英語の本を「聴く」習慣

Taro L. Saito
8 min readDec 11, 2018

--

アメリカ人は車の中で1日1時間ほど過ごすようです。2016年の統計だと年に290時間とのこと。日本の首都圏の平均通勤時間と変わらないくらいかもしれません。特にベイエリアは景気が良く労働者が集まってくるため、年々車による通勤者が増え、渋滞が激しくなってきています。

そのため車での生活をいかに快適にするかがアメリカでの日常の課題となります。車の運転中、基本聴覚は空いているため、本を音声として聴けるAudibleのようなサービスは、情報をたくさん取り入れたい層にとって、運転中の暇な時間をストレスなく有効活用できる手段になります。

2018年の5月から少しずつAmazon.comで購入したAudibleの本を試していたのですが、だいたい2~3週間ほどで1冊聴けるので、これまでの約半年で洋書を16冊分を「聴く」ことができました。

通勤中の隙間時間を活用して気になっていた本を聴けるというのはありがたいもので、一度Kindleで読んでいた本でも、耳から聴くと新たな発見があったり、通して聴くことで大枠の話の展開、構成がつかめることもあります。

英語が難しかったり文脈を十分に理解していなくても、強制的に再生が進むというのも意外な効果がありました。Kindleで読んでいると、理解が難しい章になると先を読み進めるのが苦痛になり、後半を読まなくなってしまうことが多々あるのですが、通して聞いてみると実は後の章は簡単だったり、そこで文脈が繋がって後から理解できる話も増えてきます。聴いていて「ここがわからなかった」という印象も記憶に残りやすく、後からKindle版で確認するきっかけになったりもしています。

Bluetoothで車載スピーカーと繋げると楽ですが、残念ながらそうではなかったので代わりにソニーのXB10を購入しました。音も良く、車に乗るだけでスマホと自動的に接続されるので重宝しています。カップホルダーに収まる大きさ。Android端末ではデベロッパーモードを有効にして、ボリュームを多段階に調整できるようにすると良いでしょう。

車の中はプライベートな空間なので、英語をシャドーイングしながら練習できるのも良いです。聞きながら真似ることで少しずつ英語を練習することができて助かっています。当初は本の内容を速く把握するために1.2x ~ 1.5xの再生速度で聞いていましたが、現在は、シャドーイングのために1.0xの速度で聴いています。

「聴く」ことで新たな発見があった本は、Adam GrantのOriginals。世の中のデフォルト(既存のもの)に疑問を抱き、どう差別化できるアイデアを生み出していくかが主題。最後まで通して聴くと、各章ごとに伝えたいメッセージが明確で、上手に構成されている本だということが良くわかります。専門知識が深くなればなるほど、自分自身がアイデアに親しみすぎてしまい、新しい画期的なアイデアを生み出したとしても、他の人に伝えるのが発想の斬新さゆえにかえって難しくなってしまうなど、仕事をしていく上でも抑えておきたい教訓が紹介されています。

一方、Audibleで聴いて、良い点、悪い点がはっきりわかった本がJohn SonmezのSoft Skills。あちこちのレビューで絶賛されている本で、エンジニアが給与交渉をしたり、開発資金を集めたり、仕事の効率を高めるテクニックなど、役に立つトピックが豊富な一方、後半は早期リタイアのための不動産投資、健康、食事管理の話題など個人に特化した話題が多く、著者のように人生をハックするのが好きなタイプの人には良いですが、必ずしも皆が求めているライフスタイルを紹介しているわけではないとわかります。著者自身がAudibleでナレーションしていることもあり、本人が活き活きと人生を思い通りに作り変える様子が伝わりすぎてしまい、後半は聴いていて辛くなってしまいました。全体的に良い本ですがトピックによって好き嫌いがはっきり分かれそうです。

車の中の他の過ごし方として、Podcastを聴くのも良いのですが、尺が短いものが多いため、運転中にエピソードが終了してしまうと悲しくなります。また、お気に入りのエピソードを見つけるのにもやや苦労します。たまたま見つけたHBR Ideacastなどは、ビジネスでよくある話題や、英語を通して専門家と対話する会話の例として参考になることが多く、既に記事や書籍になっているテーマについて話をするので、最初からよく練られたストーリーになっていて聞きやすいのが特徴です。ただ、あまり興味に合致しないテーマの週もあるので日常的に聞き続けるのがやや難しくなっています。

This American Lifeのポッドキャストもとても面白いですが、1時間の中に濃い密度でエピソードが盛り込まれ、構成も凝っているため、英語学習者や、アメリカ文化に馴染みがない人には少しチャレンジングな内容です。スクリプトを見返して、こういう話だったのかとわかることが結構あります。

日本文化との接点があって聞きやすい例としては、Toyotaがシリコンバレーに上陸してGMと共同して工場を築き、Kaizenなど現在英語にもなっている技術を惜しみなく伝えたエピソードなど。1980年代の日本というノスタルジックな感じが良いです。

Audibleのコンテンツとしては、ビジネス書は比較的聞きやすいですが、どうしても理解に図表が必要な専門書、技術書はターゲットになりにくい気がします。小説、物語は、面白く聞き続けるためにはまだまだ課題がありそうです。500ページほどの小説を朗読するだけでは、話に入り込めないことがよくあります。

小説を音声で楽しむという意味で秀逸だと思っているは、現在もNHK FMで放送されている青春アドベンチャー。僕が聴いていたのはだいぶ昔の話ですが、「悲しみの時計少女」「ジュラシックパーク」「あの夜が知っている」「三銃士」「アルジャーノンに花束を」「天使の卵」など、この番組がきっかけで小説を読みはじめたものが多々あります。有名な声優さんが演じていたり、音楽、効果音による演出が上手で、引き込まれるような楽しさがありました。

Audibleにもドラマ仕立てのものもありそうですが、まだ上手に見つけられていません。

日本のAudibleは試していないのですが、アメリカ、日本の双方のコンテンツを試したい場合は、Amazon.com, Amazon.co.jpでアカウントを使い分ける必要がありそうです。統合すると片側のストアでしか購入できなくなってしまったりと、トラブルの方が多いようなので要注意。

--

--

Taro L. Saito

Ph.D., researcher and software engineer, pursuing database technologies for everyone http://xerial.org/leo