納期を守ることの意義

Tetsuya Morimoto
7 min readNov 23, 2016

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業務で納期を全く守らない組織で働いていていろいろ思うことがあった。

なんかもやもやしたので自分の考えを整理してみる。ここで言う納期を守らないというのは、具体的にいうと、例えばその担当者が2-3ヶ月程度で見積もった作業が結果的に3–6ヶ月程遅れるのが常態化している状況だ。そして遅れることが当たり前過ぎて何ら進捗管理をしない組織の話だ。私の感覚だと、見積もりの倍ぐらいの工数が実作業にかかるというのはビジネスの感覚としてはありえないもので、そのギャップに悩んだ時期もあった。

納期が遅れることによる弊害を洗い出してみる。

  • 予定したスケジュールでその機能を含むサービスを提供できない
  • 予定した経費でその機能を開発できない

ここで時間 ≒ 経費とほぼ考えて良いと思うが、もう少し踏み込むと機会損失という考え方もある。先行者利益が大きい業界だと、時間が遅れることによる売上の減少というのは無視できない金額になる。そのため、場合によっては機能を削って一早く市場に提供することを最優先として、あえて品質の悪いサービスを投入するという判断もあったりする。

品質が良かろうが悪かろうが、ビジネスで勝てないとその先はないため、その判断はとても難しいものだけど、先行者利益を取りにいくという戦略自体も時と場合によっては妥当な戦略の1つだと私は思う。

閑話休題。話を少し戻して時間 ≒ 経費と考えた場合でも会計や経営の用語で言えば、割引率や投資利益率 (ROI) という指標でその価値を試算できる。

私自身が会計や経営の実務経験がないので知識以上のことは分からないが、簡単に言うと、納期が遅れることによってその会社・サービス・機能の価値が減るということを数値化する指標だと私は捉えている。

当然、経営者や役員は普段このような指標を算出して会社の経営を考えていると思うが、現場の実務担当者はそのことにどう向き合うべきだろうか?

結論から述べると、向き合う必要はない。職務の役割分担としてはその責任を負うのは経営者や役員、その責任者であるべきだ。それ自体は構わないが、実務担当者が安易に納期を遅らせることが会社の経営に大きな影響を与えることを知っておいた方が良いと私は考えている。そして、それは上述した指標を算出することで比較的簡単に数値化できる。

業務はつながっている

さらに踏み込んでもう少し大きな話を書く。世の中には様々な業務があり、いろんな会社があり、どんな会社も社会を構成する、なにかしら大事な業務の一端を担っている。決して自社だけで業務は成り立たないし、自社だけで大きなビジネスもできない。

現場の実務担当者がこのことを実感できるか、ということは納期を守ることにもつながってくる。

過去に私は中規模の流通小売業向けの基幹システムの開発・運用をしていたことがある。そのときに営業統括をしていた役員がこんなことを言っていた。

システムによってモノがどう動くのか分かってこの仕事はおもしろい

若い頃の私はこの意味をあまり深くは理解できていなかった。いまも正しく理解できているかは分からないが、前よりも少し分かったことがある。

日常の自分がやっている実務の先につながるなにかが少しずつみえるようになってきた。私はシステムの開発者なので普段はプログラミングを生業としている。アラン・ケイの有名な言葉がある。

未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ

開発者というのは本当に素晴らしい職業で、未来の世の中で当たり前になるシステムの一端を、もしかしたら自分がいま開発している可能性がある。普段、自分が実務でやっている内容が現実の世の中でなにとつながるか、どんな問題を解決するか、そういったことを想像するのは、いつも楽しいことだと私は考えている。

もちろん、こういった実務のほとんどの取り組みは成功しないことを前提としておかなければならない。世の中には自分が開発したなにかを未来の世の中で流行らせたいと考える人たちで溢れている。ときにはそんな人たちとの競争に打ち勝ち、ときには協業して、ときには撤退することがある。

未来の、もしかしたらいまよりちょっと良さげな、そんな世の中を想像したら、その時代の到来を自分の怠慢で遅らせているというのは、なんとも残念な気持ちになったりしないだろうか。そして、その遅延はビジネスパートナーを経由してさらに大きな遅延となる。

意図的に主語の大きな話題にして楽しげに書いたが、それぞれの業界で、業務分野で、会社でもっと身近なつながりは必ず発見できる。それを意識して、中長期的な戦略をもって取り組めるかというのは、経営者でなくても大事な感覚だと私は思う。

納期に遅れたら給料いりません?

ちょっと意地悪なことを書いてみる。前節で納期が遅れたときに割引率や投資利益率で会社が被る損害を算出する方法を示した。例えば、受託開発という業務だとさらに人件費という形で損害を計算しやすい。

ではその損害の補填はどうするべきだろうか。結論から述べると、このことも経営者やその責任者が考えれば良いことだし、実務担当者が発生した損害を給料で補填するといったこともしなくて良い。

しかし、ここで考えてほしいのは損害は必ず発生しているという事実だ。そして損害が発生した場合、計画の変更を余儀なくされる。計画の変更は、より早い段階で事前に分かっている方が損害が少なくなる。というのは、世の中の業務や運用、ひいては人間はものごとの急な変更にうまく対応できない。予定した計画通りにいかなかったとしても徐々に計画を見直して対応する方が、急に計画を見直すよりもずっとうまくいく。

余談だけど、昔あるマネージャーが、マイクロソフト社はオペレーティングシステムの発売延期をその発売日の1年前に発表できるのが素晴らしいと言っていた。ソフトウェアの開発方法論において1年前に間に合わないことをマネジメントできているというのは驚異的だ。

ここから私が提案したいのは、実務担当者がスケジュールに無理があると分かったらなるべく早く責任者に延期と再見積もりを報告すべきだ。私は遅れることそのものがプロジェクトにとって良くないことだとは思わない。見積もりに対して進捗や先の展望が管理できていないことの方がよっぽど深刻な課題だと思うからだ。もちろんなぜ遅れるのかを実務担当者は適切に説明できないといけない。

まとめると、遅れること自体は仕方ないが、遅れることが分かっていないことは問題だ。このまま進めると遅れるという直感は実務担当者が最も早く気付ける。繰り返すが、納期を遅れても給料で補填などしなくて良いし、その延期の責任も追わなくていいが、自分が担当している作業をいつ終えられるかにだけは責任をもってもらいたいと思う。

まとめ

自分にとっての納期の考え方を整理してみた。

納期を遅れるという状況そのものが、多くの場合、ネガティブなものと判断される。私もそうだし、誰しもそうだと思うが、人間の心理としてどうにか責任転嫁して自分の責任を曖昧にしたいと考えるのは自然なことだとも思う。

そういったとき、自分1人の世界からみるのではなく、もっと大きな視点で大局的にものごとをみれれば納期とうまく折り合いをつけれるのではないか。自分なりの納期との向き合い方を書いてみてちょっとはすっきりしました。

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