アマゾンから見る「物流」での参入障壁の築き方

Shuhei Matsubara
9 min readMar 27, 2017

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本ブログでは、「物流」という視点から、アマゾンを筆頭とするEC系企業の参入障壁や強みを見ていこうと思います。

日経新聞には連日「物流」に関する記事が掲載され、いかに「物流」がビジネスの要になっているかを感じさせられつつ、一方で、限りある「物流」の資源をいかに自分たちの武器としていくかが参入障壁の構築につながっていることを痛感させられます。

「当日配送」や「送料無料」、さらにはドローンでの配送実験など、連日物流関連のニュースを騒がせているのはアマゾン。「物流」を紐解いていくために、アマゾンの物流での強みという視点からロジスティックスを考えていきたいと思います。

ロジスティックスが改良されれば「低コスト化」が進み、そこから「低価格化」という帰結につながる。すなわち、この好循環こそが、「価格の低下」⇒「顧客増加」⇒「売上増加」という最高のサイクルを形成するのです。一方、ロジスティックが「競争優位性」の高い武器になりうるのは、ロジスティックスの構築には非常に時間が掛かるという性質がゆえです。

そもそも扱う商材自体が何十万、何百万と存在し、その1つ1つが大きさも異なれば、材質も違うものであり、陶器のようなワレモノもあれば、食品のように賞味期限があるものもあります。さらに物流センターに集まる商品は常に入れ替わります。まるでコンピューターにおけるソフトウェアのように、日々バージョンアップされ続けなければならないものなのです。(NHK出版新書 『アマゾンと物流大戦争』P16より引用)

アマゾンは20年もの長い年月をかけてピッキングから配送に至るまでのノウハウを構築してきました。この積み上げた物流システムこそが、顧客満足度を高め、さらなる「低価格化」をもたらす強みなのです。

では、なぜアマゾンはこれだけの物流網と発展を果たすことができたのか。それは、アマゾンが「本」を最初に扱う商品としたからです。

まずネット上であれば「大型書店に勝る品揃え」を実現でき、顧客がアマゾンを訪れる理由を提供できます。

さらには強固な物流網を築くための「はじめの一歩」として本は最高に適した商材でした。先述の通り、物流の大変さは「商材が形も大きさも重さもバラバラ」であるという点が挙げられます。しかし本であれば、ある程度の規則性があり、賞味期限もない。となれば、保管や在庫管理が容易となり、「オペレーションシステムの構築」と「ノウハウの蓄積」が行いやすいというメリットを享受できるのです。

この点こそが、アマゾンの繁栄のスタート地点であり、アマゾンの根本であると言えるでしょう。

では日本のECの雄、楽天に目を向けてみます。楽天は「自社で在庫を抱える」アマゾンに対して、「ネット店舗に出店を募る」ネットモール型ECといえるでしょう。

モール型ECのメリットとデメリットは非常にわかりやすいと言えます。ある意味ではアマゾン型と対照的な特徴を持つと言えるでしょう。

メリットは当然「余計な時間をかけずに、スピーディーに拡大可能」という点が挙げられます。モール型ECは「場」こそが提供価値であり、「場」にいかにたくさんの店舗に集まってもらうかがカギとなります。

一方のデメリットは、「自分たちでコントロールしきれない」という点であり、「年月をかけて蓄積された物流のノウハウ」が浸透しづらいという点が挙げられるでしょう。さらには、アマゾンの持つ「規模の経済」が生じにくく、仕入れ、配送という面でコスト優位性をいかに構築するかという点が課題になると言えます。もちろんその分、「多様性」や「買い物の楽しさ」を提供しやすいため、「金額」や「質」というアマゾンの追求する軸とはずらした軸で勝負をしていく必要があると言えるかもしれません。ただ、「物流」という得難い強みという点においてはアマゾンに大きな優位性があると言えるでしょう。

一方で、日本にも非常に考えられたシステムで「物流」を武器に戦う企業はいくつもあります。

「カクヤス」は独自の配送網を築くことで、「送料無料」、「最短30分以内の配送」を可能にしており、オフィスグリコは在庫を「顧客の元」におくことで配送コストを下げ、顧客の利便性を最大化します。

物流を考える上で大事なポイントとして「ストックポイント」という考え方があります。これはすなわち、「どこに在庫を保持するか」という点が競合優位性の構築に大きな意味をなすということを表します。

カクヤスの場合は、街中にたくさんある「店舗」がストックポイントです。「店舗」が「街中に点在する」というのがカクヤスの大きな強みであり、「指定範囲以内」にだけ配送を行うことで、製品の性質上最も顧客満足度を向上させうる「最短30分以内の配送」を提供します。「コスト」という視点から配送を見て、「利益が最大化」するバランスを設定し、その範囲内で顧客満足度と売上を最大化するのです。

そしてオフィスグリコの場合は、ストックポイントを「顧客の元」に設定します。そもそも配送を行わない。定期回遊ルートに定期的に在庫を届けることで無駄のない配送を行います。オフィスグリコが仮に「ホームグリコ」だったら、商売を行うことが難しかったことでしょう。「配送コストの最小化」と「顧客満足度の向上」こそが物流を考える上で大事なのであり、ここでの「構築した物流網」から得られる「コスト優位性」こそ競合参入障壁となりうるのです。

冒頭にも述べたように、「配送」は緊迫したものとなっており、かつ企業が戦略的に活用しなければならない点であるということは十分に伝わったのではないでしょうか?

アマゾンが払っている配送費用は莫大です。その額、ヤマトの宅配事業規模と同等以上。そうです、アマゾンにとって、この「コスト」の削減こそが最大の課題であり、さらなる優位性構築のための超えなければならない壁といえるのです。

その試みこそドローン配送であり、商品を運んでくれる工場内ロボットの運用などは、アマゾンの「コスト構造」を変革し得る大きなチャレンジと考えられます。

さて、アマゾンの「物流」は別の視点からも優位性の構築のために使われています。それがアマゾンのマーケットプレイス戦略です。

アマゾンはサードパーティ、すなわち、自分の競合にも自社のマーケットプレイスを解放します。解放するだけならまだしも、顧客対応から決済、出荷に至るまで、サードパーティの物流を全て担うのです。少ない手数料で、「自分たちの扱う商品よりも優位性があって選ばれた」商品のために、わざわざ大きなコストをかけて顧客に商品を届けている。そんな「さも不合理な」戦略も、アマゾンの長期戦略という視点に立つと大きな優位性構築のための武器となってしまうから驚きです。

アマゾンはサードパーティの商品を扱うことで、顧客との接点を持ち、また「売れる商品」のデータを取ることが可能です。さらには、「物流センターの稼働率向上」というおまけを受け取りながら、「いずれ自分たちがその商品を出し抜いて顧客に販売する」機会を虎視眈々と狙っているのです。アマゾンのマーケットプレイスに依存するサードパーティはその怖さを感じながらも「確かに売上が上がる」状態を反故にできず、今の利益を享受せざるをえない。そんなシステムがアマゾンのマーケットプレイス場に形成されているのです。

物流を制すものがECを制す。まさにそんな言葉がピッたりの事象と言えるでしょう。

「コスト構造」という視点からビジネスを見て、売上を「物流」に投じ続けるアマゾンは、簡単には打破できない競合優位性を築きつつあります。続編では、「カクヤス」や「オフィスグリコ」に見たような、「抜け道」の可能性を考えてみようと思います。

前編はこの辺にて。

なお本考察は

を参考に書かせていただいております。

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Shuhei Matsubara

新卒ではキーエンスで中部地区の自動車メーカー攻略に従事し、その後、コロプラネクスト社でVC業務を経験。2018年6月にA1A株式会社を創業いたしました。