き続きウォッチし、以下に気をつけて、引き続き情報発信したい。

・「国」ではなく「人物」「企業」「制度」など具体的な主語で話すこと

・「スゴい」などの色眼鏡で見て判断しないこと

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Shogo Ieda

C2CマーケットプレイスのPM->ペイメント事業の戦略とか組織とか