今、知っておくべきAIの可能性【前編】 宗像淳×三上悟(イノーバCTO)

宗像淳 (Innova CEO)
9 min readJul 28, 2016

今多くの分野から注目を集めている、AI(人工知能)。今回は、イノーバのCTO(最高技術責任者)である三上と共に、AIが今注目されている理由や、AIの可能性について詳しく対談形式で紹介したいと思う。

司会:今回のテーマはAIということで、早速ですが三上さんにお聞きします。なぜ今、これほどAIが注目されているのでしょうか?

三上:今のこの流れは、「第三次人工知能ブーム」と呼ばれています。人工知能の研究は長くされていて、このブームは決して新しく出て来たものではありません。

第一次人工知能ブームは1950年代から1970年代に起き、探索や推論などの基礎研究がされていました。その後1980年代の第二次人工知能ブームでは、主にエキスパートシステムが中心。コンピューターに知識を持たせて専門家のような判断が出来るようにしたシステムの開発などが、行われていました。知識やルールをベースにした人工知能は、この頃から存在したと言われています。

しかし第一次ブームの時には、まだコンピューターの性能が良くなかった為、計算能力が限られていました。また第二次の時には、人間がコンピューターにルールを教えこむ作業がかなり労力を要するものであったなどの要因から、だんだんとブームは下火になっていきます。

司会:そして、今の第三次ブームが来るんですね。

三上:今の第三次人工知能ブームは2000年代位から始まりました。この頃になると、並列コンピューターが開発されるなど、コンピューターの性能も格段に上がっていました。またインターネットバブルが追い風となって、大量のデータを集めることも可能になりました。この第三次人工知能ブームでで重要な役割を担っているのがディープラーニングです。

■画像認識研究を加速させた2つの要因とは?

司会:ディープラーニングという言葉は、今やメディアでもよく聞かれるようになりましたが、最も大きな特徴は何でしょうか。

三上:ディープラーニングによってもっとも成果を上げたのが、画像認識です。人工知能をよく「人工の脳を手に入れた」とかって言うんですけど、僕は「人工の目を手に入れた」と表現する方が正しいんじゃないかと思います。

宗像:確かに、その方が正しく表現できているかもしれない。

三上:今日の画像認識研究のブレイクスルーには、大きな2つの要因があります。

まず一つ目が、画像認識の精度が上がったこと。そもそも、ディープラーニングの仕組みには大量の画像データが必要なんです。しかし、今まではコンピューターに目の前の物体を認識させることはすごい難しかった。例えば、目の前にリンゴがあるとしますよね。写真のように表面的に、目の前にあるリンゴの画像は認識できても、それを例えば人が持ってしまったり、回転したりすると認識できなくなってしまっていた。

そこから、機械学習のテクニックを駆使し、大量のデータを与えて何千枚ものリンゴの画像を読みこませることによって、それをリンゴだと認識させられるようになったんです。

だから、ディープラーニング以前から、物体認識自体はできていたんです。しかし、何千枚ものデータを使っても、その精度は8割ぐらい。それが、ディープラーニングの出現によって、より正確に画像の認識が出来るようになりました。更に、大量のデータを読みこませることによって、多くの特徴をコンピューターが学習できるようになった点が大きな進歩です。

もう1つの大きな要因が、2007年にフェイフェイ・リー教授が主導した、イメージネットプロジェクトです。

(参考:https://www.ted.com/talks/fei_fei_li_how_we_re_teaching_computers_to_understand_pictures?language=en)

フェイフェイ・リーはスタンフォード大学の助教授で、彼女は「写真に写っている画像をどうやったら人間のように機械が認識できるか?」という研究を長年行ってきました。人間では3歳児ができるようなことですが、これを機械がするのは大変難しいのです。

「人間の3歳児は今まで見た映像を基に、その物体や状況を判断している。それをコンピューターで実践したらどうなるか。」この問いに気がついた彼女は、人間が3歳までに目にするであろう、ありとあらゆる物体のデータを集め、ラベル付けをするというプロジェクトを立ち上げます。それがイメージネットです。クラウドワーカーによって、世界中の人々に協力を呼びかけた結果、膨大な量と質の画像を集めることに成功しました。例えば、猫のカテゴリーだけでも6万2千点の画像が集まったというから驚きです。

宗像:物凄い量ですね。

三上:更に素晴らしい点は、この集めたデータを無償で世界の研究者コミュニティに公開したこと。このプロジェクトのおかげで、大量の教師データ※が作成されました。今世界の研究者たちが、より精度の高い画像認識機能を開発することができているのも、このプロジェクトのお陰です。※教師データとは、人間が人工知能プログラムに正解を教えるためのデータのこと。例えば、猫が写っている写真に「猫」というラベルをつけること。人間(教師)=> 人工知能(生徒)

司会:では、その画像認識の機能の実用例にはどのようなものがあるのでしょうか。

宗像:車の自動運転なんかは、最も分かりやすい例だと思います。周りに何があるのか、それが障害なのか、そうでないのかを周りの物体を認識して、判断しますよね。

三上:そうですね。あと、画像認識の精度が上がったことによって、人の表情の区別もできるようになりました。例えばこの機能をテレビに組み込めば、あるCMを見た人がどんな表情をしたかすぐ分かるので、企業のマーケティングに活かすこともできると思います。あとは医療分野ですね。レントゲンの画像を認識して、人工知能が自動診断するソフトウェアの開発も既に進んでいます。

宗像:あと最近では、クリエイティブ分野でもAIができることはかなり増えているよね。

三上:そうですね。有名になったところでは、Googleの人工知能、ディープドリームでしょうか。これは、膨大な画像データを学習した人工のニューラルネットワークに絵を描かせるものですが、その絵が悪夢のような画像に見えることで話題になりました。

(参考画像:http://psychic-vr-lab.com/deepdream/pics/1105960.html)

認識できない部分も無理やり事前に学習したデータに当てはめようするので、気持ち悪い絵になってしまうのです。

(参考画像:https://robobu.io/2015/08/08/how-deep-dream-works/)

あとは、人工知能を使って白黒写真をカラーに復元したり、レンブラントの作品データを学習し、3Dプリンターなどを使いながら“新作”を作るプロジェクトも話題になりましたね。

(参考画像:http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1604/08/news094.html)

■機械学習における「教師あり」と「教師なし」の違いとは?

司会:AIについて学ぶ上で、欠かせないキーワードが「機械学習」だと思うんですが、もう少し詳しい説明をお願いします。

三上:この機械学習には「教師あり」と「教師なし」というカテゴリーがあります。まず「教師あり」というのは、教師(=人間)がデータを与えてそれを基に、予測や分類をしていく方法です。未知の文章を与えて、それに基づいてそのメールがスパムかそうでないのかを予測します。

そして、「教師なし」が所謂ディープラーニングです。こちらは人間でラベル付けをしていないので、「教師なし」と言われます。答えを知りたいというより、構造を知りたい時はこちらの方が向いています。

宗像:コンピューターが構造を見て、あとからラベル付けするっていうことだよね。

三上:そうです、そこが教師ありとの大きな違いです。最初にお話しした例のように、データを基に予測して、「これはリンゴっぽい」「これは猫っぽい」などコンピューターが分類することができるのです。

(参考画像:http://www.slideshare.net/takahirokubo7792/ss-63166784)

宗像:この機能を実際に製品化している例だと、AgilOneが挙げられるかな。シリコンバレーでマーケティングのソフトウェアを扱っている会社。ここの会社の製品は、あえてAIを謳っていないんだけど、お客さんの購入履歴や属性情報などのデータを全て読み込ませると、勝手に特徴ごとに分類してくれる。それも、Emailしか見ない人のカテゴリーとか、クーポンを使える時しか購入しないとか、かなり細かい分類になってるんだよね。

マーケティングをやっている人だったら、顧客の特性を細かく分類し、それぞれに合ったアプローチをした方が有効だってことは皆分かってるんですよ。でも、何故それができないのかというと、情報が膨大すぎて細かく分類するだけで、相当な労力が必要だから。それをAIにやらせるっていうのは、いいアイディアだよね。

司会:なるほど。では今のお話に関連して、次回はAIによって、私たちの生活がどう変わっていくのかについて、お伺いしたいと思います。

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宗像淳 (Innova CEO)

(株)イノーバ代表。米国ウォートン校MBA、マーケティング専攻。楽天・トーチライトで、Eコマースやソーシャルメディアの新規事業の立上げ。現在、ソーシャルやWEBサイトで集客をするコンテンツ制作のビジネスを展開しています。ライターさん、絶賛募集中。詳細はこちらから http://t.co/CjAYENyOhH