クラウドソーシングができないことを副業とする

Tetsuya Morimoto
9 min readFeb 24, 2019
鉄人28号 モニュメント

Web 業界のキャリアモデルを考えるシリーズの記事。普通の Web エンジニアが生き残るための、普遍性のあるキャリアモデルを考える。この背景に興味がある方は以下の記事も読んでみてください。

クラウドソーシングへの期待

クラウドソーシングが世に出てきたとき、これならリモートワークで働けるのではないか、本業の合間に副業として働けるのではないかと私は大いに期待していた。いくつかのクラウドソーシングサービスに登録して、いくつか案件を検索したりしていた時期があった。

矢野経済研究所の調査結果によると、少し古い実績と予測値ではあるが、クラウドソーシング市場はしばらく右肩上がりに成長するとみられている。クラウドソーシングという人材調達の仕組みのサービスが整備され、企業のコンプライアンス上の懸念が払拭されるにつれ市場規模が増大すると見込まれている。

クラウドソーシングサービスの市場規模推移と予測

以下はクラウドワークス社の契約金額の推移である。右肩上がりの成長を示していることから市場規模が拡大している様子が伺える。

総契約額(百万円)

ここで試しにクラウドワークスで適当な Web サービス開発案件を検索してみた。フルリモート可能とある Web サービス開発案件で、その単価は30–50万円という依頼があった。これが一般的な依頼かどうかはわからないが、金額が高い順にソートして1ページ目に出てきた案件である。

▽ 月額単価
300,000円(税込)
※160時間/月のSES契約となります。

私は Web 業界で受託開発したことがないので相場感はわからない。しかし、SIer ならベトナムでオフショア開発を依頼するのと変わらない程度の単価である。

私の感覚だと、月160時間も拘束されてこんな低待遇の案件に応募する人がいるのかな?と思うが、本稿を書いている時点で18人も応募している。どういった背景をもつ人たちが応募しているのかはわからないが、このような低待遇の案件にも応募者がいるから成り立っているのがクラウドソーシングの世界だという側面も伺える。

以下は少し古い統計であるが、中小企業庁が公開している「2014年版 中小企業白書」のクラウドソーシング業務における月平均受注額の統計である。

http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/h26/html/b3_5_1_5.html

「事業者」とは、法人又は個人事業者をいう。
「非事業者」とは、前述の「事業者」以外の利用者をいう。

個人事業主は「事業者」として扱われている。月の受注額が50万円未満の「事業者」が97.4%であることから上記のクラウドワークスの依頼案件は高い方の依頼金額であるとわかる。

クラウドソーシングへの期待とは裏腹に、過去に私が登録したクラウドソーシングサービスはすべて退会することを決めるにはさほど時間を必要としなかった。

クラウドソーシングの限界

市場規模こそ拡大しているものの、クラウドソーシングされる案件は、データ入力やライティングといった単純作業に近いもの、専門スキルをあまり必要としない作業系の依頼が多いようにみえる。

以前、知人とクラウドソーシングについて話したとき、結局のところ信頼をアウトソースすることはできないと聞いたことを覚えている。クラウドソーシングというサービスはインターネット上の不特定多数の人たちに発注し、自社で不足している経営資源を補う人材調達の仕組みである。

現在の技術では、インターネットの向こう側にいる人たちを信頼する手段がない。通常のアウトソーシングであれば、法人がその成果物の品質を保証してくれる。個人だとその品質を担保するものがないため、発注者の責任が大きくなる。必然的に発注者が負える低リスクの案件のみを依頼する、またはリスクをとる代わりにコスト削減を狙うことにつながりがちである。

ここに個人が参入する余地がある。個人は自身の信頼を最大の武器として高待遇の案件を副業として受ければよい。

困ったときのカジュアルな相談役

過去に働いていた職場の同僚が起業して経営者をしている。先日、その元同僚からエンジニアリング全般やサーバーサイド周りで困ったときに社員の相談にのってほしいという依頼がきた。

いま風な言い方をすれば技術顧問と呼ぶこともできるが、先方の話や求められる実働時間からもっとカジュアルなものを要望していた。

詳細は書けないが、時給換算すると12,500円である。先に例として取り上げたクラウドワークスの案件が300,000万円/160時間 = 時給1,875円なので、時給換算という指標においては約6.7倍の単価といえる。

この案件は私にしかできないわけではなく、特別なスキルを求められるわけでもない。元同僚は過去に一緒に働いたことがあるために私のスキルや人となりを知っていて発注金額とその対価を見積もりやすく、安心して高単価の案件を依頼できるというのが最も大きいだろう。

クラウドソーシングの市場規模が拡大してきた結果、企業が個人と契約する敷居は大幅に下がった。個人と契約しても情報セキュリティを確保しつつ、コンプライアンスを守る仕組みが普及してきた。さらに既存のクラウドソーシングサービスを使わずに品質も担保できるのであれば、発注者にとってサービス利用料を削減できて発注におけるリスクも下げられる。受注者も高待遇の案件を信頼できる相手から受けられるので断る理由がない。

以下は先ほど紹介した中小企業庁の「2014年版 中小企業白書」から発注者の課題をまとめたものである。

http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/h26/html/b3_5_1_5.html

課題のトップ5は以下になる。

  • 仕事の質が不安定
  • 受注者との意思疎通が難しい
  • 情報流出の危険性
  • アイデア盗用の危険性
  • 優秀な受注者の確保

スキルや人となりを把握している知人に発注することでこれらの課題のいくらかは解決できることが伺える。

コミュニティに参加して仲間を作る

私はいくつかの会社を転々としてきたので元同僚という知人が多い。転職したことがない人には副業を発注してくれる知人をみつけるのが難しいと思えるかもしれない。

その解決策の1つはコミュニティだと思う。私の場合は技術コミュニティにしか参加したことがないので技術コミュニティについてしか語れない。しかし、技術コミュニティではなくても自分にとって居心地がよく、仲間をみつけられるコミュニティならなんでもいいとは思う。

もちろん副業探しにコミュニティへ行くわけではない。自分が興味のあることを扱っているコミュニティで緩く活動しているうちに自然とそうなる可能性がある。私の経験でも、もう10年以上、ある技術コミュニティに所属してやり取りしている。そこで出会った仲間やその関係者から技術書出版のお仕事をいただいたりもしている。

まとめ

クラウドソーシングの市場規模の拡大に伴い、企業と個人が直接契約する土壌が整ってきた。個人はクラウドソーシングでは解決できない信頼を武器に高待遇の案件を副業として受注しやすくなっている。本稿におけるキーワードは以下である。

  • クラウドソーシング
  • リモートワーク
  • 副業
  • 信頼
  • コミュニティ

技術コミュニティに限らず、オンライン・オフラインを関わらず、ビジネスやライフワークを問わず、「コミュニティ」は今後の社会における大きなキーワードになる (なっている) 。一方でコミュニティを一から作り上げたり、大きくなってしまったコミュニティを維持したりすることはとても難しくなっている。

Web 業界のキャリアモデルを考えるあたり、コミュニティの在り方やその関係性も今後は継続的に考えていきたい。

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