未来をホームグランドにする方法 落合陽一: 超AI時代の生存戦略

研究や個展、テレビ出演などに加え、書籍に執筆も活発にやっている落合陽一の最新作。魔法の世紀(2015年)これからの世界を作る仲間達へ(2016年)と、書きたいことや世界観は共通しているが、「魔法の世紀」が研究者としての自己紹介に近い内容がメインだったのに比べて、「これからの世界を作る仲間達へ」とこの「超AI時代の生存戦略」はメッセージ性が強くなって、研究者じゃない人たちに向かってのアドバイスのような内容になっている。

未来は勝手にやってくる
本書は「テクノフォビアとどうやって向き合うか」という話が各所にある。テクノフォビア=技術恐怖症という意味で、「暴走する科学」みたいなことを書きたがる人たちだ。「科学者=機械と親和性が上がると人間性に乏しくなる」みたいな見方もテクノフォビアの一部だろう。
一方でコンピュータにいつも繋がっているとか、娯楽の大半をコンピュータに依存しているみたいな世界観はサイバーパンクと呼ばれたが、今ではあたりまえのものになっている。僕はスマートホンの登場より前から様々なガジェットを使って、自宅以外でもずっとインターネット見れるようにしていて、それは気味悪がられたけど、今では誰でもいつもネットに繋がっているのがあたりまえになっている。

もちろん、インターネットが占める時間やお金が増えて、そのぶんCDや本の売り上げが下がったり、社会の構造は変わっていく。適した商売のやりかたは時によって変わるけど、人が音楽やコンテンツに使う時間は増えている。ビデオデッキの発売時、アメリカの映画産業は「映画はこれで死ぬ」ぐらいの反対キャンペーンを全力で行ったらしい。その後死んだかどうかはご覧の通りだ。音楽産業も、ライブの売り上げは年々上がっているらしい。録音メディアと体験、どっちにお金を使う方がいいのかの意見は人それぞれだろうけど、流通業者よりもミュージシャンにベネフィットが集まった方がいいと思う。

1990年代に比べて世界での日本の存在感は落ちて、平均所得は下がって貧富の格差は広がったけど、もっと長いスパンで経済規模が年々下がっていく国……ローマ帝国やメディチ家のころより経済的に落ち込みまくったイタリアや、大英帝国の見る影のない英国でも、誰でもアイスクリーム食べられて外科手術やインターネットができるように、未来は過去より悪くなった試しはない。
未来はテクノロジーがもたらす。未来は勝手にやってくる。

作る人にとって未来は明るい

本書は社会のとらえ方、技術のとらえ方などについて、工学系研究者であり、人間を対象にした技術を開発する落合氏が、現在・未来への適応方法を語る本だ。おおざっぱにまとめると、興味が持てることを具体的に手を動かしてやってみて、フィードバックを受けようという内容がパラフレーズや例を重ねながら各章で語られている。
これはすごい大事なことだ。何をやるにも昔と違い、いくらでも情報が入って手元でできるようになった。本書のタイトルにあるAIも、ホーキングやイーロンマスクがAIについてあーだこーだ言っている内容をWIREDや日経新聞で読むより、自分のPCやクラウドで機械学習のライブラリをいくつか動かしてみる方が有用で、「AIで社会がどうなるか」が掴めるようになるだろう。時間はいくらあっても足りなくなるし、お金はそこまでかからない。

AIに限らず、実際に動き始めてみると、お金よりも時間が問題で「やりたいことはいっぱいあるけど全部はやれない」という状態にすぐなること、それでも昔よりだいぶ短い時間でいろいろできるようになったし、もっと将来的にラクになりそうなことは、さまざまな分野でわかるだろう。僕が個人的にコミットしてたり主催してたりするさまざまなイベントの運営は、まさにそうだ。

僕と落合氏が最初にあったのは、勤務先のチームラボで開いた電子工作祭り。2010年のイベントだったので大昔だ。このとき彼は筑波大の3年か4年だった。もう未踏に選ばれたりしてその世界では有名だったと思うのだけど、僕は研究者でもなんでもないので初見で、モノが面白かったのをおぼえている。その後、メイカーフェア(の前身のMake Tokyo Meeting)やニコニコ学会で何度もご一緒した。どれも興味本位の作る人を中心にした活動で、インターネット以前には運営が難しかったものだ。自分の活動をすることが、出会うきっかけになり、今も会う機会を与えてくれている。
イベントでもモノでもプログラムでも、何かしら作ることは未来をホームグランドにする。

ジャパニーズテクニウム展

5/27まで公開中のジャパニーズテクニウム展には、その落合氏の最新の活動がまとめられている。さまざまな作品だけでなく、作品の背景と、それがYahooのオープンスペース兼オフィスで行われていることまで含めて、本の内容がオーバーラップしてくると思う。
Yahooは東証一部上場の大企業だ。その会社が、オフィス内にオープンスペース、つまり社外の作る人たちとの接点を必要とし、しかもそこで落合氏という研究者兼アーティストの展覧会を開き、それを面白がって見に来る人たちとの交流を、企業活動の一部としている。

そういう一連のプロセスが、本書の内容を裏付けている。

僕自身がジャパニーズテクニウム展のオープニングにお呼びいただいて落合氏とトークしたときに、そういう「作りたいものを作ることがシンギュラリティを超える」みたいな話をした。他の5月のトークと交えて、最終的にまとめたものがこのスライドで、動画(ジャパニーズテクニウム展じゃなくて、別の場所で僕がソロで話した動画)含めてこのブログにまとまっている。ご興味あればあわせてどうぞ。