shunsuke ikegaya
8 min readMar 3, 2016

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野菜を通じて季節を感じてもらいたい

青果ミコト屋 - 鈴木鉄平、山代徹

【プロフィール】
鈴木鉄平 青果ミコト屋 代表
1979年生まれ。3歳までをロシアで過ごし、帰国後、横浜で育つ。根っからの旅好きで、高校卒業後アメリカ西南部を1年かけて放浪し、ネイティブアメリカンの精神性を体感。2007年、ヒマラヤで触れたグルン族のプリミティブな暮らしの豊かさに惹かれ、農のフィールドへ。2008年、千葉の自然栽培農家であるに師事して畑仕事を学び、2009年Brown’s Fieldの田んぼと畑スタッフとして1年間自給的な暮らしを経験。2010年、高校の同級生である山代徹とともに旅する八百屋『青果ミコト屋』を立ち上げる。

山代徹 青果ミコト屋 マネージャー/バイヤー
1979年宮城生まれ、横浜育ち。子どものころから野球少年に高校サッカーとスポーツ三昧。大学では文学部に所属し、卒業後、住宅会社の営業職に就く。営業の才能を見出され、多数の営業職を経験。2007年、バックパッカーとしてアジア各国を巡り、2008年、千葉の自然栽培農家のもとで畑仕事を学ぶ。1年間の農業研修を終えたあと、マーケティングを学び、2010年に鈴木鉄平とともに『青果ミコト屋』を立ち上げる。

各地の食イベントへの出店や個人宅配などを通して、美味しくて安全な野菜と果物を届ける『青果ミコト屋』。産地を巡って農家の声を聞きながら野菜を仕入れ、顧客には丁寧にレシピまでを用意。生産者と消費者がつながる健全な社会を夢見て、“旅する八百屋”は今日もキャンピングカーを走らせる。

不揃いな野菜が買いたたかれる現実

鈴木:子どものころから食べることはすごく好きでしたが、食べ物を仕事にするとは思っていませんでした。ファーストフードもよく食べてましたし、いってみたらジャンクフード世代ですから。しかし、あるとき会社員をやめて、ネパールからアンナプルナっていうヒマラヤの麓へトレッキングしたときに食べたひとつのリンゴがあって、ものすごく疲れ果ててたのもあってか食べ物の力はすごいなぁって実感したんです。

もちろんその背景には、会社員として働く中で、お金の稼ぎ方に対してこれでいいのかなっていう思いや、今の消費社会に対する疑問みたいのはありました。そのタイミングで、アンナプルナのそのリンゴと出会った。それをひとつのきっかけに、食べることに興味を持ち始めて、帰国してから畑に行ってみることにしたんです。毎日畑に出て、食べ物はおいしいし、健全だった。でも市場に持って行くと、見た目で、ものすごい値段で買いたたかれるわけです。リアルな流通を見たんですよ。

生で食べておいしかったトウモロコシがあったんだけど、大好きだったのに価値を見てもらえなかった。不揃いなのが自然なんだけど、お金にならない。消費者が綺麗なものを求めるから、という現実から、きちんと消費者に安全で美味しい野菜が何かを伝えて、マジメに生産する農家とつなげる八百屋をやろうと思うようになりました。

町のご用聞きとして販売を開始

鈴木:僕は基本的にイメージ先行で、ああやりたいこうやりたいと提案をして、実際にお金を管理して組み立てるのは山代なんです。まずは宅配から入りましたね。僕たちの野菜を通じて、季節を感じてもらいたいっていうのがあるし、季節の野菜が実際に体のバイオリズムを整えてくれますから。季節感は、セットを組む上でのキーポイントになっています。

山代:発注量も安定して事前に読めるので、町のご用聞きとしてスタートしたわけですが、より農家を知れて、野菜料理を楽しんでもらいたいので、レシピや保存方法、野菜についてのコラムなどを掲載したオリジナルの瓦版を毎回入れています。一般的には高いと言われる野菜ですから、若い世代がどうすれば身近に感じてくれるか。並べ方や見せ方、発信の仕方をいろいろ考える必要があるので。

自然栽培や有機栽培の野菜を身近に

鈴木:自然栽培のことを話すと、「オーガニックな人たちだ」「思想強いね」みたいな壁が勝手にできちゃうところがあるので、この壁をぶっ壊すかっていうのがテーマのひとつでした。よりカジュアルに見せたいし、食べてもらって、向こうからいいなと思ってもらえることは考えましたね。

山代:都内のイベントにも出て、移動式でやるようになったのもその流れですね。初めはどうやってイベントに出るのかもわかっていなかったので、近所の公園で試しに販売してみたり、手探りでのスタートでした。でも、結局は見せ方が重要ですよね。イベントに来てシンプルに楽しんでいただけて、食べてみようっていう感覚で野菜を買ってもらえたら次につながると思うんですよ。

鈴木:イベントでは、パッタイやカレー、ビビンパの弁当などを作って野菜と一緒に販売するんですけど、「どういう野菜ですよ」っていくら説明されるよりも、まず食べてもらうのがわかりやすいじゃないですか。だから、何か食べれる形で毎回出してるんですよ。

全国の生産地を巡る旅

鈴木:生産地を巡って農家の方と出会う旅は、ミコト屋の核となっている部分ですね。僕たちのミッションとしては、不揃いの野菜も個性として知ってもらうことと、もうひとつ、生産者と消費者をつなぐことだと思っているんです。農家と出会うと、おもしろくて魅力的な人が多いので、そうした魅力をきちんとお客さんにも伝えていきたいと思うんです。

山代:印象的な農家さんは多いですね。滋賀県のある農家さんは、ドレッドヘアで、顔はインド人みたいに濃くて、キラキラして少年みたいなんですよ。琵琶湖に近いところに畑があるんですが、昔はきれいで泳げたっておじいちゃんたちが言っているのを聞いて、自分の子どもや孫の時代には泳げるようにしたいって環境活動もしているんですね。しっかり芯があって、野菜も好きで、そういう農家さんの話を聞いていると興味深いことがすごく多いです。

鈴木:そういう農家の個性や姿勢を伝えて、お客さんに畑をイメージできるような状態で野菜を届けたいと考えています。そして、消費者の声を農家にフィードバックしたい。

山代:実際、農家さんに消費者の声は聞こえてないわけです。だから、僕が電話とかで「この前送ってくださったカボチャが人気ですよ」「美味しいってお客さんからの声が多いですよ」って伝えるとホントに嬉しそうで、そういう感想を知らないからシンプルな言葉で喜んでもらえるわけです。嬉しかったとかおいしかったとか、ポジティブな声が聞こえることって一番大事ですよね。

受け身にならないために旅を続ける

山代:海外でも日本でも、いろいろな暮らしや文化を見れるのは旅の醍醐味ですよね。同じ日本でも各地に種類の違う漬け物があったり、そういう風土と食のつながるも見ることができます。土地のディープな部分を知ることができるのは純粋に楽しいですよね。

鈴木:それと、ある種の現実逃避も旅の重要な部分のひとつだと思っています。ずーっと同じところにいると、思考が停止してくるっていうか、いいアイデアも浮かびませんし、旅をしながらボーッとしていると、日常に溢れるものに対して俯瞰的な視点で見えたりもします。そういった意味でも、移動するのが僕たちの潤滑油になっていますね。移動して届けていれば受け身にならずに進んで行けますし、川の水も流れ続けているから濁らないわけですから。

「青果ミコト屋」
【問い合わせ】http://www.micotoya.com/

※2014年11月10日 FOODIES magazine掲載インタビュー

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