なぜ日本の雑貨デザイナーは世界を目指さないのか? ③【メード・イン・ジャパンの呪縛】
前回の記事では日米の雑貨デザイナーが前提としている生産コストの違いや、最小限のリスクで海外生産が可能となるビジネスモデル、更に海外生産が模造品の抑制につながる理由などを例を使って解説しました。そこで今回は海外進出を躊躇するデザイナーの心情について考えてみたいと思います。
メード・イン・ジャパンの呪縛

どの世界でもデザイナーは自分の作品に誇りを持って製品を世に送り出していると思います。なかでも日本のデザイナーは初回の記事に書いたように世界レベルでも非常に評価されているため、より誇を持って最高の商品を開発しています。しかし時としてそのプライドが商品を世界へ羽ばたかせる弊害になっているのではないかと感じることがこれまで何度もありました。
例えば前回の記事で掘り下げたように、どうしても生産コストが下がらないのであれば、市場価格を上げるしか利幅を稼ぐ方法はありません。しかしそこで無理をして薄利のまま国内の市場へ商品を投入した場合、海外の市場へ適正価格で展開する粗利の余裕はありません。
ただ製品やデザインそのものは素晴らしいため、その商品は国内の展示会や店舗を訪れた海外メーカーの目に止まる可能性は十分にあります。その担当者はパッケージに記載された情報を基に海外向けの卸価格を問い合わせるかもしれませんが、デザイナーは日本と同じ下代でしか提示できないためコスト競争力がないと判断されてしまいます。そうなると、せっかく良い商品なのにそのコストの高さに納得できないメーカーは自社、あるいは提携先の工場を使って似たような製品を開発するはずです。もちろん100%同じものが出来上がることはないでしょうが、消費者には区別がつかないものに大きなメーカーであればあるほど仕上げてきます。
メーカーはその商品を海外の展示会で日本と同じかそれ以下の値段で出品します。その結果、二番煎じの製品が国外で人気となり、本来恩恵を受けるべきデザイナーには後味の悪さだけ残るというケースはこれまで何度となく目の当たりにして来ました。
日本でしか作れないはずがない
こういうことが起こった場合、当然模造品を作って販売したメーカーは非難されるべきですが、仮に日本のメーカーが商標や特許の登録をしていたとしても、実際法廷で争うほどの資金力はほとんどの中小企業にはありません。私はそこにお金やエネルギーを注ぎ込むぐらいであれば、模造品をそもそも作られないように海外へ生産をシフトすることに力を入れた方が良いと考えます。もし本気で日本のメーカーが海外での生産に取り組めば、必ず模造品よりクオリティの高いものが彼らと同等かそれ以下の価格で製造でると考えるからです。
また、過去に海外で生産をチャレンジしたけれど試作の段階で諦めたメーカーの話もよく聞きます。海外の工場とのコミュニケーションもうまくとれないまま、ストレスを感じながら試行錯誤してみたものの、届いた試作品のクオリティが日本ではあり得ない酷いものだったと。
日本のモノづくりのクオリティが高いことは世界で認められています。なのでそこを基準にしてしまうと、国外のどこで作ったとしても恐らく初めての試作のクオリティは日本でやる場合と比べたら見劣りする可能性は高いです。しかし文化や言語の違いがある中、一度や二度の試作だけで海外工場全体のスキルを見下して「日本の同じものは彼らには作れない」と判断するのは違うように感じます。
実際製品のクオリティを重視するアップルのiPhoneも、ほとんどの生産は中国で行われています。国籍や人種に関係なく、きちんと指示ができれば100%でないにしても必ず日本人の求めるクオリティに近いものは作れます。
ただ日本でモノを作ることに拘りを持つ事自体を否定するつもりは全くありません。日本で作りながらグローバル展開が可能なコスト競争力が維持できるのであれば、私もそれが一番望ましいと考えています。しかしコスト競争力が得られていないのに、日本以外では同じものが作れないと誤解した結果、模造品によって市場を奪い取られていては非常にもったいないと感じます。「海外では同じものが作れない」と見下す前に、まずは今一度冷静にコスト競争力を上げる方法を模索するのが懸命だと思います。