shunsuke ikegaya
7 min readMar 1, 2016

料理写真は“美味しいポートレイト”

写真家 - 長野陽一

【プロフィール】
福岡県出身。1998年、沖縄、奄美諸島の島々に住む10代のポートレイト写真『シマノホホエミ』を発表。以後、全国の離島を撮り続け、2001年に写真集『シマノホホエミ』(情報センター出版局)、2004年に『島々』(リトルモア)、2012年に『BREATHLESS』(FOIL)を刊行。雑誌、広告、CM、映画などさまざまなジャンルで活動。雑誌『ku:nel(クウネル)』(マガジンハウス)の仕事をきっかけに、ライフスタイルと寄り添う料理写真の数々を撮影することに。2014年、それらの料理写真集を集めた写真集『長野陽一の美味しいポートレイト』を上梓した。

雑誌『ku:nel』や『dancyu』、料理にまつわる書籍の数々で料理写真を撮影してきた。しかし料理専門の写真家というわけではない。国内のさまざまな離島を旅し、出会った人々のポートレイトや行事、風景などをライフワークとして撮影し続ける彼が、料理写真に表現するものとは。

暮らしやそのストーリーの一部としての料理写真

料理写真を撮るきっかけは、マガジンハウスの『ku:nel』という雑誌からの撮影依頼が最初です。その仕事は、漫画家でイラストレーターのしまおまほさんが、奄美大島におばあちゃんを訪ねて旅をする特集企画の写真だったんですね。そのなかに一品、かりんとうがお皿に載った写真があって、それが最初に食べ物を撮った写真だったと記憶しています。

そして次の号で、千葉県のとあるおばあちゃんがおせち料理の支度をするという特集の仕事が来たんです。そのときが、料理特集の記事で写真を担当した初めての仕事でした。

そもそも『ku:nel』は、料理は取り上げるものの、その背景にある人やストーリーを伝える雑誌です。あるテーマの記事で写真を担当することになると、そのなかに料理があって、それがストーリーの一部になる。もちろん料理の特集もありますが、それ以外でも誰かの暮らしを物語る上で料理を撮影する機会がよくあり、料理写真が増えていきました。

ストーリーとビジュアルが結びつく

雑誌の仕事では、写真だけではなくて文章が写真の隣にあるわけです。取材に行き、訪れた先で取材対象の方の話を聞くなかで料理が紹介されるので、ストーリーがすでにそこにあるわけです。

家族の話かもしれないし、その地域の風土の話かもしれない。そのストーリーに沿うように、現地で見ているものをなるべくページに定着させる、集約させるということを意識して撮影を続けています。写真を見た瞬間に湯気が立っていて美味しそう、とかそういう直接食欲を刺激することではなく、記事を読みながら人や場所のストーリーを感じて「その料理を食べたいな」「美味しそうだな」ってふと思うようにしたかったんですね。

だから、広告などの料理写真のように演出はしません。
できるだけ自然光やその場所の光で撮影をする。そのままを読者に見てもらいたいというのがあるので、お店を取材する記事であればそのお店の雰囲気だったり、人物を取材する記事であれば、その人の家の雰囲気や、使っている茶碗だったりお箸だったり、そういうものがしっかり見えるようにする。

お店取材でも、あくまでも「普段通りでお願いします」とお伝えして、見やすくするために器まわりの整理はしますが、美味しそうに見せるために特別な盛付けをしたり、豪華に見えるように手を加えたりはしません。

日本各地の離島での撮影

普段は、離島に住んでいる人のポートレイトや風景だったり、そこの風習というのを写真にして、写真展や写真集という形で発表しています。離島の撮影をしていて気づかされたのは、東京で暮らしていると普段気づけないような、日本文化の要素が島には凝縮されているということ。不便さから生まれるものであるんですけど、日本の昔から変わっていない部分が、島で撮影をしているとたくさん写真に写るわけです。

例えば、都会に暮らしていると多くのひとが似たようなお店で服を買って、生活環境が似ていて均一化されている。しかし、ずいぶん変わってきたとはいえ、着ているものや食べるものなど、その土地らしさが島には多く残っていてフォトジェニックなんです。

暑い島に肌が黒くて彫りの深い顔立ちのひとが多かったり、北海道などではその逆のタイプが多かったりします。習慣や景色ももちろんですし、そうした気候や地理的な条件から見えてくる顔立ちなども、写真を撮って集積させることでたくさん見えてきます。

島の住人と出会う場は酒場

『シマノホホエミ』という離島写真のシリーズを始めた1998年頃は、カメラ付きの携帯電話も普及してなくて、ましては中学生や高校生などの10代は持ってなかったので、僕らみたいなよそから来た旅人がカメラをぶら下げて、すいません写真を撮らせてくださいとかいうと、ホントに!?とか言って、おもしろがって撮らせてくれたんですよ。写真でコミュニケーションがとれたんです。今はそれが難しい時代になった。

そう自覚してからは、島の人たちが集まる居酒屋などに入って、じつは東京から写真を撮りにきたんですけど、どういう場所を撮るといいですかね、と島の人に聞くようにしています。写真でコミュニケーションがとれるようになるために自分を知ってもらうわけです。

島の人は親切な人が多いので、いろいろ教えてくれるんです。もちろん、お酒や料理があるから、話しやすいというのもあるでしょう。そうやってまず自分の素性を明かし、大人に知ってもらうことが島で写真を撮る上で大切なことだと思っています。その土地の食文化に触れるという意味でも地元で愛されている居酒屋にはいつもお世話になっています。

人物のポートレイトと料理のポートレイト

離島では、10代の子たちのポートレイトを多く撮影するんですが、彼ら彼女たちは、就職や進学などである時期に一度は島を出ることになります。それまでは島しか知らなかった子たちが、島を離れ、社会の中で大人になり、またいつか帰ってきたいという思いを多くの子たちが口を揃えて言うんです。そんな思春期が持っているそのままの感じを写真にしたいと思って撮影を続けています。

料理写真も、実際に写真に写っているものは、料理や器などそこにあるものだけですが、その裏側にある作り手の思いや、その場の空気などを想像させたいと思っています。料理写真の仕事では、基本的にその料理を食べる前に撮影するので、自分自身がどういう味なのかな、どういう風に作られたのかななど、いろいろと想像しながら撮っているわけです。

それは、島で出会ったばかりの10代の子を撮影するときに、初対面の子を前にして、どういう子なのかなと想像しながら撮影するのとどこか似ています。11年間、料理写真の撮影を続けてきて、最近になって、離島で撮影したポートレイトや風景写真と料理写真とが共通していることに気づかされたのです。

【公式ホームページ】
http://yoichinagano.com/

※2014年11月11日 FOODIES magazine掲載インタビュー