とあるデザイナーがアニメーション作品のデザインをするようになった話

Tomoyuki Arima
14 min readApr 7, 2017

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この記事は少し長いものですが、要は「4/8(土)に第1話が始まるアニメーション作品『Re:CREATORS』を観てね、Amazon プライム・ビデオでも配信されてるよ!」ということを言いたいものです。それから先日、イラストレーターの友達に「アニメのアートディレクションをしているというけど、具体的には何をしてるかよくわからない」と言われたので、おっしゃる通りと思いつつ、その説明のためにもまとめています。

はじめまして、有馬トモユキです。最近はグラフィックの仕事が多くなってきたデザイナーです。釣りタイトルっぽいですが、ここ数年でちょっと面白いことを体験したので、読んでくださった誰かにとって参考になれば嬉しいです。

僕はデザイナーとして活動する以前、2002年くらいから、友達の繋がりで同人誌や同人音楽のCDなんかのデザインをしていました。デザインに触れたのがWebからだったのもあり、印刷の手法を勉強する場としても機能させたかったんだと思います。音楽レーベル・GEOGRAPHICなんかは2011年から、SFサークル・DAISYWORLDは2014年から始めました。デザイナーである以前に、サブカルチャー、同人カルチャー成分多めの人間だと思いますし、二次創作物や自然発生的に生まれる文化に、ずっと興味を持っていたと思います。だからなのですが、初めて装丁を担当した書籍がKEIさんによる初音ミクの画集だったのは、今考えても幸運でした。

超圧縮してキャリア紹介です。2003年くらいから何社かでお世話になり、2009年から今の会社に居ます。(フリーランスに思われがちですが、会社員です)ウェブのデザインと構築やiOS Appの設計などをしていました。さらに言うと元々Flash屋さんでした。今でも心にAnimate CCを燃やしています。自分のウェブサイト・TATSDESIGNはFlashのサイトとして2000年あたりにローンチしています。

で、最近はアニメーション作品のデザインが面白いな、可能性がたくさんあるな、と思っています。経緯をお伝えしますがその前に3つの出来事がありました:

  • 前日譚1氷菓は最高だぜ。放映当時、コミケのGEOGRAPHICブースに遊びに来ていた瀬島卓也くんと知り合いになりました。一緒に飛騨高山に聖地巡礼に行ったりしました。
  • 前日譚2:入間人間さん x 深崎暮人さんの「アラタなるセカイ」のパッケージ。深崎さんは2005年に彼の同人誌「stem of radiant」のデザインに誘ってもらったときからの繋がりで、このとき初めてアニメーションに関するデザインを担当しました。
  • 前日譚3PARTYさんにお誘いいただいて参加した「PLUG-IN Championship」や、ニトロプラスさんにおいて、carmineくん達と一緒に担当した「君と彼女と彼女の恋」。これらのお仕事を通して、ロゴやWeb、パッケージのような「外側の体験」だけを作るのではなく、劇中を含めた中身と一緒に、一貫した体験をつくること。物語(ナラティブ)の体験をデザインでサポートするのは素敵なことじゃないかと思い始めていました。たとえば「君と彼女と彼女の恋」については、パッケージやウェブのデザインが、劇中の大きな転換点に接続するというチャレンジができました。

こんなことが2012–13年くらいに起きました。そして2013年の秋口に「アラタなるセカイ」(前日譚2)でご担当くださったAniplexのプロデューサーさまから電話をいただきました。有馬くんはロボットアニメは好きかという質問でした。

脇道ですが、僕はパトレイバーが好きすぎて「埋立地に住んで」「海を見ながら」「榊のおやっさんのように白いスポーツカー(可能であれば屋根が開くモデル)」が人生の指針でした。

つまり、そうしたことを返答しました。企画書にはまだ「アルドノア・ゼロ」という名前はありませんでした。面白そう、やりたいな……しかしただスタイリングだけじゃない、物語にまつわるいろんな判断が問われる現場を一人で担当するのは、難しいと思いました。テレビアニメは初めてです。おまけに僕を含めて、アニメーションにまつわるルックは「深読み」、したくなりますよね。誰かに助けてもらわなくては。

ちょうどその頃、新抗体物語というお仕事で誘ってもらった瀬島くんの会社、1–10 designさんに、ちょっとしたLTをするために呼んでもらいました。redjuiceさんの画集とか、絵師100人とか、早川書房さんのJコレクションとか、そうしたグラフィックのお仕事を紹介させていただきました。

redjuiceさんの画集「REDBOX」。2年近く書体やレイアウトを作っていたように思います

瀬島くんとは、いつかアニメの仕事とかができると良いよね!と飛騨で話していました(前日譚1)。LTが終わった後に彼に声をかけて、チームは2人に、それから同僚の堺くん、前々からよく一緒に仕事をしていた友達の宮崎くんを誘って4人になりました。内訳は以下のような感じです:

  • 有馬…グラフィック全般
  • 瀬島…プランニングと物語/デザインの整合性、一貫性の確保
  • 宮崎…宣伝におけるアート制作、グラフィック資源全般のケア
  • 堺…ウェブや劇中グラフィックの制作、テクノロジ周り

重要なのは4人が当時、ちょうど良いスケールであると思ったこと(喫茶店でも4人席は確保しやすいですよね)、それから瀬島くんの存在でした。(前日譚3)で体験して、アニメーションなどの物語においては「何をいつ言うか」のプランニングや、「どう伝えるか」のコミュニケーション設計がとても大事に感じました。これを含めて僕らはデザインと言いたいと思いました。彼が居ることで「アルドノア・ゼロ」において出来たことの一つが、略号の設定です。字数の少ない圧縮された記号を認知に使用するために、「A/Z」と略したのは彼のアイデアでした。

©Olympus Knights / Aniplex•Project AZ

加えて、そのタイトルに対する認識の仕組みをアップデートしたかったというのが隠れた目標でした。ふつう、企業のロゴマークも、コンテンツのタイトルデザインも「1つの形」をどう色々なメディアに定着していくか(僕らデザイナーはよく「展開」や「運用」という言葉で表します)が基本的な戦略です。僕らは1行だったり2行だったり、略号だけだったり、色々なバリエーションを多方面に展開して「固有の形を作らない、純粋に作品とその名称だけが残る」状態を作りたいと思っていました。

©Olympus Knights / Aniplex•Project AZ

そうしたグラフィックデザインにおいて実験的なことができる現場として、アニメーション作品のお手伝いはとても魅力的に思えました。以下、僕らが「アルドノア・ゼロ」で作成した領域です。(長いので読み飛ばし推奨です)

制作物を相対スケールに置き換えた図です。真ん中あたりのTシャツに対して広告の大きさがわかると思います
  • 作品タイトルのデザイン…「アルドノア・ラジオ」「EXTRA DAY」など派生も含む
  • 作中の二大勢力「UFE」「VERS」の紋章デザイン
  • OS「ASIMOV」の名称とデザイン
  • 画面内に出現する各企業のロゴマーク
  • 広告展開(渋谷駅、書泉タワー、新宿アニメイトに掲出されたポスター等)
  • 配布物「ALDNOAH REPORT」シリーズの企画とデザイン
  • 公式ウェブサイト、ティザーサイト、DECODE画像等のデザイン
  • 公式ウェブサイトのOA前カウントダウン試作やOA時の演出
  • 初回特典を含むすべてのBD/DVDパッケージ
  • BD/DVDパッケージのメニュー映像作成
  • (光の魔法少女セラムのパッケージ)
  • オリジナル・サウンドトラック
  • 公式グッズ(PCケース、Tシャツ)
  • コミカライズ・アンソロジーコミック・外伝「TWIN GEMINI」の装丁
  • 公式ガイドブック、キーアニメーション、イベントパンフレット等の装丁
  • 各ショップに掲出される告知ポスター類
  • イベント配布のポストカード
  • PV類のテロップ
  • EP01、ブリーフィング時のモニターグラフィックス
  • EP03、EP23のカタクラフト(ASIMOV)の起動画面
  • EP09、ブリーフィング時のモニターグラフィックス
  • EP13、会話時のモニターグラフィックス
  • 各話のサブタイトル画面
  • オフィシャルアカウントのヘッダー画像
  • AnimeJapanでのアルドノア・ゼロ作品ブース

これは正直に言うと「たくさんいろんなものが作れて幸せ」という無邪気な動機でもあったわけですが、それ以上に、広告・本編・商品の間を有機的に接続できるチャンスでもありました。具体的に詳しく書くのはあまりロマンチックではないように思いますが、「アルドノア・ゼロ」を見てくださっていた方は、パスワードや、BDメニューに隠された意図や、配布物にさりげなく書かれていたいくつかの言葉に気を留めてくださっていたことを聞いています。改めて、本当に貴重なご機会を頂けたと思っています。印象的な仕事になるので忘れてはいけないなと思い、自主的にこうした本を勝手に作ってしまいました。

これはCraig Modさんが勤め先にいらした時に見せてもらった、Flipboardの本のオマージュです。彼はFlipboardというiOSアプリを作った際に、デジタルだからこそという意味ですべてのデザインのバージョン違いや、チーム内でのやり取りを本にして残すことを考えていたそうです。それに影響を受けて、同じことをしてみたかったというのがあります。

こうして僕は少しずつアニメーションのデザインに関わらせていただくようになりました。「ブブキ・ブランキ」は「アルドノア・ゼロ」の仕事が一段落した時期にお声がけ頂いたものです。

© Quadrangle / BBKBRNK Partners

これも非常に楽しい体験でした。おもに担当領域としては上記のようなことに加えて、本編のデザインにも関わらせていただいています。ご覧になった方は分かるかもしれませんが、劇中に張り巡らされている書体(巨人文字、と僕らは呼んでいます)や、モニターグラフィックス演出は僕らの担当です。

PVだと0:06あたりに映っている巨人文字は、60文字程度を作成しています

これに併せてチームを拡大することにしました。Webやロゴアニメーションなど細かな技術面に、元ラブライブおじさんこと和泉くんや、本業は漫画家にもかかわらずグラフィックも丁寧に仕上げてくださるkirusuさんにも入っていただきました。(彼女はときどきブブキ・ブランキのTwitterアカウントで出ていた「左手ちゃん」の漫画も担当しています。)

こうしたことに加えて、最近では作品ロゴというレイヤーでもアニメーションのデザインに関わることが多くなってきました。「Fate / stay night Unlimited Blade Works」「Heaven’s Feel」、「同級生」の作品ロゴは僕と瀬島くんがお手伝いしています。

お仕事をしていて思うことがあります。先駆者の方々はスゴいということです。草野さんバルコロニーさん、團さんKOMEWORKSさん、内古閑さん…。やってみて改めて、そこで突出した結果を出された方が居るから自分が活動できるんだな、具体的にはこうした提案や、デザインのトーンが認められる土壌があるんだなということを、とても肌で感じます。

閑話休題:先駆者といえば雑誌の企画で、パトレイバーや攻殻機動隊のデザインを担当されていたTHESEDAYSの田島照久さんにお会いすることがありました。前述のようにパトレイバーの空気感がいつも心のなかにあったわけです。つまり人生ここでアガリだと思いました。P2のポスターを眺めながら、いつかこうした仕事ができたらと、ずっと思っていました。

上記のできごとと幸運があり、僕はアニメーションのデザインを続けています。いま考えていることは日本グラフィックデザイナー協会の会報「JAGDA Report」や、2015年に出版いただいた星海社新書にも記したのですが、おおむねこうしたことです:

  • 物語と密接でありたい、一貫した体験を作りたい、ユーザーと一緒に没入したい
  • そのために、ひとつひとつの受け取られ方を丁寧にケアしたい
  • なぜなら、日本のコンテンツはすごい。もっと世界中で見られるようにしたい

そして、大変前置きが長くなりました。Re:CREATORSはそんな僕らがデザインを担当させて頂く最新の作品で、アルドノア・ゼロのあおきえい監督の最新作となります。2016年の初頭からずっと、少しずつデザインを詰めていました。お手伝いさせて頂いた理由としては、既にいろいろなところで説明されていますが、これが「ものを作る人達の話」でもあるから。クリエイティブに関わる人達、近しい職種の人たちに、普段アニメを観ていなくても、ぜひ触れてみてほしいと思ったからです。

アニメーション作品の完成度としても一級品だと思います。ストーリーテリングについては、1話のコンテを読んだ瀬島くんが「これは絶対に受けなくてはダメだ」と僕に力説してくれたのを覚えています。

原作を担当された広江礼威さんによる小説も、サンデーうぇぶりというサイトでアニメーションの進行具合に応じて更新されるそうです。アニメーションはあまり馴染みがない方も、文章から触れてみるのも良いかと思います。

制作面としては、チームのメンバーがさらに増えました。みずいろ先生こと永井くんと、cube10こと田中くんがウェブサイト周りの制作に、富士フジノちゃんが本編デザインとして僕のサポートをしてくださっています。興味深いのは、大所帯になってきたのにスピード感は変わっていないことです。楽しくやれているのは、一人でやっていないからだと思うようにもなりました。いつか詳しく話せればと思いますが、僕らが得た資産の一つは、有機的で、一箇所に集まっていないけど、深く物事を考えられるチームの作り方だと思っています。

かくしてRe:CREATORSは4/8の土曜日から順次放映されます。TOKYO MXでは23:30からです。その他の局についてはOn Airページを確認してみてください。Amazon プライム・ビデオのリンクはこちら。既に1話から配信されているようです。ぜひぜひお楽しみ下さい。あおき監督 x 広江先生の最新作、僕らも引き続き、楽しみたいと思います。

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