正しい着こなしを学ぶビジネススタイリングセミナー

“ 自分の服装には自信があるというビジネスマンはどのぐらいいるだろうか? スーツの着こなしにはルールがある。グローバルに活躍するビジネスマンなら、その基本的なルールを知っておく必要がある。”


夕暮れの都内某日。虎ノ門にある準大手会計事務所で、ビジネスにおける服装の基本ルールを学ぶセミナーが行われた。講師として迎えられたのは、政治家や外交官、ビジネスパーソンなどのイメージコンサルタントとしても活躍するスタイルエディター、若梅さん。座学とスタイリング、常識を改める2時間がが始まった。


「スーツを着こなすうえで、日本の常識、世界の非常識となっていることが少なくありません。スーツにはイギリスの貴族階級から始まる長い歴史の中でできたルールがあります。たとえば、黒のスーツ。黒はビジネスには不向きです」

「まずい……。黒だ」。参加者から声が漏れ、会場が笑いに包まれる。

「ブラックスーツはナイトパーティか葬儀で着る色なのです。ビジネスに最適な色はネイビーかグレーです。まずはミッドナイトブルーといわれる濃紺の無地を揃えることが基本といえます。シャツの襟型の例にも触れておきましょう。ビジネスシーンでスーツにボタンダウンのシャツを着用しているのを目にしますが、あまり好ましいとはいえません。元々ポロという乗馬競技用に開発されたシャツという背景があるからです。見る人が見れば、ビジネスの場でスポーツか、となるのです」

「今日の僕のシャツはOKですか?」と質問が飛んだ。

「クレリックシャツですね。とてもいいと思います。無地かストライプか、そういうクレリックはビジネスにふさわしいかと。次にネクタイ。注意が必要なのはストライプ柄ですね。イギリスの階級社会では柄によって特定のグループに所属することを意味します。無難なのはネイビーの無地。女性の方、プレゼントするなら、ぜひネイビーの無地を。このようにスーツスタイルにはルールがあります。TPOで服装は変わってきます。何時頃どこに誰と行ってどう思われたいのか。ウオール街のビジネスマンはとてもセンスがいいのですが、専属のスタイリストをつけて服装を換えています。それだけ気を遣っているのは、常識を問われることを知っているから。装いは教養だと思ってください」

日本の常識、世界の非常識。学校では教えてくれないので、こんな機会でもなければ学ぶことはできない。正しい知識がなければ、世界の舞台で恥をかくことになる。


ハンガーラックにはサイズ違いのスーツが数着掛けられている。机の上には白とブルーとストライプのシャツ、ネクタイはネイビーの無地、ドット柄、ほかには黒のストレートチップのシューズ、ベルト、ダレスバッグが並べられている。

「見た目の8割は服装です。残りの2割は顔や髪型ということになりますが、この8割を占める服を着こなしのルールに則って装うことで、まったく違った印象をつくることができます」

若梅さんは参加者の一人をモデルにして、ポイントを解説していく。

「3つボタンのジャケットの場合は、真ん中1つだけ留めます。2つボタンは上だけを留めます。椅子に座る時にはボタンを外すのがスマートでしょうね。この仕草が女性によってはセクシーだと感じる人もいるそうです。そしてジャケットの袖口からはシャツを少し出す。シャツの袖口が手首の親指の付け根あたりに来るのが目安です。ネクタイの長さはベルトに掛かる位がちょうどいいです」

若梅さんはハンガーラックのスーツをモデルの参加者に着せながら、ジャストサイズを確かめる。胴回り、裾丈、ネクタイの結びなど適宜修正を加えていく。

「おー、いいね」

参加者の中からそんな声が聞かれたが、本人が一番嬉しそう。


「パンツの裾丈ですが、これが長すぎてだぶだぶの人が意外と多いので気をつけてください」

参加者一斉に立ち上がり、自分の足元を確認。

「裾が靴に触れて、たるみのシワが一つ入るくらいがいいです。裾の仕上げはシングルでもダブルでも構いませんが、シングルの方がよりフォーマルですね」

やはり自分の裾は長いと思ったのか、ウエストをずり上げる参加者が見られた。

「スーツの選び方でとにかく大切なのはサイズです。有名ブランドだから、高価だからといって、それが必ずしもよいものとは限りませんし、サイズが合っていなければどんな有名ブランドでも意味がありません。あとはシンプルなものでコーディネートすれば、自ずとスーツスタイルは洗練されるはずです」

スーツの着こなしにはルールがあるが、また理由もある。なぜ、TPOに応じた服装をしなければならないのか? それはスーツスタイルがヨーロッパの社会、文化、歴史などの背景と合わせて考えなければならない嗜みだから。グローバルに展開されるビジネスの世界では、ドメスティックなルールは通用しない。一流なら世界で通用するプロトコル(国際儀礼)を身につけるべきだ。


セミナー終了後、会計事務所副社長の粟国正樹さんになぜこのようなセミナーを開催したのか聞いてみた。

「ビジネスはスキルと経験、コミュニケーションが大事なのですが、見た目も大事ということで、服装をプラス要素として取り入れられるならと考えて、このようなセミナーを実験的にやってみることにしました。今日の参加者は、将来当社を背負って立つメンバーなので、いい機会になったと思います。これからぜひ役立ててほしいですね」

服装など二の次とされかねない日本の企業社会において、装いの重要性を知り、自ら率先して取り組んでいる粟国さんならではの試みといえる。

社内研修を企画する執行役員の山中宏之さんはこう語る。

「普段営業研修やマネジメント研修は行っているのですが、服装という異色な研修ははじめてです。みんな興味を持ってお話を聞いていた。面白かったです。私自身も気づきが多かったので、これを機に自分の装いを見直してみようと思います」

このように企業の“装い”の取り組みが促進されれば、服装に気が回らないビジネスマン層のボトムアップにつながる。そして、日本の至るところで洗練されたビジネススタイルを見ることができるだろう。


若梅 貴志 / Takashi Wakaume

Style&Co. Style Editor / Fashion Stylist

1981年生まれ。ファッション雑誌を中心に広告、カタログ、芸能人のスタイリング、政治家、外交官へのアドバイスや企業への講演等も含めたイメージコンサルタントとしても活動中。

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Text / Tomomi Wada
Photograph / Kaori Ito

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