tajima soichi
5 min readMar 11, 2018

資金調達時におけるスタートアップの企業価値評価について

起業家からよく受ける質問として、資金調達時のスタートアップの企業価値評価について、VCはどのように見ているのか?というものがあります。

定量的な一つの回答として、例えばSaas領域だとARRの5-10倍がひとつの目安、などがありますが、実際の資金調達、特にシリーズA以降の資金調達については、このような方程式に当てはまらないケースが多い気がしています。

このあたりについて、キャピタリスト視点で少し書いてみようと思います。

1、VCの投資採算基準に合わない企業価値評価をすることは難しい

まずはじめに、VCが外部の出資者から資金を預かり、出資者から求められているリターンを返すという職業である以上、スタートアップに投資し、事業を成功させることで何倍の投資リターンが見込めるか(Multiple)、何年で何倍の投資リターンが見込めるか(IRR)、という視点は絶対にはずせません。

そうなると、VCが投資を検討する際には、MultipleやIRRという視点において、そのVCの投資採算基準を満たすことが投資を前向きに検討する上での大前提になります。

逆説的に言えば、(前向きに投資検討する以上)そのVCの投資採算基準を満たさない企業価値評価をすることは難しい、ということになります。

ちらほら見かけるのが、例えば3年後を予定しているIPO時の時価総額を50億円で想定しているにもかかわらず、20億円の時価総額で資金調達したい、というケースです。こういった場合、3年後に2.5倍(税引き後だと約1.5倍)のリターンしか見込めないスタートアップに投資をするのであれば、もっと大きなリターンが見込めるスタートアップに投資すべき、という判断になってしまいます。

VCにプレゼンする前に、「もし自分がVCなら、自分の会社に投資をしたくなるか?」、を自分に対して冷静に聞いてみるとよいと思います。

2.実際の企業価値評価についての考え方について

ここまでは大前提の考え方として、個人的に企業価値についての考え方はもっと深いと感じています。

具体的には、例えば現在の収益性/収益力や事業/マーケットの成長性というのは、直接的に企業価値評価に影響してくる要素の一つですが、それ以外にも企業価値を構成する重要な要素があると考えていて、個人的には、

企業価値=(ⅰ)定性的価値 + (ⅱ)BS/PLに現れない企業価値 + (ⅲ)BS/PLに現れる企業価値

のようなイメージだと捉えています。

(※)組織文化のタイプについてですが、中央集権型というのは、命令系統と業務執行が分離している、いわゆる強いリーダーシップ型経営のイメージで、分散型というのは、優秀なメンバーに思いきり活躍できる場と大きな裁量を渡すことで、現場から能動的に新規事業や改善案が生まれる現場主導型経営のイメージです。

(ⅰ)(ⅱ)の価値は、短期的にBSやPLには反映しませんが、特に北米、中国、東南アジアのスタートアップの企業価値評価を見ていると、このあたりの定性的な要素が企業価値評価上大きなウエイトを占めている気がしますし、世界的なデジタルシフトが急速に加速する今後は、特に(ⅱ)のウエイトがますます増してくるのではないかと考えています。

3.最後に

話は少し逸れますが、日本のM&Aを見ていると、一部を除いてまだまだDCFベース、つまり(ⅲ)の企業価値評価ウエイトが高いことによって(もちろん暖簾の観点も大きいですが)、海外のM&Aと比較すると小さなディールが多くなっている現状がある気がします。逆サイドから見ると、このことは日本のスタートアップに投資する際の企業価値評価を押し下げる方向に影響することは避けられません。

ニワトリとタマゴの論点になりますが、北米や中国のスタートアップが数百億~数千億円を調達し、日本を含めたグローバル・マーケットを本気で獲りにいっている現状を考えると、メルカリのような日本発のグローバル・ベンチャーをもっとたくさん生み出すためにも、会計上のルールに沿った(ⅲ)の企業価値評価だけではなく、(ⅰ)(ⅱ)のような部分を重視する考え方や、重視できる枠組みがもっと浸透すべきだと個人的には感じています。

また、テーマが見つかったら書きたいと思います。

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tajima soichi

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