Taiyo FUJII/藤井太洋

作家 『Gene Mapper -core』、早川書房『Gene Mapper -full build』『オービタル・クラウド』、朝日新聞出版 Kindle連載『UNDERGROUND MARKER』シリーズ

    Aが見た/Aは見ていた

    三人称視点あり小説執筆技法:主語の助詞一人称に比べて、三人称の小説は格段に難しいと言われる。視点が管理できないためだ。 筆者は小説執筆歴二年にして二冊の商業出版長篇を上梓するという幸運に恵まれたが、近刊である『オービタル・クラウド』では初めての三人称による記述を試みている。半年間という短い執筆期間で、初めての三人称による小説とその手法を自分のものにできたのは、早川書房の担当編集者I氏の指導のおかげでもある。 ここで忘れないうちに、三人称視点あり小説執筆手法を、再現可能な技術として記しておきたい。第一回目は、主語の助詞からはじめたい。例文は林と北野という人物によるスキット(寸劇)だ。 林はマグカップを持ち上げた。 「もう一杯、もらってもいいかな」 北野はコーヒーサーバーへ手を伸ばしながら苦笑した。 「飲み過ぎじゃないか?」 寝不足はカフェインの摂りすぎのせいだろう、と言いながら湯気の立つ黒色の液体をたっぷりと注ぎ込む。 これが「視点の揺れている」文章だ。林と北野、どちらが視点人物であってもおかしくない。このまま続けてしまえば、読者はどちらの視点で読んでいいのかわからなくなってしまうことだろう。これぐらい短い文章な…