なぜ日本の雑貨デザイナーは世界を目指さないのか? ②【 自分で自分の製品をパクる】
前回の記事では日本でデザインされた製品がなぜ海外ではそれほど販売されていないのかという疑問から、アメリカと日本の市場や商流の違いについて考察してみました。今回は生産コストに対する考え方や、海外での生産、さらには模造品に対する対策について考えてみたいと思います。
生産コスト
前回の記事で、アメリカのメーカーが海外の卸業者へは下代を更に下回るinternational discountを含む上代25%の価格を提示できるということを述べました。実際そのような値段を実現するためには、企画段階から生産コストの目標を上代の約15%に設定した商品開発を行わなければなりません。当然もしこのコスト目標を達成できない場合には、企画自体がボツになることもあります。もちろん戦略的な理由からそれ以上の生産コストで販売を開始する企画もありますが、その場合でも最終的には15%程度まで下げられる道筋がついているという前提です。仮にコストが下げられないと分かっている場合には、上代を上げても市場に受け入れられると見据えているからではないかと考えられます。

これに対して私が接して来た日本の多くの中小規模のデザインハウスは、海外のメーカーほど粗利を確保する事にこだわっていないように見受けられます。仮に量産時の生産コストが上代の30%であっても、将来的に下げれる見込みがあるわけでもなく、市場価格も上げる予定もなく販売を継続している業者を多数みてきました。そのため仮に海外の小売店やディストリビューターから商談があったとしても、国内向けとそれほど変わらない価格でしか提示することができず、せっかくの海外進出のチャンスを逃すだけではなく、注目されれば注目されるほど海外業者に類似品を開発されてしまうという事にもなりかねません。

せっかく精魂込めた作り上げた製品が、注目を浴びたところで他人に持っていかれるのはデザイナーとしては一番悔しいに違いありません。なので新しい製品を投入する際には、日本国内だけでなく海外の市場も初めから意識してコストターゲットを上代の10%−15%に設定することが寛容です。この目標が達成できればこれまで以上の利幅が稼げるだけでなく、海外での市場価格も国内とあまり差が出ないような卸値で販売することが可能となります。
自分で自分の製品をパクる
ではどのように上代10%ー15%の生産コストを実現するのでしょか?もちろん市場価格を上げても販売に影響がない商品なのであれば、まずはその適正価格に合わせることが先決です。しかし既に市場が許容するピークの価格で販売していて国内で生産を行っているのであれば、海外生産の可能性を検討するより方法はありません。
ただ現実問題として日本の小さなデザインハウスが初めから海外で生産を行うには工場の選定やロット数の問題など様々な課題が立ちはだかります。そのような場合、海外での生産、販売、管理を委託するという選択肢もあります。その具体的な例として、弊社で数年前からアメリカで販売しているプレイデコ・グリーティングというデザイン雑貨を取り上げたいと思います。

この商品は株式会社トゥエルブトーンの角田崇氏がデザインした木でできたグリーティングカードで、送られた相手はカードの文字を抜いて組み合わせるとロボットに変身するというユニークな商品です。(彼の作品はこの他にもグッドデザイン賞を受賞したパイプロイド紙工作キットなど、アメリカでも大人気なアイテムを数々生み出されています。)
このグリーティングカードは800円で販売されていますが、生産コストの関係でそのままアメリカへ輸出したとしたら、店頭価格は1600円相当に膨らんでしまいます。その理由は前回も書いた通り、海外の業者には日本の問屋にはかからない余分なコスト(輸出費用、為替リスク、パッケージ、マーケティング費用など)が上乗せされてしまうからです。この値段ではグリーティングカードとしての適正市場価格を大きく超えてしまうため、いくら商品が良くても販売できる数は限られてしまいます。
そこでこのデザインを弊社がライセンスして、海外で新たに生産をする事にしました。角田氏には新たに作る金型や試作品の監修及び海外版パッケージデザインなどをお願いし、量産時にはロイヤリティを支払うという条件で合意ができました。これにより角田氏は海外での工場選定、生産管理や初期投資、マーケティングや販売など気にする事なく自分でデザインした商品が海外の市場で販売されるチャネルを確保できます。弊社も優れたデザインの製品をラインアップに加えるだけでなく、パッケージのデザインや試作品の監修などをデザイナー本人にお願いできるため製品クオリティーを高めることが可能となります。

ただ実際海外の工場で新たにラインを立ち上げるには根気も必要で、何度も試作を重ねなければなりませんでしたが、最終的にはお互い納得できる日本と遜色のないクオリティーの製品を仕上げることに成功し、更に日本では販売されていない新色のスタイルもラインアップに加えることができました。
ちなみに日本で販売されている商品は今でも引き続き日本で生産されており、販売や生産管理もトゥエルブトーンが引き続き行っています。その結果、国内販売・生産と海外販売・生産を綺麗に棲み分けられ、販売戦略やサポートなども国内と海外でうまく振り分けられています。
現在この製品は全米各地のミュージアムショップや雑貨店で取り扱われるようになっていますが、アメリカでの上代は日本の市場価格とほぼ同じの$8〜10。また海外向け卸し価格が提供できるため、アメリカ以外のディストリビューターとも取引を始めており、各国の市場に適した上代で販売され販路は増え続けています。

このように生産コストを下げることができれば、日本から海外へ販路を開拓する第一歩になるのは間違いありません。また、海外での生産は必ずしも自分でやらなくても信頼できるパートナーさえいればそれほど難しくないということも上記の例から伺えると思います。
私はよく日本のデザイナーに「他人にパクられる前に自分で自分の製品をパクったら?」と話しています。模造品が作られる前に自分が監修した製品を海外で作ってしまえば、悪徳業者に模造品を作られたとしても価格では大きな差はつけられないし、クオリティはこちらの方が高いため、そもそも模造品を作られる抑止力にも繋がります。模造品のほとんどは、クオリティが多少悪くても日本より桁違いに安く作れるというのをアドバンテージとしているので、価格で同等であればそもそもパクられる動機付けになりません。
ネットが普及した現代では並行輸入品が世界各地の消費者へ販売されているので国内外であまり大きな価格差が商品を野放しにしておくことは好ましくありません。国内での販売にしか視野を入れず生産コストが高いまま製品をリリースしてしまうと、その瞬間から模造品を作る業者の標的になってしまいます。その結果、最悪の場合では日本国内の販売網も奪われてしまう可能性についても懸念を忘れてはいけません。
そこで、次回はなぜこのような懸念材料があるにも関わらず、海外での生産を積極的に行わないメーカーが多く日本にいるのかについて考えてみたいと思います。