コミュニケーションは枯渇する

Tetsuya Morimoto
5 min readNov 1, 2015

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昔、働いていた職場で新たに昇格したばかりの社長がいきなりこんなようなことを言い始めた。

社内のコミュニケーションを活発にすれば業績が上がります。うまくいっていないのはコミュニケーションの問題です。

当時の私はなんか違和感を感じながら聞いていた。それから社員旅行や全社飲み会が企画され、半強制参加が義務付けられ、欠席者はその理由を社長宛にメールするという制度となった。そして、社内に組織横断的にいくつものタスクチームが設置された。個々のタスクそのものは業務とはあまり関係なく、目的はコミュニケーションを活性化させることにあった。

私が入ったタスクチームの課題は、全社員だったか全開発者だったかに「デュアルディスプレイ環境を導入する」といったタスクだった。当時、その会社ではモニターを持ち込みしてデュアルディスプレイ環境を整えている社員が数人いた。そういった環境を会社が全員へ支給してはどうか?ということを議論するためのタスクチームだ。

1回目の打ち合わせが行われた。

一般論としてディスプレイは2つあった方が生産性は上がるよね、と。じゃあその生産性の向上を評価するにはディスプレイ1つの開発者と、ディスプレイ2つの開発者の行動をトレースして定量化しましょうよ、と。具体的にはキーボードやマウス操作をトレースするツールを作って1–2ヶ月誰かに被験者になってもらってその結果を評価すれば良いでしょう、と。

1回目の打ち合わせはそんな普通のやり取りで終わった。

それからそのツールを開発する人も被験者となる人も、そして次回の打ち合わせさえも行われることはなかった。おそらく他のタスクチームもそんな感じで全て瓦解したような気がする。少なくとも私の記憶には残っていない。

コミュニケーションという言葉は多義的に使われるため、ここではビジネスにおけるコミュニケーションを定義する。私の中では以下のように定義している。以降、本稿で言うところのコミュニケーションは以下を指す。

コミュニケーションを取る相手に対して、その相手が自分の意図した行動を取ってくれること

コミュニケーション能力という言葉もあるが、実際のところ、何を伝えるかもどう伝えるかも全く関係ない。相手の行動だけがその評価指標となる。山田ズーニーさんはこの能力のことを メディア力 と呼んでいる。

必然としてコミュニケーションはその発信側が全ての責任を負う。ここでは、わかりやすさのために極論で言うと、受信側がどんな過失をしようがその責任を取る必要はない。だから発信者はがんばってコミュニケーションを取ろうとするわけだ。

コミュニケーションの下手な人はこの基本を理解していない。

誰それが自分の言う通りにやってくれないからうまくいかない。

こういう愚痴を聞く機会がたまにある。違う、あなたのコミュニケーションが下手だからうまくいかない、ビジネスにおいては。

冒頭のタスクチームが全て瓦解した理由はもう分かるでしょう。そのタスクチームにコミュニケーションは最初からなかったのだ。誰もそのタスクに責任を持たず、誰もそのタスクを実現したいという真摯な想いもなかった。

ときどき、真摯な想いとコミュニケーションは同じ役割を果たすと私は考えている。先に書いた発信者が全ての責任を負うという特性があるためだ。どうしても成し遂げたい理由がその発信者にはあり、他人へ協力を求めなければならないとき、普通の人は謙虚にお願いし、そしてどんな小さな協力に対しても感謝を述べる。それは正しくコミュニケーションそのものだ。

ほとんどの人はそうやって業務で普通にコミュニケーションを取れる。では業務じゃないところではどうだろう?

業務ではないのであれば、先に述べたビジネスにおけるコミュニケーションである必要はない。単純に無目的に雑談するのでも良い。だけど、ちょっと思い出してほしい。先の社長はコミュニケーションを活性化させるためにいくつものタスクチームを作り、その最終的な目的は業績を上げることにあった。

ここにコミュニケーションという曖昧な単語で誤魔化されてしまう落とし穴がある。職場で活性化させるコミュニケーションは、本来はビジネスにおけるコミュニケーションであるはずだ。

職場の、業務じゃないところでもコミュニケーションを活性化させようと思ったら期待することは限られる。普通の人は普通に忙しい。そして、実際にそのコミュニケーションを管理することもできない。その1つとして 真摯な想い という言葉で十把一絡げにまとめたけれど、その発信者が全責任を負って周りを巻き込んで行動するものであれば何でも良い。

昔、新人研修で 原田隆史 先生のセミナーを受けたときに聞いた言葉がある。

手入れを怠ると思いは枯れる、夢は腐る

業務がうまくまわらないのをコミュニケーションの問題だと、現場の人が言うのは構わないが、管理職や経営者が言うのは職務怠慢や責任転嫁でしかないと私は思う。

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