週100時間働いていた元起業家が感じた、働き方改革が業績を上げる4つの理由

僕は5年前に教育系のスタートアップを共同創業して、この春まで働いてきました。

しかし結婚を機に、子育て・保育領域に問題意識が芽生え退職。現在はフローレンスという保育のNPOでフルタイムで働いて勉強しながら、新しい会社の創業準備をしています。

詳しくはこちらの記事をご参照ください

前職の創業期は、8–24時×週7日で休憩時間を除いて週100時間くらい働いていた時期もありました。夢中になってやっていたのでさほど苦ではありませんでしたし、この業界ではよくあることです。

そんな働き方について、学生時代からお世話になっているメンターであり、また昨今の働き方改革の推進者でもある小室淑恵さんからは、ことあるごとに何度も注意されました。

しかし当時は「時間あたり生産性×労働時間=アウトプット、なら生産性高く長時間働くのが1番」「会社の生死がかかった時にワークライフバランスなんて言ってられない」と彼女の教えに反発していました。

反抗的な弟子でごめんなさい><

一方、春から勤務しているフローレンスは極めて先進的な働き方の組織です。18時頃にはオフィスから一気に人がいなくなりますし、子育て世代のママ社員たちもバリバリ活躍しています。

にも関わらず、売上は20億円に迫る現在も年2–3割増、最終利益は3-5%(※1)。なにより日々の仕事の中で「ああ、この組織は本当に社会を変えていっているんだな」という強い実感があります。

会計報告より

昔はアンチだった僕が、そんな職場で働く実体験を経て「働き方改革は業績を上げる」と思うようになった理由。それを大きく4つにわけて紹介したいと思います。

1. 組織としてボトルネックを強化しやすくなる

働き方改革の効果を理解できるようになった最も大きなきっかけ。それはTOC(Theory of Constraint)理論を地で行く様子を、働きながら体感したことです。

僕は前職でプロジェクト管理を担当した時に、必要に駆られて「クリティカルチェーン」という書籍を読んでこの考え方を知り、感銘を受けました。

有名な「ザ・ゴール」という書籍の続編です

ざっくり言うと「成果を最大化する上で重要なのは各プロセスや人員の個々のパフォーマンスをそれぞれ高めていくことでなく、全体の中のボトルネックを集中して強化することである」とする理論です。

そして働き方改革を進めると、このボトルネック強化が非常にやりやすくなります。普段の業務量を8時間/日で収まる程度に抑えておくことで、必要な時に素早くボトルネック箇所の支援に回れるからです。

僕は担当している新規事業のリリース直前期にこれを痛感しました。

クラウドファンディングによる寄付集めと広報の責任者でした

リリース2ヶ月前に僕の担当業務がボトルネックになりそうなことが発覚。上長に相談するとすぐに他部署から人員を異動、また僕が並行してやっていた他の業務を別の人に引き継ぐよう調整してくれました。

協力してくれた人たちにとってはある種、関係ない仕事が増える面倒な対応です。にも関わらず、皆さん嫌な顔1つ見せず、快く引き受けてくれました。

また僕自身も元は8時間/日で業務が収まるよう見通しを立てているので、リリース直前の数週間は一時的に残業時間を増やし自分のリソースも見通しよりも増加させ対応。無事リリースに漕ぎ着けました。

社内のチームメンバーと!

ですが、普段から1日14時間働いていると、こうはいかなかったでしょう(マナボではそうでした)。

物理的に時間を捻出できないと他部署の応援は出来ません。精神的な余裕がないと頼みづらい雰囲気を醸し出してしまうでしょう。常時フル稼働前提で見通しを立てると勝負所での伸びしろがなくなります。

ボトルネック箇所を柔軟にカバーする体制を組めるよう、普段から「遊び」を作っておく。それにより、普段から限界ギリギリの業務量を詰め込むよりも、組織として成果を出す事ができるのです。

2. 緊急ではないが重要なことにリソースを割きやすい

「緊急度ではなく重要度を重視せよ」は、昔からよく言われる生産性を高める黄金律です。

自己啓発本でよくある奴ですが真理だと思います

しかし頭ではわかっていてもなかなか出来ないもの。背景には「普段から余力なくギリギリまで業務を詰め込んでいるから」という要因もあるのではないでしょうか。

上述の新規事業のリリース日に記者会見を開くことになった時のこと。チームの誰もそんな経験はなく途方にくれて「誰かアドバイスください」と社内MLにSOSを流しました。

すると次の日には、前に別部署で開いた記者会見の手順をまとめた資料が送られてきたのです!お陰で当日は50社近い報道関係者を招き、TVはじめ様々な媒体に露出、そこから多額の寄付に繋がりました。

最終的にはNHKでの20分間の特集などにも繋がりました

僕自身も現在、業務を通して得た知見のマニュアル化を少しずつ進めています。普段の業務量がある程度以下に抑えられていることで、前職よりも圧倒的に取り組みやすいなと感じます。

こうした未来への投資の積み重ねにより、ますます仕事の生産性があがって余力ができる。そしてその余力を使って緊急度は低いが重要なことに取り組んで…という好循環が回っているのです。

3. よりストレッチした人材を惹き付けられる

先進的な働き方を整えると、そうではない会社と比べて採用力が増します。中でも、子育て世代や家族の介護を担う方など、時間に制約のある人たちへのアピール力は圧倒的です。

フローレンスはNPOということもあり、正直いって条件面では他社にかなり見劣りします。具体的に言えば、事務方の職種では中途入社でも基本給23万円/月からのスタート(※2)です。

ですが、前職から給与を大幅に下げてでも転職したいという人が後を絶ちません。社会的な意義の大きな仕事に取り組めるというNPOゆえのメリットもありますが、働きやすさも大きな武器になっています。

誤解を恐れずにわかりやすい例を出すと、フローレンスには東大卒で野村総研から転職してきた30代前半の男性社員がいます。この経歴の人は普通、月23万円では採用できませんよね。

転職クチコミサイトを見ると野村総研では30歳で年収1,000万円に達します

しかしそれが出来てしまう。色々な背景があると思いますが、仕事とプライベートのバランスのとりやすさも大きな要因のはずです。

事実、この方はお子さんが生まれた時には育休を取りつつ部分的に働く半育休を取得(ちなみに男性育休の取得率は100%です)。復帰後も時短勤務をして、お子さんと過ごす時間を大切にされています。

ご本人のブログはこちら

一方仕事ではマーケティング関連の部署で中核の役割を担い、バリバリ活躍されています。先日は時短勤務にも関わらずサブマネージャーに昇格しました。

労働市場には「能力は高いが働き方に制約がある」という人たちが山ほどいます。彼ら・彼女らが活躍できる働き方・環境を整えれば、よりストレッチした人材を惹き付けられるんです。

この記事を読むとイメージがつきやすいと思います

4. 心理的安全性が上がる(=生産性が上がる)

米Google社が生産性の高いチームの共通項を定量的に分析した「プロジェクト・アリストテレス」を知っていますか?

この研究によると、高い成果を出すチームに共通するのは「心理的安全性」だそうです。つまりメンバー同士の深い関係値や、職場というコミュニティの中で自分という存在が認められている安心感のこと。

2016年にNYタイムズ誌にて詳細な解説記事が出ました

働き方改革が進むと時間の余裕が出来るので、職場でのおしゃべりや社員間の交流が増えます。精神的にも余裕ができ、互いに良い関係が築けるでしょう。これが心理的安全性に繋がるのです。

フローレンスの場合も、1つ1つはどの職場でもよくある何気ないコミュニケーションなので、わかりやすい例を出すのは難しいですが、それが積み重なって心理的安全性も高い環境が作り出されています。

以上4つが、フローレンスで働くことを通して僕が感じた「働き方改革が業績を上げる4つの理由」です。

最後に

スポットコンサルお受けします

この記事の内容を踏まえて下記のような方のお力になれると思います。VisasQからご連絡ください。

  • 流行している「働き方改革」に興味はあるがそれで業績が下がらないか不安な経営者の方
  • 「働き方改革」を始めることになったがどのように実践すべきか悩んでいる管理職の方
  • ハードワークな文化だが業績が伸び悩んでいるベンチャー経営者の方

共同創業者を探しています

僕は来春にフローレンスを退職したあと(というか今も並行しながら)、共働き家庭の子育てと仕事の両立を支援する会社を立ち上げます。

もちろん、創業期は時間と気合いで突破せねばならない場面も多々あるでしょう。先述した4つのうちいくつかは、ある程度(10–20人くらい?)以上の規模の組織でこそ活かされるモノでもあります。

しかし、その会社の中の人が子育てと仕事を両立できていなければ、説得力もなにもあったものではありません。なのである程度の規模になったら、先進的な働き方の組織を作っていきたいと思います。

そんな会社を作っていくことに興味のある、ソフトウェア開発者の方、あるいはユーザー体験の設計を強みにしている方へ。よければ一度お茶でもしませんか。

→ご連絡はFacebookから

フローレンス採用してます!

フローレンスは働き方も含め、全般的に素晴らしい組織だと思います。

特に「子育てや介護などがあり働ける時間に制約はあるが、社会のためになる仕事を大きな裁量を持ってゴリゴリやっていきたい」というタイプの人には強くオススメしたい職場です。

興味のある方には社内事情などお話しますのでお気軽にお声がけください。

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保育スタッフや看護師でない事務系の職種の採用情報はこちら

※1

こういう話をすると「NPOなのに利益を出すってどうなの?」とたまに言われますが、まったくもってナンセンスな話です。

NPOの「非営利」とは、株式会社のように出した利益を株主に分配することはしないという意味です。代わりにその利益を、世の中を更に良くしていく為の事業に再投資します。

例えば、かの有名な「国境なき医師団」は2016年度に約1,000万ユーロ(10億円以上)もの利益を計上しています。その利益を使って更に多くの地域に医師を派遣し、人々を救っているのです。

フローレンスは病児保育問題への取り組みから始まりました。その後、待機児童、障害児保育、赤ちゃん虐待、子どもの貧困など、取り組む領域を広げられたのも、健全な財務基盤があったからこそです。

※2

役職なし→サブマネージャー→マネージャー→ディレクターと昇進すると給与は上がります。また毎年のように処遇改善が行われているので、2017年現在の数字であるとご理解ください。

私見ですが、抑え目(一般的な中小企業よりやや良いくらいの水準です)ではあるが、職場環境や働き方の素晴らしさとのバランスを鑑みるに、フェアな給与体系ではないかと思います。

ただし、一流の人材を継続的に惹きつけて行くには更なる改善が必要だと思います。話を聞くに、経営層もそのつもりのようです。

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廣田達宣@issues運営
廣田達宣のブログ

慶應経済→スマホ家庭教師manabo(取締役として共同創業 / 駿台グループに売却)→フローレンス(保育士 / 文京区子育て支援課と共にこども宅食立ち上げ)→issues https://the-issues.jp 創業。身内に官僚がおり、半ばプライベートで官僚の働き方改革ロビーに取り組んでいます。