未来の新しいコミュニケーションはバーチャル世界から始まる
第25回バーチャルリアリティ学会大会 口頭発表・OVE(オープン・バーチャル・エキシビジョン)参加レポート

Shoko Kimura 木村正子
11 min readSep 21, 2020

筆者:木村正子、藤井綺香、伊東健一 (Authors: Shoko Kimura, Ayaka Fujii, Kenichi Ito)

本来、大阪・茨木市にて開催予定だった第25回バーチャルリアリティ学会大会はコロナ禍の影響で感染リスクを避けるために完全オンラインでの開催となった。

主に使用したプラットフォームは大会案内やコミュニケーションツールとしてdiscord、口頭発表はZoom、ポスターや一部デモはOVE(オープン・バーチャル・エキシビジョン)としてVRプラットフォームHubsにて発表を行った。

今回のVR学会は本当の意味でのVR学会だと言える。

完全オンライン+HubsというVRプラットフォームでの発表はハードルが高かったが、非常に有意義で未来のコミュニケーション手段を描く素晴らしい経験となった。

  • ZoomとDiscordを用いたハイブリッド式口頭発表

筆者は共著者らと一緒に口頭発表1日目に「妊婦体験と胎児体験を繋ぐ触覚相互コミュニケーションシステムTouch Love の開発」について発表した。

口頭発表はZoomとDiscordを使用したハイブリッドなシステムであった。発表者はZoomで発表し、質疑応答はDiscordに書き込まれたものを司会者が読み上げての質疑に応答する形であった。通常の学会であれば会場での質疑応答であるが、Discordにて質問が可視化され且つ質疑の内容が残るのは後から読み返しが出来て発表者としてとてもメリットがあった。後に質問して下さった先生方とはチャットで議論し、議論の内容を深く読み返しながらテキストでの議論を楽しんだ。口頭発表は難なく終えることができた。

  • OVE(オープン・バーチャル・エキシビジョン)VRプラットフォームHubsでのポスターセッション

次に、初の試みであるOVE(オープン・バーチャル・エキシビジョン)について記す。VRフラットフォームHubsでのポスターセッションはまるで未知の道を手探りで歩き回るような難解さがあったが、とても勉強になり楽しめたセッションであった。

著者としてポスターや動画を展示する機会を得た。今回、Hubsのルームを用意し展示のチャンスを下さった運営委員や先生方には本当に感謝の心しかない。

私たちのチームは以前、Laval Virtualと言う国際学会にてVirBELAというVRプラットフォーム内でポスター発表をした経験があり、Hubsでのポスター発表も大丈夫だろうと考えていた。

VirBERA上でのLaval Virtual ポスターセッション アバターとポスターの比率がHubsと違う

しかし、HubsはVirBELAと勝手が違いアプリケーションではなくWebブラウザであるためページのダウンロードに時間が掛かり、更にPC環境によってメモリが最大2GB程度を使用するために非常にPC負荷が大きくなった。

Hubsの利点として、アプリケーションをダウンロードしなくてもWebブラウザで動作するためブラウザがあれば誰でも使用が可能である。また、標準のアバター25種類以上から好きなアバターを選んでプラットフォームへ入ることができる。中には自身で構築したオリジナルのアバターで入る強者も居た。操作性としてはASWDキーや方向キーでプラットフォームの中を移動する形となる。また、ポスターや動画の位置・サイズをアバターの目線に合うように変更することができるため、非常に見やすかった。動画を配置してその場で再生できるのはVRプラットフォームならではであろう。ポスターをクリックすると別ウィンドウで開きポスターをダウンロードすることも可能であった。
また、筆者たちは自分たちの発表に関するWebページを構築しURLを用意した。そこで工夫した点はURLやメールアドレスをポスター周辺に記入し、URLへのハイパーリンクを貼り付けたり、更にURLをQRコードで書き出し画像からでもリンクへ飛べる様に設定を行った。

著者らのOVEポスターとどうが発表の様子。QRとハイパーリンクが特徴的である。

QRコードを載せるアイディアはVirBELAでの経験があったからこそ出来たことであった。
また、VRプラットフォームという仮想空間でのポスター発表のためルームが開いていれば24時間好きな時間にポスターや動画を楽しむことができる。また、現実世界と違いポスターを印刷する手間や動画を流すためにPCやタブレット端末を置く手間が無く、且つタブレット盗難防止にも繋がる。

課題点としては、推奨ブラウザがMozilla Firefoxであるため新たにブラウザを設定する必要があった。SafariとChromeではHubsによる負荷が高いとブラウザが落ちてしまう現象があったが、Firefoxにすることで安定的に動作した。また、主催者発表ではOVEの展示室に多くの参加希望者が集中したことで一時サーバーCPU負荷率が100%に達するなどサーバー負荷率も高くなった。
また、VRプラットフォーム内で綺麗にポスターや動画を貼り付けるためにはヘッドマウントディスプレイ(HMD)のコントローラーを用いてVR内でまるで手でポスター位置を合わせる様に巧妙な貼り付け作業を行う必要があった。しかし、筆者はスタンドアロン型のHMDであるOculus QuestからHubsへログインしVR内にてポスター位置合わせ作業をするも、5分ほどで接続不安定になり画面がブラックアウトした。安定的にVRプラットフォームとHMDを連動させるには安定したインターネット回線とパワーのあるHMDからの操作が必要になるだろう。共著者の1人は、VRに対応した性能に余裕のあるPCにOculus Questを接続することで、HMDからOVEへ入室していた。

OVE ポスターセッション Room bの方々と記念撮影
  • VRプラットフォームのPC実機の負荷率

今回筆者らはGPUを積んだノートPC3–5台とHMDを並べ大会に参加した。特にHubs使用時にCPU負荷率が90%を超え、PCが熱暴走を起こした。可能であればデスクトップPC上にてHubsを動作させた方が無難であるし、VRプラットフォームをスムーズに動かすには冷却ファンなどがあれば良いだろう。

また、PC内のデスクトップ上で他のアプリケーションを制限し、使用していないアプリケーションを全て閉じて挑んだ。

Hubs使用時には大会参加の生命線であるDiscordやSlackの書き込みや動きが鈍くなり遅延するなどの現象が起こった。これは筆者だけに起こった現象かもしれないが、いずれにしてもVRフラットフォーム動作にはより強いマシンが必要なことは言えることであろう。

筆者らがPC4台とHMD1台でVR学会に参加している様子
  • かわいいは正義!個性的なVRアバターの皆さん

OVEで特徴的だったのは可愛いアバターで参加した方々が存在したことである。Blenderやボクセルで作成された個性的なアバターはどれも可愛く、猫耳や羽を生やして動かすという現実世界では中々ハードルが高いこともVRの中では夢が叶う。中にはとても可愛い声のアバターの方もいたが、実は生身の声は違うというアバターの方もおり、VRは性別を超えることができる夢のプラットフォームであると再認識した。

かわいいアバターの皆さんが大集合しました!
  • VR王・ギラギラ夏祭り

今回のVR学会には懇親会が無い代わりに、研究者同士お互いのことを知るためにV1グランプリという企画があった。Discord内にてVRに関するお題が出されそれに対してまるでお笑い笑点の大喜利の様にVRに絡めて面白おかしく発言していくという企画であった。この発言の中で上位に残れば決勝大会へ進めるという内容であった。
また、「VR王」というVR学会に関するクイズ大会も開催され、初代VR王は競合の先生方を差し置き若い学生が勝者となった。若い王の誕生に日本のVRの未来が託される。
筆者は巨匠の先生方を前にほとんど発言することはできなかったが、先生方や参加者の発言を大いに楽しんだ。https://twitter.com/vrsj_ac/status/1306917933298278401

基調講演やOVEのスレッドよりも気軽に書き込めるのもあり、大喜利チャンネルが一番盛り上がりを見せたのが印象的であった。
中には先生方の意外な一面を見せる面白い大喜利もあり、オンライン上であったが参加者を身近に感じられる良い企画であった。
また、VR学会終了後にはギラギラ夏祭りという企画があり、研究者と若手・学生らが気軽にトークできる機会があった。電気味覚に導かれて研究者の道へ進みたいという学生が多々おり、先代の研究者の先生方が次世代の若者へ研究という夢を繋げているのが伝わった和気藹々とした会であった。

  • 今後のVRプラットフォームの課題と未来

現代社会の技術発展において、VRプラットフォームを使用するにはまだまだ技術革新が必要であろう。

VRプラットフォームの負荷率はまだまだ高く、PCスペック・ネットワーク・アプリケーションやソフトウェアの負荷率や速度が噛み合っていない感じがした。

それでも、私たちはVRプラットフォーム上で円滑にコミュニケーションできる未来を目指している。

VR元年と毎年言っているが、完全オンラインでVRプラットフォームを使用した今回のVR学会大会こそVR元年に呼ぶに相応しいと思う。
筆者は、VR元年よりもやっと原始時代から明かりが見え始めた「VR原始時代からの幕開け」と呼びたい。やっと第一歩を進めたのだと思う。

VRの世界は今後益々発展し、いつかZoomなどのビデオ会議システムからVRプラットフォームでのコミュニケーションのスタイルに移行し、人々は個々のアバターを持ち、手軽にVRの世界で世界中の人たちと盛んにコミュニケーションを行うようになるであろう。次世代の地球上の文明がVRプラットフォームの中に誕生する日もそう遠く無いだろう。

そのためには、アプリケーション側だけではなく、アバターやCGのポリゴン数の適正化やネットワークの向上、そしてPCのCPUとメモリの性能の向上が求められるだろう。

GPUだけでは追いつかず、ハードウェア全般的に性能向上が求められるだろう。

宇宙開発より先にVR文明が発展し、人々の魂がVRの世界へ移行する日がそう遠くはないだろう。

素晴らしいVR学会大会へ口頭発表者・OVE発表者として参加できたことで、最新の技術を心から楽しみ、次世代のVR技術革新へ貢献したいと心から思えた。

最後になるが、素晴らしいバーチャルリアリティ学会大会を主催して下さった実行委員会の先生方・スタッフの皆様、口頭・OVE発表者、研究協力者の皆様、聴講参加者の皆様へ心から御礼と感謝を述べて終わりにしたいと思う。

来年以降はリアルとバーチャルのハイブリッドな開催を希望する。
懇親会は美味しいご飯をお腹いっぱいに食べたいのでオフラインでお願いしたい。
バーチャル世界ではお腹いっぱいにならないのだ。

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Shoko Kimura 木村正子

Born in Aomori Japan in 1985. Nowadays, she is JAIST Master and employee in Tokyo. Robotics, AR/VR developer, Media, and Life art. https://internal-space.com/