コペ転をめぐる対話

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Jun 7, 2016 · Unlisted

文/スペクテイター編集部


今回のスペクテイターは「コペ転(=コペルニクス的転回)」という聞き慣れない単語を特集タイトルにしました。

大まかな意味についてはウェブマガジン「SHIPS MAG」を参照いただきたいのですが、ここでは「コペ転」特集が完成するまでの経緯と、登場人物のプロフィール、取材の裏話などについて話をしたいと思います。

より深く記事を楽しんでいただくための「補稿」として読んでもらえたら幸いです。


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スペクテイター 36号 表紙/イラスト=武藤良子

コペ転は革命だ

◎ 巻頭の導入漫画のネームを書くために歴史を調べていたんです。するとコペルニクスが最初に書いたのが『天体の回転』という題名の本で、「レボルシオ」という言葉が使われている。

「レボルシオ」というのは「回転」という意味らしいです。ラテン語だと思うんですけど、英語やフランス語にすると「レボリューション」になる。

(今回のスペクテイターも)「革命の物語」でもあるのかなと、ちょっと思いましたけどね。ま、後づけですけど。

◉ これは「革命」だ! という気持ちを込めてコペルニクスは「天体の回転」と名付けた?

◎ いや、そもそもコペルニクスの書いたタイトルは「天体の回転について」なんですよね。だから、やさしくいえば「グルグルしている」ってことじゃないですか。
レボルシオという言葉の前に回転という意味があって、回転という言葉からレボリューションという言葉が生まれたんでしょ。回り続けているとか、運動性みたいなことじゃないですか。

◉ 一般的には「革命」って黒を白にひっくり返す、みたいな意味でつかわれることが多いですよね。

◎ ジャスミン革命とか、フランス革命とか。

◉ そう、権力を倒して新しい世界をつくるという。でも、この場合は、そういったイメージとは違う?

◎ そうですね。回転というよりは「運動」というかんじ。

◉ 革命はひっくり返せば終わりだけど、裏返すんじゃなくて円環を描くということですかね。

◎ 「精神の運動」というか、信じていた価値観が真逆になって180度変わる。

◉ 長い目で見たら、円を描いて再び同じところに戻ったり?

◎ 永久革命かな、埴谷雄高言うところの。でも永久革命は大変なんすよ。疲れるし。〈亀鳴屋〉の勝井隆則さんも、「永久なりゆきです」とか、冗談っぽく話してくれましたけど。


コペ転のはじまり

◉ 今回の企画が、どのようにして立ち上がったかという話をしましょうか。スペクテイターは年末年始に向こう3号分のコンテンツを仮決めしています。近ごろ気になっている事柄、特集のネタを、ポーカーゲームのカードみたいにテーブルに並べて、そこから選んでいく。

◎ 2月頃に、神保町で会って話をしたとおもいますね。

◉ 最初の頃は「職人特集」と言っていたんですよ。

◎ NEW職人とかイノベーターとか言ってたと思いますね。

◉ 職人というキーワードが浮かんできたのは、ポートランド取材で見聞きしたことや、「発酵」特集で取材した〈タルマーリー〉がきっかけでしたっけ。

◎ そう! 思い出した。〈タルマーリー〉の渡邉格さんが「これからは職人がキーワードになる」みたいなことを発酵の取材で力説されていた。なるほどと思ったので会議で提案したんでしたね。

◉ 「現代の職人とは?」というのが、当初の意図でしたよね。

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◎ 最初は、そうでしたね。それはそれで興味があるんですけど…アタマにあったのは(今回取材した)〈八十八や〉上野さん。彼が自社発行した『よのあさ 昔と今をつなぐ麻のお話』という漫画本を図書館で見つけたんです。

前号の「発酵」特集で智頭町のパン屋タルマーリーを取材するにあたって智頭のリサーチというか、行ったことが無かったので、智頭ってどんな街なのか調べていたら、国会図書館のOPAC検索に「よのあさ」がひっかかって。へぇ、漫画が出ているんだ。しかも麻テーマって何? と思ったので、本を請求して閲覧してみました。

◉ 国会図書館に麻の漫画が収蔵されていたわけですね。

◎ オールカラーの漫画でね、麻と日本人の古くからのつながりについてやさしく描いてあって。智津町という土地はかなりの田舎なんですけど、60年ほど前まで麻の栽培で有名だったらしいんです。それが戦後、GHQの方針で途絶えさせられてしまって。

で、アンギャマンという若い漫画家が『よのあさ』の著者なんですけど、麻栽培をしているこの町だったら麻の漫画が描き続けられるかもしれないと考えて、関西から智頭に移住してきたそうなんですね。

彼は漫画のなかで明かしてますけど、白斑病というやっかいな病気をかかえていて、太陽の光にあたると火傷みたいになってしまうそうです。そういう自分の身体的な事情なども含めて麻について描いてあって、これはしっかりした漫画だと思ったんですね。

で、その本の一番最後のページを見たら、「麻畑体験」といって畑の見学会みたいなこともやっているそうで、そこで上野さんの活動に興味をもちました。

〈タルマーリー〉の取材に行ったときも〈八十八や〉のことが、なんとなく気になっていたんですね。そのときは時間がなくて行けなかったけど。

◉ (前号の取材で)智頭へ行く前に現地の情報を調べていて、それで気になっていたと。

◎ それがアタマに残ってたということが、ひとつありましたね。いつか取材してみたいと。でも智頭町へ行くには時間も金もそれなりにかかるから、なにか強いモチベーションがないと行く気になれなかった。

◉ 上野さんが気になったのも、彼が職人的だから?

◎ 最初は変わった人だなと思ったんですよ。職人とかじゃなくて、ちょっと「突破者」みたいなイメージがしたんですね。

◉ 独りで敵に立ち向かっていくドン・キホーテみたいなイメージですかね。

◎ このネット社会の時代に、限界集落にわざわざ移住して、栽培が禁止されている麻の免許をとってまで事業化をしようとしている。しかも、35歳と、まだお若いんですよね。

◉ そんな変わった考えを持った人の思考回路を見てみたかった?

◎ ええ。それから、堀部篤史さんが昨年8月末、メールを編集部あてにくださったんです。19年間勤務してきた〈恵文社〉をやめて〈誠光社〉という屋号のちいさな個人書店を立ち上げますと書いてあった。

堀部さんのあの行動なんかも一種のコペ転というか。大手の取次と契約しないで新刊書店を開業するというチャレンジですよね。取次がなかったら本を撒けないとみんな思い込んでいるけど、そうじゃない方法もあるというのを示しているのがすごいなと思いました。

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古泉さんへの里親の取材も偶然なんですね。11月に妻と京都に旅行に行ったんですね。そのとき『アックス』という漫画誌の寄稿者があつまったトークショーが、京都市内のお寺であるというので見に行ってみたんです。

『ガロ』を創刊された長井勝一さんが亡くなられて20年目なんですが、長井さんおよび香田さんという長井さんのパートナーだった方のふたりを追悼しつつ『ガロ』の歴史を振り返るというテーマのトークだったんです。
そのとき司会をしていた青林工藝舎社長の手塚能理子さんが客席にいた僕を見つけて、トークに参加しなさいと言われていきなり壇上にあげられました。登壇して左の席が「赤色エレジー」の林静一先生で、右の席に座っていたのが古泉智浩さんでした。

古泉さんがどんな漫画を描いているかは『別冊BUBKA』などで知ってましたが、古泉さん自身のことや、育児について書かれた活字本(『うちの子になりなよ』)が出ていることは知らなかった。でも会場にいる『アックス』の読者は、なんとなく古泉さんが里子を育てていることを知っているふうなのね。なんだろうと思って話を聞いていると、古泉さんは最近里子を授かったらしい。エッ、あんな青い漫画を描いている人が里子を育てるって、どういうことなのかな? と思ったんですよね。それで興味を持って、東京に帰ってから『うちの子になりなよ』を探して読んだら、「こういうことなのか」っていうことがあったんですね。

これは取材してみたいと。だったら、このさい、いま自分の知ってる範囲で改めてウェブとかで検索して探すんじゃなくて、リアリティーが持てるかんじで人選ができないかと思って、自分のなかの記憶の棚卸しみたいなことを始めてみたんですね。

名古屋の石川直樹さんも、ちょっとだけ知ってました。
「ボディトリップ」の特集号(32号・2014年12月発売)で、ライターのハーポB君にチネイザンという内蔵グリグリの施術を受けてもらって。そのときあいにく僕は同行できなかったんですけど、市内に不思議なカレーがあるってハーポ君から聞いていたんですよ。

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グルジェフの本とかクルアーン(コーラン)とかいっぱい置いてあって面白いですよと。それでぼくも機会があったらカレーを食べにいってみようかなと思って〈ホジャ・ナスレッディン〉を検索したら、この店長はイスラム教に入信してカレー屋をやっていると書いてる人がいて驚いた。
これも一種のコペ転なのかと思ったんですよ。それでカレー屋の石川さんもコペ転の列に加えさせていただきました。

◉ なるほど。じゃあ、個人的な出会いとか出来事が重なって、コペ転というキーワードへ…。

◎ 点と点を結びつけていったかんじですね。こういう人選って改めて検索ワードで探したってうまくいかないんですよね。
そうじゃなくて、わたくし的に興味もっている範囲ということで、7人の人を選ばせてもらったということですね。

◉ コペ転世代の台頭を感じた?

◎ 台頭してきたかどうかはわからないけど、こういう人達がどんどん出てきたら、効率重視で平準化した世の中が、割におもしろいことになると思うんですね。なんて呼ぶんですか、そういう人たちは。トレンドセッターとか?

◉ オピニオンリーダーとかインフルエンサーとか言うんですかね。

◎ だけど自分にとってのインフルエンサーですから。あまり世の中の人は知らないと思うんですよね、ここに出てくる人たちは。

堀部さんが「京阪神の名物書店長」として〈恵文社〉時代から良くメディアに紹介されてたから、出版業界で知ってる人は知ってる、というくらいで。

◉ キホン的には無名ですよね。

◎ 無名ですね。カレー屋も多分、名古屋の地元の人しか知らないと思う。

◉ 無名の人たちの人生を描きたいという気持ちがあった?

◎ そうですね。でも無名性に特化したいわけでもなくて、そこは意識していなかった。でも何か意識したといえば、リアリティーみたいなものじゃないですかね。ウソっぽくないというか、身近というか、いまの自分にとってどこか地続きになっている人々をとりあげたいということで。

さぶくんも最初、ぼくがある女性を取り上げたいと提案したんですけど、お茶飲みながら話をしていて、「こういう人いるんですけど」「おもしろそうだね、じゃ、その人を」ということになって。リンゴ売りで、ヒッチハイクで知り合ったとか言うから、これも変わった人だなと思って。さぶ君自身も、気がついたら片山さんと一緒に神戸の須磨の駅前でリンゴを売っていたっていうし。

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◉ さぶくんも個性的ですよね。さぶくん以外の書き手も個性的な人が多い。

◎ 皆個性的で変わってますよ。イラストの武藤良子さんを入れたら15人、瓜生太郎くんをいれたら16人。

◉ いわゆる規格外な人ばかりですね。

◎ 〈マニタ書房〉もかなりの規格外ですね。開業は3年半くらい前だけど、その頃僕は忍者の研究をしていたことがあって、〈マニタ書房〉に、忍者の本がないか買いに行ったことがあったんですよ。残念ながら忍者本の在庫は一冊も無くて、結局『空飛ぶ冷し中華』という本とか立ち読みして帰ってきたんだけど、とみさわさん「うちでも忍者本のコーナーも作りたいですね」とか言って、やっぱり面白い人だなと思った。

今回取材をオファーしたら、「それはいいですけど、もうじき本が出るんですよ」と言われて。それがアスペクトから出た「無限の本棚」でした。


コペ転の7人

◉ 今回はなしを聞かせてくれた7人の登場人物について教えてください。

片山玲一郎さん〈ムカイ林檎店〉という事業体があるんですけど、そこの中枢メンバーというか。株式会社でも有限でもない。社長は小向さんという人で、片山さんには、とくに肩書はないと思うんですけど。

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◉ それぞれの事業所の独立した事業主が〈ムカイ林檎店〉の名のもとに商売をしている?

◎ そうみたいです。バンとか車にリンゴ箱を積んで、路上で「リンゴ買いませんか?」「おいしいですよ」とか通行人や在宅の人に声をかけて量り売りをする。昔ながらの商売ですね。

◉ 昭和の時代にたまに街で見かけた、道で野菜を売るおばあちゃんみたいな、いわゆる路上販売ですね。

◎ 片山さんは徳島県の出身で、小さい頃から音楽が大好きで、ジャズ・ピアニストになりたくてレッスンしたけどやっぱり食えなくて。生活費のためにアルバイトを探していたら、たまたまリンゴ売りに出会ったんですって。
それでリンゴ売りを実際に体験してみたら、「こっちのほうがすごい」というように心境が変化して。「ジャズよりリンゴのほうが大きくなった」という言い方をしていましたけど。心のなかにリンゴの占める割合が。それでリンゴ売りが楽しくて楽しくてしょうがなくなって、ジャズをやめてリンゴ売り専業になって今に至るという。

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毎日いまでも町でリンゴを売っているんですね。聞くと、売り方がおもしろい。別に何の秘伝もないんですって。相手の眼を見て「リンゴいりませんか、おいしいですよ」と、ちゃんと眼を見て声がけしてリンゴをすすめる。試食をすすめるときもあるけど、要諦はそれくらいなんですね。極めて単純な手つづきを、ちゃんとやるかやらないかで結果が違ってくるみたいな。

◉ 一人のリンゴ売りの半生や路上販売の奥義について、ライターのさぶくんが自信の体験を交えながらレポートしています。

◎ やっぱり一回インタビューしただけではわからないところがあるんですよね。だから実際にさぶくんが片山さんにくっついて練馬へ行って半日かけてリンゴを売ってみて。最後、売れた! というかんじで原稿が終わるんですけどね。

◉ 片山さんの印象は?

◎ あまり自分は会ったことのないタイプの方ですね。まだ34、5で、若いんですよ。いつも白いシャツにグレーのベストを着ているそうです。おなじものを5、6着もっていて、毎日それを身につけている。服に関心ないそうですが。

◉ どこで話を聞いたんでしたっけ?

◎ 東京の三鷹に路面店があるんです。全国に4店舗あるんだけど、片山さんが関係しているのは世田谷店と三鷹店。で、今回は三鷹店に行ったんですね。
まずお店を見せてもらって、そこからクルマで5分くらいの場所のコメダコーヒーに移動して取材をさせてもらったんです。片山さんは愛煙家なんですよ。チェーンスモーカーみたいなかんじで途切れなく吸っている。

◉ インタビュー取材は何時間くらい?

◎ 4時間弱くらい。スティーヴィー・ワンダーに、コンサート会場の楽屋で質問した話とか。どうしてもスティーヴィー・ワンダーに聞いてみたい質問を通訳に頼んで聞いてもらったそうです。それが「生き方と音楽はつながっていますか?」という質問で、スティーヴィー曰く「つながっている。取り逃すな!」みたいな。映画のワンシーンみたいでかっこいい。

◉ 人生波乱万丈でしたね。読むとわかるけど。

◎ スニーカー買ってきて、隣町の同級生に転売してお金を稼いだり。中学生の頃に、ですよ。


〈マニタ書房〉とみさわ(昭仁)さんは、前から知り合いなんですよね。

◎ お名前は知ってましたけど、本人は知らなかったんですよ。3年半前にマニタ書房を神保町に開店して、その翌年僕は忍者本を求めて店を訪問したんですけど、そのときに「とみさわさんですよね」って話しかけたら、彼も僕のことを知っていた。いまはアスキー総合研究所の所長の遠藤諭さんが編集長をしていた『東京おとなクラブ』という雑誌が80年代に出ていて、当時愛読していたんですけど、そこでとみさわさんの名前を見ていたんです。当時から覆面歌手について書いていたんですよ。で、ちょっとだけ店で立ち話させていただいて。

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◉ そのときに、エアコレクターの話をしたんですか?

◎ そのときは世間話ですね。エアコレクターという言葉を知ったのは、たぶんとみさわさんのブログかツイッターです。自分はエアコレクターという新しい概念を発明したと。それで実際にマニタ書房に行ってみたら、「あ、エアコレクターってこういうことなのか」と思った。

◉ その概念の意味を追求していくのがテーマでしたね。

◎ お釈迦さんが仏典のなかで、執着心を捨てて我欲を捨てると金が入ってくるとか説いているじゃないですか。それと近いとも思うんだよね。結局とみさわさんの場合は古本を買うことが好きなのであって、古本という物自体がかならずしも好きなわけではない。

自分の内面をよくよく見つめなおしてみたら「自分は、なんでこんなバカな本を買っているんだろう?」「本自体が好きということではなしに、この本を買う瞬間が好きなんだ」ということに気がついたんです。次に、その買った本を誰かに自慢して笑ってもらうことも好きなんだけど、本をストックしておくことは必ずしも好きなようではない。

考えてみたらちゃんと全部内容を読んでいるわけでもない」と。「しかし本買いは楽しい。じゃあこれを永久運動みたいにするにはどうしたら良いだろう? 古本屋をつくることだ!」ということに、ある日彼は気がついた。
毎日あちこちのブックオフへ行って、宝探しをして、発見の喜びがあって。買った本に仕入れ値の約3倍の値段をつけて売る。100円の本なら300円だからね、決して高くないんですよ。

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◉ 勝手な憶測だけど、儲けたくて商売をやっているわけじゃなさそうですね。

◎ 儲けたいわけじゃないでしょう。お客に来店してもらって、笑われたり喜ばれたりすると嬉しいということをある日、とみさわさんは発見したんですよね。

ブックオフに毎日行って、それを商品にして。〈マニタ書房〉にはなんとなく仏教を感じますね。それと…ちょっと失礼な言い方になるかもしれませんが、子どもがお店やってるような気がしません?

◉ コストや利益を度外視している感じがね。

◎ ぼくなんかも子どもの頃、コーラのビンを町で拾ってきて、10円で引き取ってくれたんだよね。そのカネで駄菓子を買ったりして。名古屋のカレー屋の石川さんも同じことやってたと聞いて笑ったけど、それに近い楽しみの感覚というか。商売でフツーのおとなだったら、もうすこし効率よい方法とか考えると思うんですよね。

とみさわさんはネット通販もやらない。なんでやらないんですかと聞いたら「面倒だから」と。手間がかかって楽しくなくなる、だからやらないと。ネットには書影をあげるんだけど、お客さんにきてもらって店で買ってほしいと。利潤のためにやっているんじゃないんだと良くわかって、ちょっとしみじみしましたね。

とみさわさんはもともと、ベースボールカードとか酒ブタとかミニカーとか、何でも集めることが好きだった人だったそうです。集める生き方の先にあるものって何かと考えてみると、自分が蒐集しなくても集める楽しさを持続していくことというか。具体的には、ブツを蒐めるのではなくてデータを集めるわけ。エクセルで記録にとどめることなんですけど。

◉ 在庫がなくてもコレクターになれるんじゃないかと。

◎ そう。

◉ コレクターがおこなっている行為を見つめなおして楽しい部分だけを抽出していったら発見があった。

◎ もともとは、ポケモンとかの、ゲームの企画やシナリオをつくってらしたそうです。

〈マニタ書房〉もどこかダンジョンぽい。雑居ビルの四階にあって階段をトコトコ登っていくんですけど、自分がダンジョンゲームの中のプレイヤーみたいな気持ちになっていく。

◉ 神保町へ行く機会があったら足を運んでみたいです。

◎ 面白い本、ありますよ。

◉ 3、400円と安い本も多いんですよね。もっとも、後で家で後悔する類の本かもしれないけど。

◎ ジャケ買いが多いかもしれない(笑)。とみさわさんを取材してくれた石橋毅史さんは出版ジャーナリストで、「新文化」という業界新聞の編集長をやってた方です。書店についてのルポや評論をよく書いています。

いまは直取引について書いていて、『まっ直ぐに本を売る――ラディカルな出版「直取引」の方法』(苦楽堂)というタイトルで、もうすぐ本が出るみたいですけどね。石橋さんに取材してもらって、同行取材をやってくださいました。とみさわさんがブックオフに仕入れに行くところに同行して。

◉ これも体験取材でした。背取りの話など、小さな出来事がドラマチックに描かれていてワクワクしながら読めました。

◎ ちょっとしたことや感情の揺れを見逃さず書く。「孤独のグルメ」の久住昌之氏とか、そういう世界に近いかもしれない。

◉ 細かいドラマやディテールを丁寧に描く。

◎ 大切ですね。


勝井隆則さん〈亀鳴屋〉という、知る人ぞ知るひとり版元です。〈亀鳴屋〉は前からなんとなしに知っていて。僕はつげ義春さんの作品が好きで、つげさんの画を装丁につかった限定本が出ると聞いたので、検索したら〈亀鳴屋〉のサイトが出てきて。

その本は『藤澤清造貧困小説集』といって、ちょっと高かったけどなんか魅かれるものがあって、通販で購入したんです。

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◉ 中身も知らないで?

◎ 知らなかった。藤澤清造という大正期の作家の小説集だったんですけど。極貧の末に芝公園で凍死した作家の小説集とか書いてあって、おもしろいかなと思って、3,500円くらいで。

◉ 金沢から本が届いたんですね。

◎ 木函に入った本が送られてきて。装丁も布張りにハードカバーで、なかなかかっこいいんですよ。軽いし。

勝井さんは、装丁とか自分で全部やっていて、限定番号もついていた。変わったことやってる版元というのが第一印象。

◉ 装丁に手間がかかっていることを考えると、かなりリーズナブルな価格設定ですよね。

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◎ 500部の限定制作だそうです。間違いなく制作原価がかかっていて、5,000円くらい付けなきゃとても儲からないという印象です。で、ホームページがあって見ると、他にもいっぱい変わった本を出している。いずれも他の出版社が二の足を踏むような。

◉ベストセラーにはならなそうな…って、僕らも人のことは言えないけど。

◎ 『岡本喜八 お流れシナリオ集』とか。岡本監督には熱心なファンが多いんですけど、映画化されなかった台本が残っていて、それを勝井さんが集めてきて本にした。刊行まで十年かかったらしいんですけど。しかも限定500部とかで本をつくっていて。造本も隅々までこだわり抜いているから、これは面白い版元だと確信しました。

実際どんなふうに本を作っているのかなと。これは事業なのか、じつは開業医でもやっていて、かたわらに本づくりをやっているのかとか想像していました。

◉ 出版界の常識からすると、やはり規格外なところがあるんでしょうね。

◎ 四年前、『スペクテイター』の小商い特集のとき、勝井さんに「取材させてくれませんか」というお願いのメールを出しました。そしたら、「うちはおたくが狙っているようなこととは違って、単なる地方の零細本屋ですから」というような返事がきて。そのときは残念ながら取材させていただけなかったんですけど、今回は直接電話して勝井さんを説得したんですよ。

◉主旨を説明したら快諾してくれた?

◎ 「そこまでいうなら、しゃーない」とかいうかんじだったんじゃないですか。

◉ 金沢には二度、足を運んだんでしたっけ?

◎ 一度です。

◉ ご自宅は町の中?

◎ 駅から車で5分くらい。〈龜鳴屋〉ってどんなシブい建物なのかと思ってたら、コンクリート打ちっぱなしのモダンな家に奥様と二人住んでらして。

◉ それは意外ですね。

◎ 野垂れ死んだ人とか、忘れられた作家とか、そんな人の本ばかり出しているところだから、どんな場所でつくっているのかなという興味もありました。

◉僕も勝手に四畳半の畳の部屋をイメージしていましたが。家の中には本が散乱していたり?

◎ 白を基調とした、おしゃれな住まいでした。マリリン・モンローのモノクロ写真のパネルが飾られていて。大きな本棚もつくりつけで、背表紙を見せない。部屋の中央に大きなテーブルがあって、そこで、ある時は、奥さんとフーフーいいながら、竹を編んで函をつくっておられるみたいですね。

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◉ 取材先へ足を運んでみないとわからないことが多いですね。

◎ 本当に。いろいろ、どうやって食ってるんですかとか、どうして造本に凝るんですかとか。造本とかについて、間宮賢くんという古本屋の店主に話を聞いてもらいました。

◉ 二日がかりで…

◎ 結局8時間くらい聞いたんじゃないですか。勝井さんはすごい人で、ずっと一定のテンションで、ふくよかな音楽のように、本について延々喋っていられるんです。

◉ テープ起こしをするにあたって取材音声を聞いてみたら、たしかに落語家さんみたいでしたね。

◎ 威張ったりしないで、ひょうひょうと、苦労話を笑い話にしちゃうみたいな。あんな美人の奥さんがいることも知らなかった。

◉ !!

◎ 奥さんは事務の仕事についておられて、朝から〈龜鳴屋〉の近くに働きに出ているんですね。勝井さんは家に生活費を入れていないというから、いろいろ大変なんだろうなと思うんですけど。

◉ そうですね。ひと昔前なら「芸のためなら女房も泣かす」という価値観が普通だったかもしれないけど。じゃあ、会社の運営資金は奥さんの稼ぎが…?

◎ うーん….よく知りませんけど、生活費があるからガンガンお金つかえるわけじゃないのでしょう。数年後の年金を考えると不安だと言ってたくらいですから。

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勝井さんは、自分はこういう本づくりしかできないと繰り返し僕たちに話してくれました。時流と無縁な本しか関われないし、東京なんて行きたくないし、出不精だし、引きこもりの親父だしとか、自嘲しておっしゃってましたね。

◉ とはいえ勝井さんは働いていらっしゃらないわけじゃないんですよね。

◎ アルバイトとかはやっておられないようです。

◉ むしろ忙しそうにしていらっしゃる…

◎ でも、年に1冊か2冊しか出ないというのは、どういうことかと思うんだけどね。うらやましすぎます(笑)。本当は2ヶ月くらい金沢に滞在してみると〈龜鳴屋〉の実態がわかるかもしれないですが。

◉ 原稿を通じて勝井さんの本に対する愛情や、本づくりに対するひたむきな姿勢が伝わってきました。

◎ 熱意をもって凝った本をつくろうとしても、たいていの人は、印刷会社の言い分や納期の都合、予算の都合に負けてしまったりしてあきらめてしまうんですけど、勝井さんはあきらめないんです。理念がある。しかし出版不況とかの泣き言を言ったりせず、粛々と〈龜鳴屋〉をやっている。勝井さんにはしぶとく本づくりを頑張っていただきたいです。


古泉智浩さんは、原作が映画化されるほど人気の作品を描かれている漫画家さん。漫画は中二病みたいな男子が主人公の、心の闇を描いたような話が多いけど。

◎ そうですね。地方在住者で、仕事がなくて、放火したりヤンキーやったりとか、ヤンチャな若者像をよく漫画で描いて…。

◉ 現代社会をリアルに描いているともいえる。

◎ そうですね。地方の。新潟駅から古泉さんの案内してくれたあたりは、そういう寂しいところではありましたよ。

取材をしてもらった森山裕之さんは吉本興業の出版部に編集長として勤めていたんですが、昨年意を決して退社し、個人で出版社を最近はじめたのですけど。編集者以外に三人の父親という顔もあって、今回そういう立場から話を聞いてもらったんですね。

◉ 古泉さんが池袋だったかに借りている四畳半のアパートの一室で話を伺ったそうですね。

◎ 高田馬場ですね。米屋の二階なんですけど、急な看板をのぼっていって。

◉ 昭和の香りがするような?

◎ 風呂無しアパート。住んでいる人は全員80歳ぐらい。

◉ そういう雰囲気が好きなんですかね、古泉さんは?

◎ どこでも良いんだって。家賃が高くなければ。東京の居場所がほしいということで。東京に来ないと、業界から忘れられるのだそうです。

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◉ 漫画の描き方を教えていらっしゃるんですよね、古泉さん。

◎ 月二回、池袋で教えていて、東京滞在のためにもアパートを借りているそうです。最初はそこで取材して、二回目は新潟へ行かせてもらって。ご実家は〈お菓子の古泉〉という立派な老舗のお菓子屋さんです。

◉ 町の洋菓子屋さん?

◎ いや、ちゃんとした老舗の和菓子さん。栗チョコ最中とか、店には裏に工場もあってそこでお菓子をつくってます。店の隣に住居があって、そこで奥様も同席して取材させていただいて。

古泉さんは亀田製菓の創業者の孫なんですよ。いまの亀田製菓というのは御長男が継いでおられるのかな。彼は次男の子供で。お父さんは亡くなられたんだけど、いま、創業者であるおじいさんの伝記を書きたいと言っていましたね。それでいまは、おばあさんに毎週会って取材をしているみたいです。亀田製菓の工場も見ましたけど、社員が数百人いるそうで、そうとう立派でした。

最近TBSラジオの荻上チキの番組でもやってましたけど、里親という選択と問題点について取り上げていて。いま、児童虐待とか家庭上の理由で児童相談所に入る赤ちゃんが増えているんですって。

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そういうことが現代社会の傾向としてあって、だから、古泉さんは、80年代のバブル時代は間違っていたと。あの本(『うちの子になりなよ』)の結論は、早く結婚してみんな頑張ろうと言っている。放火魔やゾンビの漫画を描いていた人が、子づくりって大事みたいなメッセージを出すように転化していた。

◉ そうですよね、ご自身の漫画で描かれているのとは正反対なことを言っている。個人主義から家族主義みたいな。

◎ それも興味深かったですね。


◉ 次はカレー屋さん〈ホジャ・ナスレッディン〉石川直樹さん。

◎ 繰り返しになりますけど、チネイザン治療(本誌32号のための体験取材)のあとで、ハーポBさんが友達に連れて行ってもらった先が、この石川さんがやっているカレー屋だったんです。

◉ 名古屋市内ですか?

◎ 名古屋大学の近くですね。名古屋駅から電車で30分くらい。けっこう変わった店で、本棚にはYMOの「OMIYAGE」とか「ねずみ男の冒険」とか「ガラスの城」とか、そんな本がいっぱいあったりして。

奥さんと一緒に店を経営されていて。カレーの味は良かったですよ。

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◉ 野菜のカレーですか?

◎ いや、肉も入っていますよ。イスラムの人は豚肉とか食べちゃいけないんだけど、食べて良い肉もあるそうで、それを出しているみたい。

お店は角地にあるんですけど、二軒となりがイスラムの食材専門店で、そこから、食材を買っている。

◉ ご本人は、どんな方でしたか?

◎ 背の高い落ち着いた人です。自作の歌をギターで唱って聞かせてくれましたよ。

石川さんの奥さんが中心になって「サンフル新聞」というフリーの冊子を出しているんですけど、それが良かった。古本、古着、古道具を大事にしようというテーマがあって、多分石川さんの奥さんが編集してるんでしょうけど。名古屋にはこんな手書きのペーパーとか情報紙などがいっぱい出ていて…。

◉ 伝統として?

◎ わからないですね。でも石川さんの店は、カルチャー好きの若い人たちのスポットみたいになっていて、おもしろかった。でも客で来ていたのはトヨタで働いている人とか。学生は来ないのかな。カレーが1,000円とかするから。ランチタイムに行ったのですが、そういう人たちで席が埋まっていました。

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途中で、自然農をやっているロックギタリストの男性と、そこで働いている女性が二人で遊びに来ていて。その男性もちょっとインタビューに参加していました。

なんか独自の遊びをつくって活動してる人たちという印象です。楽しそうでしたね。

◉ ジョー石川…これ、石川さんのペンネームですね。

◎ これ、石川さんが描いた漫画です。

◉ 渋谷直角くんみたいな画風ですね。

◎ 『コロコロコミック』に直撃で影響を受けている世代だから、コロコロチルドレンですね。石川さんについてはどう説明したらいいのかな…。

◉ ひとことで説明するのは難しそう。読んでもらうしかないですね。

◎ そうですね。

◉ 石川さんの語りを、書き手のハーポBがリエディットしたミックステープみたいな内容で楽しめました。

◎ 彼は優秀なライターで、石川さんの語りをものすごくわかりやすく紹介してくれましたよ。コペ転という意味で言うと、石川さんの体験が一番すごいんじゃないですか。

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◉ スケールの大きなコペ転という感じでしたね。

◎ 実際にイスラム教徒に入信されたのですからね。

◉ 信仰のコペ転!?

◎ でも、ちょっと調べると日本人でイスラム教徒になるという人も少なからずいるようですね。

ハーポさんと話していたのは、イスラム教って危険なイメージかもしれないけど、石川さんは神の存在を愚直に追及していて、同時に音楽やマンガやカレーも提供している。イスラム教徒のなかにはこんなユニークな人もいると知ってほしいですね。

◉ この原稿を読めばイスラムのイメージも変わるかもしれないですね。

◎ うん。でも、イスラムのアートとか、カリグラフィーっていうのか、ああいう美術って素晴らしいですね。お店の壁に貼ってありました。


〈誠光社〉堀部(篤史)さん。新刊本の本屋を開業された。うちの本も置いてもらってる。

◎ 堀部さんは〈恵文社〉の頃から存じあげていて、京都に行くと必ず〈恵文社〉に立ち寄って、カウンター越しに堀部さんと立ち話させていただくというかんじで。『やるだけやっちまえ』という山崎眞行さんの本とか、お願いして置いてもらったりしていたんですね。

◉ 〈恵文社〉って、どんな本屋と紹介すればいいですかね。

◎ 京阪神の名物書店ですね。店長のポリシーが反映された、本におけるセレクトショップのはしり。

雑誌の本屋特集には必ずといっていいほど紹介されています。雑貨も「生活館」といって、コーヒーメーカーとかエジプト塩とかも販売していて。そこも結構な数のお客さんが来ている。

あとは、土地柄大学生、精華大とか京大とか近隣にあって、学生の住むマンションとか多いらしい。現代美術作家の田名網敬一さんが東京へ帰る前に必ずこの書店にタクシーで寄って本を買っていかれるのだとか。

堀部さんがやるなあと思ったのは、たぶん彼は仕事を次の日に持ち越さないんですよね。本の紹介文とか外部原稿とかもたくさん書いておられるんですけど、立ちながら、レジに向かって書いているんですって。月に4、5本締切があるっていうんです。

◉ 雑誌の連載?

◎ 雑誌とかウェブとか。

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◉ 堀部さんは本に関する知識が豊富ですよね。

◎ 今回のインタビューの内容について質問したいことがあって、朝8時に〈誠光社〉にメールしたんですよ。そしたら、9時半にパッとすぐ返事が来ました。メールの返りが早い。

◉ 書店員は選書とか発注とか、やるべき仕事が多い。その場で処理していかないと、どんどんやることが溜まっちゃうんでしょう。

◎ それが小商いの要諦でしょうね。取材者の山本貴政さんが言ってたのは、堀部さんはかつて〈ZEST〉で働いていたと。輸入レコード屋って小間物屋さんみたいなもので、とにかくいっぱい細かなタイトルがあるじゃないですか。堀部さんはそういう商材をきちんと処理出来る人なんでしょうねと言っていましたね。ひとりで書店を立ち上げても動ぜずやっていけるような処理能力を身につけているんじゃないかと。

◉ マメな人じゃなきゃ本屋稼業は務まらないですね。

◎ そこは商店の息子なんでしょうね。堀部さんの実家のお蕎麦屋は京都の老舗で、火曜日が定休だそうですけど、家では休みと言っても翌日の仕込みをしているそうで、だから365日稼働しているみたいな。そういう商売の様子を横で見て育ったから、基本的にひとりで、一冊単位の注文にもちゃんと対応してくれる〈誠光社〉のような書店を創業できるんじゃないかなどと思いました。

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◉ 〈誠光社〉は京都のどんなところにあるんですか?

◎ 静かな住宅街で、〈誠光社〉の4、5軒先に古い銭湯があるんですよ。〈モリカゲシャツ〉という有名なシャツブランドが近くにありました。

◉ 店の雰囲気は?

◎ シンプルでした。白木というか木目むき出しの無垢材で、天井が高くて。欧文のスローガンみたいなポスターが壁に貼ってあったりして。

古本も、ちょっとあるんですよ。片岡義男の古本と新刊が一緒に並んだりして。それが新鮮なかんじがしますね。


◉ 最後の一人は麻農家の上野(俊彦)さん。鳥取の智津町へは、今回どうやって行ったんですか。

◎ 岡山から特急に乗り換えて行きましたね。

◉ 発酵特集で取材させてもらった〈タルマーリー〉の近くですか?

◎ 地理的なことは、うまく説明できないですけど、かなりの田舎ですよ。上野さんの住んでいるところは、いわゆる限界集落です。住民が約30人しかいない。そのうち若者が二割。ぜんぶ移住者らしい。

◉ 山の上のほうだと聞きました。

◎ 車がないと、とてもじゃないけど行けなくて、おまけにすごく寒かった。山小屋みたいなところで朝8時からインタビューして、上野さんがわれわれを見かねてストーブ焚いてくれたんですけど、全然部屋があったまらなくて、震えながら取材しましたね。

取材に同席した上野さんの奥さんがスペクテイターの読者で、創刊4号を読んでタイに行ったと言っていました。

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◉ お土産に、上野さんがつくっている麻炭を買っていましたね。

◎ 麻の実と麻炭。身体に良いのかわからないけど、ヨーグルトに入れて食べています。炭ってすごいんですよね。ヨーグルトに少しいれただけで真っ黒になる。でも、ウンコは黒くならないんだよね(笑)。

◉ 毎日食べているんですか?

◎ なんとなく。

◉ 実はどうやって食べるんですか?

◎ ヨーグルトにちょっと散らしたり、そのままポリポリ。煎った玄米みたいです。香ばしくて。

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◉ 麻畑はどんな様子でしたか?

◎ 麻畑はシ―ズンオフだったから何もなかったんですよ。それで見られなかったんです。僕らもうっかり見ていくのを忘れちゃった。

◉ 周りはフェンスか何かで囲ってある?

◎ ありましたね。鉄条網なのか、針金がありましたね。原稿のなかに出てきましたけど、アンギャマンさんという青年漫画家が「ちづ」という月報で漫画を2ページ連載してたんですよね。

それをまとめて最近冊子にして配ったらしいんですけど。そんな風に智頭という町自体は先進的で面白いですね。

◉ 「百人委員会」という町民による組織を結成して町を活性化をしようとしたり。ユニークな取り組みをしている町ですね?

◎ なにかやらないと、どうしようもないから動くんでしょう。パン屋さんの〈タルマーリー〉も含めて、智頭は面白いところだなと思いました。


現代のノンフィクションについて考える

◉ 今回、取材対象者のところへ最低でも2度は足を運ぼうとルールを決めて取材をスタートさせました。ほかに、誌面をつくる上で心がけたことはありますか?

◎ 時間をかけて取材をして、ちゃんとテープ起こしをして、きちんと作っていくと、それができたから良かったと思いますけどね。それは、予算と、時間と、人間と、全部で3つくらいの要素が揃わないとできないじゃないですか。結局ノンフィクションとかルポというのがなんでなかなか流行らないかというと、そういう条件があるわけですよ。

それを今回いろんな意味でクリアさせてもらったからありがたかった。やればできるんだと。それが分かったことがコペ転かもしれないけど。今回の堀部さんの言い方を借りれば「やればいいじゃないですか」と。それに近い感覚で記事ができたかなって。いろんな条件をクリアさせてもらって。

◉ どれだけ取材に時間を費やせるかで勝負が決まる気もしますね。短い時間内、限られた字数のなかで記事を収めようとすると内容も薄くなりがち。

本気で相手を理解して事実に迫るには、取材者や取材対象もある一線を超えなければいけなくなる。

◎ 上野さんなんか「何時間聞いてもいいですよ」と言ってくれたし。あと、泊まりがけで行けたことが大きいですよ。何軒も泊まりがけさせてもらったんだけど、それは大きかったですね。

あと、地方へ行かせてもらえたってことがでかかったですよ。

◉ 地方が多かったですね。

◎ 地方のほうがいろいろ発見があって面白いですね。

◉ 規格外なものが生き残っていけるのは地方だけなのかも? マニタ書房は東京の真ん中だけど、そこにはまた別の秘境が…。

◎ 神保町の〈マニタ書房〉だけですね。交通費とかほとんどかからないで取材できたのは。

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◉ その土地へ行かないとわからないことってありますよね。

◎ 〈亀鳴屋〉さんなんかは知る人ぞ知るの存在なんだろうけど、東京のメディアは距離が遠いから金沢に取材に行かないんだよね。ざっと調べたら地元のタウン誌しか取材してなかった。新聞もそうで、北陸地方のメディアしか〈亀鳴屋〉を取材してなかったみたい。

◉ そもそも出版社として認知されてないんじゃないですか?

◎ 「出版年鑑」には出ていないと思います。

◉ 新聞で紹介されたそうですが。

◎ 『北陸中日新聞』に10回にわたる連載があって、コピーさせていただきました。東京に住んでいると、新幹線代がかかるとか、日帰りできないとか、さまざまな問題があるから行けなかったんですよ。

最初、ライターの安田謙一さんに取材してもらおうと思ったんだけど「知らなかった」と言ってましたよね。ホームページ見ておどろきました、こんな版元あったんですねと。博覧強記の安田さんが知らないくらいだから。

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◉ 〈亀鳴屋〉のストーリーも、いろいろ気付かされることの多い内容でした。淡々と進んでいくのがよかったですね。独白調のルポという感じで。

◎ いまのノンフィクションって何かって考えると、残念ながら沢木耕太郎氏とかそういう時代じゃないと思うんですよね。沢木さんはよく取材してあって、とても美しい二枚目の文章なんだけど、テーマ設定としてキャパを扱っていたり、自分などからするとやや高級志向に映るというか…

それよりはブックオフとかリンゴ売りとか不思議なカレー屋とか、われわれに身近な題材をきちんと書いたほうがリアリティーが出るんじゃないかとは思いますけどね。

◉ ふだん普通の人が見ないところを取材して書いたストーリーだから、読者も新鮮な気持ちで読んでもらえるんじゃないかなと。

◎ 〈マニタ書房〉を書いてくれた石橋さんは、元新聞の記者なんですね。そういう人が、ふだんの取材領域とは異なる、サブカルチャーのフィールドをどう書くのかなっていうところに興味があったんです。

◉ 古書店稼業の細部を上手に描いてくれました。

◎ 細かくね。ちょっと見え方が違うというか、僕なんかは〈マニタ書房〉はサブカルのフィールドで比較的「当たり前」というか、そんなふうにも見えてしまうんだけど、違う人が見ると、ああ、こういうふうに見えるのかと。石橋さんととみさわさんの唯一の接点は『秘密探偵JA』だった、みたいな。

俗っぽい卑近なテーマも徹底して掘り下げて書くと作品になるんです。ちゃんと自分と向き合って書くと、それはそれでひとつの作品になるんだと思いますね。

こういうルポを書く人がもっと出てくるといいんですが。

◉ さぶくんの原稿もドラマチックで面白かった。

◎ 「巻き込まれ型」ってかんじで。年齢ということでみると、一番歳上が勝井さんで60歳くらいで、一番下がたぶんリンゴ売りの片山さんで、34か35かな、ぐらいなんですよね。みなさん、いい意味で「変わり者」ですけどね。

◉ 世界に誇れるようなユニークな考え方を持った人もいるんだなと思いました。

◎ 長文を読むのに馴れていない人は時間がかかると思いますよ。でも一気に読んでほしいと思いますけど。

◉ 文字ばかりだけど漫画みたいに楽しく読めると思います。

◎ ほとんど文字だけで特集するなんて。雑誌の世界のコペ転かもしれない?

◉ 今回は編集もコペ転するというテーマで制作に臨みました。紙質も、書体もいつもとは変えて。取材にも同行せず、テープ起こしに徹したり。

◎ 相当変わったつくりじゃないですか、これまでの『スペクテイター』の歴史のなかで。

◉ タイトルも最終的に「コペ転のススメ」から「コペ転」へ変えました。いつもと違うスペクテイターを楽しんで欲しいですね。
「コペ転」特集を読んで、みなさんも人生を「コペ転」してみてください!(了)

※スペクテイター36号 、特集「コペ転」は、 全国の書店・販売店で絶賛発売中です!

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