なぜ日本の雑貨デザイナーは世界を目指さないのか? ④【島国ニッポン】
前回の記事では日本のデザイナーが海外での生産を躊躇する理由についていくつか考えてみました。今回は実際海外進出を果たす際に注意すべき、日本と海外の展示会やディストリビューターの違いについて解説したいと思います。
島国ニッポン
日本では卸業者はお互い販路に縄張りを設定しており、それが紳士協定で守られている風習があります。よって雑貨メーカーはその縄張りに沿って競合しない複数の卸業者へ商品を提供し、販路を広げていきます。しかし海外では複数の卸業者が同じ商品を同一国内で展開することは原則的にタブーとされています。その理由として一つあげられることは日本は国土が圧倒的に狭く島国であるため、隣国から商品が流入しにくいことが考えられます。さらに日本人には他の国より道徳的気質の高い傾向が見られるため、この紳士協定が成り立っているものと考えられますが、これは世界的には非常に珍しいケースです。

アメリカやヨーロッパなどで行われている展示会には、国や地域に限定されず世界中のバイヤーが一斉に会場へ買い付けに集まってきます。また訪れるバイヤーは商品の購入を目的に予算や決済権を持っているため、気に入ったモノが見つかればその場でどんどん発注していきます。よって出展している卸業者やメーカーは、縄張りや市場をそれほどそれほど意識せずに積極的に営業を行っています。
そのため日本のように業種やエリアで選別して営業することは難しく、そもそもバイヤーも同じ商品が複数の業者で取り扱われているという意識が低いため、市場の混乱を避けるために海外では国ごとに商品の窓口を一本化することが一般的です。このことを知らずに国内のメーカーが海外展開する際に日本と同じように複数のディストリビューターと契約を結んでしまった場合の問題点を次に解説します。
市場価格の下落スパイラル
第1回の記事で解説した通り、アメリカでは商品の販売価格は店舗の仕入れ値に合わせてそれぞれの店舗が自由に決めています。そのためもしダブついた在庫を抱える問屋が、在庫処分で下代を大きく下げて店舗へ卸してしまうと、上代(店頭価格)もそれにつられて下がる可能性があります。
複数のディストリビューターと契約していた場合にこのようなケースに直面すると、他の卸業者も追従して卸値の下落スパイラルが始まってしまい、市場価格もそれに伴い下落の一途を辿ります。こうなってしまってはせっかく安定した価格で市場展開していた商品も在庫処分扱いに晒されてしまい、最終的には店舗での居場所を失ってしまうことでしょう。
ディストリビューターのモチベーション
次に展示会で複数のディストリビューター(ここではA社、B社とします)が全く同じ商品を展開しているケースを例に挙げてみたいと思います。A社は独自に英文のパンフレットなどを用意して積極的に営業を行い、商品に対しての知識も豊富です。それに対してB社は抱えている様々な商品ののほんの一部という扱いで、商品のことを熟知しているスタッフは皆無です。
展示会に訪れたバイヤーは、A社のブースである商品に興味を持ちました。商品知識が豊富なスタッフの営業の甲斐もあり、商品を後日発注すると言ってその場を立ち去りました。初日に会場を一通り廻って発注する商品をリストアップしてきたバイヤーは、次の日に再度会場を訪れた際たまたまB社の前を通り、同じ商品を展示していたためA社と勘違いしてしまいその場で発注をしました。
このようなことが起こってしまうと、A社の営業努力は水の泡ですし、商品知識に乏しいB社がどこまで発送後の営業サポートを行うかも疑問です。最終的にはサポートが得られない商品は売れなくなってしまい、ディストリビューターやメーカー双方誰も得をしない結果になってしまいます。さらにA社がお客さんを横取りされたと気付いた場合、メーカーとの関係も崩れてしまい商品の取り扱い自体をやめてしまうことになるでしょう。
機会損失の連鎖
次に実際私が直面した問題を実例に当てはめて説明します。
弊社が販売している京都発の紙工作キット、パイプロイドの魅力は一見何の変哲も無い紙パイプ数本から、ハサミ一つで簡単に可愛いロボットが組み上がるというところです。今でこそ我々は米国での独占販売権を得て全米各地のミュージアムショップなどに卸していますが、実は取引当初にはもう一社ディストリビューターが存在していました。

弊社ではこの商品の販売ポテンシャルを最大限に引き出すために、社内で組み上げたサンプルを一つづつ作成し、アクリルのケースに糊付けした状態で店舗へ初回注文と共に提供しています。というのもアメリカのショップでは日本とは違い、商品の陳列を綺麗に行ってくれるとは期待できません。我々としてはこちらの意図したディスプレイを店舗に置いてもらえることのメリットは大きいと判断して、かなりのコストと労力がかかりますが必要経費と割り切ってこのような取り組みを行っています。(実際あるミュージアムショップでは今でも10年前に送った同じケースを使って販売しているところさえあります。)
しかし取引当初に存在していたもう一方のディストリビューターは、サンプルを自社で作ることもなく、メーカーから取り寄せた数個のサンプルをそのまま(ケースなしで)店舗へ送っていたただけでした。アメリカの店員やお客さんはお店の商品やサンプルの扱いも雑なため、ケースに入っていないサンプルではものの一週間も経たないうちに無残な姿になってしまいます。そのため彼らが卸したショップでのリピート注文率は弊社と比べて桁外れに低く、さらに問題は大量の売れ残りが発生したためお店では「売れない商品」という印象を植え付けてしまったことです。その結果、後に弊社が営業を行った際にも全く話を聞いてもらえませんでした。
本来弊社のサンプルケースを置いていれば間違いなく売れていた店舗なのに、他社のせいで「売れない」店舗がどんどん増えてしまいました。最終的には手遅れになる前になんとか弊社が独占販売権を得ることになったのですが、もう一歩遅れていたらこれほど長く販売を続けることは難しかったかもしれません。
以上のように海外では同じ国にいる複数のディストリビューターに同じ商品を卸すことはお勧めできません。
さて、いよいよ次回は最終回となるので、これまでのポイントをまとめつつ、海外進出を目指している全国のデザイナーさんへ最初の一歩となる提案を行いたいと思います。