PlayStation®5 のデザインとトレイラー映像について

Tomoyuki Arima
30 min readJun 23, 2020

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この文章は、PlayStation®5(以下PS5)のデザインに驚いたファンの1人が、コンピュータのデザイン小史とトレイラーから読み解ける情報を交えて、その魅力について紹介するものです。現時点で、PS5に関するインタビューはほとんど公開されていないため、妄想が多く混じっています。

クルマというのは世界を映す鏡だ山内一典

グランツーリスモシリーズの生みの親、山内さんのこの言葉が好きです。たとえば映画を観ていて、劇中で駐車してあるクルマを見ると、それがどの時代のお話か、けっこう掴めたりしませんか。そして、コンピュータの造形にもそうした側面があると思います。俳優が持っているスマホが古いと、意外と目ざとく追っていることがあります。

山内さんにといえば、グランツーリスモ6の頃のドキュメンタリー映画もオススメです。

1. 今までとなんだか違うぞ

本体が発表されたときは、2人でギャーと叫んでいました

PlayStation®5がオンラインイベント・THE FUTURE OF GAMING SHOWで発表されました。友達と2人で通話しながら観ていました。イベント全体の動画アーカイブは以下に:

オープニングに初代PS1のスタートアップスクリーンに入っている、SCE時代のロゴが出てくるのがニクいですよね

PS5は、いままでのSIEとSONY……もっと大げさに言うと、ゲームコンソールのデザインとしても論法が違うなと感じたんです。詳しいことは後述しますが、とてもフレッシュで、しかし今までとは逸したことをやっている。それはなんだろう?と考えていました。

シルエットに開発機にもあった「V」が隠れているのにもビックリしました

2. 違う(と思った)理由はなんだろう

Twitterなどをちょっと調べると、PS2(カクカク)→PS3(うねうね)→PS4(カクカク)だからじゃない?という意見を見つけました。うーん、たしかに一理あるような、ないような。

ただ、こうも思うんです。STADIAProject xCloudのようなクラウドゲーミングサービスが登場している2020年代。ゲームコンソールは、存在意義そのものを問われています。「もう新規ハードの時代じゃなくて、クラウドに重たいゲームは計算させようよ」という提案が複数、出てきている状態で、PS5に「お部屋のジャマになりませんよ、主張しませんよ」とは、あんまり思っていなさそうな(褒めてます)デザインを施す必要があるでしょうか?

※STADIAやProject xCloudが上手く行っているかどうかはひとまず、置いておきましょう。

私たちがSONYと聞いて思い出すデザイン、おおむねこのような感じだと思います:

Sony Designのページより。90度と水平の成分多めです

これらからの、これです:

やっぱりPS5、今までとは違いますよね。きっとその理由があるんです。そして……多分こうなんじゃないかな、というのを書いてみます。それは、ゲームコンソールの存在意義についてです。きっとSIEは、ゲームコンソールが存在するに足る、新たな理由を見つけたんです。そして、それに相応しい、堂々としたデザインを提案したのではないでしょうか。

単に続きモノだから、前と違う感じにしたんじゃない?という考えもあるかもしれません。けど、デザイン言語を変更するってやっぱりリスクもあるので、きっとそれだけではないのでしょう。

3. ゲームコンソールが存在する理由

そのヒントを、今年の3月に公開されたプレゼンテーション・The Road to PS5で見つけました。プレゼンターはマーク・サーニーさん。PS4からハードウェアのリードシステムアーキテクトを務めている方です。小島秀夫さんがDEATH STRANDINGを制作する際、ゲームエンジンを選定するツアーに同行していた方、というと分かりやすいかもしれません。

このお二人が仲がいいという事実だけで、個人的には感動モノです
ところで「プレゼン映え声」ってあると思います。マークさんはホントいい声だ

上の動画では大きく、以下の2つを取り上げています:

  1. カスタムSSDの全面的な実装による超高速のロード
  2. オーディオ技術「Tempest 3D」によるリアルな立体音響

いずれもかなりクールですが、(1)のSSDが本命なんじゃないかと思います。プレゼンテーションによると、ある程度は処理速度が成熟したゲーム環境において、最大のボトルネックは「ロード時間」なんだそうです。そのために開発者はステージ内に長い廊下やエレベーターをつくって、ロード時間を巧妙に稼いでいたとのことで。確かにそういうゲーム、覚えがありますよね。どのくらい速くなるのかしら……

しかも「少なくとも」って書いてある

5GB/秒!今までのPS4時代では、最大でも100M/秒だったそうです。単純計算で50倍ですね。専用チップによるデータ圧縮をデータの通り道にかけることで、最大で20GB/秒まで行くこともあるようで……。もしかしたら、PS5にはロード画面そのものが存在しないんじゃないでしょうか。

上の動画の11:16あたりです

件の友達に指摘されて気づいたのですが、THE FUTURE OF GAMING SHOWの前半、ラチェット&クランクのパートを見ると、ポータルをくぐって複雑なステージをロードなしでガンガン移動するパートがあるのですね。これ、確かにSSDじゃないとできない挙動なんじゃないかと思います。ここまで来ると、廊下やエレベーターを作る必要もなさそうですね。ゲームデザインにまつわる大きな制約がひとつ、開放されたのかもしれません。

かつてPlayStationのハードウェアは、私のような素人から見ても、とても贅沢な設計でした。今は想像しづらいのですが、PS3まで専用に開発されたCPUやGPUを積んでいたのですね。つまりSIE(当時はSCE)は、協業とはいえ自前でチップをデザインして最大のパフォーマンスを得ようとする、今のAppleが、Appleシリコンでやろうとしていることを実践していたようです。

※もっとも、PS2ではグラフィック向けワークステーションを、PS3ではP2Pの巨大メッシュネットワークの端末として使用することを想定して設計していたようです。久夛良木さんの夢は果てしないですね。

Playstation2の心臓部を並列化して設計したワークステーション、GScube 16。2000年の時期に、最大1080p/120fpsを目指していたそうです。ところでインジケータのデザインは、まさに「2001年宇宙の旅」(1969)です。

しかし、それはパフォーマンスを得るための学習が必要になる、他のハードへの移植が難しくなる、そして互換性も取りにくい……といった副作用がありました。PS3時代、どんどんシェアをXbox 360に取られていく苦い体験をしたSIEは、PS4で汎用のCPUをカスタムして使用する選択をします。そしてそれはある程度以上に、奏功しました。PS4はしっかり普及しました。

もしかしたら、それを決断したのも、上記のマークさんだったのかもしれませんね。

そして時代は流れて……

  • ゲーム機としての専用設計の部分は「SSDによる体験の向上」として
  • CPUを独自で開発しないことで、開発や移植はPS4時代と同じく容易なままで
  • しかし専用ハードの存在意義 = 体験を保証すること、が充分に存在する

という、今までの「パフォーマンス」か「開発や移植の容易さ」かのジレンマをクリアしてきたのがPS5なのだと思います。PSの未来にとっての「魔法のレシピ」を、マークさんたちSIEは、ついに見つけたんだと思います。

閑話休題: アイデンティティの回帰

だからなのかもしれません、ここ数年、SIEは過去の資産を見つめ直しているようです。冒頭のPS5トレイラーでは、最後に「プレイステーション」と日本語で喋るサウンドロゴが使われています(うれしいことに、全世界共通です)。これは初代のサウンドロゴで、2014年あたりから復活したものです。

興味のある方は「PlayStation 1 CM」あたりで検索してみると良いかもしれません。グラフィックロゴも同じものに戻りました

些細なことかもしれませんが、「自分たちは改めてゲームコンソールを作るんだぞ」という勢いのようなものを、社内にも育てているのかもしれません。広告や広報って、「中の人」にも効くんです。

この取り組みは、95年からずっとSCEに在籍されていた、KAZこと平井一夫さんが、SONY全体のCEOに就任した2012年以降に行われています。しかも彼はハード開発ではなく、ソニー・ミュージックからの移動組です。PSソフト(CD-ROM)の普及に尽力された方で……ちょっと妄想強めになってきたので、このへんで。

4. オッケー、そしたらなぜこのデザイン?

ゲームコンソールが存在できる素地は整ったとして……その上で、PS5以前のコンピュータのデザインはどうなっていたか、少しだけ振り返ってみましょう。

コンピュータのデザイン小史

コンピュータのデザインがその他のプロダクトデザイン — たとえば家具とか—とすこし違うのが、タスク = コンピュータでやることが常に変化していることにあると思います。中身は頻繁にアップデートされて、それは技術 / 使われ方のトレンドに直面しています。かつては速いパソコンで「VRのゲームを遊ぶ」ではなく、「mp3から音楽CDを焼く」のが流行っていた時期がありました。

1950–60年代:パーソナルコンピュータ以前

Whirlwindとフォルクスワーゲンで使用されていたSystem / 360。現在稼働状態のものはないそうです。

この頃に業界をリードしていたのは、やはりIBMでしょう。Whirlwindは配線むき出しでしたが、これをIBMが応用したミサイル防衛システム・SAGEは立派な箱(と巨大なビルが何棟も)に入っていました。メインフレームと呼ばれたこの頃のコンピュータは60年代・System / 360あたりで明確に造形的な特徴が出てきます。コンピュータの汎用化が始まった頃で、モジュール化のためにに統一した寸法を持つ必要があったのも大きいでしょう。

この頃のインターフェースはキーパッドとライトガン(ペンタブみたいなの)が実用化されていました。アポロ計画の誘導コンピュータ・DSKY(1966)とSAGE(1958)のレーダー指示インターフェースです。

1970年代:パーソナルコンピュータと、アーケードゲームと。

コンピュータはゲームにも使われるようになります。テニスゲーム・PONG(1972)はこの頃に登場します。ダグラス・エンゲルバートさんがスタンフォード研究所時代に構想した「マウス」も特許は1970年に通りました。

PONGの筐体(インターフェースはダイヤルのみ!)とマウスの試作品。マウスはダグラス・エンゲルバートさんとビル・イングリッシュさんの共同設計。余談ですが、ダグラスさんの研究チームの名前は「オーグメンテーション・リサーチ・センター」です。アツいですね。

インターフェースはかなり現代的になってきました。しかし造形的にはまだ懐かしい感じがする……と思いつつ、ブレイクスルーの一つはコモドールのPET 2001(1977)でした。当時の自動車やプロダクトのデザインのトレンドを与えつつ、明らかに「2001年宇宙の旅」(1969)のHAL9000コンソールからも影響が見て取れます。

PET2001とHAL9000。はじめて双方を見た時、その関連性に感動しました。指摘している記事も参照してみてください。

それはブラウン管でありつつも、当時に思い描ける未来のカタチでした。この頃、コンピュータは一人ひとりが使うものになるだろうという機運が高まってきていました。そう考えていたひとをもう一人挙げましょう。アラン・ケイさんは60年代から70年代にかけて、パーソナルコンピュータのコンセプトを興しました。

ダイナブックを持つアラン・ケイさんとAmazon Kindleの初代。Kindleはダイナブックと、NECの電子ブックリーダーがイメージソースだと思います。

一気に僕らが知ってるコンピュータっぽくなってきた!という感じです。左のアラン・ケイさんが掲げているのは彼が理想とした個人用コンピュータのコンセプト・ダイナブックのモックアップです。シンプルで直線的、そしてインターフェースはキーボードとタッチペンが構想されていました。このコンセプトは現在にも受け継がれています。

一時期アップルのフェローでもあったアランさんに、かのスティーブ・ジョブズさんはiPadの初代を渡したそうです。40年越しの夢ですね。

1980年代①:「フューチャー」から「メタファー」へ

初代Macintosh(1984)とフロッグデザインによるBashfulコンセプト。日本勢も元気でした。富士通のFM R-30(1986)です。

この頃、Appleのプロダクトデザインをフロッグデザインが一時期、手掛けています。コンピューターの筐体をデザイナーがデザインすることが増えてきたと同時に、パーソナルコンピュータはどう使われるべきか?を提案するレースが幕を開けました。

  • コンピューター = 未来の機械
  • コンピューター = 高級な、嗜好性も備えた道具

に置き換わってきたことがトピックとして挙げられると思います。そこには、空想の世界からの使者ではなく、もっと現実的で、現代的なデザインからの参照が求められました。Appleは、Mac OSのインターフェースに「デスク(トップ)」や「ゴミ箱」という現実世界のメタファーを、直感的に操作を覚えてもらうために設計しました。興味深いのは、プロダクトデザインにもそれが及んでいた痕跡があることです。本棚や「ノート」に似せたコンピュータが作られました。

そして、「ノートパソコン」を私たちは今でも使っています。メタファーの力は大きいですね。
Mac OSのSystem 1と当時のJonathanコンセプト。モジュールは「ブック」と呼ばれていました。

当時、パーソナルコンピュータはどう進化するべきか問題を抱えていました。拡張性か? / 詳しくない人でも使えるフレンドリーさか?……両立する解のひとつとして、メタボリズム建築的なモジュール構造が当時のAppleでは、議論されていたと想像します。

なんとこの問題は、解決していません。今でも筐体そのものをモジュール式にするコンピュータは時々出てきて、そして高い確率で滅んでしまっています。時々思い出す夢のように……。Insta360 ONE Rには頑張って欲しいです。
その源流をメタボリズム(建築様式)に求めるのは考えすぎでしょうか?けど、思想的には継承していると思います。左の写真は中銀カプセルタワー(1972)。真ん中の写真はGoogleのProject Ara(2013)、右はASUSの2006年頃のコンセプトモデルです。
ゲームコンソールの世界では、ジョイスティックと十字キーが出てきたのもこの頃です。ATARI VCS(1977)とNES(1985)です。

1980年代②:自由曲面と想像力

80年代の後半になると、曲面的なデザインが電気製品にも及んでくる例が出てきました。キヤノンのT-90などが代表的な例かもしれません。ルイジ・コラーニさんが活躍されていた時期ですね。

そして、山中俊治さんのB-TRONコンピュータ・コンセプト。

映画「General Magic」でも紹介された、Pocket Crystalも。

General Magic内でマーク・ポラットさんが紹介する、1989年に構想されていたスケッチ。もうiPhoneじゃないですか……。

これらはCADで実現できそうになったから、だけでもないと思います。ただ確かに当時、人間が触れる部分に曲面を多用するデザインが生まれてきていたことは確かです。もしかしたら、パーソナルな機械への親しみとしての、解の一つだったのかもしれません。

この潮流は90年代のAppleやシリコン・グラフィックスに受け継がれていったようです。

AppleのeMate300(1998)とSpartacus(1997)、そしてシリコングラフィックスO2(1996)。どれも憧れでした。

1990年代:コモディティ化とゲームの3D化

90年代は、クレイのスーパーコンピュータからPalmのPDAまで出現する、「役者勢揃い」の時代です。正直、90年代はトピックが多すぎてひと括りにできる時期ではないかなと思います。

コンピュータのデザインで挙げるとすると、リチャード・サッパーさんがThinkPad(1992)のデザインを。我らがジョニー・アイブさんがiMac(1998)を手掛けていました。ソリッドと自由曲面の両方が市場に存在している時期でした。

ThinkPad 700C(1992)と初代iMac(1998)。この両方が6年の間に出た時期……
そしてPlayStationとNINTENDO 64。ところでPSのモチーフが石鹸箱っていう話はホントなんでしょうか?これもソリッド / 自由曲面ですね。NINTENDO 64でアナログスティックが実用化されます。

コモディティ化 = 一般化は進みました。自作PCというカルチャーが出てきたのもこの頃です。Windows PCでハイエンドの3Dゲームを動かす、は当時とてもクールなことの一つでしたが、近しい体験をゲーム機でも実現できるようになります。ゲーム開発者のあいだで「3Dショック」と呼ばれた、3DCG技術がゲームのパラダイムシフトを起こしていた時期です。

Appleは光と影の両方を経験していました。「アルマーニを着たフェラーリ」と呼ばれたPowerBook G3(1997)と、互換機アーキテクチャを使って「安く」作られたPowerMac 4400(1996)。なんと筐体裏面のモデル名は、ステッカーで貼られています。

当時は十分に、ハードウェアに存在意義がありました。ゲームコンソールが置かれる場所はリビングのテレビで、そしてパーソナルコンピュータが置かれる場所は、十分な奥行きをもつデスクの真ん中でした。

2000年代〜:液晶と、かたちの消失

以降のコンピュータは、90年代に積まれた大量の「宿題」を消化する時期に入りました。より速く、より小さく、よりネットに繋ぎやすく……課題は山積みでした。そして、課題は着々とこなされていきました。

  • より速く……AMDとIntelの血で血を洗う抗争(+その他大勢の犠牲)により
  • より小さく……液晶の進化とNANDフラッシュメモリの実用化
  • より繋ぎやすく……WiFiの普及と2G/EDGE・3Gの実用化

そして、デザイン上の大きな変革は、液晶(LCD)パネルが充分に進化したことだと思います。

Apple Studio Display(2000)とiMac G4(2001)。この変革が1年の間に起こりました

これは、コンピュータをより軽やかにする以上のことをもたらしました。液晶の技術にモバイルネットワークが組み合わさり、スマートフォンが生まれます。BlackBerryがあり、W-ZERO3があり、iPhoneがありました。

昔の人間なので、今もBlackBerryがとてもクールに見えてしまいます

この頃、90年代の「宿題」に加えて、新たなタスクが出現します。いつでも繋がり、いつでも作業がしたい。スマートフォンがただの電話でなくなった瞬間。そしてコンピューティングの主役になった瞬間は、App Store(2008)がオープンした瞬間だと思います。これを機に、スマートフォンはコンピュータでできる汎用的なタスクをほとんどカバーできる、一枚のプレートになりました。

App Storeの歴史を解説するビデオ。App Storeに当初スティーブは反対だったそうです。どうなるかわからないものですね。
Wiiにくらべて、PlayStation3は当時、メチャ大きいなと感じたのを覚えています

いっぽうゲームコンソールは、Wiiが置かれる環境での存在感を希薄にしていく方向に舵を切りました。「ジャマにならないゲームコンソール」は、当初はDVDケース2枚分の体積を目標にして開発されたそうです。

そして、iPad(2010)をローンチする際にジョニーさんは興味深いことを言っています。

一枚のマルチタッチガラスがあるだけです。 ポインティングデバイスもなく、正しい持ち方というのもありません。自分がコンピュータに合わせるのではなく、自分にフィットするコンピュータなのです。

タッチ液晶パネルとコネクティビティ、そして快適なインターフェースとセンサーが備われば、可動パーツは極限まで少なくなり、コンピュータはただの一枚のガラスになる。それは2020年の現在、おおむね実現されています。デバイスのデザインはコンテンツと一緒に体験として扱われる時代になり、モノのかたちは相対的に希薄化していく時期に入ります。

とはいえ、プロダクトデザインの役割が終わることは、この先もないと思います。Appleは製造品質をきわめて高くすることにより、この精密なデザインを実現しているようです。山中俊治さんのこの記事が興味深いです。

この延長線上に、STADIAのようなクラウドゲーミングが存在するのだと思います(以前から、シンクライアントのような発想はありました)。デバイスのデザインとコンテンツのバランスを、極端にコンテンツ方向に寄せた結果がクラウドゲーミングだとして……一定数の人が、こちらが未来だと想像していたと思います。しかし、ゲームコンソールでしか出来ないこと = SSDの超高速による、シームレスな体験を発見したSIEは、2020年以降のプロダクトデザインの様式を見つけることになります。

iMac Pro(2018)とSTADIAコントローラ(2019)。方向性は違えど、どちらも2020年現在のデザインを象徴する存在だと思います

5. トレイラーから読み解こう

ここまでのおさらいイメージ。かたちは消える?ホントに?

コンピュータの外見の進化を振り返ると、

  1. 必要性から来る外装(1950–60年代
  2. 未来的な造形と一般化の始まり(1970年代
  3. 造形の多様化(1980–90年代
  4. 要求の高まり(2000年代
  5. かたちの希薄化(2000年代以降〜

と、大変ざっくりですが、まとまってくるんじゃないかと思います。ここ最近までは、もしかしたら豊かな造形よりも、より環境に馴染む、禁欲的な造形が優勢だったかもしれません。

PS4のシンプルな造形については、もちろん意図的だったようです。デザインを担当された隅井徹さんのインタビュー動画が残っています。冒頭0:30あたりで、

シンプルにしたかった。賢いものはあまり主張しない。なんてことのない物体がものすごいことをしてくれるギャップが、そのすごさをより実感できるんじゃないか。

そして、こうしたことも仰っています。22:20あたり。

プロダクトデザイナーだけど、モノだけ考えているわけでもない。お客さんが喜ぶ体験について考えている。持ったときにどういう感覚になるか。心理的なところにどれだけ影響するかについて考えている。ハードウェアだけのことではない。これからのデザイナーはきっとそういう事を考えないといけないんだと思う。

この2つのお話は、矛盾していないのだと思います。PS4のシンプルな造形も、心理的な影響も加味してデザインされたものと想像します。そして更に時代が進むことで、PS5のレシピが出来てきた。シンプルなデバイスが多数派の世界の中で驚きを、そしてゲームコンソールの存在意義を感じてもらうのに豊かな造形は有効ではないかと、SIEのチームは考えたのかもしれません。その上で……お待たせしました、トレイラーを見返してみましょう。

もういちど貼っておきます
冒頭20秒まで。集合体恐怖の方が「ひえー」となっていました。
  • まずはトレイラー前半のBGM。これ、もしかしたら初代PS1のSCEサウンドロゴをモチーフにしているのではないでしょうか。上モノの音色が似ていますね。
このムービーの前半0:07までです。90年代前半を象徴するサウンドだと勝手に思っています
  • 0:50あたりまで自由にうごめく粒(パーティクル)は最初、ゲームの集合を表しているのかな?と思っていました。もしかしたら、ユーザーのゲーム体験の集合なのかもしれません。このイベント・THE FUTURE OF GAMING SHOWでは 、ゲームタイトルを紹介するときのモチーフは△○×□で表現されていました。パーティクルの一つ一つが、ユーザーアクティビティの鼓動を表現しているとしたら、ちょっとステキですよね。
本体の外装がサクッと出てくるのではなく、非常にゆっくり出てくるのがニクいですね。
  • 0:56〜1:23。そのユーザの集合の海をかき分けて、正面の排熱グリルが現れます。それは本体のパイロットランプの青い光で照らされる輪郭です。ユーザーアクティビティの鼓動が、かたちを照らしているのかもしれません。緩やかにV(5)のシルエットから、筐体デザインが現れます。
本体ディテールのクローズアップ。PSロゴは外装パネルの外側、SONYロゴは内側に入っているのがわかります。
  • 1:28から本体のディテールに移ります。白と黒のツートンカラーです。黒の部分が冒頭のように「ユーザーアクティビティの集合」なのだとしたら、白は「やわらかいコアを包むシェル」のように見えます。友人のプロダクトデザイナーと話していて、たしかにと思ったのですがコア=電子パーツや機構、シェル=外装となりがちなところ、外装をコア(黒)・シェル(白)と、色によって分けているのは新鮮な手法ですね。
  • DualSenseコントローラと共通したデザイン言語であることもわかります。もともとゲームコンソールは「手に触れるもの(コントローラ)」と、「机に置かれるもの(コンソール)」のデザインは使われ方も、スタイルも異なることが一般的だったように思います。「デザイン言語の一貫性」は今回のキーワードになりそうです。
  • 外装パネルの表と裏でテクスチャが違うこともわかります。表側はつるつる、裏側はざらざら。ゲームを通じた体験をすべてなめらかに包み込む……といった感じでしょうか。多分DualSenseのウリである、細かな疑似触覚表現・ハプティックフィードバックも表現しているのかもしれません。
  • この外装パネルを大きくした形状は、多分カスタマイズ(DQ12エディションとか、ホライゾンの新作エディションとか!)にも充分に対応しているのだと思います。
  • 1:33。パネルの外側にPSロゴ、そしてSONYロゴは内側に入っています。ブランドが2つ存在していて、その優先度合いをさりげなく伝える秀逸なアイデアだと思いました。まずPSロゴのほうがロゴの塗り部分が黒く映え、SONYロゴは白のパネルのまま刻印されています。細かな処理もステキです。
  • この辺りで、「中が複雑、外がつるつる」な二面性をもつ物体をひとつ、思い出しました。アルナルド・ポモドーロのSphere Within Sphereという彫刻は、巨大なメカニクスを包むなめらかな球が特徴です。ニューヨークの国連本部前や、いろいろなところでパブリックアートとして展示されています。
SIEのチームがこれを参考にしたとは必ずしも思わないのですが、念のため。実物はかなり迫力があります
このムービー最大のサビ。「ピーッ」というひずんだ高音のタイミングでDigital Editionであることがわかる、セクシーな演出です。
  • 2:15から。Digital Edition。デジタルエディションにも今回、充分な存在価値があります。重要なのは物理ディスクではなく、専用の物理デバイスが存在しているということ。そう認識していないと、ディスクドライブがないデバイスに、ムービーの音楽が一番盛り上がる「サビ」を務めさせませんよね。左右対称の、象徴的なシェイプが与えられています。こちらが多数派になってもイマドキはおかしくないと思います。
PSP goのことを思い出しました?きっとあなたは、私と同じオジサンです。😇
  • 余談ですがこのパート、冒頭のカメラが滑るところは音楽のキックとグリルの羽の出現タイミングが同期しているのに気づきました。偶然かしら……狙っていたとしたら本当にクールですね。
周辺機器内側のザラザラのテクスチャー(シボと言います)も共通ですね。拡大して驚きました。
  • 2:43から。この二層のモチーフは周辺機器にも徹底しているのがわかります。チャージングステーションの裏面や、カメラの内側までシボの処理があります。
  • このシボは拡大するとPlayStationの△○×□!細かな表現が出来るということは、製造品質も高いのでしょうね。
周辺機器からファミリー全体でキメ。PlayStation史上、もっとも一貫した造形かもしれません。
  • 2:53から。前述したように、3Dヘッドホンなど周辺機器を含めて、白黒のツートーンや曲線の形状など、とても造形に一貫性があります。ユーザーが触れる部分からそうでない部分までのつながりも意識しつつ、全体としては感情をかき立てる方向に寄せた造形です。先ほどのプロダクトデザイナーの友人とも、もしかしたらマツダの魂動デザインのように「お手本となるオブジェ」がデザインに先んじて、あったのかもしれないねと話していました。
マツダは魂動デザインを作るにあたって、こうした動物的な彫刻をつくって、お手本としたそうです。
  • 2:58。そして製品ファミリー全体を見せてムービーは終わります。ただの感想ですが、トロフィーのデザインにも近いものを感じました。それはゲーミングコンソールがもう一度、存在する理由があることを告げる祝祭なのかもしれません。

PS5は、明らかに歴史の線にいるのだと思います。それはPlayStationの歴史だけではなく、本来決まった形がないもの……コンピュータというデバイスにいかに形を与えるか、についての最新の成果に感じられます。それはゲームコンソールがふたたび、形を与えられるにふさわしい理由を見つけたことでもあり、ソフトウェアと一緒になることで体験として評価されることになった以降の、コンピュータの可能性の一つです。

長い記事になりました。お読みくださりありがとうございます。PS4時代の情報ですが、SIEのクリエイティブデザインセンターは、ソニーのデザインとは独立しているようです。ですがソニーのデザインって、やっぱり凄いと思いました。関わられた方々に、深い尊敬の気持ちをお伝えしたいと思います。これから出てくるであろう、インタビューの記事や動画を見るのが本当に楽しみです。まだまだ気になることがいっぱいだ……。

この記事を書くにあたって、友人たちからたくさん、ヒントを頂きました。ゼックさんぎんちゃんまりこちゃんこたまるさん、そして記事を書くきっかけを頂いたてらもとさん、本当にありがとうございました。

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