句読点が苦手というおはなし

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小説、詩的に書きたいのだけど、そうするとどうしても句読点が増える。

白髪混じりの髪。刺繍の入ったシャツ。「空は退職してから始めたんだよ」って言ってたから、そろそろ七十だと思う。DJ、コラムニスト、レコード会社の取締役を務めた、僕からしたら、雲の上のひと。

引用元:浮遊大陸でもういちど

書いたときはこれで良いのだけど、読むときは気持ちが散文モードになってるから、句読点が多いのが気になる。朗読して貰えれば印象は変わるのかもしれないけど。
いっそ句読点ではなく、スペースでわかちがきしたい。

白髪混じりの髪 刺繍の入ったシャツ
空は退職してから始めたんだ――
そう言うと 冷めたエスプレッソを 口にはこんだ
そろそろ七十だと思う
DJ コラムニスト レコード会社の取締役を務めた
僕からしたら 雲の上のひと

こっちのほうがたぶん、僕の意図した呼吸に近いと思う。

「今日も探しに行くの?」
ばらばら、ばらばらと、雨の音をくぐった、ベリチェの声。
「うん。でも今日は旧街道には行かない。新街道だけ」
大声で答えたけど、たぶんあの子だったら、どんな音でも聞き分ける。
梢からは鳥の声が聞こえる。私たちと同じように、狂ってしまった予定の修正に追われているんだ。その声の向こうではもう雨雲は走り去り、散り散りに乱れていた光が歩調を揃える。

引用元:浮遊大陸でもういちど

やっぱり句読点がいらない。カッコもいらない。

人間は句読点はしゃべらない生き物ではなかったか。

なんで句読点を打たなければいけないのか。

今日も探しに行くの?
ばらばら ばらばらと 雨の音をくぐった ベリチェの声
うん
でも今日は旧街道には行かない
新街道だけ
大声で答えたけど あの子だったら どんな音でも聞き分ける
梢からは鳥の声が聞こえる
私たちと同じように 狂ってしまった予定の 修正に追われて
その声の向こうではもう 雨雲は走り去り
乱れていた光が 歩調をそろえる

と、いうような文体で長編を一本書いてみるのもありだな、と。

長編は辛いかな。

でも大昔も長編の叙事詩的なものはあったわけだし。

「叙事詩です!」って言っちゃう手がある。

寝起きの頭は、天井の模様にも意味を探す。耳に届く音。どこかでお湯が湧いて、暖炉の薪はパチパチと爆ぜる。風が窓を鳴らして、あとの静けさは、僕の耳鳴り、古屋の匂い。光も、音も、ただ戯れるだけ。でも、これはまだ夢。

引用元:浮遊大陸でもういちど

ここもただの句読点が多い細切れの文章になってしまってる。

これじゃあただの「めちゃくちゃ句読点の多い人」じゃないか。

寝起きの頭は 天井の模様にも意味を探す
耳に届く音
どこかでお湯が湧いて 暖炉の薪はパチパチと爆ぜる
風が窓を鳴らして あとの静けさは 僕の耳鳴り 古屋の匂い
光も 音も ただ戯れるだけ
でも これはまだ夢

思えば新井素子先生は偉大だった。

別の作品から。

亜実が紡ぎ出した幻想は白い雪となって、少しずつ、少しずつ東京の街を覆った。
宇宙の静寂の、その片鱗がまっしろに街を包むと、不慣れな雪道に静かに響くチェーンの音と、雪に走り回る子どもの声に、
「しーっ」
人差し指をいっぽん立てて、その不器用な包帯を幾重にも、幾重にも、この街に重ねる。この力に満ちた静寂と、恍惚の中で、きっと僕たちは何度も、何度も、生まれ変わってきた。

引用元:昭和58年の宇宙移民

ここは文章の区切りどころか、読み方も指定したい。

「しーっ」のところは口に人差し指をあてて、観客(観客?)を見渡しながら読みます。
そのあとの『人差し指をいっぽん立てて』から『生まれ変わってきた』もピアニッシモで読んで欲しい。
というか、役者ひとり雇って読ませたい。

いっそ戯曲を書けばいいのか?

でもこの年になって、なんの経験もないのにいきなり戯曲書き出すのは、けっこう痛いおじさんだぞ。

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