PoSを採用する暗号通貨に未来はあるのだろうか

ビットコインを始めとする暗号通貨では、分散するノード間で合意を形成するために独自のアルゴリズム(ルール)が採用されています。 ビットコインではProof of Work(PoW)というというアルゴリズムが採用されており、 他にもProof of Stake(PoS)、Proof of Importance(PoI)といったアルゴリズムを採用している暗号通貨も存在します。

本記事ではそれぞれの合意形成アルゴリズムの簡単な解説とそれぞれの長所および短所、 そしてPoS通貨は最終的にPoW通貨によって淘汰されるであろうという私の考えを述べていきます。

(以下、専門用語であるPoWやPoSの説明は分かりやすさを重視した内容にしています)

PoWとは

ビットコインはある特定の機関や人物によって管理されているものではなく、全世界に散らばるマイナー(承認者)によって維持されています。

ビットコインは送金システムであるので、ある送金が発生した際それが正しいものであるかどうか検証されなければなりません。 この送金を正当なものであると承認するのがマイナーの役割です。そして、正しい送金として承認を行ったマイナーには新規に12.5BTC(2017/8現在)が報酬として付与されます。

ではこの認証部分の詳細はどうなっているのでしょうか。 内容はとてもシンプルです。ある簡単な計算問題を行い、世界の誰よりも早く正解を見つけるだけです。この正解は確率的に求められるものであり、計算パワーのあるマシンほど正解にたどり着ける可能性が上がります。 誰でもすぐにマイナーになれるのです。

しかし、世界中のマイナーがこの12.5BTC(2017/8/20現在で約575万円)を手に入れるために、専用のハードウエアを何千台何万台も並べて計算を行っているため、 自宅にあるパソコンでマイニングを行ったとしても、正解にたどり着ける確率は限りなくゼロに近いものになるでしょう。

この計算問題、現在全世界で1秒あたり8200000000000000000回(820京)もの計算が行われています。これをハッシュレートと言い、膨大なハッシュレートがビットコインのセキュリティを担保しているのです。

[マイニング工場の写真] https://bitbitecoin.com/archives/3878

さて、このPoWによるマイニング、マシンを大量に用意すれば必ず儲かるというものではありません。 仮に、もし1ヶ月マイニングを行ったとして電気代で10万円かかり、マイニング報酬として12万円相当のBTCをマイニングできたとします。利益は2万円です。 利益が出ることが分かると、このマイニング事業に新たに参入しようとする者が現れるでしょう。するとビットコインネットワーク全体のハッシュレートは上昇します。

マイニング報酬は10分に一度だけ発行されるようマイニングの難易度は自動的に調節される仕組みになっており、ハッシュレートが上昇すると、先程述べた簡単な計算で正解を求められる難しさが上がるようにできています。 つまり、同じマシンでマイニングをしている状況では、報酬をもらえる可能性が下がるのです。当然、利益は2万円以下になるでしょう。

マイニングで利益が出る状況 → 新規参入マイナーが増える → ハッシュレートが上昇 → マイナーのコスト増加 → 利益の減少

マイナーの利益はビットコイン価格にも大きく左右されます。価格が下がれば、利益はさらに減ってしまいます。赤字になるマイナーも出てくることでしょう。 実際、2014年〜2016年にかけてビットコイン価格が低迷した際は多くのマイナーが廃業に追い込まれました。 その状況下で、電気代を安く抑えハードウェアの性能を改善しコスト削減努力を怠らなかったマイナーだけが今日まで生き残っています。 ビットコインは完全な自由競争の世界なのです。

PoSとは

Proof of Stakeでは、マイナーに膨大なハッシュの計算を強いることはありません。必要なのはコインの残高だけです。 取引の承認を行うマイナーには誰でもなれます。そして、割り当てられる報酬はマイニングを行っているユーザの「残高に比例して」配分されます。[※1]

なぜこの仕組みが成り立つのでしょうか。理由は単純です。多くのコインを持っているユーザが取引の認証プロセスにおいて悪意のある行動を起こす動機がないからです。 もし仮に不正な取引がネットワークで認証されている状態が定常的に起こっていた場合、そのコインの価格は暴落するでしょう。 多くのコインを保有するマイナーが自身のコインの価値を毀損するようなことはしないだろうという前提のもとで成り立っているのです。

さて、ここからがPoSの本質です。 残高に比例してマイニング報酬が割り当てられるPoSの世界では、金持ちはより金持ちになれます。 例えば、10コインを持つユーザAがマイニング報酬として月に0.1コインを受け取った場合、1000コインを持つユーザBは10コインを報酬として受け取ることになります。 この世界での1ヶ月の生活費が平均で1コインとすると、ユーザAはマイニング報酬とは別に働いて0.9コイン稼がなければ赤字になってしまいますが、 ユーザBは何もしなくても9コイン黒字となり、その分資産が増えることになります。 PoS経済圏の中では、格差は常に拡大し続けることになるのです。

上記の内容は新規発行されるコインについて焦点を当てていますが、マイナーへの報酬は新規発行されるコインの他に取引手数料も含まれ、これも重要な論点です。多くの暗号通貨では新規発行されるコインの数は数年ごとに半減し、将来的に新規コインは発行されなくなります。このとき、マイナーの報酬はネットワーク内で発生した取引手数料のみとなります。この状況下でもPoS通貨ではマイニング報酬が不平等に分配されることには変わりありません。

そしてもう一つ重要な点として、富裕層はなんのリスクも背負うことなくマイニング報酬を受け取っていることが挙げられます。 通常、自由競争の世界では永遠に利益を出し続けることは不可能です。需要と供給のバランスが乱れた際は、利益が出なくなり競争力のない事業者は淘汰されます。

しかし、PoSの経済圏では富裕層は永遠にマイニング報酬を受け取ることができます。尚且つノーリスクです。 一方、持たざる者はこの経済圏において相対的にますます貧しくなり続ける運命にあるのです。

PoS経済圏で生きる者にとっての合理的な行動

大きく3つに分けて説明します。

  • 貧困層にとっての合理的な行動
  • 富裕層にとっての合理的な行動
  • 両者に共通する合理的な行動

貧困層にとっての合理的な行動

自由競争の世界であるPoW経済圏と、自動的に格差が一方的に広がり続けるPoS経済圏。 では、PoS経済圏で生きる持たざる者にとっての合理的な行動は何なのでしょうか。

それは、PoS経済圏からPoW経済圏に移動することです。つまり、PoSの通貨を売却しPoW通貨を購入することです。

PoS経済圏にとどまっていれば自動的にますます貧しくなるため、よりフェアなPoW経済圏に移動することはとても合理的なものです。 この移動は貧しい者から順に行われていくでしょう。

既存の国家という枠組みにおいては、経済圏を自らの意志で変えることは困難です。 しかし、暗号通貨には国境がないため、別の通貨の利用を始めることはとても容易です。

また、PoS経済圏で努力をして富裕層になることを目指すことも大切な考え方です。ただし、それはすでに存在する富裕層との絶対的な不利を覆さねばならず、また仮に覆すことができたとしても新たに発生した相対的な貧者がPoW経済圏に移る事ことを止めることができないため、先にPoW経済圏に移りPoW経済圏で努力をしていく方が合理的であり賢明な判断なのです。

富裕層にとっての合理的な行動

金持ちは何もしなくてもさらに金持ちになれるため、富裕層にとっての合理的な行動とは「何もしないこと」です。

両者に共通する合理的な行動

PoS経済圏における貧しい者が取るべき合理的な行動にはもう一つの解があります。

それは、自分が相対的に金持ちになれるように、自分より貧しいものを他の経済圏から引き入れてくること、です。

こうすることで、少なくとも引き入れた人間よりは経済的に優位な立場になれるでしょう。 PoS経済圏では少しでもコインを保有していると自動的にマイニング報酬が付与されるため、これを餌に勧誘を行うのです。

以上のように、PoS通貨の保持者はPoS通貨のメリットを擁護する強いインセンティブがあります。PoWよりも「エコ」であるとか「セキュア」であるなどの文言がその典型です。 逆に、PoSのデメリットを述べるインセンティブは少ないという構造があります(本記事)。仮に人々を説得できてもそこから利益を得るのは難しい上に、放っておいてもそのうち皆気づくためです。それがPoSがあたかも考慮に値する仕組みであるかのような錯覚を引き起こさせています。

さて、ここまでの内容を整理してみます。

  • PoS経済圏では、その不平等な仕組みに気づいた貧しい者から順に抜けていく
  • 自分よりも貧しい愚かな人間を引き入れるインセンティブがある
  • 外部の人間がこの不平等システムに介入する動機がない

まさにねずみ講と呼ぶにふさわしい仕組みではないでしょうか。

代表的なPoS通貨

NEM

NEMではProof of Importance(PoI)というアルゴリズムが採用されています。これは各ノードの重要度に応じて報酬が割り当てられる仕組みです。 しかし、この重要度を決めるパラメータの大部分を保有残高が占めており、実質的にPoSの通貨であると言えます。

また有意義な経済活動を行った者ほど重要度が上昇するため、通貨として成功すればするほど自動的に富が一箇所に集まっていくという点でもPoSと変わりありません。

NXT

PoS通貨の代表的な存在で、独自通貨発行、分散型取引所、匿名送金、マーケットプレイスなど様々な機能が実装されていることで有名です。

Peercoin

PoSを世界で初めて実装した通貨です。現在はあまり存在感がありません。

Ethereum (採用予定)

現在のEthereumはPoWを採用しているのですが、今後PoSに移行するというアナウンスが以前からなされています。 しかし一向に実行される様子がありません。なぜでしょうか。 これはハードフォークなくしてPoSに移行することができないからだと私は考えています。 もし仮にハードフォークとともにPoSに移行したならば、イーサリアムはPoSとPoWの2つのチェーンに分岐してしまいます。するとPoSの本質を正しく理解している者からPoSイーサリアムを売却するため、価格は下落します。PoSイーサリアム保持者はきっと疑問に思うでしょう。そのような状況下に置かれて初めて、PoSの本質に皆気づくのです。気付いた者から順に売っていきます。

PoSへの移行などもともと不可能なのです。

最後に

暗号通貨市場全体が急速に成長している現状では、PoS通貨の価格が上がるのも無理はありません。 しかし長期スパンで考えた場合、PoS通貨がPoW通貨に飲み込まれてしまうのは確実です。PoSではいつか利用者が0になることが保証されており、 他の人よりも先に売り抜けたほうが勝ちとなるチキンレースのようなものなのです。

多くの暗号通貨ユーザが自身の保有するコインの仕組みをきちんと理解し合理的な行動を起こすことを私は切に願っています。

[※1] 正確には残高と保持期間などのパラメータによって決まります

【よくある質問】 Q. PoWは電気代の無駄ではないのか? A. いいえ。既存の金融システムでも、膨大な通信インフラ、設備投資がなされており、また中央銀行・民間銀行ともに多くの支店、そして人材が投下されて始めて現在の金融システムが成り立っているのです。

PoS通貨はフェアな経済の原則を犠牲にして、”エコ”を実現しているのです。

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