プロダクトマネージャーは、自分達が「頭がいい」ことを理解しなければならない
みなさんこんにちは。
チャットボット開発のスタートアップでプロダクトマネージャー(以下PM)兼エンジニアをやっている福本です。
先週11月6日~7日にかけて、プロダクトマネージャーカンファレンス2018(pmconfjp)が行われましたね。僕も参加してきましたが、「PMという職種が市民権を得てきている」というのが、当日の盛況ぶりから伝わってきました。
さて、今回はカンファレンスで色々な方と接して改めて感じた「PM」という人種について(偉そうに)語っていきたいと思います。例によって、この記事は僕の妄想に基づいた怪文書となっています。
「頭がいい」とは
今回もタイトルを刺激的にしてみたわけですが、僕はPMの地位を不当に上げるために「頭がいい」という表現を使ったわけではありません。ましてや、PM上げをすることで遠回しに「オレは頭がいいぞ」という主張がしたいわけでもありません。
僕はPMの「頭の良さ」が自身の命取りになる可能性を孕んでいると考えていて、それについて話をしたいと思っています。
これはどういうことかと言うと「PMは自身が突き抜けるほど、その思考や生活がユーザーから離れていく」ということです。
それでは、具体的に説明していきましょう。
PMとはどんな人か
さて、具体的な説明に入る前に、まずは一般的なPM像について定義しなければなりません。
ここでPMについて細かい話をしだすと、それこそ本が一冊書けてしまうほどのボリュームになるので、今回は不毛な議論の一切を避けたいと思います。
一般的なPM像について、この記事では「幅広いビジネス領域に精通している」かつ「プロダクトに情熱を燃やし続けられる」人だと少し強引に定義します。
PMの職責を説明するためによく用いられるのが、この『プロダクト・マネジメント・トライアングル』です。ざっくり見てみると、プロダクトを中心として「開発」「ビジネス」「UX」に領域が及んでおり、先ほどのPMの定義からさほどズレていないかと思います。
つまり、各3つの領域に精通し、それらをプロダクトを良くするために活かすことがPMに必要とされるスキルです。
といっても僕の体感ですが、最初から3つの領域すべてに精通している人はなかなか居ません。元々2つの領域で強みを持っていて、「成り行きでPMになり3つ目の領域を埋めに行く」→「気づいたら元々強かった2つの領域も一緒に伸びている」というパターンの人が多い気がしています。
少し話が逸れましたが、ここまでまとめると「幅広い専門領域」と「ゆるぎないプロダクトへの情熱」を併せ持っている人が、一般的なPMの人物像であると言えます。
「普通の人」について
さてここからが大事なのですが、世の中の多くのプロダクトがターゲットとしている「普通の人」について定義します。
「普通の人」について不毛な議論を始めると、これまた上下2冊に渡る本が出版できてしまうので、ここでも細かい議論はせず「母数が最も多い層」という捉え方をします。
普通の人の「仕事に対する考え」や「余暇の時間の使い方」について、内閣府が毎年実施している『国民生活の世論調査』の2018年度の調査結果をもとに少し覗いてみましょう。
まずは”働く目的”という観点から、仕事に対する普通の考えを見ていきたいと思います。
働く目的は何か聞いたところ、「お金を得るために働く」と答えた者の割合が53.9%、「社会の一員として、務めを果たすために働く」と答えた者の割合が14.3%、「自分の才能や能力を発揮するために働く」と答えた者の割合が8.9%、「生きがいをみつけるために働く」と答えた者の割合が18.6%となっている。 -『(2) 働く目的は何か』より引用
過半数の人が「お金を得るため(≒生活のため)」だと回答しています。仕事を生きがいにしている人は全体の約9%くらいです。
つまり「働かなくても生活できるなら働かない」という考えが普通だと言えるでしょう。逆に、情熱を持って仕事に打ち込んでいる人は少ないようです。
続いて、仕事以外の”自由時間”について見ていきましょう。普通の人はヒマな時に何をしているのでしょうか。
現在、どのようなことをして、自分の自由になる時間を過ごしているか聞いたところ、「趣味・娯楽」を挙げた者の割合が49.3%と最も高く、以下、「テレビやDVD、CDなどの視聴」(42.5%)、「睡眠、休養」(37.0%)、「家族との団らん」(36.7%)などの順となっている。-『(7) 自由時間の過ごし方』より引用
ほとんどの人が趣味や娯楽といった、仕事とは直接関係のないことに余暇時間を充てているようです。教養や自己啓発、あるいは社会参加といったことに時間を使う人は約5%~12%と、かなり低い割合でした。
実際に、読書の習慣がない人の割合は約47%という調査もあり(少し古い調査ですが…)、自由時間を学習に充てる人はやはり多くない印象です。
ちなみに、「自由時間が増えた場合に何をしたいか」という調査も合わせて行われていますが、先ほどの調査と比較しても、”旅行”が最上位に来る以外に全体的な割合や順位に大きな違いはありませんでした。
自由になる時間が増えるとしたら、どのようなことをしたいか聞いたところ、「旅行」を挙げた者の割合が48.0%と最も高く、以下、「趣味・娯楽」(33.5%)、「睡眠、休養」(18.3%)、「スポーツ」(17.4%)などの順となっている。-『(8) 自由時間が増えた場合にしたいこと』より引用
ここまで普通の人についてざっくりまとめると、「生活のために仕事をしている」かつ「余暇は趣味や娯楽に時間を充てる」という感じです。あなたの周りに当てはまる人がいれば、その人達の要素を抽象化すれば「普通の人」の最適解を具体的に求められそうですね。
「普通の人」と「PM」
さて、断片的にですが普通の人について触れてみたところで、本題であるPMについて話を戻します。
すでに気づいた方もいるかも知れませんが、「普通の人」と「PM」の間には、考え方や生活といった部分で大きな隔たりがあります。
普通の人は『リーンスタートアップ』や『イノベーションのジレンマ』なんて読まないですし、普段使っているスマホアプリが何の技術で動いているのかなんて知ったことではありません。
仕事からはできる限り早く帰り、家に帰った後はごろごろしながらテレビやYouTubeを見たり、スマホで2ch(5ch)のまとめサイトとかをずっと見ていたりします(たぶん)。
冒頭に述べたとおり、「普通の人」がダメだと言っているわけでは全くありません。問題はPMが自身をPMたらしめるために、努力を重ねれば重ねるほど「普通の人の感覚」からどんどん遠ざかってしまうということです。
ユーザーの感覚を理解することはPMにとって重要な責務ですから、この状態は何とか避けなければなりません。
だからといって、普通の人と同じ生活をしてはPMはとても務まりません。ビジネスやテクノロジーに精通した上で、途方もない試行錯誤を重ねるなど、絶えず仕事に情熱を注ぎ込まなければならないからです。
つまり「PMを突き詰めれば普通の人の感覚」が、「普通の人の感覚を理解しようとすればPMの責務」が、それぞれ追いつかなくなってしまうのです。
だからこそ、仮説検証を何度も繰り返しユーザーの意見をプロダクトに適切に反映させること(=Agile)が昨今、重要視されているのです。
普通の人とPMの間に存在する致命的な構造の欠陥によって、PMが自身の役割を達成することは非常に難しくなっています。
PMは常にこのことを意識しながら、自身がどの領域に注力し自らの力とプロダクトを伸ばしていくのかを決めなければなりません。
自分というプロダクトに責任を持ってマネジメントできるのは、他でもない自分自身なのです。
知識労働者たる者は、組織において、自らをマネジメントしなければならない。- Peter Drucker『The Effective Exective』