Shojinmeatが目指すもの -豊かなお肉と未来を育てるプロジェクト(3)

Shojinmeat Project
Shojinmeat Japan
Published in
5 min readApr 14, 2016

本記事は、「Shojinmeatが目指すもの -豊かなお肉と未来を育てるプロジェクト(1)」、「Shojinmeatが目指すもの -豊かなお肉と未来を育てるプロジェクト(2)」の続編です。

人工培養肉は精進料理になるのか

もし人工培養肉の研究開発が順調にいけば、「人工培養肉は精進料理の食材になりえるか」という問いが出てきます。

私としては人工培養肉は、今後の発展次第で精進料理になりえると考えています。

それは、人工培養肉によって現在の食糧供給体制を改めることは、「食材への感謝」と「世への感謝」という、精進料理の教えと共にあると考えるからです。

ただし、「本当に動物を殺していないのか」とか、「人工的に培養された食材に感謝できるのか」など、それ以上の各論については、技術的な不確定要素も多いため流動的です。

その中で、現時点での人工培養肉を「精進料理」と呼べるのか、技術的にはどうなのでしょうか。

人工培養肉の今の課題

今の技術では人工培養肉はまだ「精進料理」にならないと考えています。

筋肉細胞を培養するための培養液について、現行の市販の培養液には、仔牛血清(FBS)が入っています。

FBSを作るには牛を殺しますが、細胞の成長と増殖を促すために必要で、これがないと筋肉細胞を大量に増やせません。

そのため我々をはじめ、オランダのチーム(Prof. Mark PostとMosameat社)やアメリカのチーム(Memphis Meats社とModern Meadow社)も、FBSの代替品を検討しています。中でも「アルブミン」とよばれるたんぱく質が重要な成分だと言われており、同じ働きをする成分を見つけられるかが開発の要です。

アプローチの違いこそあれ、各チームともそれなりに成功しています。

人工培養肉は本当に省資源なのか、定量的に調査する必要もあります。

例えば、人工培養肉で牧草地はいらなくなったけど、培養液を作るために森林伐採をして人工池を造成し、環境破壊をするようでは、意味がありません。

この定量調査には、資源の採取から廃棄までのすべてのコストや環境負荷を合算する、LCA(ライフサイクルアセスメント/Life cycle assessment)と呼ばれる分析研究が必要です。

人工培養肉のLCAの例として、オックスフォード大学のチームは、人工培養肉の環境負荷は非常に低いとしています。

対してアメリカのチームは、土地使用は確かに減るが、消費エネルギーは増えると反論しています。

この論文では、人工培養肉を作る大型設備を想定した場合、設備の殺菌に使う消毒液や熱処理が、大きな環境負荷になると指摘しています。

このように、LCAは大局的な判断や、改善が必要な箇所の特定のために非常に重要です。

しかし人工培養肉に関しては、この2件を含めて数件しか報告がなく、結果の数字も数倍という差でばらついているため、更なる調査が必要です。

また、LCAの結果は新たな技術が開発される度に変わるでしょう。

まとめると、現時点での人工培養肉は、培養液の改善が必要だったり、そもそも要改善箇所がどこかを調べる必要があったり、技術的にはまだまだこれからです。

そしてある程度技術開発が進み、総合的に判断できる材料がそろって初めて、人工培養肉が本当に環境にやさしい安定的な食糧で、”Shojinmeat”と呼べるのかが決まります。

皆様へのお願い

今集まっている方々のうち、生命科学の研究者の方は、実際に白衣を着て実験室に立ったり、研究資金を獲得するための発表やディスカッションをしています。ただし、これだけでは不十分です。

生体組織工学に限らず、周辺分野、例えば医療や薬学の知見も必要です。

大規模化を検討するならば、実験条件の設備や自動化など、工学的な開発も必要です。

LCAのような、経済学的な視点でのご意見も必要です。

食品衛生や税制等、法的な視点でのご意見も必要です。

社会コミュニケーションやコンセプト提示等、アートやクリエイティブ視点も必要です。

”Shojinmeat Project”はバイオテクノロジーのプロジェクトではありますが、政治と経済、文化と価値観についても考えることがたくさんあります。メンバーの中でも色々な意見があります。

もし人工培養肉に興味がある方がいらっしゃいましたら、研究者ではなくとも、上のような形で加わってくだされば非常にありがたいです。

サイエンスカフェやイベントで、一緒に何か企画したいという方がいらっしゃいましたら、是非ともご一報ください。

最後に、全3回に渡り、「人工培養肉」という際どい話に付き合ってくださり、どうもありがとうございました。

Shojinmeat Project代表

羽生 雄毅

お問い合わせ: info[at]shojinmeat[dot]com

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Japan-based cultured meat and cellular agriculture citizen science project