組織の中で実践する
UXデザイン

この記事は「UX TOKYO Advent Calender 2014」の16日目としてお送りします。

Satoru MURAKOSHI
9 min readDec 15, 2014

こんにちは。村越と申します。
僕は某六本木方面のITサービス系企業にてUXデザインチームの責任者をしています。

今回は、僕がこの1年UXデザインというものをいかに組織で実践してきたか、ということをテーマに書こうと思います。

本題の前に参考

今回の話題は以下記事でも話題提供させていただいています。

1年で工数は4分の1に。グリーのゲーム開発部門がUXテストの効率化に取り組んだ本当の理由
http://engineer.typemag.jp/article/gree-ux

グリー流!組織にフィットさせたスピードと質を両立させるユーザーテストの秘訣
http://eventdots.jp/interview/2

UXデザインとは組織論である。。。

見出しに「。。。」と入れました。
なぜ、「。。。」か。

今年のAdvent Calendarでもfumiyaさんの記事や、a_suenamiさんの記事で似たようなテーマが扱われていました。

UXデザイナーの最大の能力はプランニングや要件定義のときにこそ発揮される。そして当たり前の話だが、良いプランや良い要件定義は、良い組織構造からしか生まれない。いくら良いプランニングをしても、それが理解され、実行できる組織でなければ意味が無い。UXプランニングの実践ができるような組織の仕組みがあってこそ、UXデザイナーの活動は認められる。
- UXデザインのための、ポストデザイン思考

アジャイルと同じく UX デザインの最大の成果物はプロダクトではなくそれを作ることができるチームであり、その点ではアジャイルも UX デザインも組織論の一種
- UX デザインとは組織論である

僕は組織の中では中間管理職で、かついわゆるUXデザインの土壌のない組織でUXデザインのための活動を開始しました。
「良い組織構造」も「良いプロダクトが生まれるチーム」もまだありませんでした。
まずは、理解が得られる土壌やそのための雰囲気、この活動に賛同するチームや人を増やしていく必要がありました。
しかも、僕が所属している組織は事業部だけでも1000人近く、開発しているサービスも多数あり、それを横串でアプローチしなければならなかったわけです。

UXデザインは、組織論だという結論は間違いないと思います。僕もそう思います。
それはfumiyaさんが指摘しているとおり、UXデザインが一番パフォーマンスするのが要件定義やプランニングのフェーズであり、それはサービスや事業においては事業戦略やビジネス計画のフェーズと言えるため、よりサービス開発の上流からコミットメントすることが理想と言えることは間違いありません。ただ、「デザイナー」というタイトルがほとんどの組織では狭い解釈になりすぎていたり、デザインプロセスへの理解が足りなかったりするために、それを高めようとするときに組織的な理解が必要になる、という理解なのかなと思っています。

で、その理解が得られている前提で理想的なプロセスや手法で語られることが多いのがUXデザインの領域の現状とも思います。

僕はこの1年、それに対して「実践」を通じて「組織の中におけるUXデザイン」を自分なりに理解し、対外的に発信することに努めてきました。

僕がこの1年でやってきた3つのこと

僕がこの1年、チームの活動を推進するためにやってきたことは以下の3つに集約されると思っています。

  1. 既存の活動リソースを活かす:僕はいまの組織でUXに関するチームの立ち上げをしたわけではなく、途中から引き継ぐ形で管理者になりました。
    引きついだときにチームが持っていた機能は「ユーザテスト(以下、UT)」の機能のみ。
    UXデザインというよりはUXリサーチャーに近い立ち位置でUTだけを請け負う機能でした。
    僕の個人的な認識としては、UTはどうしても設計の後工程であり、設計と評価はセットで行われるべきで、その両方を機能として持つことがまずは重要と考えました。
    ただ、組織的な理解がまったくない状況でこちらの「Want」を主張しても誰も聞く耳は持たないだろう、ということがあったためにまずは当時持っていた活動資産であるUTにフォーカスして、それをドアノックツールとして使うことにしてチームの活動をフォーカスしました。
  2. 組織に対してアダプティブになる:僕が所属する組織は、完全な定量文化でデータ中心主義で緻密な分析を行うことに強みを持っていました。ただ、僕がチームを持つようになった2014年の初めくらいから定性情報や定性調査によるユーザ行動やユーザ心理の把握に対して組織的な注目が集まりだしました。
    この風潮も追い風に働きましたが、まずは定性データの効果とユーザ観察により定性データを得る活動を実際に多くの人に体感してもらえればまずは「ユーザと対峙し、ユーザを理解する」というUXデザインの一番入り口の部分は理解が得られるのではないかと思いました。
    それもあって、組織の状況に合わせてチームの活動もアジャストさせていきました。
  3. 認知の深さよりも認知の広さ:これは単純に最小のリソースで最大のパフォーマンスを出す、ということに尽きます。
    そのために、チームの活動で工数が最もかかる部分をフレームワーク化し、属人性を徹底的に排除しました。また、UTの1案件にかける基準工数も設定し、月に対応できるライン数を最大化することで、「面」で組織と関係値を作ることを主軸にしました。

アウトプットよりも、マインドセットに作用する

ユーザテストの様子

この1年の活動を通じて、だいぶ広い範囲でいろいろな人たちと仕事をともにすることができました。
図らずもUTという活動資産を元に活動をはじめてよかったな、と思うことは、「関わったチームのマインドセットに少なからず影響を与えたかもしれない」という部分です。

ユーザの観察と、観察から得られた課題やユーザの要求事項の抽出について議論することで、「作り手が作り出したユーザ像(作り手の思い込み)」と「リアルなユーザ像(観察を通じて得た情報)」との違いを強く感じる人がいたことや観察自体に興味を持ってくれる人が増えて、デザイン手法のバリエーションは組織内で確実に広がりました。

それは一つよかったことだと思いますし、ミクロなUXデザインですがマインドシフトや組織に影響する、というのは現実的にはこういうことの積み重ねなのかも、とおも思いました。

組織の中のUXデザイナーに求められるスキルセット

組織の中で活動するUXデザイナーに求めらる素養は以下の5つに大きく分類できるのではないかな、と思っています。

  1. 洞察力:ユーザを洞察する力はもちろんのこと、組織の状況を見通す力、組織の中にふく風を読む力が必要
  2. 理解力:課題を発見する力と、事象から課題を見抜く力、それはユーザの理解にも組織的課題の理解にも共通して必要な能力
  3. 設計力:課題に対して複数の打ち手を講じることができる能力。ひとつのソリューションではなく、いろいろな状況に応じた対策を講じる必要があるのは対ユーザも対組織でも共通。
  4. 推進力:ソリューションや提案を実行に移す行動力。
  5. 自己否定力:いままでやってきたこと、理論的に理解していること、自分の能力を自己否定して、新しい手法ややり方、状況を柔軟に受け入れる力。自分の伸びしろを高めるには、自分を否定して、そこに新しい風を吹き込むことが重要。

まとめ

トップダウンでUXデザイナーにとって理想的な桃源郷がすぐに作られるなら、それにこしたことはないと思います。ただ、UXデザイナーと呼ばれる人の大多数が組織の中間層に位置して、UXデザインは組織論だ、でもどうやって組織を変えればいいのか、という疑問にいきつくような気がします。

中間層が組織の中である活動への理解を示そうとしたとき、UXデザインの領域に限らず、やり方はほぼ一つで「小さな成功を積み重ねる」ことしかありません。ただ、その成功を連鎖させるのか、一発で終わらせるのか、という部分には推進者のPR力などが大きく差がでます。組織における活動も製品と同じでマーケティングとプロモーションが必要です。

組織の中で実現したい「UXデザイン」というものが自分が売りたいサービスだったとした場合に、それをステークホルダーが認知して欲する状態をデザインする必要がある。つまり、UXデザイン自体の適用にUXデザインプロセスを当てはめて考える必要があるのではないでしょうか。そのものの価値をどう伝えるのか、というのは僕たちが常に作ったプロダクトをどう世の中に出すか、という文脈で考えていることと一緒です。UXデザインプロセス自体の価値を自ら定義し、組織の中で必要とされるストーリーを描く必要があります。

また、そこで実現されるUXデザインというものも組織によって全然形が違うことを前提として考えたほうがいいと思います。組織の規模、事業戦略、企業のおかれている状況が違うのでそこで必要とされるデザインプロセスも違くていい。だからこそ、組織の現状とある程度寄り添いながら活動自体を地道に作っていかなければならない。

結局のところ、そこには特効薬や万能薬やチートのようなものは存在せず、地道にUXデザイナーが「意志を持って対話を続ける」ことが重要なのだと思います。

目の前にいる人とのコミュニケーションがうまくいくかどうかは、
相手が何を理解できないのかをきちんと理解するという
こちら側の能力にかかっている。

Richard Saul Wurman
「それは情報ではない」

対エンドユーザでも、対社内ステークホルダーでも同じく根底に持っておくべき発想は「相手が何を理解できないのかをきちんと理解すること」であり、対話もデザインもここからすべてが始まり、これを地道に積み上げることでしか道はできていかないのではないかと思います。

ローマは1日にしてならず、千里の道も一歩から。地道な実践事例がもっとUXデザインの領域でシェアされ、プラクティカルな議論がさらに高まっていくことを願います。

今年もありがとうございました。それでは皆様楽しい年末を(早)。

--

--

Satoru MURAKOSHI

Product Design for Singapore , Ubie Discovery. He has experience in user experience design field over 10 years. Information Architect.