フリーランスが複業採用に応募して考えたこと

Naoki Ando
17 min readMar 9, 2017

--

サイボウズの複業採用に応募して落ちました。

転職のポストはたまに見るのですが、落ちたポストってなかなか見ないな、と思い、まとめてみようかと。なんならmedium試してみようと思い初投稿。

Fb上でも話題になったこのプレスリリース
サイボウズでの仕事を複(副)業とする方を積極募集
https://topics.cybozu.co.jp/news/2017/01/17-1601.html

個人的に大きく感銘を受けたこともあり、親しい人に対しては、会話の流れでこれに応募していることは話していました。

フリーランスとなって早9年。自分にとってこの選択は間違っていなかったし、多くのプロジェクトの経験で1社にいるよりも多くの経験を得られている、と思ってます。波はあれど、この4,5年はOKストアの200円弁当ともご縁のない生活です。(震災後はプライベート含め打ちのめされそうになった時期がありました)
フリーランスという職を捨てることは考えていない。少なくとも現時点では考えていない自分がなぜ応募したか。それはこのサイボウズの掲げたビジョンにありました。

サイボウズはグループウェアで有名ですが、「チームワーク溢れる社会を作る」を掲げ、働き方も含めて会社のあり方を見直している会社でもあります。

ネットで何度か記事は見ていたのですが、今回の複業採用のプレスリリースを見るまでは、数多くのサービス会社のひとつ、という程度の認識でした。

そこで色々調べ始めてみたら面白い。社長の青野さんだけでなく他の人も面白い。経営者としての自伝武勇伝を見抜くポイントはいくつかあるのですがそれを通してみても、地に足をつけた考えが見えました。綺麗に飾った弱みは伝わらないし、これが弱点だと見せてる場所自体があざとい経営者も多い中、あけすけで人として魅力を感じたことがきっかけ。

チームのことだけ考えた」を読むとわかるのですが、離職率28%の職場のエピソードは身につまされる人が多いと思うんです。

電通社員の自殺の件に限らず、高い離職率や残業の恒常化やワークバランスなどの件は企業としての生存問題とも絡んでいて、単純にノー残業デーを設定したり給与をどうにかしたり、といったことが処方箋にならず、かといって会社の目標を低く設定することもできない。また従業員も単に日々の糧を稼ぐ、ということだけでなく、人生とは何か?生きがいとは何か?という問いと格闘し続けている。
従業員も経営者もお互いに悩み続けているのですね。

これは私も考え続けていることであって「自身が自身を経営する」という考えでフリーランスという働き方を取ったのですが、今回のプレスリリースで「雇われるか雇うか」の二者択一でない方法があるのだ、と気づかせてくれたことが大きかったです。

私から見たサイボウズは、ベンチャーから始まって組織化していく中で起こる様々な不幸をないがしろにせずきちんと向き合って片付けていった会社で、かつそれが役員だけでなく、会社全体に文化として浸透している姿を知って、この組織運営とその未来に興味を持ったことが一番大きかったです。そして世界一使われるグループウェアを目指している姿勢が魅力的で。実は10年前、ニッチなSNSを立ち上げたはいいものの、SNS特有の加速するサーバー負荷を解決するためのサーバー増強費運用費でショートしそうになり泣く泣くクローズしたり、そもそも音楽や柔術といった趣味の分野でも世界の壁の高さを感じたりと、負け続けてきた経歴を持っている自分にとって「世界一を目指す」って姿勢は眩しすぎるんですよね。そんな国産バスあったら乗りたい。しかも今回はフリーランスの立場は捨てなくてもこのバスに乗れる可能性がある。

https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m001227.html
“副業ではなく「複業」採用”
これ、とても含蓄のあるパンチラインだと思うんですよ。世の中の人は皆一度フリーランスとして仕事をしてみて、会社の看板のない自分がいかに無力か、経営者が何を考えているのか、仕事って何かを考えてみればいい、と思ってるのですが、複業というのは、生活の糧への一所依存をなくす、ということでもあるのですね。給料安くて酷いブラック職場だけど辞めるの怖いから耐える、とか、やりたい仕事と違うけどこれしか役目がないから、だとか、ひとつしか職場を選べない故に生まれる不幸もある。

この意味では、フリーランスという方法を取らなくても1つの会社への依存を減らすこと(そもそもフリーランスは依存を減らすことにはならない)になる。

仕事のキャリアを並列にできるというのは実はすごく良いこと。もちろん一意専心背水の陣でしか辿りつけない高みというものは存在すると思いますが、人生におけるいろんな場面で止む無く捨てなければいけない選択肢を持っておける。例えば会社員だけどプロ格闘家、なんてこともあっていいし。実際にアメリカでは弁護士だけど総合格闘技のメジャーリーグUFCに出てるなんて選手もいるし、バンドで世界中廻りながら正社員として働くなんてのも本来なら実現できて当然のこと(にしたい)。そこにメインもサブもないのが理想。

個人的には、長きにわたって続くプロジェクトへの参画も主業で、年に一度のお仕事も主業で、金の稼げないPodcastやバンド活動も主業で、それらは費やす時間や労力、その対価として報酬の多寡に限らず大切なものなので、副業ではなく複業をしているのだ、という自己認識と同じで。そこに共感した、ということがこの複業採用のエントリーに繋がりました。

そんなの止めておけ、という内なる声も聞こえたのですが、これはやる価値があるだろうと。

先に結果を伝えれば、冒頭に書いたように2次面接で落ちました。週2日残業無しで正社員という条件を提示して給与交渉までしたところ。 中途採用の面接なんて15年以上ぶり?最後は中野さんとの面接だと思うんだけど、ネットで調べてみると、書類選考で落ちなかったこと、1次面接もクリアしたことはまずまずかな、と。(なにより年齢で足切りせず中身を検討したサイボウズの多様性希求を裏付けることでもあると思う)

今更ではあるけれども、面接を通じて自分が考えたことを書き留めておこうと思います。自身の情報では最大にバズったLIVEAGEのインタビューと繋げて読んでもらうことで、サイボウズを志望する人だけでなく、働くことの意義を考え直すことに繋がれば。

記念受験疑惑を解消するために取ったこと
こうした情報が出た際に少なからず記念で応募する人はいて、ただでさえ多くの人の履歴書を人事部の人が捌く中で目を留めてもらうにはどうすればよいか。
普通に考えたら、45歳のフリーランスなんて書類で落とされて当然。知り合いを通じて裏口を通す方法もあったと思う(普通に考えたら40歳以上の転職で、表玄関から行くやつは人的資産もなく、リサーチもできず市場価値も計算できないバカだと思う)が、今回はこの勝ち方をしてみたい、と思ってしまったのですよね。これは現状の仕事で自活できているからこそ、という背景もあります。皆さまそして神さまありがとう。もうひとつ、デジハリで就職ガイダンスというプログラムを担当している手前、この「できたらすごい」をやってみたかった。(みんなごめん!先生落ちたwww)
そんなこともあり、正面玄関から門を叩いてみることに。大変なのはわかってるので履歴書の志望欄や添付書類はかなり推敲しました。推敲しながら、転職者の不安ってこういうことなんだろうなぁと感じてエモい気持ちになることなること。個人的には普段からあれこれ考えていることを如何に短い文章で説明するかだけなのでそれほど大変な作業ではなかったですが。自分のやってきたことが線で繋がってるので大切にしている価値観や人としての軸は割り出しやすい。そのうえでなぜキャリア採用でもなく、他社でもなく、サイボウズの複業採用に応募しようと思ったのか。単なる仕事先を探して複数応募しているならネットに落ちている志望動機でもいいのかもしれないけど、自分の場合は違う。別の会社を応募する意思はない。

とはいえ、送信ボタンを押す際はすごく勇気がいりました。思ったよりエネルギー使いました。 転職活動ってこういう神経すり減らすことを続けるんだね。転職エージェントが流行るのもわかる気がしました。

面接でのやり取りを細かく書いてしまうと生々しく、彼らの採用活動を邪魔してしまうかもしれないので省略するけれども、1次面接と2次面接は目的が違うな、ということを途中で気づきました。

1次面接は想定している業務を遂行するための能力を見て、2次面接は過去のキャリアなどを通じてその人の軸となるものを確かめ、会社の文化や方向性の点からこの人を採用するべきかどうかを見ること、そして所属する部署での必要とする能力の提供に対して報酬をどれだけ準備しなければならないか、の見定め、という印象。

2次面接で落ちたということは、サイボウズの文化に合うかどうかという視点で不適切と判断されたか、それまでの私自身のキャリアで不安視する材料があったか、給与などの諸条件で見合わなかったか、そのどれかなんだと思います。

実は2次面接まで時間が空いたので、空き時間に思いついたことをどんどんまとめていました。サイボウズLiveを利用してみた立場での改善点をまとめたり、他社競合のプロコンをまとめておいたり、新オウンドメディアの企画を作ったり。面識のない会社の役員に1時間もらえる機会なんてグランドクロスばりにレアなチャンスだし、 いい年こいた大人が手ぶらで面接に行くのもどうなのだろうか?そんな思いが背景にあったこと、そして性分としかいえないけども、金がもらえるかどうか(今回は複業採用されるかどうか)の前に、考えたことはまとめておきたいし、こういう状況ならアレができるのではないかコレをやるべきではないのか?と考えてしまう。それが自分のコアコンピ―テンスでもあるし。

自分が企画を立てる場合はコピーから出来上がることが多いのだけど、今回もその流れのまま。3日寝かせて閃いたら細部詰めるので1日。予算繰りは置いておいて企画としてはなかなかの自信作。

ただし今回でわかったことだけど、こうした行動は諸刃の剣だな、とも感じました。

転職活動(今回は複業採用なので、厳密には違うけれども)において企画書持参で臨むのは、自身の企画能力ややる気を示すことになるし記念受験ではないことがわかるので他者との差別化もできると考えられるが、別の面から見るとその企画が(組織体系で見た際に)別部署の担当領域だった場合「その手の企画はこの部署の領域ではないけどどうしてもそれをやりたいのか?そちらの部署では募集を行っていないorうちの部署では実現できない」ということにもなりかねない。そしてそもそもその企画内容自身がよくなければいけない。

ドライバーを探している人に「この十徳ナイフならナイフもあるし瓶ビールの蓋も開けられます」と提案しても必ずしも便利な十徳ナイフは売れない。Must HaveとNice To HaveとNot Necessaryの掛け違い。そして今回それをしてしまったな、と感じる瞬間が何回かあって。特に今回は全職種で採用募集をかけているわけではなく、Webディレクターという職種での募集に応募したので、その会社のWebディレクターの担当職務に合わせて話をするべきだったな、と反省してます。「Webディレクターたるものこれだけのことができなくてはならない、こうでなくてはならない」は大いに結構なことだけども、果たしてそれを話す必要のある場面だったのか。

自分の考えた企画を話したくて、話し相手の気配を感じ取ることに疎かになってしまった。まぁこれが原因だったかはわかりませんが。

あともう一点気づいたこととして、過去のキャリアを通じて見える人の軸ってかなり大事なんじゃないかな、とも感じました。
2次面接の中で過去の仕事(建設業)を離れた理由を聞かれて、自分の信条に反する慣習や事件から逃げ出したかったこと、小泉政権下の聖域なき構造改革に怯えて転職を決意したこと、アークウェブに参画した時のエピソードも、デジハリに入った時の経緯も正直に話してみた。受かりたいではなく、同じバスに乗りこむにあたって、ありのままを伝えた方がお互いにとって損しないから。

不条理はどこの業界にでもあることなので、清濁併せ呑む器量を持った人を求めていたのかもしれないし、もしくは仕事経歴を貫く軸が見えなかったり、さらにもしくはその軸そのものが魅力的に感じなかったのかもしれない。でもそれはわからないままでいいと思ってる。そこが選考から落ちた原因ではないかもしれないし、わかったところで過去は変えられないのだから。もしその軸が伝わらなかったのなら、自分の説明技量の問題だし、その軸そのものが魅力的でなかったのなら、俺はサイボウズには必要ないということ。

で、この久しぶりの転職活動的なものを終えてから気づいたことだけど、「自分がいかに優秀か」を示そうとしていたけど、実は面接ってそういうことじゃないのかもしれない。

優秀かどうかではなく一緒にやりたいかどうか。恋愛ならイケメンか綺麗か、すごいかヤバいか、ではなく一緒にいたいか。会社なんてよい時もあればダメな時もある。そうした場合でも、この人となら一緒にやっていけるか。いわゆるバイブスを確認する作業。
面接って会社から選んでもらう儀式ではなくお見合いだと思います。お見合い相手は俺を見定めるけれども、俺もまた相手を見定める。相思相愛を図る行為。必ずしも頑張りを見せる必要はないんだと思います。(もちろんスペックや頑張りで惚れる場合もある)

「働き方の多様性」という理想を実現するには、メンバー間で保つべき心配りだったり、モチベーションを削がない仕組みだったり、多様性の中でミッションを進めるためのプロセスだったり、様々な試行錯誤から得たノウハウの蓄積があるはずです。調和第一の中でランボーばりに奔放に動いていたら合わないし、全員傭兵みたいな中で執事のように指示待ちでも合わない。どんなに強い北風を吹かせても脱げないコートはある。太陽の暖かさによって脱がすことのできるコートもある。サイボウズの多様性を許容しながら存続成長するためにメンバーに求める資質で、私に足りないことがあったのだな、と今は思います。

ということで、今回の複業採用を通じて多くのアイディアを得られたので、結果はダメだったけど無問題。むしろ何の関係もない自分にこれだけ時間を割いてくれたサイボウズに感謝したいくらい。

で、ここからは経営者視点で思ったことになるのだけど、面接の中で「どういう風に働きたいか?」を2回とも聞かれたのが印象的でした。例えば残業してでもバリバリやりたいか、残業は一切しないか、どういうワークスタイルを希望するか。
別の言い方をすれば面接で「何ができるか」ではなく「何をやりたい人か」を聞いてきた。SEOできますかreact.jsの経験はありますか1万ページのサイト構築ディレクションできますかじゃない。自分がどういう風に生きていたいのか。これを聞く会社ってほとんどないんじゃないかな。とにかく驚きでした。
今までの経験では、仕事量は会社全体の目標や会社が最近約定した仕事の内容からブレイクダウンして決まり、残業や仕事量をコントロールできるなんて考えたことがなかった。全社で仕事がたくさんあるのに「俺は残業しない」という要求が通るのか?悪く言えば染みついた社畜根性、そして将来の不安のコンボ、そして給料は作業成果の対価、という考えから出てきた己の常識なのだけど、請けた仕事をキャパシティ最大まで載せてぶん回すことしか考えていなかった(複業なので週2日程度とみなす仕事量の範囲内で)ので正直こういう方向で考えたことがありませんでした。答える前に、こういうことを聞いてくる会社の組織形態や社内文化ってどうなっているのか、そちらに対する想像が止まらなくなりました。

でも本来会社と従業員の関係ってこうあるべきですよね?ビジョナリーカンパニーにもあるけど、行きたい方向が同じ、生きたい方法が同じならバスに乗りこんだ方がいいし、違うなら必要とされる能力をクリアしていても乗るべきではない。必要とされる能力があるからと人さらいするのもダメ。違う行き先に向かうことが決意できたならバスから降りた方がいい。

どうですか経営者のお友達?一緒に働く従業員に対してこの視点で接したい経営者はたくさんいると思うのですが、実際にこのような調整をできる仕組みを用意して、実行するために必要な金銭的余裕を作るためのファイナンスプランを完成させている人は少ないはず。時給1500円運動とも関連するところあると思うけど、従業員の幸せのためにファイナンスを整備(市場から調達、売り上げ効率をスケールさせて1人当たりの売り上げを増やす、色々あるけれども)することってこれからもっと大事になってくるんじゃないかと思う。いい仲間を迎え入れるための仕組みって色々あるんだと思いました。これも恋愛と一緒で、誰にとって何が魅力となるかは様々。とにかく会社は稼がないと同じバスの仲間を幸せにすることすらできない。従業員もお客様のひとつ。

ということで、500人規模の会社で仕組みを変えながら大きな目標に向かっていくチームで、自分も一緒に変わっていくチャンスは終わってしまったわけだけど、聞いた限りでは、一般的な縦割りの組織でありながら、コミュニケーションの取り方をとにかく工夫改善して円滑に事業を回している印象を受けました。

創業から20人くらいまでは組織図なんてなくても回るけど、それ以上になると、社長の目が届かないところが出てくるのでヒエラルキーを作るしかない。

で、このヒエラルキーのカウンターとしてホラクラシーなんて方法が注目されて、Googleがやっぱりホラクラシー無理マネージャー必要だろなんてアンサーしたりしてますが、個人的にポストホラクラシーの組織論は所属事業部の兼務だと思ってます。管理職が兼務ではなく、一般職が複数の職務を担当するイメージ。例えば人事の仕事とカスタマーサービスの仕事を兼務する、UXを考えながらパブリックリレーションを行うとか。

奇跡の経営などで語られるセムコの成功の秘訣って、ヒカルド・セムラーの経営資質にあるのではなく、従業員が自己のプライドをもって自分のポテンシャルを複数方向に広げているからなのではないか?と考えています。縦割り組織の一番の弊害は合成の誤謬。何よりこの方法だと、事業部単体の最適化ができない。1つの事業部だけでに利害や最適解を探すと1軸で判断してその部署の最適化が為されるけど、複数の事業部に影響がまたがる形ならば複数の軸で判断せねばならなくなる。おのずと組織全体の最適解を全員で考える形になる。従業員にとっては上司が2人存在することになるし、仕事もそれぞれから0.5ずつ受ける形でないとパンクする。多分管理する側も大変だけど、部署内のスタッフは重複分増えるのでペアプロみたいな感じでこなせると考えています。
「自分が大変だ管理コストが大変だ」ではなく「チームがどうあれば力を伸ばせるか」を最優先で考えれば組織の理想形はきっとこれがベースで如何に負担なくやっていくかを考えていく方向に向かうはず。そもそも複眼視点で従業員が考えるようになれば管理は不要になるのでは。 こんな組織の会社あったら働きたい。

しかしこの企画ができないのは残念。外注でいいから担当させてもらえないかなwww

こっちはWebSigのMTGでネタに話してみたい。

--

--