女子栄養大学の通信教育「栄養と料理講座」基礎コースを終えて

SUZUKI Tetsuya
15 min readDec 26, 2018

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今月、女子栄養大学の通信教育「栄養と料理講座」の基礎コースを半年+延長期間2ヶ月をかけてやっと終えました。年末だし、内容の紹介も含めて振り返ってみようと思います。通信教育は男性でも受講できるよ。

この講座についても、修了すると申請できる食生活指導士2級についても、どちらもネットにあまり情報がないようです(某知恵袋の回答の数々を見ると、とても受講経験のある方が回答しているとは思えません。なぜ検索すらせず憶測で自信満々に回答できるのか)。私はこれを書いている時点ではまだ食生活指導士2級を取得していません(申請から2ヶ月後に発行される)。※追記:取得しました。

動機

私は料理に興味があり(正確には文化と歴史に)、テレビ番組や料理の書籍などをたびたび見ています。特に最近は『栄養たっぷり』という表現が頻出します。健康番組で体にいい何かが紹介されたら翌日スーパーの棚から消える光景をよく見ます。

誰も彼も自信たっぷり『栄養たっぷり』と言うので、他の人は栄養とは何かわかっているのかもしれません。私は何だかわかりません。料理のレシピで『なぜその操作を行うのか?どういった意味があるのか?』という理由はだいたいわかるんですが、栄養に関しては断片的な知識しかありません。断片的な知識を増やしたところで結局わからんので、いつか栄養について体系的に勉強したいと思っていました。というわけで、受講の動機は純然たる興味からです。健康からの観点ではありません。

しかし、諸々の事情で何もせずに数年が過ぎてしまいました。あるときふと思い出して『栄養 通信教育』といったワードで検索してみたらトップに出てきたのですぐに申し込みました。あまり知らない民間会社主催じゃなくて、名前を知っている大学主催(女子栄養大学)だったというのが大きいです。以前に私は辻調の通信教育の講座をいくつか受講した経験があり、まったく安くなくてトータルすると結構な授業料がかかった気がしますが、さすがに名門校の通信教育は非常に勉強になりました(大変だった。特に日本料理が)。という中途半端な成功体験があったので、こちらも女子栄養大学なら大丈夫だろうと思いました。

私が思う教育機関による通信教育のメリットは 2 つあります。 1 つは体系的に学べること。体系的に学んでおくと後々の理解度が全然違ってきます。もう 1 つは第一線にいるプロ(かつ教育のプロ)に添削してもらえることです。私は全然プロになる気はなくて興味本位で受講したんですが、短期間で体系的に理解を深めるにはプロに授業料を払って、たかだか一言でもいいから意見をもらうのが一番です。情報にはお金を出すべきです。

(私は仕事柄、「情報交換」という名目で一方的に情報をタダで搾取しようとする人をよく見ます。相応の価値のある情報を先にギブしてくれればいいんですが、 大抵はギブできる情報を持ってないし、持っていても渡そうとしない。多くの場合は無自覚なので性質が悪い)

受講中は機関紙が月1で送られてきます。この機関紙には、発行の前月に通信教育を修了された方々の氏名が掲載されています。だいたい月に30–40人くらいかな。お名前から推測するに、そのうちの95%以上は女性です。男性は0人か1人か多くて2人載ってるかってくらい。それもお名前から推測するに、高齢にさしかかってそうな方が多い気がします。定年後に健康が気になり始めたとかでしょうか。何にせよ、いくつから始めてもきちんと勉強するのはいいことですね。

単純な興味で始めた男性はほとんどいないんじゃないかなあと思います。先の週末も食生活指導士の試験のために献立を必死に考えていたとき、「一体俺は何で約5万円の可処分所得と半年以上の可処分時間をかけてマヨネーズのカロリー計算やってんだ?」と我に返って思いました。

受講料と難易度

授業料は決して安くありません。半年で37,800円、その他に必須教材が6,800円、合計44,600円します。それなりの内容を学ぶにはお金がかかるのでケチらない…と言いたいところですが、世の中には短期間の学習で何ら実用性のない資格を取らせる優良誤認ばりの資格商法もありますのでそうも言えません。

この講座は月1回の課題を計6回提出し、総合成績が良以上(優良可の3段階)であれば修了となります。素人からすると毎回の課題は結構大変です。中でも四群点数法(よんぐんてんすうほう)に従って食事バランスを考慮しながら献立を組み立てる課題が大変で、毎月食品成分表との数時間にも及ぶにらみ合いは必須です。栄養士さんはこれを毎日こなし、かつ美味しい食事を作ってるのか、管理栄養士さんは個々人の病状に応じてさらに細かい栄養を考えてるのかと思うと頭が下がります。

やってて思うのが、最近多い食生活に関する短期間で合格できる資格では、食品成分表を開くことなくどうやって食事バランスを計算するのかなと。農林水産省が食事バランスガイドを公開していますけど、いざ実践するとなると食品の成分の知識とトレーニングが必要そうな気がします(食事バランスガイドでは SV=サービングという単位で計算します)。例えば、

  • 1日に食べたサラダの分量は何gだったか? 1日の摂取目標量まで何g足りないか?(目標量は350g)
  • 牛乳1杯(120ccとする)と同じ量のカルシウムをうるめいわしの丸干しで摂るには何g食べればいいか?その場合の食塩相当量はいくらか?(答:23g、1.3g。相当な塩分量になってしまう)
  • ビタミンC の1日の摂取目標量はいくつか?例えば1/3日分のビタミンCをりんごで摂るとしたらいくつ食べればいいか?(答:目標量は100cc。りんご1個の可食部を230gとするとビタミンCの量は22mgなので、1/3日分33ccのビタミンCを摂るにはりんごを1個半必要)

などなど。最後はちょっと細かいので一般講座ではやらないけど。

学ぶにつれて、世の中にあふれる素人(自分も含めて)の知識がいかに適当だったかがわかります。別に食事バランスガイドが悪いのではなくて、食品に関する具体的な知識と、バランスを数値化して考える方法を使って1日の献立を組み立てるスキルをテストしない資格は食事バランスの改善にどう役立つんだろうか?と思うわけです。

取得できる資格

講座を無事修了できれば、さらに食生活指導士2級という資格の試験を受けられます。この試験は通信のみで、会場の試験はありません。きちんと勉強していれば食生活指導士2級の試験問題は難しくないはずです。ただ、役に立つかはさておき、取れそうな資格でも取っておくかなと気軽に申し込むと後悔すると思います。「初心者でも簡単に取れる資格」などと説明されているサイトを見かけましたが、片手間で取れる資格でも暗記すれば取れる資格でもありません(絶対受講してないと思う)。短期間で取れて役に立つ資格が欲しいのでしたら食品衛生責任者養成講習会への参加でも考えてみてはどうでしょうか。1日で取得できます。丸1日参加するのが大変なので私は持ってない。

なお、私は別に資格を取ろうとか飲食関係の仕事に就こうという気は毛頭なく、仕事も飲食関係とまったく関係がないので、食生活指導士という資格が就職やキャリアに有利に働くのかどうかは判断できません。少なくとも有名大学の文部科学省認定の通信教育なので、出自を疑われそうな資格ではないと思いますが。一応履歴書に書けるらしい。

ちなみに、受講中は女子栄養大学の図書館(駒込・坂戸キャンパス)を利用できるようです。遠いし用もないので私は行ったことはありません。

食生活アドバイザーとの違いは?

食生活指導士と食生活アドバイザーは似たような名前の資格なので、検索予測ワードに「違い」と出てくる程度には比較されているようです。ただ、私が検索した限りでは直接比較したサイトや質問サイトでの回答はなさそうでした。頭ごなしに否定する回答になってない回答ならいくつもありました。

残念ながら私は食生活アドバイザーの資格を持っていないので、私も比較できません。違いが気になる方は、この記事の内容と食生活アドバイザーのテキストを書店で立ち読みして比べてみるといいのではないでしょうか。私は食生活アドバイザーの勉強をする予定はありません。

こんな人に向いている

  • 栄養や食事バランスについて基礎的な内容を学びたい人
  • ついでに料理について体系的に学びたい人
  • 食品成分表を開くのに抵抗がない人
  • 半年間腰を据えて勉強する気合いのある人

私はと言えば、この講座を選んで正解でした。あくまで私は、ですよ。

学べること

この講座では次の内容を学べます。

  • 栄養に関する基礎的な知識
  • 四群点数法による食事バランスの計算方法
  • 基本的な調理技術
  • 一般的な料理のレシピ

食事バランスだけでなく、意外?にも料理について体系的に学べます。というか、調理技術も備えて初めて食事バランスを整えられるということなんでしょう。私は調理技術がないので今後も要勉強です。

四群点数法とは、食材を4つのグループに分け、80kcalを基準として食事バランスを考える方法です。80kcalというのが中途半端に感じられますが、80kcalを1点とし、1日に20点の摂取が目標になります。 80kcal × 20点 = 1600kcal です(デスクワーク中心の成人女性の目安がこれくらいです)。ここから年齢や性別を考慮して点数を増減します。食品80キロカロリーガイドブックが便利です。(食品成分表の基準は100g単位なので、80kcalを知るには面倒な計算をしないといけない)

四群点数法は高校の家庭科の教科書にも載っているそうなんですが、確認してないのでわかりません。

教材について

どんな教材を使うのか、ざっと紹介します。受講の参考になれば幸いです。

テキスト

まずはテキストです。3冊あります。左から「日常食の料理(レシピ)」「よい食事の計画」「料理の基本」です。全部で500ページ程度あります。

基礎コースのテキスト

「よい食事の計画」の内容はこんな感じ。文章量は多いです。

野菜についての章

四群点数法による妊婦さん向けの献立の例。間食も含めて5回の食事に分かれているのは、妊婦さんは大きくなった子宮に胃腸が圧迫されて一度に食べられる量が減るから、量を減らして食事の回数を増やしているわけです。でもこの知識が個人的に役に立つ日は来ない。

四群点数法による妊婦(後期)の献立例

テキストが古いという現役学生らしい方の意見をどこかで見かけましたが、私には判断できません。まあ、テキストのデザインやフォントが昔の学術本っぽかったり、提出すべきプロフィールの職業欄に「俸給生活」とか「工兵」とか「職業婦人」といった項目があったり(半世紀以上続いている講座のようなので、あえて伝統的なフォーマットを変えていないんでしょうが)、全体的にババ臭…いえ、歴史を感じます。

料理

基本的な料理のレシピが書かれた「栄養と料理カード」があります(補助教材として別途購入)。このカードは表に料理の写真、裏にレシピと四群点数法による点数が書かれています。

チキンカレーの例。レシピのカード右下に四群点数法の点数があります。この点数でバランスがわかります。このレシピだと1日分の肉、1/2日分の野菜、1/2日分超の穀物を摂れます。しかし乳製品と卵がほとんど含まれていないので、例えば朝食にカフェラテ1杯と卵1個分のスクランブルエッグ、どこかでチーズ1かけらでも食べるとよい、といった感じで計算できます。

栄養と料理カードの例(チキンカレー)

課題

課題は全部で6回あります。あらかじめ5回分の課題が教材と一緒に送られてきます。月ごとの提出という決まりはなく、自分のペースで提出できます。5回分の課題を規定以上の成績でこなすと最後の課題が送られてきます。ちなみに文部科学省認定の通信教育なので、郵便料金は15円です。4万近く受講料を払ってんだからそれくらい受取人払いにしてくれよと思う。

次の写真は課題と添削の例です。字が汚くてすみません。

赤ペン先生による添削例。容赦ない

見ておわかりのように、かなりびっしりと添削されます。ミスには詳しい解説を書いてもらえますので、復習しやすいです。

学べ(ば)ないこと

栄養素のバランス

基礎コースで学ぶ範囲では、各栄養素のバランスまでは計算できません。四群点数法でフォーカスできる主な栄養素は「たんぱく質、脂質、食物繊維、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC」で、その他のビタミンやミネラルはあまり考慮されません。

専門講座のテキストでは、四群点数法で維持できるのは『見かけ上の健康』だと割り切っています。四群点数法の数値上のバランスが完璧でも、食材の栄養素が偏っていたり調理法が悪ければ、貧血にもなるし免疫力も下がります。ごもっともです。だからと言って四群点数法や基礎コースにケチをつけるつもりはありません。つまりはこれが素人のできる限界なのだと思います。

料理の実技

課題の中には調理実習もあります。ただし調理した料理の写真を添付する必要はなく、使用した材料の分量や作り方、出来栄えの自己評価を書くだけです。ごまかそうと思えば適当に書けますし、別に一度も料理をしなくても修了できます(辻調の通信講座は写真が必須だった)。

関係ないけど機関紙のインタビューで「料理が苦手で何度も練習した」と言う生徒さんがいたり、学園誌に「どんなに下手な学生でも必ず上達する!」との見出しでりんごの皮むきのビフォーアフターの写真があったり(ビフォーは本当にひどい)、家庭科の授業以外で包丁を持ったことがない、新品の包丁をケースから出すだけで指を切ってしまう生徒がいたり、栄養大学の学生だからといっても料理ができる状態で入学してくるとは限らないみたいですね。

病人食

一つ注意すべきは、この講座で学べる食事バランスの対象はあくまで『健康な人』であることです。乳幼児、妊婦、高齢者向けの解説もありますが、いずれも重大な病気を抱えていないことが前提です。身内の病人を看病したいのなら、まずは担当医や管理栄養士に相談して指示を仰ぐべきです。使用する薬と相性の悪い栄養素もあるので素人判断は危険です。

よく聞くのが、心臓疾患に使われるワルファリンと納豆の組み合わせです。ワルファリンはビタミンKによって効果が阻害されるので、ビタミンKを豊富に含む納豆は悪影響を与えます。まあこういった特定の食品を食べるとまずい病気の方は担当医から注意されるでしょうから本人は問題ないでしょうが、健康にいいからと言って他人が無闇に与えると大変なことになります。

それでも病人食について学びたいなら専門講座行きです。がんばって。

専門講座について

一般講座より高度な専門性の高い内容を学べる専門講座(1年間)もあります。専門講座は3つのコースがあり、専門職業コース、専門料理コース、治療食コースのいずれかを受講します。一般講座の受講歴がなくても受講可能です。

で、私もさっそく専門職業コースを申し込んでみましたが、テキストの量が倍以上でした。

専門職業コースのテキスト(うち3冊は専門講座共通)

期間も倍なのでそりゃそうなんですが、やっぱり内容が高度なので基礎コースより大変になりそうです。一般講座が修了したら受講がおすすめされていますが、中身を見た限り、はっきり言って一般家庭では必要ありません。もし基礎コースを終えてなお身になる勉強がしたいなら、家庭料理技能検定がよさそうな気はします。実技試験があるからごまかしが効かないし。ただし、こちらは同じ女子栄養大学でも文部科学省認定ではありません。後援です(資格試験の認定制度は廃止された)。

以上です。発行された学籍番号からするに、専門講座の来年最初の生徒は私のようです(大学の先生方にこの記事を見られたら特定されますね。構わないけど)。今度は難しくなる上に1年間と長いので、息切れしないように淡々と進めたいと思います。一体何のためにそこまでやるのか。

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