エントロピーの先に生命が見る夢と、世界と時間の美しさと、挑戦

高橋祥子
11 min readJan 3, 2018

元旦にこういうツイートをしたらたくさんリツイートしていただいたので、せっかくならそう思った背景と決意を書き残そうと思い、初めてブログの筆を取りました。

すべては宇宙の大原則から始まる

こんなにも世界は進化しているのに、何故また次々新たな問題が出てくるのだろうと、疑問に思うことがあります。

たとえば、インターネットによって確実に世界は便利で安全になっているのに、より孤独を感じます。WHOは、世界で鬱病に苦しむ人が急増し、推計約3億人強にも上ったと発表しています。飢餓問題が減っても、肥満患者は世界に約10億人いて、今度は過食で死ぬ人が増えています。

たとえば会社経営においても、組織としては確実に成長しているのに、課題を解決したと思ったらまたどんどん新しい課題が出てきます。以前、オリックスの宮内さんが、会社小さいうちはいろんな問題があると思って頑張って会社を大きくしたけど、結果的には、会社が大きくなってわかったのは、より大きな問題が起こるということだけだった、とおっしゃっていたのが印象に残っています。これは単に成長して環境が変化するからだけではないと考えています。

一瞬安定しても、必ずすぐに変化してしまいます。変化することだけが変わらないのはなぜか

それは宇宙の大原則に帰結するのだと考えます。系において、エントロピー増大の法則(熱力学第二の法則)が宇宙の大原則だからです

エントロピーとは、系における乱雑の程度のことで、何もしないとエントロピーは必ず増大します。

DNAの複製ミスで癌細胞ができるのも生命にとってのエントロピー増大だし、戦争が起こるのも国にとってのエントロピー増大だし、同じように経済が分散していくのもエントロピーの増大に沿っています。そのエントロピー増大に対してエネルギーを加えて秩序を与えいくことで、DNA複製ミスの修復機構ができたり、国際政治によって戦争を回避したり、仮想通貨など分散型の新しい経済システムができたりします。

細胞も、生命も、家庭も、会社組織も、経済も、宇宙も同じようにエントロピーが増大するのは変わりません。すべての組織体が戦っているのは、エントロピー増大の法則であるとも言えます。

つまり、変化することが変わらないのは①宇宙の大原則が存在するから、また②変化しない状態にとどめるために大きなエネルギーが必要だからです。

変化することだけが変わらない世界にどう存在するか

解の一つは「揺らぎ」を持つことだと考えています。

日本にいると体感できると思いますが、地震が起こったときに高層ビルは決して揺れないような頑丈で堅いものではなく、あえて揺れるように設計することで、地震という動きがあっても揺らぎによって対応しています。

それと同じで、生命の仕組みも、頑丈な堅いものではなく、変化があることを前提として、揺らぎを担保することによって、動きながら、常に変化を受けながら、平衡を取るという手法を取り入れています。

これを、福岡伸一先生は「動的平衡」という言葉で表現されています

動的平衡とは、常にエントロピーが増大する世界において、動きながら、常に変化しながら平衡をとるという共通の法則です。

これは会社経営も個人の人生も生命にも当てはまると考えていて、常に周囲の環境が変化することを前提とした上で、変化に対してゆらぎを持って柔軟にエントロピーの低減にエネルギーを使っていくのが重要です。

個人の文脈ではたとえば、起業家や芸人やアーティストを見ても、変化に対応しながら長く生き残っている人は揺らぎを持つ人だなとよく思いますし、逆に、この人の言うことは的外れだなと思う人は、変化しないことを前提とした、既得権益や確立された柔軟性のないポジションの人が多いなと思います。

会社運営という文脈ではたとえば、とあるベンチャー企業の社内マニュアルが極めて秀逸だという話を聞きましたが、良い社内マニュアルとは生き物のように変化して育っていくという方針で運営していると聞いて、これは、組織が変化していくというエントロピー増大を前提として「揺らぎ」を持って動的平衡をとることを意識している例だと思いました。

個人の人生も、企業の経営も、経済も、国もすべてに該当します。

ただ、生まれたての赤ちゃんが何にでも染まり得るように、現状維持のバイアスは若者で小さく、年を重ねるほど大きくなってしまいます。

私も年を重ねて、いつか揺らぎ失ってしまうのではないかと思うとこわいので、定期的に特定期間あたりの自分の揺らぎ度を振り返っています。

必要なのは揺らぎと意志とエネルギー

何もしないとエントロピーが増大して無秩序になるので、当然揺らいでいるだけで何も意識しないで何もしないとエントロピー増大の宇宙法則に流されて、平衡をとることはできません。

しかも、エントロピー増大は無限(または無限に近い)ですが、それを変えるエネルギーは人でも企業でも国でも、有限な資源です。

では何が重要であり、どうすればよいかというと、意志です。

揺らぎを持つだけで意志がないと、危ないです。たとえば目先の流行に飛びつくという行為は、揺らぎを持つだけで意志がない。そういう人は人生が危ないし、そういう会社は経営が危ないです。

たとえば海に浮き輪で一人浮いているようなイメージで、どこの位置を目指したいかの意志がないと、宇宙原則の大きな流れに何処まででも流されます。

よくある人工知能の論争で、人工知能の台頭によって消滅する仕事というような記事が出回ってますが、要は意志か能力・知識のどちらが重要かを延々と議論しているだけに過ぎないと思いますし、意志の方が重要な場面に身を置くべきだと思います

どこかのペンギンさんが、仮想通貨の価値が上がるかどうかより、上がるだろうというポジションを取ることの方が大事と言っていましたが、それと同様で、自分や会社や国をどこのポジションに考えるか、どういたいか、何を目指すのかということの方が大事です。

拙著でも、意志の重要性について言及しましたが、それが何故かというと、エントロピー増大の中の動的平衡を保つには、どこを目指すかが極めて重要だからです。

それは、何も目指さないと何も起こらないのではなく、①何も目指さないと無秩序度が増大するという理由と、②それを阻止するエネルギーが有限だからという理由です。

では意志が重要なのはいいとして、じゃあ、我々生命は何を目指して、何を夢みるのかについて考えたいと思います。

幸福と、生命の生存と保存の両立は果たして幻想なのか

これまで私は「生命の生存と種の保存への挑戦」、それが個々人を幸福にすることと必要十分条件であると考えてきました。

つまり、食欲、睡眠欲、性欲があり、それが満たされると幸福に感じるのはそれが個として生き延び、種として保存されるという生命の意志の大原則に役立つからだと考えてきました。生理的な欲求だけでなく、マズローの欲求5段階説の上位にある承認欲求や自己実現欲求も、広義の意味ではその欲が存在することによってその個体生命の生存と種の保存の蓋然性を上げると思います。

以前幸福について考えたとき、人類の進化のルールに沿って考えたのでそのような仮説を持っていました。

私は、自分が行っているゲノム解析テクノロジーを使った仕組みは、疾患メカニズムの新しい研究などに明らかに役に立っていると思いますし、今後も医療や健康、社会問題を解決するものだと信じて事業を推進しています。

しかし同時に、それは果たして個人の幸福に貢献するものなのかと、その課題解決は果たして世界の解なのか?と苦悩することもあります。

なぜなら、人類の進化の過程は、生存と繁殖の可能性は増幅してきましたが、必ずしも個人の幸福を増幅してきたわけではないと思うからです。日本では戦争や飢餓で死ぬことは少なくなりましたが、一方で自殺が10代から30代の若者の死因の1位となっています。

そこで、個人の幸福は、個体生存と種の繁栄の必要十分条件ではないかもしれないと思うようになりました。つまり、個人の幸福は個の生存と種の繁栄に貢献するが、個の生存と種の繁栄を達成したからといって個人が幸福とは限らないという説です。

個体の幸福が生存と繁殖のためのツールとして設計されているのではないかと考えると、上記の説はある意味トートロジーのようなものだなと感じます。

そうすると、私が目指している意志そのものが幻想であるのではないかと不安に駆られます。苦悩をもたらす場合のほとんどが、先に未来がないのではないかと思うことが原因ですが、そのような気持ちになってしまいます。

何を目指したら、個人を含めた世界が幸福になるのかはいまだ模索中で解が見いだせていませんが、葛藤の中で絞り出した私なりの解が、テクノロジーを活用することでエントロピー増大に抗うということです。

テクノロジーを活用した変化とは何を意味するか

先日とあるベンチャー界隈のスタートアップピッチを見たエンジェル投資家が、テクノロジーを活用したものが全くなかったと言っていました。確かにそうだなと思いましたが、それではテクノロジーを活用するとはどういうことか?と考えます。

テクノロジーとは、絶対的なものだと思われがちだが実はとても相対的な性質であるとよく思います。

かつて火や石器の発明が偉大なテクノロジーであったが普及した現在ではそう見なされないように、認識と時間軸によって定義されうるものです。

テクノロジーの本質は変化そのもので、①それ自体が変化していき、また②それによってしか引き起こされない変化があるもの、がテクノロジーであると考えています。テクノロジーを使うということは、これまでになかった選択肢ができるという強烈な変化の源泉となります

つまり、エントロピー増大の宇宙法則に抗うほどの変化を起こすには本質そのものであるテクノロジーの活用が必須であると考えています。

Twitterの投稿に、我々が継続的な幸福を達成するための手法は経済ではないと書いたのは、既存の枠組みのレバレッジをかけて少しの差を搔い摘むだけでは継続的な幸福を達成できないのではないかと仮説を立てているからです。

エントロピー増大に抗い世界の幸福を達成するには、変化を起こす力しかないと考えているのが、私も生命科学の解析技術というテクノロジーを活用して挑戦を行っている理由です。

もちろんそれが世界の解かどうかはまだわかりません。世界の仕組みの片鱗に触れるとあまりの増えていく乱雑性と解への遠さに愕然とすることもあります。

それでも世界と時間が美しいから命を燃やす

上述してきたように世界の仕組みに愕然とし、生きる気を保つのが大変な時期もあり、命の電源をオフにして見なかったことにした方が楽なのではと思うこともありました。

しかし、やはり生きている折に触れて世界が美しいと感じ、すべての原子、分子、細胞、生命が尊いと感じるから、挑戦しようと思っています。

世界が美しい理由は、①代替不可能であることと、②すべてが刹那的なものであることだからだろうと推測します。たとえば桜が美しいと思うのは永遠ではないからだというように、変化することが変わらない世界を同じように美しいと感じます。

ニーチェがそう言ったように、過去が現在に影響を及ぼすのと同じくらい、未来が現在に影響を及ぼします。桜が刹那的で美しいと判断できるのは、もうすぐ散ってしまうという変化した未来を想像できるからです。

そう考えると変化によって苦悩し、変化によって美しさを感じて生きることができると宇宙法則に帰結し、宇宙に住んでいるのだなと実感します。

世界と、時間が、美しいと思うから、解がわからなくても私は命を止めずに燃やすことができると、そう思います。

だから、私はまだまだ挑戦します。

まとめ

・世界のあらゆる問題は、宇宙の大原則であるエントロピー増大に沿っているから、今後も変化することだけが変わらない。

・変化を前提として揺らぎを持って対応するのが必要で、その際に意志が一番重要。

・私の意志とは、テクノロジーを活用して世界をいい方向にエントロピーを低減することで、心が折れそうになるけど世界と時間が美しいと思うからまだまだ挑戦します。

もっと考え方を知りたい方は・・

生命科学オンラインサロン「高橋祥子ラボ」のラボメンバーを募集中です!オンラインでニュース配信・ライブ配信をしたりメンバー同士でディスカッションをしたりしています。興味ある方は是非どうぞ。
https://community.camp-fire.jp/projects/view/119285

--

--

高橋祥子

ジーンクエストというゲノム解析ベンチャーの代表取締役を務める高橋祥子のブログです。京都大学農学部、東京大学大学院農学生命科学専攻応用生命化学科博士号。