なぜ日本の雑貨デザイナーは世界を目指さないのか? ① 【海外商流の違い】
日本の雑貨は世界レベル
私はアメリカで10年ほど前からデザイン性に優れた雑貨をミュージアムショップなどへ卸す会社を営んでいます。そのため新しい商材を探しに世界各国の展示会や雑貨店へよく足を運びますが、やはり日本には他の国には見られないデザイン性に優れた面白いアイテムが数多く目に止まります。そのことを裏付けるように、ロフトや東急ハンズなどの雑貨店は外国人観光客がこぞって押しかける人気のお土産ショッピングスポットとして海外のガイドブックなどにも紹介されています。また、優秀なデザイン製品が集まるニューヨーク近代美術館(MoMA)のギフトショップを覗いてみると、陳列されている商品の数多くは日本人デザイナーによって手がけられているものです。これらのことから日本のデザイナーの実力は世界でもトップレベルだと常日頃感じ、それは同じ日本人として私も非常に誇らしく思います。

しかしそれらの製品が日本国外で数多く販売されているかというと、良い製品が多い割には世界規模で市場に出回っているものは意外と少ないと感じます。せっかく企画、デザイン、品質とも最高のモノなのに、商売としては実質国内でしか売られていないものが多い実情に違和感と共に勿体無いし残念だと感じます。そこでこれから数回の記事に渡って、私の経験を基に日本とアメリカの市場や商流の違いを比較しながら、その原因について分析したいと思います。
掛け率とセールスレップ制度
海外でビジネスを目指す中小規模の雑貨メーカーがまず初めに戸惑うのは国内と海外との掛け率と卸業者に対する考え方の違いです。
日本では通常上代(店頭価格)をベースに掛け率が設定されており、そのレートは小売店への直売や卸業者を通す場合などの条件によって様々ですが、概ね上代の40〜60%で卸されます。しかし欧米では下代(卸価格)をベースに商談が行われ、日本より独占禁止法が厳しく取り締まられていることもあり上代はあくまで参考価格としてしか提示されません。よって小売店がそれぞれ適正と思う価格で自由に上代を設定するのですが、通常はkeystoneと呼ばれている仕入れ値(下代)の倍の値段がつけられます。つまり下代は上代の50%ということになりますが、ミュージアムショップなど立地や店舗の種類によってはさらに高い上代で販売しているお店も珍しくもないので、一概には言えません。よって商談は全て下代がベースになっています。
またアメリカではモノさえ良ければ中小規模のメーカーが直接小売店やチェーン店舗とも取引が可能なため、日本のように卸業者を通して市場へ出すということはあまり一般的ではありません。よって自ら展示会などへ出展したり営業活動を行うのが主流ですが、国土が日本の何十倍と広い上、費用の関係から一年間に出展できる展示会の数も限られてしまいます。そのため販路を広げる対策として、在庫を持たない販売代理店のような存在であるセールスレップ(sales rep)に営業を委託することがあります。Sales repはメーカーの代わりにそれぞれが担当する地域の店舗を廻って新規顧客開拓やリピート注文を受注し、その報酬として通常受注額の15%(上代の7.5%相当)をコミッションとして受け取ります。ただし各店舗への商品発送やサポートなどはメーカー自身が行うため、あくまで外注の営業部隊という位置付けです。

海外販売価格の違い
このように自国内での販売はなるべく自社で行うアメリカの雑貨メーカーも、海外販売に関してはその国の商流を熟知している卸業者(ディストリビューター)に頼るしかありません。そのため展示会に出展する際には、国内の小売店向けに提示するwholesale price list(下代で記した価格表)に加え、海外からの店舗やディストリビューターからの問い合わせに備えてinternational discountと呼ばれる海外業者向けの割引率を事前に用意している業者もいます。国内の小売店へ販売する場合と違い、海外の小売店や卸業者は外国までの商品輸送費や為替・在庫リスク、さらには独自のマーケティング(カタログの翻訳、作成、展示会出展など)費用がかかるため、国や商品によってバラツキはありますが、メーカーは下代からさらにディスカウウトとして50%まで割引を提案していても珍しくありません。
この場合、海外の卸業者は上代の25%で商品を仕入れることができるため、小売店への卸価格はそれほど高騰せず海外でも自国内とそれほど変わらない価格で市場へ流通されます。これに対して日本のメーカーは海外の業者へ対しても国内と同じ価格を提示することが多く見受けられ、その結果海外での市場価格は国内と比べて倍近く高くなってしまいます。

アメリカの中小規模のメーカーは、初めて海外から取引の依頼を受けた場合、もともと海外の売上は無かったものと捉えて海外での市場価格を優先して利益(粗利)を削ることにそれほど抵抗がありません。しかし日本のメーカーの多くは、同じ状況であっても国内と同じ条件を提示せざるを得えないことが多いです。
その根本的な理由は海外メーカーと日本メーカーの生産コストに対する考え方の違いにあります。次回はその事についてもう少し掘り下げてみたいと思います。