だまされ上手が生き残る~入門!進化心理学~

実際に読んだのは1ヶ月ぐらい前。いまは月1–2冊本を読むかどうかだけど、昔はよく本を読んでいた。いろんなジャンルの本を読んだけど、生きていくのに一番役に立っているのは心理学の本な気がする。

経験則から言うと人とのやり取りが多い方は心理学を学ぶのをお勧めする。別に学術的な難しい本を読む必要はなく、必要なのは以下の2点だと思う。

  • 人間関係を良好に保つ
  • 自分自身の心を安定させる

そういったものに関連することを知識として学び、折に触れて実践してみるので良い。特にお仕事だと変な人間関係や論理に遭遇することはままあるので、新人研修の一環として心理学入門を教えたら良いとも思う。


進化心理学とは

さて、標題の本は進化心理学というあまり聞き慣れない分野だ。

ここで紹介されていたのがきっかけで本書を読みました。本書では、各章末に著者が「進化心理学は何でないか」というコラムを掲載している。そのコラムの一つを引用する。

「独立した分野」ではない!
進化心理学は、前に述べたように、進化生物学と認知心理学の連携によって生まれた学際的分野と言えます。(中略) その立場は、進化心理学と名付けた一分野に閉ざされているのではなく、心理学全体に取り入れられていくと推測されます。

生物進化の過程からそういった行動をとることが必然であった、あるいは生存において優位に働く状況があった。そういった個体が長い進化の長期間で生き残る ( 自然淘汰される) ことで人間がその行動やその心理を獲得していったと考える学問が進化心理学のようだ。進化心理学では、心もモジュール (機能のかたまり) の1つとみなして環境に適応した結果、身についた機能だと捉えるのが特徴的なようです。

本書はうまく編成された入門本で多くのキーワードや関連研究を背景としながら進化心理学の全体像を説いている。日常でもよく起こる 返報性の原理損失回避性 などで知られる 行動経済学 の原点となるお話もちらほら出てくる。

先に引用したコラムからも伺えるように進化心理学そのものが幅広い分野に渡って考察されるせいか、本書は広く浅くといった構成となっている。それが私のような初心者にとっては全体像が見渡せて、とても分かりやすいものでした。


狩猟採集民の末裔

人間が人間らしく進化したのは、およそ200万年から300万年前に現れたとされている。以降、1万年ほど前まで人類はずっと狩猟採集時代であった。そのため、私たち人類の認知や行動形態は狩猟採集の環境にふさわしいように適応しているというのが進化心理学の最初の取っ掛かりようにみえる。そして、1万年前以降の環境の変化が速すぎるため、人間の進化による適応が追いつかず、狩猟採集の時代の心の特性を引きずったまま、知恵を出して現代社会に適応し続けているのが現状だと著者は述べている。

このように簡単に要約すると、スケールが大き過ぎてあまりピンと来ない人も多いかもしれない。本書では具体的に狩猟採集の時代の生活や環境、集団を想定しながら1つずつ説明している。その説明をそのまま受け入れられるかどうかは別としても言いたいことは分かりやすい。そして、確かに現代においてもそういった状況や心理からの行動として推測すると当てはまる内容が多い。

具体的な例を1つあげると、狩猟採集の時代、人類は100人ほど小集団でメンバーを構成し、相互協力して生活していた。霊長類の大脳皮質の比率とその霊長類が形成する生活集団の大きさがだいたい比例関係になるという研究があり、狩猟採集の時代の人間の大脳皮質の大きさからその小集団は最大150人だったと見積もられている。

またサルの集団が最大50頭程度であるのに対して人間のそれは150人と、その差が3倍になっている。その理由は、サルが毛づくろいで信頼関係を築くのに対して、人間は言語能力で信頼関係を築き、その方が3倍ほど効率が良いという。言語能力がたった3倍ほどの効率かというのは疑問が残る気はしたけど、言語があるために誤解、欺瞞、討論といったマイナス面もあると考えると、そんなもんかという気もする。

狩猟採集の時代が終わった1万年以降、農耕、文明が進化して数千年で一緒に生活できる人口の規模は急拡大したものの、1万年 ≒ 約500世代で人間の脳が進化するには全く足りず、いまも協力集団の最大人数は150人の壁があるそうだ。

経験則だけど、例えば、会社という協力集団で考えたとき、みんなが仲良くできるのは10数人が限界だと私は思っている。もちろん優れたリーダーがいれば100人、150人という人たちをまとめ上げて信頼関係を維持できるのかもしれないけど、私にはちょっと想像できない。もっと分かりやすく言うと、友達が100人いるかと問われたら私はたぶんいないと思うから想像できないのかもしれない。

もし他人から、どうして人は150人以上の人と協力集団を形成できないの?と尋ねられたら言葉に詰まってしまうけれど、狩猟採集の時代の名残で認知能力が足りないのだよと言われたらまぁそうなのかなと分かったような気にはさせると思う。

本書は、古畑任三郎のように犯人が誰かもう分かっていながら、それを狩猟採集の時代に当てはめて考えていくといった論調で説明が進められる。多くの人が心の中にそういった要素があるなと分かっていて、それはなぜかを追求していくところに心理学のおもしろさを伺うこともできる。


だまされ上手とは

本書でいうところの「だまされ上手」というのは、前節で述べた、人の認知能力の限界により大きな集団で信頼関係を構築できないために、集団と集団との信頼関係を築く、いわゆる社会を構成する必要があるときに機能する。そのときに真実か嘘かは実際には重要ではなく、なんらかの想像力に対して従う人たちが多くいる集団の力が強くなると説かれている。

具体的な例としてお金の話も出てくる。例えば、1万円札を取り出して、それが本当に1万円分の価値があるかと考えてみる。ただの紙切れに過ぎないという捉え方もできる。しかし、みんなが1万円分の価値があるとだまされていることで、より効率的に信頼を交換する社会が成り立つ。だから紙幣に信頼に値する人の顔が印刷されているのでしょうと。

本書を通して当たり前過ぎて疑問にすら思ってなかったことへの背景や視点が得られ、進化心理学の勉強にもなったし、読み物としても私は楽しめた。あとがきによると、著者は大学で進化心理学の講義を行っていて、本書は学生がその講義を理解するのに役立つ参考書にと、そういった狙いで執筆されたもののようです。