就職氷河期世代がジョーカーに重ねるもの

Satoshi Takeda
Nov 4 · 3 min read

評判も良かったしヒース・レジャーのジョーカーに少なからざる思いがあるので、遅ればせながらホアキン・フェニックス主演の『ジョーカー』を見てきた。とにかくホアキン・フェニックスの演技が凄すぎる。鑑賞後には過去作品へのオマージュや素晴らしさについて TBS ラジオたまむすびで町山智浩が語った書き起こしなどを参考にしていただくとより一層楽しめそう。以降多少ネタバレするかもしれません。


政府から就職氷河期世代への分かりやすい支援がよくメディアで取り上げられている。正直、何を今更という怨嗟しか湧いてこない。自分は 2002 年前後の就活時期から途中ドロップし自ら非正規雇用を選択し続けていたから、就活のシーンで冷たい社会の煽りを受けたわけではないのだけど、就職氷河期という言葉は過去の傷を抉られるようで辛いものがある。

関東の大学から東京に出てきてしばらくは所謂日雇い派遣という、アレですね、最寄りの支店で登録し様々な現場に非正規労働者として向かうやつ。そういった日雇いのアルバイトで食いつないでいた時期があった。自分で選んだ道だったので後悔は特に無いけど。

ジョーカーを観て当時舐めた辛酸の味が思い起こされた、という話。


日雇い派遣、ものにもよるが多くは駅前に集められて現場に向かうことが多い。現場につくと、頭数としてカウントされて言われたことをやればいいので、感情と自分を押し殺して無になっていれば特に問題はない。

ただ日雇い派遣で現場に入ると 6 割くらいは邪険に扱われる。人間は弱い生き物なので低いカーストではさらに低いカーストを蔑み、力を誇示したり下層への優位性を態度で示したりする。職業に貴賤はないというがアレは嘘だ。

流れてくるパック詰めの団子を眺めながら目検で自分的に全部廃棄だと思ってゴミ箱に投げた、ドラム缶いっぱいのネジが再利用可能か一日中選別し全て利用不可として捨てた。もちろん怒られたがそもそもどう見分けるか誰も教えてくれなかった。毎日理不尽しかないのである。

ある朝、集合場所からハイエースに乗り込んだら隣のおじさんの小指が詰めてあって、何をするか分からないまま到着した現場が産廃処理の休日清掃だったこともあった。衣類や身体や鼻から、強烈な匂いが数日離れなかった。この匂い一生忘れないからな…みたいな憎悪を日々腹に抱えて生きていたと思う。


劇中のアーサーを見ていると人柄は優しく母を大切にし、純粋にコメディアンを志しているにも関わらず、病気のせいで弱者として社会の憂き目に何度も会い、さらには自分を取り巻く状況が明らかになるにつれ、心がどんどん壊れていく。もしかしたら母親の虐待で幼児期から壊れていたのかもしれないけど。

徐々に壊れてしまうアーサーに、当時辛酸を舐め続けてきた同世代の影を見ないわけにはいかない。いわゆるロスジェネという総称で括ってしまうのは些か暴力的だけど、就職氷河期世代にも心を壊し残忍な事件を起こしたアーサーのような存在がいないわけではない。

現実の事件を起こした同世代には何の同情もわかないのだが、ジョーカー観劇中はアーサーの憂き目を常に目の当たりにしているため、劇中の彼の殺人さえ致し方無いものとして受け取らざるを得ない気持ちになってくる。感情移入させる演出が本当にえげつない。


ダークヒーローの誕生を描く作品ではあるものの、時代に淘汰され押し潰された弱者が壊れて悪となっていく姿に、ロスジェネが産み落とした社会悪を重ねてしまったという話でした。

    Satoshi Takeda

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    2013年に役者をやめて Front-End Web Developer をやっている。妻と息子、娘の4人で郊外に住んでいる。

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