2024年版 キーボードのカスタマイズガイド

Taro L. Saito
Jan 2, 2024

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以前は究極の一台を追い求めて迷走してしまっていたのですが、今では各々のキーボードの魅力を活かしつつ、自分好みにカスタマイズすることで、お気に入りのキーボードに仕上げられるようになってきました。

ポイントは2つ。

・自分の好みを把握(=いろいろ試す)
・打鍵感には、スイッチだけでなく、筐体と内部のフォーム、さらには机やマットの組み合わせが効くことを理解する

自分の好みをキースイッチを把握する点に関しては、2023年現在では比較的簡単になってきました。Keychronなど、ホットスワップ対応のメカニカルキーボードが普及してきたことで、半田付けせずにスイッチを交換したり、2023年にはRazer Blackwidow V4HHKB Studioなど、老舗キーボードメーカーからもホットスワップに対応した製品が登場したのが記憶に新しいです。

それに伴い、キースイッチもネット上でのレビューが追いつかないほど個性的でかつ良いものが多数登場しています。最近の製品はルブ済み(factory-lubed)のものが多く、動作が最初から滑らかになっているので、スイッチを1つ1つ分解してルブする一手間が省けます。遊舎工房さんでは、流行りのキースイッチのテスターが設置されており、何十種類ものスイッチを実際に試せます。

自分好みのスイッチに出会ったら、スイッチメーカーのサイトなどでforce curveを確認すると良いでしょう。実際の感覚と数値を紐づけることで、新しい製品が出てきたときにも、どのような打鍵感なのかある程度わかるようになりました。

各メーカーのキースイッチのforce curveを実測して収集しているサイトもあり参考になります。

キースイッチを頻繁に入れ替える場合には、しっかりしたswitch pullerが1つあると引き抜くのが簡単になります。キーボードに付属する簡易なものだと、力が伝わりにくく、スイッチを上手に引き抜けずに苦労していました。早めに買っておけばよかった。

ホットスワップできることで、スイッチだけにこだわりがちなのですが、実際にはそれ以外の要素も打鍵感に大きな影響があります。手軽にそれを実感できる製品がKeebmatです。コンパクトだけれど厚みと背面にグリップ感のあるシートで、HHKBなど筐体が響きやすい製品で特に効果があります。机からの反響音を抑え、適度な弾力が合わさるることで打鍵音・打鍵感が共に向上します。値段も手頃なのでお気に入りです。

キーボードの内部に、poronフォーム(吸音効果がある)と、PEフォーム(スイッチの底面との間に薄い空気の層を作り、タイプ音を柔らかくする)を入れるのもおすすめです。Keychronのキーボード専用のフォームを扱っているKeyboard Kustomsで購入したPoron/PEフォームを使ったところ、打鍵感が劇的に改善しました。今まで音がうるさくて使いにくかったスイッチでも、フォームを入れたキーボードで使うと落ち着いた魅力的な打鍵音に変わり、使えるスイッチの選択肢が広がります。

フォームを詰め込めば良いというわけでもなく、どうして打鍵音が変わるのか原理を理解していると、適切なカスタマイズ方法を選びやすくなります。それを理解するには下の動画がおすすめです。

動画の内容を簡単にまとめると、フォームをたくさん積めると、低音が吸収され、Clacky(カチャカチャ音)なキーボードになり、薄めに入れると高音のみが吸収され、Thocky(コトコト音)なキーボードになります。あまり詰め込みすぎると、打鍵感が固くなり指が疲れやすいので、ガスケット構造のキーボードなど、プレートが動くようにデザインされたキーボードでは、打鍵感の柔らかさを生かすために、フォームの量は控えめにした方がよいでしょう。僕自身、Keychronのキーボードでは、下図の右から二番目の構成が好みでした。

テープmod(版の裏面に紙テープを張って空気の層を作る)も、ポコポコした音が好きな人にはお勧め。済んだ音が好きな場合は、テープは無い方が良いかもしれないです。

キーキャップの形状も打鍵音に影響があります。下図にあるOSAなど背の高いキーキャップはキャップ内で音が反響するのでより空気を含んだ音になりますし、MDA、Cherryプロファイルなど背の低いものでは、落ち着いた音になります。

MDAプロファイルは指によくフィットする形状。Akkoのサイトより https://en.akkogear.com/product/black-on-white-mda-keycap-set/

キースイッチ、キーキャップをあれこれ購入して試していくことで、自分の好みが見えてきました。

参考までに、僕個人として重要なポイントは、以下の通り:

・デザインの完成度、カラーの統一感が何より大事。キーが足りないからといって混ぜるとしっくりこなくなる
・キーレジェンドは細めで主張しすぎないもの。
・指にフィットしやすいMDAプロファイル
・ホットスワップ対応。小指で使うスイッチは30g程度の重さにしたい
・65%程度のコンパクトな配列。F1キーなどは基本使わないので視界に入らない方が良い。カーソルキーは必須ではないものの欲しい
・音が比較的静かで、金属や空洞に響くような安っぽい音がしないこと。静音でなくてもよい。
・基本タクタイルスイッチが良く、山が頭にある(early bump)のもの。体感45g程度の押下圧で押せるものが良い
・リニアスイッチの場合は、軽く押せて、押し込んでも疲れにくいこと。
・オフィスなどに持ち運んで使う場合にはBluetooth接続必須

多いですね・・・。ただ、好みを正確に把握することで、新しいキーボードを見かけても、カスタマイズに使えるキーキャップやスイッチが存在するか確認してから購入できるようになりました。

2023年に登場したKeychron Q11は、買ってすぐに使える分割メカニカルキーボードとして話題になりました。これは、Akko MDA WOBのキーキャップを使うと初めから決めて購入したところ、統一感のとれたデザインになって大満足です。筐体が薄く金属音が響きやすいので、スイッチ選びが難しかったのですが、音が静か目のリニアスイッチで、LEDを透過するものを選ぶことで完成度が上がりました。

現在一番のお気に入りはKeychron Q8。青色の筐体にあうキーキャップが見つかりにくく、金属音が表に出やすいので、いろいろカスタマイズしてもどうしても納得がいかず苦戦したキーボードですが、Poron/PEフォームを入れることで反響音が減り、使っていて楽しいキーボードになりました。高い買い物でしたがMDA Future SuzuriのキーキャップもRealforce・HHKBのようでお気に入りです。

人気のNuPhy Halo65シリーズは、初めからデザインが完成されているのでそれを超えるカスタマイズが非常に難しいです。また、フォームが詰め込まれていて、打鍵感が固めのClackyな構成なので、スイッチ選びも悩ましいです。いろいろ試しましたが、結局NuPhy自身が独自に開発しているキースイッチキーキャップから選ぶのが無難のようです。

基本、HHKBやRealforceの墨色のデザインが好きなので、MT3 Darknessキーキャップを見つけたときはそれを中心にカスタマイズを考えました。MT3プロファイルは指を包み込むような独特の形状なので、他のキーキャップにはない満足感が得られます。

気に入ったデザインのキーキャップを見つけてから、それを中心にカスタマイズするのも楽しいですね。

KiiBOOM Phantom68は、全体が透明に作られているユニークなキーボードで、キースイッチくらいしかカスタマイズできないのですが、透明なKailh Clione Limacina (Linear 58g)スイッチを使うと、製品の魅力を損なわず、打鍵感を軽めにしてくれてちょうど良かったです。こちらもお気に入り。

最近では、究極のキーボードを追い求めるより、敢えて違った構成でカスタマイズして、異なる打鍵感、デザインを楽しむようになりました。MLBのダルビッシュ選手も話していましたが、同じ感覚を反復練習するより、敢えて違ったフォームで投げる方が、感覚の違いを認識しやすく、それがコントロールの修正に役立ったそうです。現在のようにカスタマイズ可能なメカニカルキーボードが出てくる前は、気に入ったキーボードが壊れたら困るからという理由で、同じものを2台購入していたりしましたが、今では、いくらでも良いものをカスタマイズできるので、その心配がまったくなくなっています。違ったものを使っていくことで、以前のものの良さもわかるようになってきています。良い時代になりましたね。

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Taro L. Saito

Ph.D., researcher and software engineer, pursuing database technologies for everyone http://xerial.org/leo