地球の裏側で出会ったソウルフード

Mi Choripan - 中尾真也

【プロフィール】
Mi Choripan代表
1981年、三重県生まれ。大学卒業後、10か月の1人旅に出かけたのをきっかけに、2009年夏、ただ行きたいという理由で1年半の世界一周に出かける。帰国後、再就職では世界一周が思い出で終わってしまうと考え、独立を思い立つ。直感からチョリパンで勝負することを決め、本場アルゼンチンに飛び込み修行の旅へ。自転車で通りかかったことをきっかけに、来たこともない街、代々木上原を直感で選びMi Choripanを2013年1月にオープン。1度食べたらやみつきになると口コミでも広がりを見せている。

バックパッカーとして世界一周の旅をした中尾真也は、中国から西を目指し、旅の後半でメキシコから中米を南下した。そしてアルゼンチンで出会ったチョリパン。スパイシーなチョリソーをパンではさんだシンプルな庶民の味に可能性を感じ、専門店を東京でオープンすることにした。

世界一周を目指したバックパッカーの旅

大学を卒業して、まずバックパッカーとしてアジアを回ったんですが、そうするともっと行きたいとなって、次は世界一周だと。今度は付き合っている子と一緒に行きたいと思って、お金を貯め始めたんです。そのときに付き合っていたのが今の妻です。ルートもテーマもまったく考えていませんでしたが、アフリカと南米に行きたいという漠然とした思いがあり、とくに南米には強く惹かれていたんです。妻にも飲み屋で「人なのかモノなのかはわからないけど、南米ですごい出会いがあるはずだ」とよく話していたことを覚えています。

自転車で東京から下関まで行き、下関から船で中国のチンタオ(青島)に向かうことになりました。チンタオからは基本的に陸の移動で、大陸間移動のときは飛行機を使うという方針でスタートしたんです。東南アジアを抜けてインドへ向かい、 インドからは飛行機で南アフリカへ。アフリカ大陸の東海岸を北上してエジプトを目指したんですが、アフリカの印象は……きつかったですね。移動も何時に着くかわからないようなオンボロのバスだったり、何よりも気を落ち着けられないのが、ご飯があまりおいしくないんですよ。北上して国を移動しても食べるものがほとんど変わらないし、種類も少ない。食事の大切さを痛感しましたね。

帰国後に気づいた“南米でのすごい出会い”

ヨーロッパを横断してから飛行機でメキシコに飛んで、そこから南下して南米大陸をぐるっと回りました。アルゼンチンを北上してブラジルのサンパウロからアウトしたんですが、旅も終わりに近づいてからは、帰ってから何をするかなど考えることもありました。「どうしよっかなぁ…」って不安になったり、「南米で出会いなんて何もなかったじゃん…」と思ったり、答えは全然見つかりませんでしたね。

帰国して彼女も自分もお金がなくなって、まだ結婚もしていなかったので、それぞれお互いの実家に戻り、お金を貯めてまた東京に出てこようとなったんですね。それぞれが働き出して電話でやり取りしていたときに、「東京行くけど何するの?」と彼女に聞かれても、「いや、何かするよ」って全然決まってなくて、これはまずいとなっていきました。

そんなときに、仲のいい友だちが移動販売をしたいって言ってきたんですよ。「チョリパンとかいいじゃん」って話したんですが、当然その友だちはそれが何なのかを知らないのでチョリパンとは何かを説明したら、「あれ待てよ、これおもしろいな。あかん、これ俺がやるわ」ってなったわけです。すぐ彼女に伝えました。「俺もうチョリパンやるわ。やるからにはアルゼンチンにもう1回行く。だから、結婚して、すぐにアルゼンチンに行くから仕事を辞めてくれ」って。それが始まりですね。

店を始めるのに必要な5つの条件

お店を始めることができるかどうか、条件を自分なりに立てたんですけど、ひとつめが、好きな国のものであること。修行に行ったり、なんやかんやでつながる部分があるので、まずそれが一番大事。その次、誰もやってないものであること。料理のプロフェッショナルではないですし、目立つためには誰もやってないことをやる必要がある。国としてスペインも好きでしたけど、スペインバルはたくさんあるので、自分がやっても埋もれてしまいますから。

3つ目が、1品で勝負できるもの。専門店としてやりたいと思ったときに、スイーツだと弱く一品でぐっと引っ張れない。チョリパンは肉料理なんで、これはいけるなと。4つ目は、ネーミングがおもしろいこと。フレンチとかイタリアンのお店で、言葉を知らないと覚えにくい店名ってよくありますよね。その点、チョリパンはチョリソーとパンで、日本でも馴染みがありますし、おもしろい響きですよね。最後に、小スペース少人数でできるもの。その全部にチョリパンがマッチしてたんです。

いざアルゼンチンへの修行の旅!

店を始めようと決めてから時間を空けずにアルゼンチンに行ったんですけど、何も決めずに勢いだけで行っちゃったので、1週間ぐらいはどこから何していいかわかりませんでしたね。このままではまずいので、とりあえず食べまくろうとスイッチが入って、それからは毎日チョリパンですよ。とにかくうまい店を見つけるとともに、本当に日本で商売ができるのかを確かめようということから始めて。

何件も食べ比べて、ここだって決めた店に1週間ぐらい毎日通い続けたんですね。そして、その次の日はオープン前に行って、「じつは日本でチョリパンやりたいから、教えて」みたいに声をかけて、徐々に入っていったんです。それから段々と野菜を切ったりとか手伝うようになって、ある 日、その最初に声を掛けた子に明日は来るなっていわれたんです。オーナーが来るから。でもよくわからずに行っちゃって、オーナーには「誰あの子?」とか言われてるし、「何しに来たの?」とか聞かれてもスペイン語がそんなにわからない。でも、ここで帰るわけにはいかないから、忙しい日だったから掃除したり、 下げものしたりとか8時間ぐらいやってたら、理解してくれて、明日から来なさいってなったんですよ。

必要なのはレシピだけではない

そのお店はチョリソーは作っていなかったので、そこでは焼き方や雰囲気などを学んで、チョリソーのレシピについては、仕入れている業者を紹介してもらったんです。そこでレシピを教えてもらって、焼き方やチョリパンとしての提供の仕方、雰囲気というのは店で学んだ。それと、空気感やその場のストーリーというのが大事だと思うので、装飾品を買うことと、ビデオや写真をたくさん撮ってくるのもアルゼンチンに再び行く重要な目的でした。

日本でチョリパンを始めたら、そこに来たお客さんが、こんな料理が世界にあるんだって知ってもらえて、南米とかに興味を持ってもらえると嬉しいと考えたんですね。 そのためには、現地の空気をそのまま持ってくることが大事です。日本人が寿司や懐石をいつも食べているわけではなく、牛丼だってカップラーメンだって食べるってことを知ってもらうような感覚で、地球の裏側では庶民的なものとしてチョリパンが食べられている。そうやって知ってもらえると、地球の裏側とはいえ距離が近くなったと感じてもらえるはず。そう思っています。

旅を終えたバックパッカーのために

前の話に戻りますが、大学卒業後に 10か月のアジア旅行から戻ってきて、つけ麺屋で働き出したんですけど、旅行からぷつっと途切れて東京での生活が始まって、その旅行が点になっちゃったんですね。それはおもしろくなかったし、旅行に行ったことと日常を線でつないで行きたいなと思ったんですね。旅行会社を始めるとか、もの書きになるとか、飲食じゃなくても何でもよかったんですけど、旅行で体験したものから続く何かを始めたかった。

学生の子たちは1年とか休学して世界を回っても学校に戻ればいいんですけど、30歳ぐらいになると「帰ったらどうしよう…」などの悩みはつきないので、そのひとつのモデルとして、帰って来て技術も資格もないところから始めたんだよということを示していければ、バックパッカーたちの不安も少なくなるかなっていう。旅に行って帰ってくるだけではなく、インプットしたものをアウトプットできるということを伝えていきたいので、そのためにも店として成長していかなければいけないと思っています。

「Mi Choripan」
【住所】東京都渋谷区上原2–4–8
【TEL】03–5790–9300
【営業時間】月〜土 11:00~22:00、日・祝11:00〜20:00
【定休日】火曜、第2、4月曜(祝日は営業)
【URL】 http://michoripan.com/

※2014年11月12日 FOODIES magazine掲載インタビュー