ドナルド・トランプに負けないために。最強の交渉テクニックまとめ

宗像淳 (Innova CEO)
14 min readNov 10, 2016

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ついに起きた。起きて欲しくない現実が。ドナルド・トランプが大統領になったのだ。彼が繰り返してきたこれまでの発言を考えると、日本の政治・経済に多大な影響及ぼすことになるのかと思うと不安が尽きない。

個人的に、心境が更に複雑なのは、彼が、僕の卒業したビジネススクール、ペンシルバニア大学ウォートン校の先輩でもあると言う事だ。母校から米国大統領が生まれて普通は喜ぶべきだが、日本人としては微妙な心境である。

しかし、起きた事は起きた事である。カーネギー・メロン大学のランディ・パウシュ教授は、全身にガンが転移した状態で行ったセミナーで印象的な言葉を残している。

You can’t change the card you delt with, you just have to paly with it.

(いくら悪い手を配られても)カードをチェンジする事はできない。ただプレイするだけなんだよ。

では、僕らができる「プレイ」って何か?それは、相手を知り、相手のテクニックを知り、そして、共存する方法を探る事だろう。そして、トランプを理解する上で、おそらく結構大事になるのが、彼の強烈な「交渉力」である。

トランプは、一代で財を成した不動産王である。彼の有名な交渉のエピソードがある。

ある時、ニューヨークのトランプタワーを買いたいという人が、ドナルド・トランプに会いに来た。彼は、「いや〜あのビルはちょっとな〜。孫娘に譲る予定だったからな〜。他の物件ならいいけど、あの物件は売るつもりはないんだよね」と言う。明らかに乗り気ではない。

しかし、ここがトランプのしたたかな所。彼は、同じブロックにもう1つ別のビルを持っていて、内心では「売ってもいい、むしろ売りたい」と思っていた。しかし、彼は敢えて興味のないふりをして、最後にこう付け加えた。

「でもせっかく来てくれたし、参考までに、いくらまで出せるのか、出したいのか、それだけ聞いておくよ」

どうだろう。このフレーズの強力さが分かるだろうか。

あなたがもし買う側だったする。そしてビル購入の予算が、20億から50億だったとしよう。最初は20億を提示して、交渉しながら、じわじわ上げていくつもりだった。ところが、さっきのようにトランプに言われたら、あなたは幾ら提示するのか?本気で買うつもりがあれば、思わず、50億と答えてしまうのではないだろうか?

このように、たった数分の会話で、一気に自分に有利な環境を作り出す、これが不動産王になったトランプの交渉術なのである。そして、我々が理解すべきは、このような交渉術は、トランプだけがもっているテクニックではない。多くのビジネスパーソンが学び、実践している当たり前の技術だという事だ。

実は、交渉術は、米国のビジネススクールで最も人気のある授業だ。なぜなら役に立つし、必要だから。僕は、授業を取らなかったが、ウォートン校で一番人気のあった交渉術の先生は、ダイヤモンド。彼は、テロリストと身代金の交渉経験を持っているような、超一流の講師だった。

僕らも、そろそろ目を覚ます必要がある。トランプのような強烈な主義主張を持つ人に負けないだけの、自己主張力、言い換えるならば、交渉力を身につける必要がある。そうでないと、トランプのように、したたかな交渉上手にまんまと出し抜かれてしまうからだ。

では、交渉術に少しでも興味の湧いた人は続きを読んでもらいたい。

■交渉嫌いな日本人が交渉上手になるためには?

まず具体的な方法に入る前に、交渉に対する心構えについてお伝えしたい。シャイな人が多い日本人は「交渉が苦手」で「嫌い」な傾向にある。相手に損をさせているような気持ちになったり、相手の弱みにつけこむ、といったイメージがあって、もともと僕も、交渉は嫌いだった。

ただ、これは発想の問題なのだ。交渉は、チェスや将棋のような、お互いが平等にルールを守った上で戦う「競技」だと考えてみよう。このような競技では、勝ち方を知らなければ、ずっと負けてばかりだ。さらに、相手がめちゃくちゃ高い要求で交渉をしてきた時には、こちらからも交渉し返さないと、負けてしまう。

また、交渉はただの勝ち負けではない。最も大事なことは、「お互いがwin-winになるような交渉をすること」だ。いかに、お互いにとってメリットがある交渉を成立させるか。これが、僕達が身につけるべき交渉術なのだ。

■これを読めば交渉上手になる?!13のテクニック

それでは、実際の交渉テクニックを紹介しよう。

その1.他に選択肢を持つ

とても簡単で、勝てるコツはこの方法。僕も旅行先の中国で実践したことがあるが、ちょっと一瞬目を止めて、気になっている様子を見せつつ、「買っても買わなくてもいいんだけどね」という態度でいること。逆に、「この人は他に選択肢がないんだな」と思われるとつけこまれる。「他に選択肢はあるんだけどね」という姿勢を見せると、有利に交渉ができるはずだ。

その2.興味がないフリを装う

冒頭のトランプの例。

「いや〜あのビルはちょっとな〜。孫に譲る予定だったからね。売る気は無いよ」

これはまさに最強の交渉テクニック。興味が無いフリをする。ただし、ポイントは、一応、聞いておくよ、という形で、交渉を続ける事。

「でもせっかく来てくれたし、参考までに、いくらまで出せるのか、出したいのか、それだけ聞いておくよ」

これがポイントだ。

その3.交渉は「だいたい真ん中で落ち着く」と考えておく

交渉にはいくつか原則があるが、そのうちの1つがこれだ。金額の大きさに関係なく、お互いの妥協点を探っていくと、おおよそ「真ん中」のあたりで交渉が成立する。例えば、売り手側は10,000円、買い手側が1,000円の金額を提示していたら、最終的に5,500円あたりで落ち着くことが多い。

その4.無理そうな金額でまず言ってみる

1つ前に出て来た「交渉は真ん中で落ち着く」という原則を考えると、最初に提示する金額は非常に重要。スタートの金額によって、着地点も大きく変わってくるからだ。自分にとって有利な交渉にするには、まずは相手が絶対に納得しないような金額から、スタートするべきだろう。

しかし、これには注意が必要。相手が外国人であれば、向こうも無理そうな金額からスタートしてくることが多い。だから、こちら側もそれを見込んだ金額を提示しなくては、負けてしまう。一方で日本人との交渉では、あまりそういった事が起きず、最初から現実的な金額から始まることが多い。相手によって、最初に提示する金額を微調整する配慮は必要だろう。

その5.譲歩幅を小さくする

交渉の場では、譲歩幅の大きさによって、全く違うサインを相手に送ることになる。有利に交渉を進めるためには、一気に大きく譲歩することは極力、避けるべきだ。大きく譲歩すると、相手に「もっと交渉できるかもしれない」と思わせてしまう。

例えば、値段交渉の場合。最初に買い手が1,000円、売り手が5,000円を提示して、交渉を始めたとしよう。

少し交渉した後、次に売り手が3,000円を提示した場合。5,000円から一気に3,000円まで値段を引き下げているので、買い手は「少しの交渉で一気に金額を下げられるなら、もっと交渉できるんじゃないか(これをネゴしろと呼ぶ)」と考えるだろう。

しかし、売り手が4,500円と500円しか値引きしなかった場合。譲歩の幅が小さいので、買い手は、値下げ余地は少ないなあ、と考えるだろう。

要するするに、自分の譲歩の幅が、相手に交渉余地のシグナルを送っていると理解し、譲歩する時は、少しずつ小出しで行う事が、交渉で負けないポイントだ。

その6.検討の時間を使う

これは、交渉の最終局面で使う方法。「最終回答をするので、ちょっと考えさせて欲しい(もしくは、ちょっと上の者を相談させてください)」と、検討する時間をもらう。すると、「もうこれ以上は、交渉の余地がない」「これ以上の妥協は難しい」というサインを相手に出すことができるのだ。

その7.相手が重視している点を探る

外交上の交渉や、契約の交渉によく使われる手法が「あらゆることを交渉のテーブルに乗せる」方法。例えば、ある2つの会社で交渉が行われている場合。交渉の中に、色々な材料を含めるのだ。すると、「ここではA社に有利な条件を承諾するので、もう1つではB社の提示した条件を受け入れる」ということが可能になる。

そのためには、まず相手が重視しているポイントを探り出すことが必要。「向こうはこのポイントでは妥協しないだろうな」と知っていれば、他の部分でこちらに有利な条件を持ち出すこともできる。

その8.Good guy, Bad guyを作る

とにかく簡単で、すぐに実践できるのがこの方法。とりあえず、交渉の場にはいない「悪役の人」を作ってしまう。「自分は発注したいんですけど、うちの上司が金額にうるさくて、自分も困ってるんですよ。どの位まで下げられるか、参考までに聞かせてもらえると嬉しいんですが・・・」こう言って、相手の譲歩の幅を探る手法だ。

その9.タイムプレッシャーをかける

お互いが譲らず、交渉が平行線を辿っていると、「どうにかしてまとめなくてはいけない」という焦りが生まれる。それを利用して「今日中に発注してくれたら、安くします」など、期限を切って、タイムプレッシャーをかけるのも有効な方法。

この裏返しの作戦で、「だらだら引き伸ばす」という方法もある。ひたすら交渉を引き伸ばして、相手が疲れて「もういいよ」となるのを待つ方法だ。

その10.感情を露わにする

僕も交渉の場で、実際にこれをやられたことがあるが、とにかく相手側が顔を真っ赤にして、机を叩いて、怒りを露わにしているのだ。それを見せられた方は、「彼が怒っているポイントでは、こちら側が譲歩しないと、交渉がまとまらないだろうな・・・」という心理になり、譲歩しやすくなってしまう。一昔前のアメリカ人は、この手法を使う人が多かった。

その11.交渉が行き詰まったら、ブレークを取る

特にビジネスの場での契約の交渉などは、お互いに譲れない主張があり、行き詰まってしまうことも多い。そのような場合は、一端その話を置いといて、別の部分の交渉を先に固めてしまうのも、良い方法だ。そして最後にまた、行き詰まった部分に戻ってくると、最初よりスムーズに交渉が進むことも多い。

その12.相手の情報を集める

交渉は情報戦。「相手が何を重視しているのか」「相手の譲歩の幅がどれだけあるか」を探り出せれば、非常に有利になる。直接その人を知っている人や、影響力を与えられる人を探すのも有効だ。

その13.一番大事なのは、信頼関係

最後に、交渉の場で最も大切なのが、「信頼関係」だ。信頼関係がなければ、交渉は成立しない。自分と相手、双方にメリットがあるような良い交渉をする為にも、相手との信頼関係や信用を大切にするべきだ。

<番外編>

ここで番外編として、さらに3つの交渉術を紹介したい。ここにある3つの方法は、どれもビジネス倫理に反する、ちょっと(かなり?)卑怯なやり方だ。さすが、交渉大国アメリカ。知らないと、こちらがうっかり騙されてしまうような交渉術が、巧みに使われている。

1.見積もりの後出し修正

アメリカの中古車屋がやっていた手法で、「見積もりの後出し修正」という方法がある。

購入を検討しているお客さんへ、見積もり書を作成する段階で、中古車屋はわざと間違った内容で作成する。例えば、カーナビ分の値段を引いて少し安い金額で作るのだ。当然、お客さんは「あれ?カーナビの値段が入っていない!」と気付くのだが、「ラッキー!」と思って自分からは申告しない。そして、そのまま購入を決める。

その後、最後の最後になって、中古車屋の方から「すみません、実は値段に間違いがあって・・・」と、見積もりの修正を申し出る。するとお客さんは、もう「購入する」と意思決定をしているので、多少金額が上がっても、そのまま購入してしまうことが多い。購入のプロセスにおいては、一度意思決定をしてしまうと、その決定は覆りにくい。モノを買う時の顧客心理を逆手に取った、強烈な交渉テクニックだ。

2.おとり作戦

これはあえて、おとりを向こうに差し出して、自分に有利な交渉に持っていく方法。例えば、本当に交渉したい部分は金額であるが、まず納期から交渉を始めるのだ。少しでも安くしたい買い手側は、あえて無理な納期を持ちかける。例えば、2ヵ月くらいかかりそうな案件を。「1ヵ月半で終わらせて欲しい」と条件を提示する。その代わり、かなり高い値段をオファーするのだ。

売り手側にとって、提案された金額は非常に魅力的だが、納期はかなり厳しい。すると最終的に売り手側は、「それ以外のところで頑張るので、今回の納期は2ヵ月でお願いしたい」

と言ってくる。

その時に、買い手側がこんな代案を提示する。「こちらで調べたら、航空機で輸送すれば、納期を2ヵ月後にしても間に合うことが分かった。納期は2ヶ月後でいいので、航空機での輸送代を負担していただきたい」そして、航空機輸送を交渉金額から差し引く、という代案で交渉は成立した。

この話のすごいところは、実は買い手側は、最初から納期が2ヵ月後でも全く問題ない、というところ。だから本当は、航空機を飛ばす必要もない。ただ、納期をおとりにして、交渉金額を安くする作戦なのだ。

一方売り手側は「向こうに納期を妥協してもらった」という負い目があるので、交渉の力が落ちている。圧倒的に弱い立場になってしまうので、肝心な金額交渉でも、相手のいいなりになってしまうのだ。

3.会議中のメモ作戦

例えば、A社が新しい契約の交渉を、B社としている時。A社の説明を聞いている時に、B社の社員が、あるメモを持って、会議室に入ってくる。そこには、A社のライバル会社の名前と金額が書いてある。A社が提案している金額よりも、安い金額だ。そのメモを見た瞬間、B社の担当者は急に態度を硬化させる。

B社「ちょっと、せっかく色々考えてもらったんだけど・・・」

A社「えっどうしたんですか?」

B社「いや、なんでもない・・・。いやまあ、一応参考までに伝えておくと・・・」

こう言って、ライバル会社の情報をA社に伝える。すると競合に勝つために、A社も金額を下げるしかない。もちろん、会議の途中で入ってくるメモも、ライバル会社の情報も、全てB社が仕込んだもの。こうして、半ば強制的に相手の交渉幅を広げて、有利な交渉を成立させる作戦だ。

■まずは、「小さな交渉」をたくさん練習しよう!

ビジネススクールの先生はよく、「交渉は非常に費用対効果が高い、ビジネス活動である」と言っていた。30分の交渉で100万円の値引きができたら、それは時給当たり200万円の仕事をしたことになる。これほど高い費用対効果を発揮できるスキルは、あまりないだろう。

僕自身、ビジネスシーンや外資系企業への転職活動などで、色々な交渉を経験してきた。そこで分かったことは、交渉もスポーツと同じだということ。つまり、経験と慣れが必要なのだ。意外と僕たちの生活の中には交渉が溢れているので、まずは小さな交渉から練習してみよう。すると徐々に心理的な障壁も取れて、交渉というゲームを楽しめるようになるはずだ。是非、今回紹介した交渉テクニックを参考にしてみて欲しい。

<参考文献>

Secrets of Power Negotiating, 15th Anniversary Edition: Inside Secrets from a Master Negotiator (著)Roger Dawson

<写真提供>

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宗像淳 (Innova CEO)

(株)イノーバ代表。米国ウォートン校MBA、マーケティング専攻。楽天・トーチライトで、Eコマースやソーシャルメディアの新規事業の立上げ。現在、ソーシャルやWEBサイトで集客をするコンテンツ制作のビジネスを展開しています。ライターさん、絶賛募集中。詳細はこちらから http://t.co/CjAYENyOhH