成否を分けるカスタマーサクセス

Shuhei Matsubara
10 min readOct 31, 2017

先日月額課金サービスを契約する機会があった。一度の無料お試しの後、営業さんのカウンセリング?が入り、追加の無料お試しができるというもの。その時に受けた「カスタマーサクセス」とやらに強い違和感を感じたので、顧客目線で見た時のカスタマーサクセスを考えてみようと思う。

ではなぜ違和感を感じたのか。それは私自身がカウンセリングを受けるまでもなく、課金することを決めていたからである。一度の無料体験は満足のいくもので、そのタイミングで課金に至るまでのハードルは越えたつもりだったのだが、その後に課された30分弱の「カスタマーサクセス」が非常に鬱陶しいものだった。カスタマーサクセスは「通り一遍の定型文」を読みあげるものではなく、文字通り、顧客の成功のためのサポートを目的としているはずである。また、顧客の状態、心境に合わせてその内容を変えるべきである。にもかかわらず、「ユーザーの大部分は使い方がわからないだろう」という推測や、「ユーザーはこのへんで悩んでいるだろう」という推測?実体験?にもとづき、定型文を滔々と伝えられるのはきつい。

文字通り、カスタマーサクセスは「顧客の成功のために」行われるべきである。

一般的に顧客サポートは①購入前フェーズ(購入前サポート)②購入後フェーズ(購入後サポート)にわけられる。

結論から言うと、
①購入前フェーズ→顧客が成し遂げたいことを共通ゴールに置き、導入までのハードルを解消していく
②購入後フェーズ→顧客の成し遂げたいことを実現するために、どうそのサービスを使っていけばいいかを考えていく

が重要であり、これらを顧客とともにクリアしていくことこそ、カスタマーサクセスといえるのである。

余談ではあるが、何を隠そう、私自身は顧客フォローが好きではなかった。それは売り切りの製品の場合、自分にとってのゴールと、顧客にとってのゴールが異なるからであり、自分にとっての満足感の最高潮は「購入を決めてくれた時」なのに対して、顧客にとってはそのタイミングがスタートだったからである。自分の最高潮のタイミングが終わってからも、顧客の満足感のために頑張ることはどうしてもモチベーションのズレにつながっていた。それが将来の購買につながる第一歩だ、と考えてもなおである。しかし一方で、購入後フェーズのサポートの充実が何よりの差別化になっていたのは事実だったし、満足感を感じさせることがリピートしてもらうための何よりの方策であることも一方で理解しているつもりである。流行りのサブスクリプションモデルは、顧客と一緒に満足感を味わっていける、非常にいいビジネスモデルと感じる。

①購入前フェーズ

購入前フェーズのゴールは、「導入までのハードルを解消していく」ことである。購入前フェーズの顧客には3通りあり、
(a)既に導入を決めている人
(b)迷っている人
(c)冷やかしの人

が単純化した三類型である。そしてフォローの優先順位は(b)→(a)→(c)である。当然ながら、「サポートの投資対効果順」である。顧客が導入するかしないかを決める大部分の要素は「そもそもそのサービスを欲しているかどうか」である。体感ベース、7〜8割程度はここに尽きる。導入したいと思っている人はだいたい導入するし、導入したいと少しも思っていない人は大抵導入しない。残酷ながら、検討スタート時点の状態が7〜8割を決めるのである。逆説的に言えば、残りの2〜3割を埋めていくのが企業側の役割であり、できること、である。この理屈で言うならば(a)、(c)の人たちには過度なフォローはいらない。最もサポートが必要なのは、言わずもがな(b)フェーズの顧客層である。

(b)フェーズの顧客層は迷っているのである。7〜8割の心は決まっているが、何かしらのハードルを抱えている。それは物理的なハードルかもしれないし、精神的なハードルかもしれない。しかし、それを解決してあげるのがサポートの役割である。であれば、まず顧客と対話するべき内容は何か。それは「何が解消されれば導入に至りますか?」である。ここで言語化した回答が返ってくればそれを解消すればいいし、そこに明確な回答がないようであれば確認すべきは「このサービスを使って何を実現しようとしていますか?」である。(逆にここに回答がない場合、大抵は(c)層の顧客であることが多い。)
最終的に知りたいこと、顧客と共通見解として持ちたいことはあくまで「何を解消すれば導入に至るのか」である。当たり前であるが、「導入までのハードル」が一つもなくなれば、その顧客は導入するのである。

繰り返すが、この「何を解消すれば導入に至るのか」、もしくは「何を実現したいか」をベースにサポートを決めるべきであり、そのために必要なことが「値段の調整」なのであればサービスの組み合わせを考えればいいし、「本当に使いこなせるかどうか」であれば、「何を持って使いこなせると判断するか」を定義した上でトライアルに進めばいい。(クドクドと使い方を説明するのは顧客が使い方に不安がある場合のみである。ここに長い時間を割かれたのが、前述の、先日私が受けた”カスタマーサクセス”である。)

またもう1点重要なことは、「導入までのハードル」を企業と顧客が”一緒に”解消していくことである。相手次第な部分はあるが、大抵顧客のモチベーションはトライを続けるうちに下がってくるし、顧客もそんなに暇でない。ハンズオンなしにハードルを解消させようとすると、大抵の顧客は折れる。折れない顧客は上記(a)の顧客であることが多い。あくまで「一緒に」顧客のハードルを超えていくことが必要である。

その意味でセールスフォース社の「カスタマーサクセス」は徹底している。下記はセールスフォース社のブログから取ってきた内容であるが、顧客と一緒にゴールを定め、そこに至るためのKPIを策定、進捗状態の見える化までお手伝いするという方針を明確に打ち出している。(私自身、セールスフォースを使ったことがないので、真偽の程は分からないが、、)

https://www.salesforce.com/jp/blog/2017/05/customer-success-02.html より引用

もちろん「商品単価や、人員構成の関係からフォローに工数を避けない」という意見もあるだろう。しかし顧客の成功がカスタマーサクセスの定義だとする場合、これが理想的なスタンスなのである。

②購入後フェーズ

購入後フェーズのゴールは「サービスを使うことで顧客が設定したゴールを達成すること」である。「顧客に成功しもらうこと」こそカスタマーサクセスの役割である。これが本当にしんどい作業。ここでの成否が解約率とLTVを決めるといっても過言ではない。
それは上述のとおりであるが、「満足感」を感じるタイミングが、企業と顧客で大きくずれるから、というのが大きい。企業側はやはり「導入」が何よりのゴールである。対して顧客側は「使って成果を得ること」が1番のゴールなのである。ここのギャップが満たされないサービスは大抵解約される。そしてまた話を厄介にさせるのが「期待感」である。導入前段階、企業側は「期待感」を顧客に感じさせようとする。しかしこの期待感が高ければ高いほど、「満足感」を得るためのハードルが上がる。当初抱いた期待感に満たないサービスは、たとえそれが成果を上げていたとしても満足感には程遠いものになる。この期待値コントロールが話をややこしくさせる元凶である。だからこそ、企業側は「満足感」を顧客に得てもらうために、顧客を成功に導かなければならない。
そのためにも必要なことは、「このサービスを使って実現したいことは何か」を共有することであり、「それが実現されたといえるのはどんな状態になったときか」を共有することである。そして、「そのために何をしていけばいいのか」を確認し、その点を追っていくことである。導入した側の顧客も、そのサービスを導入したからには、成果を出したいと考えるはずである。この時点で企業と顧客が見ているもの、達成すべきゴールは同じになるべきであるし、それを”一緒に”達成していくことが「カスタマーサクセス」なのである。

では、企業側が「導入時」に満足感のピークを感じないようにするためにはどうすればいいのか。これもありきたりではあるが、「導入」だけをゴールに置かないような評価システム、KPI設定を行うことである。「導入」という評価軸と並列して「顧客単価の伸び率」を追っていくべきなのだ。顧客から得られる「利益」こそが顧客の満足度を示すのであり、その象徴と言えるであろう。(ここで注意すべきはあくまでも「利益」であって、「売上」ではないということである。)

ReactiveからProactiveへ、がカスタマーサクセスでの掛け声となっている昨今。能動的なサポート体制は差別化要素になりうる。これまた私の体験上ではあるが、そもそも顧客側からサービスに関する問い合わせが来る時点で、顧客側には何らかの不安要素/不満がある。そうでなければわざわざ問い合わせなどしない。サービス導入において大事なことが、顧客のゴールを実現することであることは前述のとおりであるが、それと同時に、「自分たちで使いこなせるかどうか」も非常に重要なポイントである。ゴールの実現以前に、使いこなせないサービスは顧客の満足度を下げる。だからこそ、能動的なサポートが望まれる。

また、カスタマーサクセスを通して顧客の引っかかりどころ、顧客の重視するポイント、顧客の悩みを抽出していくこともまた、非常に重要なポイントである。能動的なカスタマーサクセスにより、顧客の満足度が高まったタイミングは諸々のヒアリングがしやすいタイミング。顧客の言葉を最も柔軟に引き出せるタイミングは何より、「顧客が満足している時」である。カスタマーサクセスを通して顧客を理解していくことも、サービスの改善に欠かせない重要なポイントである。

適切なカスタマーサポートのボリューム感は下のブログが参考になる。

The SaaS Founder’s Playbook for Customer Successより引用

以上、カスタマーサクセスについてである。
私の顧客サポートの認識は顧客単価50−300万円程度のケースが元になっているため、サポートにかけられる時間とお金のコスト感は、各々の単価感に合わせるべきだとは思う。が、一方で、顧客に常に期待感を超える満足感を味わい続けてもらうことが何よりの継続率アップ/アップセルに繋がるという認識はどのサービスにも共通しているポイント。そのためにはReactiveなサポート体制だけでなく、Proactiveなサポートが望まれると考えるのである。

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Shuhei Matsubara

新卒ではキーエンスで中部地区の自動車メーカー攻略に従事し、その後、コロプラネクスト社でVC業務を経験。2018年6月にA1A株式会社を創業いたしました。