FTXという取引所から、ビットコイン ハッシュレートの先物が登場しました。
原資産となる値はビットコインの採掘難易度です。正確にはハッシュレートではありませんが、推定ハッシュレートに追従する形で難易度の値は変わるので、便宜上ハッシュレート先物と呼んでいるようです。
四半期毎の先物が上場しています。具体的な商品設計を見てみましょう。
例えば、BTC-HASH-2020Q3 の場合、第3四半期(7月〜9月)の間の採掘難易度の平均値を100京(1 trillion)で割った値が原資産価格となります。
執筆時点では、ビットコインの採掘難易度は約16trillionなので、期近の先物価格は16前後であるはずです。現在、期近の価格は約18となっているので、難易度が今後上昇するという思惑があることが分かります。
https://www.blockchain.com/ja/charts/difficulty
さて、先物という商品は投機家だけのものではなく、ヘッジャー(ヘッジする人)のためにも存在します。むしろ、こちらの方が社会的意義は大きいです。
例えば農作物の先物の場合、投機家がマーケットを作ることで生産者はショートヘッジを行うことができ、これにより農作物の売上を予め確定させることができます。突然の天変地異が起こっても安心ですね。
マイナーにとってのリスク
ハッシュレート先物の場合はどうでしょうか。
その前に、マイナーが機材を購入してマイニング事業を行う上で、リスクとなり得る要因について話します。これは主に2つ存在します。一つはビットコインの価格、もう一つはグローバルハッシュレートの上昇です。
マイニングを始めたもののビットコインの価格が下がってしまった、これでは売上は減ってしまいます。このリスクをヘッジさせるには、BTC先物をショートすれば良いでしょう。
もう一つのリスクとして、グローバルハッシュレートの上昇が挙げられます。例えば、私が1のハッシュパワーを持っており、その時自分以外のマイナーのハッシュパワーの合計が99としましょう。私のシェアは1%で、1日あたりの期待マイニング報酬は9BTCです。(10分に一度6.25BTC、24時間で900BTC)
マイニング事業への新規参入が増え、自分以外のハッシュパワーの合計が150に増えたとしましょう。この間、私はマイニング機材の増設を行わなかったとします。私のシェアは0.662%にまで低下し、1日の期待マイニング報酬は5.96BTCと減ってしまいます。
このように、マイナーにとってはグローバルハッシュレートの上昇はリスクであり、ヘッジすべき要因です。
投機家もマイナーもロング
ここでハッシュレート先物の話に戻ります。投機家の立場から見た場合、ハッシュレート先物はショートよりもロングした方が期待値は高そうです。なぜなら、ハッシュレートは長期で伸び続けているからです。
https://www.blockchain.com/ja/charts/hash-rate
マイナーの立場から見た場合はどうでしょう。彼らにとってはハッシュレートの上昇はリスクであり、ロングヘッジする必要があります。
つまり、このハッシュレート先物という商品には積極的にショートする主体が存在しません。
ハッシュレート先物にはプレミアムが乗ることが常態化することは間違いないでしょう。さらに、先物プレミアムである状態というのは、ロングヘッジするマイナーにとってはその分ヘッジコストがかかることを意味するため、投機需要が上がれば上がるほどヘッジに使えなくなります。
通常の先物商品の場合、プレミアムはほぼノーリスクでの収益機会を与えてくれます。現物を買い、同数の先物をショートして満期まで保有した際、価格変動リスクを受けずにプレミアム分を享受することができるからです。
ハッシュレート先物の場合はどうでしょうか。そこにプレミアムを取りにいく手法は存在しません。この先物をショートしても、ハッシュレートの上昇によって恩恵を受けられる原資産は存在しないからです。
つまり、この先物商品の売買が盛り上がりいくらプレミアムが乗ろうが、ビットコイン価格へはおろか、マイナーの行動にすら影響を与えることはないのです。
・ハッシュレート先物はヘッジで使えなさそう
・投機家しか得しない
・先物が盛り上がっても、他の市場に影響しない
以上がまとめになります。
ハッシュレート先物は問題点が多いと思うのですが、FTX自体はトレーダーに収益機会を与えてくれるイケてる取引所です。特にMOVE Contractとアルトコイン無期限契約が良いです。（微妙な商品もいっぱいあります…ハッシュレート先物はその一つ）
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