元禄時代の「みなしご津波」と、「シアトル沖大地震の可能性」と

「emoji」と「tsunami」はそれぞれ「そのまま英語になった日本語」の代表格(「sake」や「otaku」だってそうかもしれないが)。そんな「tsunami」に関係する特集記事が、先ごろ老舗雑誌のThe New Yorkerに掲載されていた(7月20日号だから公開は2週間ほど前のことか)。

The Really Big One — The New Yorker
http://www.newyorker.com/magazine/2015/07/20/the-really-big-one

この記事には、「ほんとうにデカイやつ」(The Really Big One)というこの見出しとは別に、「シアトルを壊滅させる地震」(The Earthquake That Will Devastate Seattle)という別の見出しもある。またリード部分には「北西部太平洋沿岸(Pacific Northwest、オレゴン州からワシントン州にかけて)のかなり広い範囲を破壊する時間が来るのは時間の問題で、その時間がいつになるか、というのがいまの問題」という記述もある。

この記事の主旨は、オレゴンからカナダのバンクーバーにあたりかけて、海岸線と平行するような形で存在する「カスカディア沈み込み帯」というのが震源となり、マグニチュード8以上の大地震が過去1万年の間に41回発生している、次にこうした規模の大地震が起こると、地震や津波対策があまり進んでいないあの地域はひとたまりないだろう、といったもの。

ただ、著者が引用する被害の大きさ(最大で280万人くらいが影響を受ける/インフラの復旧までに半年程度は必要、云々)や、大地震の周期などにつては異論もあるようなので、ここでは深入りしない(「東日本大地震クラスのものがこの地域で発生するのは500年に1度くらい」といった意見も別のところで目にした)。下記の記事で、概要がわかるので、気になる方はそちらをご覧いただきたい。

ニューヨーカー誌「米国北西部太平洋沿岸部での大規模地震の可能性」

The New Yorkerの記事でとくに面白かったのは、前回の大地震(1700年1月下旬に発生したマグニチュード9.0の地震)発生を研究者らが突き止めるまでのプロセスと、それと背中合わせになった「どうして地震・津波対策があまり進んでいないのか」という事情の部分。それをかいつまんで記すと、次のようになる。

・最初の白人がオレゴン州の太平洋岸に達したのが1805年の秋のこと。当時米国はまだできたばかり(1776年の建国からざっと20年弱)で、カナダはまだ独立前。
・この地域にはずっと昔からネイティブ・アメリカンが暮らしていたけれど、彼らには文字の文化がなかったため、白人には地震に関する過去の記録がうまく伝わらなかった。
・その後入植してきた白人たちの目には、この地(Pacific Northwest)が広大に拡がる肥沃な土地、暑すぎも寒すぎもせず穏やかな気候の土地、そして格安で手に入る土地と映った(中西部の竜巻や、大西洋岸のハリケーン、ニューイングランドあたりの大雪、それにカリフォルニアの地震のようなものがない、ということだろう)
・そういう穏やかな地域に、実は大地震や大津波の可能性があるというのがわかったのが、1980年代後半になってのこと。具体的には上述した「1700年1月のカスケード地震」で発生した「みなしご元禄津波」の記録が日本に残っていたため、それが地震の発生日時を同定するための重要な手がかりのひとつとなった。
・むかしから何度か地震で大きな被害の出ているサンフランシスコあたりとは異なり、Pacific Northwest一帯でそれなりにきちんとした建築基準条例が設けられたのも比較的最近になってから(条例制定以前につくられた建物も多く存在する)。日本のような高度な地震予知の仕組みもまだできておらず、学校の耐震補強工事なども現在進行中・・・・。

なお、「みなしご元禄津波」については下記のページに比較的詳しい説明がある(原稿が書かれた時期はおそらく2010年中ー東日本大震災前で、結びの部分にある「今回の2010年2月の津波への日本の対応は,十分な情報と警鐘によって,人々に災害への準備時間と安心を与えました。」という一文が、いまから思うと何とも皮肉なことに思えてしまうが)

元禄の津波と平成の津波,そして環境の研究

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シアトルというと、近年は「クラウド(分野)のメッカ」になっているとの印象も強い。おそらくAmazonやMicrosoftのお陰だろう。すでにFacebookやGoogleも拠点を設け、Alibabaあたりも拠点開設のための物件探しを進めている・・・この週末に出ていたBloomberg記事(内容はAppleのシアトル拠点拡張の動きについて)にはそうした話も出ている(Geekwireによると、Appleのシアトル進出 — -クラウド拠点開設自体は、昨年11月にニュースになっていたようだ)

Apple Said to Lease Office Space in Seattle Tower — Bloomberg

Apple’s arrival cements Seattle’s status as ‘cloud capital of the world’ — Geekwire

また現在Amazonがシアトル市街に建設中の本社新社屋のとなりには、「gateway telco-hotels」という別名をもつデータ通信網の重要なハブがあるという。下記のBBC記事のなかには、この「gateway telco-hotels」(ビルの正式名称はThe Westin Buildingというらしい)で「海底ケーブルとローカルネットワークが行き会う」「米国と外の世界がつながっている」などとある(米国にはそういうハブが4箇所にあり、シアトルのこのハブはそのなかのひとつ)。「もともとは普通のオフィスビルとして設計されたが、この20年間で徐々にデータセンターに転換」云々とあるので、インターネット用のルータがずらりと並んでいたりするかもしれない。

Heating houses with ‘nerd power’ — BBC

そんな「gateway telco-hotels」の建物内で発生する廃熱を隣のAmazon新社屋(38階建てのビルが3棟)に引き込んで空調に利用するという計画が進んでいる、というのがこのBBC記事の主題のひとつ。新社屋の4分の3をこの熱で暖める計画というから、相当な量の熱なのだろう。

それだけ重要なハブの機能を収める建物であれば、災害に対してもかなりの備えをしているはずと仮定できる。ただそれと同時に、それでも万が一想定を超える規模の津波などがあったら、その時にはどうなるのか・・・などという思いも浮かんだりする。

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The New Yorkerの記事を読みながら、1700年の大地震を米国の研究者が知ることができたのも、「文字という文化的インフラが日本にあったからこそ」などとちょっと感動し、翻って「自分のごとき売文業者でも、せいぜい仕事に精を出さなくては」などと思った次第。そのいっぽうで、成果物を保存・伝達する物理的インフラが破壊されてしまったら、この電子の文字=言葉もいっしょに消えてしまうのか、といった思いも頭をよぎって、いささか不安を覚えたりもしている。

最後に補足。
The New Yorker特集記事に触れた下記のVox記事には、「M9の地震は、M8の地震の約31倍大きい」「M9クラスの本当に大きなものは19回で、平均で約500年に1回の頻度」といった説明も出ている。

What are the odds a giant earthquake will devastate Seattle? Experts weigh in. — Vox

【参照情報】
The Really Big One
http://www.newyorker.com/magazine/2015/07/20/the-really-big-one

What are the odds a giant earthquake will devastate Seattle? Experts weigh in.
http://www.vox.com/2015/7/16/8980403/cascadia-earthquake-seattle-oregon

A Chilling Update on the Ticking Seismic Bomb off the Pacific Northwest Coast
http://dotearth.blogs.nytimes.com/2015/07/13/a-chilling-update-on-the-ticking-seismic-bomb-off-the-u-s-northwest-coast/

2015 Marks Banner Year For Earthquake Preparedness In Oregon
http://www.opb.org/news/article/2015-marks-banner-year-for-earthquake-preparedness-in-oregon/

A huge earthquake is probably coming to destroy Seattle and we’re not prepared
http://www.geekwire.com/2015/a-huge-earthquake-is-probably-coming-to-destroy-seattle-and-were-not-prepared/

Earthquake experts on ‘The Really Big One’: Here’s what will actually happen in Seattle
http://www.geekwire.com/2015/earthquake-experts-on-the-really-big-one-heres-what-will-actually-happen-in-seattle/

FEMA is planning for an earthquake that could devastate the Pacific Northwest, killing at least 13,000 people
http://www.businessinsider.com.au/fema-plans-for-a-devastating-seattle-area-earthquake-2015-7

ニューヨーカー誌「米国北西部太平洋沿岸部での大規模地震の可能性」
http://www.junglecity.com/news/a-huge-earthquake-may-destroy-seattle/

元禄の津波と平成の津波,そして環境の研究
http://www.nies.go.jp/kanko/news/29/29-1/29-1-01.html