日米UAマーケティングの違い (1)

Sho Mizutani
Basically Fiction
Published in
9 min readJan 5, 2016

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Photo credit: guidedbycthulhu via VisualHunt / CC BY-NC

他者との関わりの中で、初めて自分が何者かが見えてくることがある。
他者と比較することで、自分というものを自覚できる。

クリスマスの過ごし方や、大晦日での振る舞い、新年の祝い方などもそうなのだろう。特にこの時期、実家のコタツでゴロゴロとだらけている時に、タイムラインに流れてくる友人たちのハッシュタグ#happynewyear付きのリアルフィーバーな投稿を親指で軽やかにすっ飛ばしていると、自らをポジティブに肯定するわけではないが、自分は平和だなーと妙な自信が湧いてくる。

同じように、日本という国を考えた時に、他国との比較の中で初めて見えてくるものがあると思う。

そんな池上彰受け売りの言葉をぼんやりと考えているうちに、幸運なことに自分は昨年、北米マーケットでチャレンジできたという事実を思い出した。
これまで僕は、お触り程度にメディア側の人間として広告営業に携わり、続いて形だけ広告代理店側の人間として立ち振る舞い、現在お手伝い的に出稿主の立場にいる。本当に表面をささっと舐める程度でしかないが、様々な視点から日本の広告業界の一端を見ることができた。

そして昨年、北米マーケットでゲームアプリの広告・宣伝といったマーケティング活動を実施できた。現在進行形ではあるが、日本と北米を行き来する中で、User Acquisition Marketing(ユーザー獲得/以下UA)における日米の違いについて感じたことが多々あった。
新年一発目の本稿ではゲームアプリの広告主視点で、日本と北米のUAマーケティングの違いをつらつらと書いていきたいと思う。

日米UAマーケティングの違い

(1)運用方法の違い
インハウス運用と代理店運用 〜主流となるインハウス運用〜
北米企業がインハウス運用に軸足を置く理由
インハウス運用の実態 〜どのように運用しているか〜
(2)プレイヤーの違い
アドテク企業の数と種類
在庫の種類と量
(3)担当者の動き方(おまけ)
パートナーとの付き合い方 〜リレーションとネットワーキング〜

書かないこと

UA以外のマーケティング
企業によりけりだが、UAと従来型マーケティングは別物といった態度で、部門そのものを分けているところもある。今回はUAのみにフォーカス。
具体的な会社名
差し控えたいと思う。
市場データ
あくまで主観的な感想なので、市場にまつわる客観的な数値は割愛。

(1)運用方法の違い

インハウス運用と代理店運用 〜主流となるインハウス運用〜

まず、真っ先に思い浮かぶ日本と北米企業のUAの違いは、広告の運用方法だろう。
UAを行う場合、日本では当然のように広告代理店(総合/専業)に枠の買い付けから運用、クリエイティブ作成やレポーティングまでを一貫して依頼するケースが多いと思う。
広告主が代理店を飛ばして媒体側と直接取引きするという行為は、その後のリレーションを考えると慎重になりたいところだ。

一方北米では、広告運用を自社で一貫して行う、インハウス運用が主流になってきている。ただし全社が完全にインハウスに傾倒しているわけではない。予算や人員の都合上、代理店との付き合い方は様々だ。

自社内で全て完結するインハウス型の企業もあれば、反対にすべてのUAを代理店に任せる企業もある。あるいは、部分的にインハウスで運用し、その他を代理店に運用してもらうというハイブリッドなスタイルの企業もある。重要度の低いアドネットワークに人的リソースを割かずに、代わりに代理店に運用してもらうこのスタイルは、Heavy Liftingと言われている。

こうしたハイブリッド運用型の企業では、FacebookやChartboostなど規模の大きな媒体/アドネットワークを自社で運用し、それ以外の小規模ネットワークは代理店に任せるケースが多い。

北米企業がインハウス運用に軸足を置く理由

①コストメリット
信じ難いことに、北米では数億〜数十億円という予算が平気でオンライン広告に投下される。オンライン広告にのみ、だ。
この規模の広告投下が常態化してくると、代理店の運用手数料も比例して肥えていく。代理店手数料が15~18%程度だとして、広告投下額が数億〜数十億円となってくると、自前の運用部隊をこしらえたほうが手数料より安く済んでしまう。
つまり、広告投下額が増えていくと、代理店の手数料が自社の運用人件費を上回る転換点が出てくる。その規模になると、インハウス運用に切り替えた方が相対的にコストを抑えられる。

②ゲーム内データとの連携
初期流入ユーザーを高度に分析することで、ある程度の傾向からざっくりとしたLTVが割り出せる。例えば、初日にXXの動きをしたユーザーは将来的に高課金者になる傾向があるとする。そのようなユーザー層が見込める媒体には、CPI度外視でビッディング価格を釣り上げてユーザーを刈り取っていく、といった企業もある。
このような動きをするには、UAで得た新規流入者のデータを、ゲーム内の行動データとリアルタイムに近しい速度でシンクさせていく必要がある。広告主であるデベロッパーのほとんどは課金に関わるデータを外部に出すのを好まないので、インハウスで広告を運用することがアプリ収益の面でも必然となっていく。

③優良枠の買い付け
北米のアドネットワークは広告主と直接取引きをしたがる。日本では背徳行為と捉えられかねないが、北米では伝統的に広告主が強い立場にいるので、お構い無しに直接ディールを結ぼうとする。
アドネットワーク側の言い分はこうだ。代理店が自社ネットワークの広告枠を買い付ける場合、手数料が予め含まれた金額で購入しようとする。すると、ビッディングのCPI単価が広告主の提示した本来の許容値よりも、どうしても低くなってしまう。
これは広告主としても困ったことになる。入札に負けてしまうので、良い広告枠が取れなくなってしまうのだ。
アドネットワークではeCPMで枠の露出が決められる。eCPM = (Bid)CPI * CTR*CVR*1000の計算式から成っているので、魅力的なクリエイティブでCTRやCVRが高くなるのであれば良いが、ビッディングのCPIが低いと競合に入札で負ける可能性が高くなってしまう。eCPMが高い広告ほど優先的に優良枠に露出されるので、ここの許容値を下げられてしまうのは少し痛い。

④北米アドネットワークの働き
実は北米のアドネットワークは、日本の代理店のような働きをしてくれる。CPI、予算の上限、期間などを伝えてしまえば、ほとんどオートクルーズのように運用の最適化をしてくれるのだ。前述のアドネットワークと広告主の直接取引の動きもある中で、北米における代理店の介在価値は、日本のそれとは異なった側面を見せる。
あくまで個人の見解だが、今後は、多岐にわたるアドネットワークを束ねる機能、クリエイティブ作成の能力、そして運用実績のアピールあたりが代理店の差別化ポイントとなってくるのではないだろうか。

他にも、インハウス運用をすることで知見が蓄えられて別タイトルに活かせるだとか、不透明さの問題やそれに付随するFraud問題(露出先詐称)など、細かい理由はたくさんあるのだが、上記が北米でインハウス運用が主流になりつつある理由だと勝手に思っている。

では、インハウス化を果たした企業はどのように運用しているのだろうか。

インハウス運用の実態 〜どのように運用しているか〜

チーム体制
UAの広告運用ではとにかくクリエイティブ数が鍵になる。それも、効果を見つつ走りながら作っていくので、予め作り置きしておくわけにはいかない。スピーディーに大量に、そして仮説を持って作らなければいけないのだ。そのため、企業によってはバナーデザイナーだけで二桁人数が在籍しているところもある。一方で5人以下の少人数でUAの全てを回している企業もあるので、配置人数に正解はない。

媒体の最適化
10社以上のアドネットワークを常時運用している企業もある。毎月、2~3社ほど新規のアドネットワークを試し、良いところがあれば入れ替えて運用していく。この新陳代謝で全体の最適化が図られている。

ツール
多くの企業はアナログな運用管理手法からの脱却を図っている。各アドネットワークのレポート数値をエクセルにエクスポートするなど、数値整合のための作業に数十分から数時間かかることもあるアナログ管理では、時間を有効に活用できない。
アドテク企業の多くがサンフランシスコやシリコンバレーに拠点を構えていることを考えると、テクノロジーがその管理方法をサポートすることは想像に難くない。具体的なツール名は差し控えるが、様々なスタートアップが参入するこのB2Bのダッシュボード領域は群雄割拠の様相を呈している。単純に数値を整合するだけのダッシュボードですら広告主から歓迎される状況となっているのだ。
一方でアドネットワーク各社の情報も、集合知のプラットフォームに晒されている。Thalamus (http://www.thalamus.co/)でアドネットワークの社名を打ち込むと、Yelpのように様々な概要情報が表示される。全くの更地からアドネットワークを開拓していく場合、このサイトを覚えておくと便利かもしれない。

最近は日本でもセルフサーブ型の運用広告が増えてきたので、インハウス運用の潮流が現れ始めているような気もする。とはいえ、餅は餅屋というか、やはり最初は経験と知見に富んだ代理店に運用してもらうほうが圧倒的に効率的だと思う。特にマーケット事情が分からない北米においては、まずは代理店から色々と教えてもらう心構えで向き合ったほうが良いのでは、というのがこれまでの経験から得た個人的な感想だ。

想像以上に長くなってしまったので、ここらへんで一旦、区切りたいと思う。
次回はプレイヤーの違いについて書いていきたい。

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