「新しい大企業」を目指して
ROUTE06はシステムインテグレーションの業界変革を志して創業した会社だ。大手企業の事業部門及び取引先の関係者に対して利便性が高く機動的に利用できるソフトウェアサービス及び事業推進を支援するプロフェッショナルサービスを提供している。実践的な「ものづくり」に重きを置いた組織、多様なシステムへの接続を前提としたアーキテクチャ、SaaS型のビジネスモデルなどの要素の重ね合わせによって、エンタープライズを中心としたソフトウェア産業全体をより良いものへと変えていきたい。
創業4年目に入り、会社としてできることの幅が着実に広がってきた。まだまだ課題は多いものの、「Plain」という大きなプラットフォームの構想の初手として、足元ではクラウドEDIを中心とした商取引DXを注力領域に定め、エンタープライズ特化のVertical SaaSを提供しながらその価値を最大限活かすための要件定義/デザイン/データ分析などの事業支援を行うアプローチへの実効性も高まりつつある。スタートアップを取り巻く環境は常に目まぐるしく変化しているものの、我々の事業を通して見える景色やトレンドに変わりはなく、より良い未来をつくるために最善の更新と実績の蓄積に日々努めている。
そういった状況にあるなか、本記事ではROUTE06の事業ではなく、会社全体として目指す姿についてまとめてみようと思う。まだ社歴の浅いスタートアップ企業に過ぎないのだが、数年/数十年先の未来に、伝統的な大手企業をはじめとした様々な組織の方々から先進事例として参考にしていただけるような会社を目指している。それはどのような会社なのか、足元で何をやろうとしているのか、前提にある考え方などを紹介させていただきたい。
社会の潮流と目指すもの
よく社内では「新しい大企業」を目指そうという話をしている。一般的に大企業、スタートアップ、メガベンチャー等の言葉によって連想されるものとは少し異なる姿をイメージしている。参考になる企業事例は国内外に数多く存在するが、会社への期待値や就業環境が絶え間なく変化していくIT業界では、類似の前例や従来の定石を意識し過ぎることによる機会損失も年々大きくなっているように感じる。今この瞬間からスケールする組織を作り上げようと試みたとして、前例と同じやり方がうまくいくとは限らない。業界を大きく変革できる会社とは、という問いに対するその時点での最適解を自分たちなりに試行錯誤しながら作り上げていくべきなのだと思う。
「大企業」というキーワードで表現するように、創業当初からROUTE06は多くの社員が働ける会社づくりを目指してきた。経済産業省の「IT人材育成の状況等について」によれば、2030年までに日本国内でも40–80万人規模でのIT人材不足が生じる可能性がある。その不足はSaaSやAIなどの技術進化によって補填できる部分もあるだろうが、逆に人材不足による機会損失は広がる一方でもある。新しい技術やプロダクトを作れる、もしくはそれらを活用することで新しい機会を生み出せる人材はより一層求められる。将来的に自社からも多数の人材を輩出することで、社会全体が抱える人材不足という課題解決にも少なからず貢献できればと考えている。
企業としては売上の規模/成長速度/利益率や時価総額などの最大化が大前提かつ大目標でもある。売上などの事業数値が先行指標となり人材が集まるのか、組織や文化が先行して事業数値が成長していくのか。どちらも正しいと言えるのだが、これからは技術による手段の汎用化や働き方の多様化に応じて、創造的で生産性の高い組織により魅力的なビジネス機会も集まりやすくなるだろう。エンタープライズ領域ではそれが顕著になると考えている。組織文化のロバスト性は規模や歴史に相関し、たとえM&A/資本構成/経営陣等が変わっても容易には揺らがなくなる。持続性の高い成長企業を目指すのなら、社歴の若い企業ほど未来を見据えた環境づくりへの投資は費用対効果が高いように思える。
このような背景があるため、あえて「新しい大企業」という表現を用いている。昨今のスタートアップでは資金調達が大規模化した結果、上場企業と遜色のない規模の予算を扱える機会も珍しくなくなった。株主構成も国内外の個人投資家、ファンド、事業会社、機関投資家など多様化し、クラウドファンディングや未上場のセカンダリーファンドの組成なども目にするようになった。スタートアップであっても説明責任や企業倫理などコーポレートガバナンスへの要求水準は高まる一方だが、規模や社歴によらず、企業の信頼性がより公平に評価される時代にもなっている。
3つの経営哲学
これからの会社には社員関係者のバックグラウンド/ライフスタイル/キャリアなどの多様化に対する受容性が求められる。所属企業の選択において安定性と確実性が重視された社会では、ステップアップの基準が順序的でモノリシックな組織構造は従業員と経営に合理的な均衡をもたらしていたと思う。今後その様相は緩やかに変わっていくだろう。個人でアクセス可能な情報量が増大し、社内外に関わらず立場による情報の非対称性が逓減していくなか、職場の選択基準も選択肢の多様化も着実に進む。チームへの情緖的な印象や経営者の影響力や哲学などへの共感はより重視され、同時にその組織に所属することによる機会利得と機会損失も冷静に評価される。IT業界を中心にスタートアップも、大手企業も、フリーランスも、並列で比較されるキャリアの選択肢になりつつあるが、労働市場も行き着く先にはコンシューマー製品市場と類似していくだろう。選ばれ続ける会社には独自のブランドエクイティの醸成が必要になる。
労働市場の動向に関わらず、顧客の視点からはソフトウェアサービスへの安心感や先進性への期待は高まる一方だ。価格に対する過剰品質の状態が是呈されていく領域も少なからずあるものの、表現と提供の一貫性、品質を保証する仕組みや実績、独自性の高い機能や新しい技術知見など、ベンダーに求められる役割は高度化していく。複雑な制御系を安定稼働させながら機動性や柔軟性を付加するという、一筋縄ではいかない成果を求められる時代になっている。組織とアーキテクチャの議論のなかでよくコンウェイの法則が引き合いに出されるが、それはソフトウェアという領域に閉じた話でもなくなっている。顧客の要求水準を超え続けるためには、商売や技術と同等以上に組織デザインへのこだわりも重要だ。
このような社会の変化を見据えた上で、際限なくスケールできる会社が有する文化や仕組みはどのようなものか。それは自社の事業の成長性・収益性・安定性の観点からも最適かつ競争優位なものか。これらの問いの答えとなるべき組織を目指し、私自身以下の3つの経営哲学を大事にしながら経営に従事している。
1. ナラティブな個性の重なり
ナラティブに関しては以前記事「ナラティブな組織から生まれる変革力」でも紹介しているが、基本的な考え方に変わりはない。組織におけるナラティブとは、特定の誰かの立場や視点に固定されず、登場する一人一人にスポットライトがあたり、それぞれの人生/経験/想いなどが物語のように自然と紡がれていく状態を意味する。会社が提示するキャリアパスを指針としながら仕事に従事してもらうことが、個人にとってもチームにとっても必ずしもベストパフォーマンスに繋がるとは限らない。それぞれが自分で判断しながら意欲的に取り組める課題を選び、また仕事をきっかけに自分なりのコミュニティやソーシャルグラフを広げられるようなミッション/指針/イベントその他環境を作り上げていくことが、成果を出すためにより重要になっていくだろう。近年シナリオ分岐が明確なRPG等よりも、オープンワールド型/コラボレーション型のゲームが人気を集め、結果として新しいコンテンツやクリエイターが数多く生まれていることもナラティブの可能性を象徴する一つの事例と考えている。
営利企業としての指針や目標、権限や責任の明瞭さが重要であることには変わらない。ただ会社と個人の関係は、雇用者と被雇用者というよりもコミュニティの運営とその参加者という関係に少しずつ近づいていくだろう。ビジネスにおいて直面する課題は年々複雑になり、特定の個人の能力や影響力に依存した指揮系統の相対有用性が低下している。有名なCEOやカリスマ経営者達がその世界での北極星となることを期待される場面も緩やかに減っていくだろう。ここ数年で個の興味関心やこだわりの積み重なりから生まれたアウトプットが社会の前提や常識を変えたシーンを目にする機会も少なくなかった。組織における再現性の高い成果と個性の発揮は必ずしも相反しない。この考え方はROUTE06創業以前からフルリモートでの組織運営に取り組んできたことにも繋がっている。特定の人達と時間や場所を共有できないことによる機会損失よりも、時間や場所の制約なく多様な人材と働ける機会利得を重視し、個の包含性の高い組織経営を理想としてきた。
2. エンジニアリング文化の拡張
ROUTE06はソフトウェアエンジニア比率の高い会社であるため、エンジニアリング文化を重視するのは当然と思われるかもしれないが、少し俯瞰的な視点からその可能性に着目している。場所・時間・立場によらず世界中から多様・多数の人材が参画し、そのコミュニティから革新的なプロダクトが生み出され、千万・億単位の人に恩恵をもたらしているプロジェクトの形態として真っ先に思い浮かぶものは何か。私にとってそれはLinuxをはじめとしたオープンソース開発であり、あらゆるコラボレーションワークのなかで最も効率的かつ創造的な仕事のスタイルであると考えている。組織面で最も参考にしている企業を問われれば、GitLab、HashiCorp、Vercelなどオープンソース由来のエンタープライズ向けソフトウェア企業と答えている。前述のナラティブにも繋がる論点だが、フルリモートで多様な個性を最大限生かせる組織を目指すのであれば、オープンソースソフトウェア開発の歴史や手法から学ぶべき点は多く、そこから自社にあった制度や仕組みを作り上げていきたいと考えている。
その考え方やアプローチは、プロダクト開発に留まらず、経理/総務/財務/労務/法務などでも、セールス&マーケティングやHR業務でも、応用可能だ。エンジニアリング文化をあらゆる業務へと拡張することで、より創造的かつ効率的に、また大規模に実践できる会社づくりを目指している。ROUTE06で全社ワークスペースをGitHubに統一した背景もこの考え方が原点となっている。あくまで一例であるが、Gitによるバージョン管理の仕組み、情報共有及びドキュメンテーションに対する哲学を理解し、少なからず業務で実践してきたBiz人材がこれからの労働市場で評価されないことはないだろう。Andreessen HorowitzのMarc Andreessenによる有名な言葉として”Software Is Eating the World”があるが、”Software”というよりも”Engineering”が今後あらゆるビジネス機会や個人のキャリアの可能性を拡張していくと信じている。
3. 多面的なブランドエンティティ
「ブランドの価値はコラボレーションできる幅の大きさによって決まる。ブランドマネジメントとはそのデザインと実行である」。以前あるファッションブランドの創業社長から教えていただいた言葉が私自身の経営哲学にも影響を与えている。世界で最も高く評価されるブランドの一つであるディズニーは、ハイブランドから身近なブランドまで、世界で最もコラボレーションが多様でもある。ROUTE06においても伝統的な大企業とのビジネスを主体としながら、さまざまな企業や個人とのコラボレーションに取り組んでいきたい。そもそも現代のソフトウェアサービスでは無数のオープンソースやSaaSの組み合わせによって実装されているのだが、プロダクト開発に限らず、採用でもPRでも、販促でもCSRでも、あらゆる領域で協業の幅の広い会社を目指している。新入社員向けに提供している「The Day One Box」はその一例でもある。
ステークホルダーそれぞれの視点からどのような会社であるのか、端的で分かりやすいことは重要だ。一方で顧客の課題も解決手段も複雑化し、社員をはじめとした関係者の生活や企業に求める価値も多様化していくなかで、何事もシンプルに単一解が最善とは限らない。顧客企業の視点からは先進性や機動性を感じる会社でありながら、社員にとっては手堅く安定している会社に見えるなど、そのような事例は数多く存在する。むしろ立場によって多面的に見えるブランドエンティティの方が多様性と拡張性を併せ持つ組織と言えるのではないだろうか。土台となる共通指針や哲学は前提としてありながら、そういう自社ならではの多面性も表現していきたいと考えている。
足元での取り組み
前述の内容を踏まえた上で、ROUTE06の経営において足元で注力しているテーマについても紹介させていただきたい。
1. GitHubOps型のワークフロー
ROUTE06の全社員がフルリモートで働く組織であり、業務に関する報告や議論はSlack、GitHub、Figma/FigJam等で行われている。全社員がGitHubアカウントを有しており、プロダクト開発以外の業務においても「GitHubOps」を実践している。その背景は以前記事「全社ワークスペースに「GitHub」を選んだ理由と利用状況について」でも紹介している通りであるが、足元ではGitHubの利用範囲を拡張した仕組みや制度づくりに取り組んでいる。
まず全社/部門/個人の目標マネジメントとして「Company issue/CEO issue」という制度がある。仕組みはQuarterly OKRに近いのだが、OKRではKey Resultsの明瞭性/測定性を前提とするのに対して、Company issueは目標(Objective)の更新性/共有性を重視した制度になっている。各部門/各人が能動的に取り組めるissue(問い及び仮説)を設定し、定期的なフィードバックを通してそれが常に進化し続ける状態により重きを置いている。数値管理の重要性は疑う余地もないのだが、最善は事業の性質やフェーズに応じて変わるものだ。誰がどれくらい成果を上げているのかよりも、どんな目標に向き合って仮説がどう進化しているのかに注目が集まる文化にしていきたいという想いも込められている。Company issue自体はGitHubの特定Repository内のissueとして作成され、全社員が閲覧可能だ。部門や立場を跨いだ特別な案件を代表が起案するCEO issueというものもあり、同じRepository内で共有/管理されている。将来的には全社や部門単位のissueで個人/顧客情報に紐付かないものについては、ステークホルダーの方々との情報格差を減らせるように一部社外公開なども検討していきたい。
全社に関わる業務ドキュメント/制度/自己紹介などのストック型の情報に関しては、GitHub Pagesによって構築された「Handbook」に集約されている。コンセプトや用途はGitLabの有名なHandbookに近く、社内の誰もが各ドキュメントに対してpull requestを送ることができる。今後GitLabのように社外公開もしていきたいが、現時点では社内限定されている。まだプロトタイプの延長線ではあるものの、これからもフルリモートで多様なメンバーが参画していくことを見据えた上で、ディレクトリの構造やドキュメントのフォーマットなど可読性や更新容易性を高めていくだけでなく、社内ならではの面白いコンテンツや柔らかいユーザーインターフェース、遊び心のある機能なども拡充していきたい。社内ツールであってもそれを利用するのが個人である以上、今後はコンシューマー向けのプロダクトと同じように感覚的な魅力や楽しさも求められていくだろう。
足元で最も注力したいと考えているのは「CDR(Corporate Decision Record)」制度とその仕組みづくりである。その機能的な位置付けは稟議であるのだが、自社ならではの特別なシステムを作り上げていきたいと考えている。全社の意思決定をより透明化するだけでなく、組織の規模が大きくなるほど利用メリットの大きい社内プロダクトにすることを目指している。一般的な稟議システムでは必要最低限の起案と承認の情報を記録するもので、実際の議論の発生から最終的な承認結果の振り返りまでをシームレスに包含することは難しい。 内容はチャット/メール/会議などで事前承認済みでも、稟議のフォーマットに合わせた文書作成が別途行われていることも少なくない。また閲覧範囲も稟議の起案者と承認者及び上位管理者等の関係者に閉じている。ROUTE06ではそういった課題や制限を可能な限り取り払い、あらゆる意思決定のログを多くの社員がトレース/分析/閲覧可能な状態をGitHub上に構築していく方針だ。稟議システムは知見の集約エンジンとして独自の強みとなる水準を目指している。
2. 未来への土台をつくるコーポレート
ROUTE06では一般的なバックオフィス業務を「コーポレート業務」と呼んでいる。自社において理想とする経理・財務・労務・法務・総務等の業務は「後方」に類する言葉でイメージされるものとは少し異なる。情報システム/ITシステムの業務を「コーポレートエンジニアリング」と呼んでいることも似たような理由である。足元ではコーポレート業務の体制強化に着手しているものの、ショートレビュー等での指摘された必要要件の充足を目標にはしていない。将来の目指す姿にたどり着くためのステップとして、管理会計やコーポレートガバナンス、セキュリティ管理などに取り組んでいる。例えば管理会計/財務会計の面では、エンタープライズソフトウェア領域の国内外の大手企業の開示内容やKPI等を参考にしながら、その水準にできるだけ早く近づけていきたいと考えている。ITに関してもシングスサインオン/ゼロタッチデプロイ/キッティングなどの環境構築に加え、SOC2(Service Organization Control Type 2)レポートの取得等に向けた準備を進めている。
また社内制度やツールには自社ならではの特徴やユニークさにもこだわりたいと考えている。健康診断やインフルエンザの予防接種の手配、育児休業手当やSickLeaveなど福利厚生は少なからずあるものの、自社で働く社員のライフスタイル/ステージなどにフィットした制度やPCその他システム環境も拡充していきたい。また社内の文章を校閲してくれたり、何気ない会話に少し気の利いたコメントをしてくれる社内bot/キャラクターなどがいても面白い。ビデオ会議であっても大勢の前で顔を出すことを控えたい社員がいるならVTuberのようなアバターやイラストアイコンを使っても良い。外部のツールでそういったものがあれば積極的に試していきたいが、自分たちで設計・デザイン・実装していくのも良いだろう。現在の社員は日本居住者だけではあるが、これからの仕組みや環境・文化などはより包含性の高いものである。できるだけ早い段階で国という場所にも制限されない職場づくりにも取り組んでいきたい。
3. コミュニティとしての組織
会社という枠組みは従業員にとって自身を取り巻くコミュニティの一つでもある。転職や副業の一般化し、過去の経験や現場で感じた印象をもとに、これからより自分に合った企業というコミュニティを選びやすくなっていくだろう。待遇などの条件が合った上で、心理的安全性や、楽しさやワクワク感などの感情利得が大きいかどうかも重要な論点だ。ROUTE06でもこれまでも会社組織をコミュニティとして少なからず意識しながら、仕組みづくりやイベント企画等にも力を入れてきた。社内制度も強制力のあるルールよりもガイドライン主体とし、ミッションバリューを評価基準にも反映させていない。オンラインでの有志による社内イベントが開催されていたり、毎年全社員が集まる公式のオフサイトイベントもあるが、どれも最終的に参加するかどうかは社員の意思に委ねている。
規則/管理による行動制限も重要であるものの、利便/期待による行動促進も同等以上に重要だと考えている。メリットや面白さによって社員それぞれが自発的に参加/利用したくなるイベントや制度を作り上げていくことも今後経営や人事の重要な役割になっていくだろう。HashiCorpは“Company-Led Opportunities to Build Relationships”として、1.Casual Mentors、2.Collaborators、3.Friendsを挙げているが、ROUTE06でも同様に社員がそれぞれのソーシャルグラフを広げられる機会を提供していきたい。スポンサードの実績があるRubyKaigiやDesign Mattersなどに限らず社外コミュニティに社員が関われる機会を増やしたり、社外の関係者を招いた大規模なイベント開催も企画検討している。会社として音頭を取ることもあれば、非公式であるものの活動を承認しているサークルのようなコミュニティが社内に数多く存在していても面白い。メトカーフの法則によれば、ネットワーク通信の価値は接続されているシステムのユーザ数の二乗に比例するらしいのだが、組織においても同様にメンバーが増えるほど所属価値が非線形に増大していくコミュニティを目指したい。
4. 足跡で築くブランドエクイティ
経営として複雑な課題に実直に向き合い続ける以上、顧客、社員、株主、取引先など、各ステークホルダーの視点に応じて会社が異なる表情に見える状態を良しと捉えている。すべてを単純化してアラインする必要はない、むしろ多面性を包含できるような会社を目指していきたい。ただしそれぞれの業務や行動の土台になるガイドラインは必要だ。今はまだ組織規模が小さいため、経営のこだわりや指針をチームに伝えられる機会も少なからずあるものの、このままの状態で良いとは考えていない。歴史あるグローバルブランドは経営陣やブランドマネージャーが変わったとしても、土台となる哲学や指針は脈々と受け継がれているし、時代やチームの特徴に合わせた新しい創作にチャレンジできる環境もある。ROUTE06でもそういった状態を目指して、自社のコーポレートアイデンティティの言語化やブランドブックなどの継続的な更新に組んでいきたい。
我々のような業態で「ブランド」を意識することは少し風変わりに思われるかもしれないが、エンタープライズ領域で高単価な製品とサービスを提供している企業である以上、コーポレートブランディングにこだわることは必然でもある。グローバルでは相応のブランディング予算を設けているソフトウェア企業も少なくない。目指すべきブランドは、洗練された言語および視覚表現によるものだけではなく、過去から現在までの一貫性のある足跡によって築かれるものである。その効率と練度を組織的に高めるためにはガイドラインが重要になるが、足元ではROUTE06らしい表現実績の積み上げが大切であり、ユニークなコンテンツを順次制作していく方針だ。社内グッズでも、プロダクトでも、Deckでも、制度でも、あらゆる制作物が足跡になる。どのような洗練されたガイドラインやレギュレーションであっても、それに従う1だけで自社らしいアウトプットをそれぞれが自発的に生み出せるわけでもない。一貫性のある足跡が積み重なりと共に、その実用性が高まっていくと考えている。
おわりに
従来スタートアップのセオリーとしては、プロダクトは仮説検証を繰り返すもので新しい施策を挑戦すべきであり、組織やコーポレート面ではスタンダードな制度を採用すべきという意見が主流であったと思う。今後もそれがセオリーであることに変わりはないだろう。ROUTE06としてはプロダクト開発と同等に新しい制度づくりなどの取り組みにも力を入れていく方針だ。時代に合った最善の更新に挑戦し続けることで、多くの社員や関係者が生産的かつ創造的に働ける状態を目指したい。それが事業の安定成長を実現するための近道であると考えている。
ステークホルダーにとって最も企業価値の高い会社とは何か、実現に向けて何が必要なのか。本記事ではその問いに向き合いながら私たちなりに描いた姿と足元での注力していることをご紹介させていただいた。この会社の成長によってどれだけの価値と機会を生み出すことができるのか、想像すると少なからず気持ちが逸ることもあるのだが、実直にできることから歩みを進めていきたいと考えている。なぜ伝統的なグローバルブランドの印象的価値は容易には揺らがず影響力を増し続けているのか、その理由はシンプルに実績という蓄積資産が膨大だからだ。それは絶対的な質と量と時間の重ね合わせによって築かれたものである。ROUTE06もその足跡の厚みによって、多様な関係者に価値を評価される会社にしていきたい。