スタートアップを知るために読みたい本

Taro L. Saito
8 min readJan 12, 2018

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先日、社内でスタートアップ(ベンチャー企業)に良い人材を引き入れるにはどうしたら良いかという会話がありました。Uber, Airbnb, Mercariなど、急速に成長していて、アプリなどを通して既に親しみがあるスタートアップ企業を選択するのはそれほど難しくはないでしょう。一方、Treasure DataのようにB2Bのサービスを展開している場合、一般ユーザーへの接点が無いため、会社の外側からはどのような仕事をしているかあまり見えません。また、日本ではまだまだスタートアップ文化へのなじみが薄いため、大学卒業後、または次のキャリアの選択肢として上がりにくいのも事実です。

思い切ってアカデミアを離れ、スタートアップに参加してそろそろ4年になりますが、実際に入ってみるまでスタートアップについてわからなかったことが多くありました。しかし、当事者になってみると書籍レベルでも関連する情報を多く見つけることができるようになりました。ここではそのような本を、キャリアを考える際の参考になるよう、またスタートアップ企業に飛び込む際の不安を少しでも取り除けるよう紹介していきます。

Amazon Books at Santana Row, San Jose

1冊目は、ベンチャーの生態系と中での仕事についてよくまとまっているEntering StartUpLand: An Essential Guide to Finding the Right Job です。

スタートアップには生態系があります。シリコンバレーはもちろん、ボストン、ニューヨークなど、各々特徴が違っていて、一度コミュニティの輪に入ると、Linked Inなどを通しその中で次の仕事を見つけるのが容易になっています。僕自身、シリコンバレーに異動した途端、リクルーターから毎日のようにメールが来るようになりました。アカデミアで研究していたときには毎日コードを書いていてもエンジニア職の案内は一度も来たことはありません。自分からコミュニティに飛び込まない限り、チャンスはないということなのでしょう。

また、スタートアップに参加するのに必ずしも起業家精神が必要なわけではありません。エンジニアだけではなく、Sales, Customer Success, Marketing, Financeなど各々の専門領域でビジネスに「協力」する仕事の方が実は多くを占めています。さらに、ビジネスのステージに応じて、必要なタイプの能力が異なります。例えば、最初の1億円を稼ぐ段階から10億、次の100億とステージを登る段階では、必要なスキル、ネットワークも大きく違ってきます。企業がどのステージにあるかを見て、自分の能力がその企業にどのような価値を与えられるかという点が双方にとって採用時の重要な判断材料になります。シリコンバレーには各ステージを経験している人が多く揃っているため、人材の流動性が非常に高いのが特徴です。物価や家賃がいかに高かろうと、このコミュニティの全体としての力強さは他に代え難いものがあります。

2冊目は、From Impossible to Inevitable: How Hyper-Growth Companies Create Predictable Revenue. 上で紹介したEntering StartUpLandはスタートアップでの各仕事の役割の説明に止まっていますが、実際にビジネスを成長させていく戦略に興味が出るとこちらを読むとベンチャーがどのステージにいて、どのように成長しようとしているかがわかります。

スタートアップと聞くと、ギャンブル的な要素や人生の全てを賭ける勢いを期待しがちですが、中で働く人たちはファウンダーを含め、驚くほどrisk-averse(リスクを最大限回避しようとする)人たちで、そのような行動が投資家にも好まれる傾向があります。そういう意味ではアカデミアを辞めてスタートアップに飛び込んだ僕は大きすぎるリスクを取っているように見えます(とはいえ、研究者時代もいつでも辞められるようにコーディングは続けていました) Originals: How Non-Conformists Move the Worldは、世の中をハッとさせるアイデアを産むことと、闇雲にリスクをとることの違いに気がつかせてくれます。

アカデミアでは研究を通して自分自身が分野をリードするというオリジナリティが重要な分野ですが、スタートアップのビジネスで一番重要なのは「顧客」のために価値を提供することです。しかし顧客満足度を見ているだけでは、真に必要とされていることまでは生み出せません。イノベーションのジレンマで有名なClayton M. Christensenの Competing Against Luck: The Story of Innovation and Customer Choice では、Jobs To Be Done(顧客が達成したい仕事)という視点から考えることで、イノベーションを計画的に生み出すアプローチを追求しています。Jobs To Be Doneを見つけ、それを解決するサービスを作り出すのは容易ではありませんが、それをいかに早く見出し実際に世に送り出すかというスタートアップ企業の本質に関わる一冊です。

スタートアップ企業がどのようにお金を集めているか、株、ストックオプションなど待遇面での事情を把握するのにはファウンダーの立場で会社を見てみると良いでしょう。起業のエクイティ・ファイナンスは基本的な知識を抑えるのに役立ちます。

最後に海外で働こうとしている方向けの補足です。Treasure Dataの場合は日本にも開発拠点があるためあまり問題になることはありませんが、海外のスタートアップ企業で働く際にはビザが一番の壁になると思われます。企業が良い移民弁護士と繋がっていることが重要ですが、H-1BなどそもそもUS全体で数に限りがあるビザの事情や、企業側にとっても数百万以上の費用が必要なので、それだけの価値を企業に提供できるかどうかが最初の判断基準になるでしょう。以下の記事がよくまとまっているので参考になれば。

英語での書籍紹介が多くなってしまいましたが、単に外資系スタートアップのローカルブランチで働くだけでは、これらの本をすらすら読みこなす英語力は必須ではないように思います。ただし、それは逆に英語が使えなくても困らない仕事しか回ってこなくなるということなので、自分の今後のキャリアを見据えて必要であるなら、普段から英語を意識的に使う(本を読む、文章を書く、Podcastを聴くなど)ようにすると良いと思います。そのあたりの話はまたの機会に。

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Taro L. Saito

Ph.D., researcher and software engineer, pursuing database technologies for everyone http://xerial.org/leo