日常食を届けることへのこだわり

出張料理人- 後藤しおり
【プロフィール】
出張料理人
ブータン料理店、野菜料理店などを経て2012年7月に独立。世田谷を拠点にケータリング、出張料理人として活動。会社の日々のご飯、ロケ弁のほか、レセプションパーティーやイベント、個人宅への出張料理などを行う。
ロケ弁の調理やケータリングに携わる料理家の後藤しおりは、朝、アトリエに到着すると、まずお茶を淹れてお粥を炊き始める。そして、お粥ができるまでの間にアトリエにある食材を確認して、バランスを考えながら献立を決める。その際のキーワードが、「日常食」だ。
朝食が大事な理由
じつは子どものころは朝食を食べれなくて、母親は私に果物を食べさせていたんですよ。でも果物は体温を下げるので、夏はいいですけど、冬は体にもあまりよくないですよね。大人になってから、あるとき雑誌の仕事でお粥のメニューを考える機会があって、すごく自分の体に合うと思って朝にお粥を食べるようになったんです。

お粥を1杯食べても、お茶碗3分の1量ぐらいのお米しか入ってないので、朝そんなに食べれない人もするすると入ります。体の温まりかたが全然違うので、果物を食べていたときより断然調子いいですね。
夏になると暑いので、お粥ではなく水餃子を食べることが多いです。白身魚の水餃子、お野菜の水餃子など、冷凍でストックしてあるので、気分によってそれをつるんと食べます。料理をしていると味見もしますし、調味料やお出汁などの匂いもたくさん嗅いでいてあまりお腹が空かないので、朝食を軽くとっておくことは大切です。
お弁当などの献立は、その朝食のタイミングで決めます。週に2回ぐらい農家さんから野菜が届くので、今ある野菜で何ができるのかということから考え始めます。何を作るから何を取り寄せよう、と考えることはほとんどありません。旬のものは安くておいしいので、旬の食材を使って出すことを徹底していますね。
実家の寿司屋で見ていた光景

実家がお寿司屋さんで、本当に小さいころは家とお店が隣接していたんですね。だから、毎朝起きるとお弟子さんたちが準備をしていて、せかせかと朝から忙しく働いていました。そんな様子をよく見ていたんですが、ある時、水槽から魚を取り出して魚を捌いている父に対して、「人殺しー」って言ったのだとあとから聞きました。
そうやって実家で職人さんの仕事を見てたし、両親が飲食業に関わっているわけなので、自分が会社に勤めてOLになるというイメージはまったく湧きませんでしたね。学生のころにスーツを着て就職活動したこともありましたが、腑に落ちなくてもやもやしながら就活をしていました。だから、最初にブータン料理店に入ったのは本当にたまたまの巡り合わせですが、飲食の仕事に就いたのは自然な流れでした。
弁当の軸となる料理
ロケ弁などのお弁当を作るようになって、子どものころに母が作ってくれたお弁当のことを思い出してみたんですよ。母のお弁当を食べると落ち着く感覚があったから、なんで落ち着くんだろうって考えたんです。その時に、旬の食材で毎日おかずが変わるなかで、変わらないおかずが入っていることが重要なんだっていうことに気づいたんです。私はそれがお弁当の軸だと考えていて、私にとっての軸は、卵焼きやおからなんです。あと、お味噌汁もそうかな。

いろんなおかずを食べながら、この卵焼きは残しておこうとか、おからは最後に食べようとか、順番を考えるじゃないですか。そのときに、宝ものとして残しているのではなくて、安心感をそのおかずに求めているんだと思うんです。味も分かっているし、初めての料理を選んだあとに食べたり、そういう風に軸となるおかずは絶対的なもので、飽きることがないのだと思っています。
日常食とは?
昔から受け継がれてきたお弁当のおかずってありますよね。変に洋食とかあれこれ工夫したりするのではなくて、そういうのが本当に知恵の結晶のようなものだと思っていて、唐揚げとか卵焼きとかには冷めたおいしさがあります。温かいのもおいしいですけど、冷たい卵焼きは本当に美味しいですし、唐揚げはさくさくなのももちろんいいですけど、冷めるとギュッと味がしまります。
お弁当の美味しさって、豪華にすることじゃないんですよ。忙しく働いている人が、健康に食事をできない状況なのがすごくおかしいと思っているので、安心できる食事を届けたいと思っています。お弁当を作っていて「毎日食べたい」と言っていただけるのが、一番の褒め言葉ですね。

そのときに安心感を与える料理として私が大切にしているのが、日常食を作ることです。食べたときに違和感なくすーっと体に入ってくる料理が日常食だと思っていて、お母さんとかおばあちゃんが作ってくれたものを食べてホッとしたり、お出汁を飲んで生き返った感覚を味わったり、そういう料理を作りたいといつも思っています。
お客さんの顔を思い浮かべながら
今は基本的に新規でのお仕事は受けていなくて、知っているお客さんと、その紹介でのお仕事だけを受けるようにしているんですね。知っているお客さんであれば、その人と会って話をして、雰囲気とか空気感を感じて、あの人に何を作ってあげようと考えて作るんですね。「あの人はお母さんの肉団子が好き」と言っていたなとか突然思い出して作ったりとか。そういうのが好きなんですよ。

誰かの紹介のお客さんだと、その紹介してくれた人と似ていたりするので、その人をイメージして作るようにしています。そして、お弁当ができあがったら配達まで私がするんですけど、実際に会ってみると、やっぱり似ていたりするんですよ。さらに食事の好みも近かったりするので、作ったお弁当を気に入ってもらる事が多いです。
お客さんのことをイメージしながら、食べていただく時間によってもお弁当を作り分けています。朝だと、本当にお腹いっぱいではなくちょっと軽いもので、すぐエネルギーになりそうなもの。例えば、朝にサンドイッチを届けるときには、お肉のサンドイッチと果物を使ったサンドイッチを作ります。お肉サンドは男子向けなんですけど、ガッツリはし過ぎないように、野菜のマリネと和えてサンドします。それと、サッパリしてもらえるように果物のサンドイッチも作るんですが、果物の糖分はすぐエネルギーになるので、組み合わせて考えますね。

お昼は、本当にみんなが楽しんで、このあとも仕事頑張るぞ、ってなれるようなお弁当。
どちらかというと盛付けを華やかにして、みんなのテンションが上がるようなご飯を目指しています。夜に関しては、仕事が終わって寝る方向に向かうので、油をそこまで使わない健康的なものを意識しています。
味が決まる瞬間
料理をしていて、食材の変化を感じられるのがすごく好きです。例えば、人参を千切りして塩揉みすると、色が鮮やかになるじゃないですか。あと、青菜とかを茹でると、ある瞬間に「ちょうどいいよ!」みたいな感じで、色がぐんと変わるんですよ。そのときがお鍋からの引き上げ時で、そういうときの野菜の色の変化がすごく素敵なのでテンションが上がりますね。

食材を切って、火にかけたり調味料を加えたりして料理を作るわけですが、完成する瞬間って、本当に焦点が合うような感じがするんです。焦点というぐらいなので、本当に点なんです。いろんな条件が結びついて、点で結びついた瞬間に味が決まると思っています。
『問い合わせ』http://gotoshiori.com/
※2015年3月2日 FOODIES magazne掲載インタビュー