それでも私がSketchを使い続ける理由。

Takamasa Matsumoto
5 min readMar 15, 2016

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ついにUIデザインツールの大本命とされていたAdobeのProject CometがAdobe Xdとしてリリースされた。

学生時代から10年近くAdobe製品を使い続けていたが、UIデザインでの使い勝手の悪さにウンザリし、ようやく重い腰をあげてSketchに移行したところだった。

そんな中、Adobe XdはSketchのシンプルさとプロトタイピングツールのエッセンスがうまく統合されていて「またAdobeに戻ってもいいかも」と思えるぐらい心が動かされるプロダクトだ。

まだプレビュー版で機能などは限定的なので、正確に評価することは難しいが、Adobeが持つ他ツールとの親和性やマーケティング力を考えると、Sketchや既存サービスにとって大きな脅威となるのではないだろうか。

Adobeが強力なツールを出してきた中で、それでもSketchを使い続ける理由はあるのか。
UIデザインに携わる人にとって悩ましいところだが、Sketchの未来はまだまだ明るい。単純に機能を比較するだけでは測れないような価値がSketchをとりまく環境にあるからだ。

UIだけでなく、プロセスをデザインできる。

プロトタイピングはProttFlinto、プロジェクト管理まで含めるならInvision、エンジニアとの連携ならZeplinなど、Sketchと親和性の高いサービスが続々と登場している。
Sketchなら、これらをうまく組み合わせることでプロトタイピングやコミュニケーション、開発に至るまでのあらゆるプロセスを効率よく進めることができるようになっている。

質の高い無料のUIテンプレートや素材が無数に存在し、検索すればワンクリックでダウンロードできてしまう中で、表層のグラフィックが作れるだけでは半人前。
UIデザインは意図したデザインが機能するように、ビジネスとエンジニアリングの間を行き来しながらコミュニケーションをうまく行っていくことの方が重要だ。
現状、Adobe製品だけではプロセスに関わるツールを完全にカバーすることは難しい。ここにSketchを使い続けるメリットが充分にある。

PhotoshopとSketchでIntegrationのトレンドを比較してみると、Photoshopは下降気味。SketchはちょうどUIデザインがより重要視されはじめた2012~2013年急激に普及して逆転しており、大きく期待される存在になっている。

ユーザーがプロダクトづくりに参加できる。

正直、Sketchは大嫌いだった。心地良くない文字詰め、謎に空きすぎる行間、独特の描画方法のペンツール…。
Adobe製品と比較して出来ないことだらけで、使い始めた頃は不便も多く「全く使えない」という印象だった。

しかし、Github上でData PopulatorNote bookなどのSketchプラグインがどんどんオープンソースで公開されていくことで、不満を持っていた機能の欠点を補って余りあるぐらい便利になってきた。
バージョンアップやGithub上でのディスカッションも活発に行われており、ユーザーがユーザーのためにSketchの価値に大きく貢献し、プロダクトづくりに参加している。

Adobeがつくるプロダクトを待っているだけなのか、ユーザ自身がプロダクトをより良くしていくのか。少しづつSketchの未来を信じても良いかも、と思えるようになってきた。

Facebookやtwitterが開発者に対してオープンすることで大きくネットワークを広げていったように。ユーザー自身がプロダクトをより良くしたいという想いと、Sketchのオープンな思想が交差することで、使い勝手は飛躍的に高まっていくのではないだろうか。

実際、Sketchのウェブサイトのグローバルナビゲーションには「Community」というメニューが有り、コミュニティを大事にしているという姿勢が明確に見て取れる。

つまるところ、Sketchを選ぶことは、インターネットの集合知、オープンソースの力を信じることでもあるということだ。

私がこの文章を書いているMacのOSだってオープンソースのオペレーティングシステム「Darwin」をベースに作られていて、生活のありとあらゆるところでオープンソースの恩恵を受けている。

かつて百科事典が、オープンソースのWikipediaに置き換えられることで、人々がアクセスできる知識の幅が広がったように。
一つの組織から餌を与えられるように機能が追加されていくのを待ってるのではなく、荒削りなものを自分たちで一緒により良くしていくほうが創造的だし、きっと楽しい。

デザインの道具を選ぶということは、何を信じ、どんな哲学をもってデザインしていくかということと同義なのである。

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Takamasa Matsumoto

スマートフォン決済サービス「Coiney」リードデザイナー。「あたらしいスタンダード」のデザインをつくるということをビジョンに、アプリからグラフィックに至るまで、一気通貫したユーザー体験、ブランド・コミュニケーションづくりを行っている。