枠を超えていけ。エレファンテック株式会社 〜TTTアラムナイインタビューvol.1〜
Todai To Texas(以下、TTT)2020の応募が始まりました。
今回で開催7回目を迎えるTTTに合わせ、今までTTTに参加し、South by Southwest(サウス・バイ・サウスウエスト)(以下、SXSW)に挑戦してきた方々(TTTアラムナイ)にインタビューを実施していきます。
記念すべき第一弾として、エレファンテック株式会社 (出展当時の社名: AgIC株式会社) の創業者である清水さんと杉本さんのお二人にお話を伺いました。
今回インタビューしたのは・・・
エレファンテック株式会社 代表取締役社長
清水 信哉
1988年生まれ。東京大学大学院情報理工学研究科、工学修士取得。東京大学に入学後は大規模自然言語処理の研究を行いつつ、電気自動車製造サークルを創設し、設計・製造にもあたる。同年にマッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社し、主に製造業のコンサルティング業務に従事。2014年にエレファンテック株式会社(旧:AglC株式会社)共同創業、代表取締役社長就任。
エレファンテック株式会社 取締役副社長
杉本 雅明
1985年生まれ。東京大学大学院理 学系研究科修了、修士取得。慶應義塾大学大学院SDM研究科博士課程単位取得退学。2008年にLab-Cafeを創業。2012年にはARビリヤード制作プロジェクトOpenPoolを行い、2014年にエレファンテック株式会社(旧:AglC株式会社)共同創業、取締役副社長。Todai To TexasのCo-Founderでもある。
エレファンテック株式会社
2014年創業。「新しいものづくりの力で、持続可能な世界を作る」というミッションの下に、環境負荷が少ない製法で作成可能な片面FPC P-Flex™ を展開しているスタートアップ企業。
目次
- きっかけは「友達が行ってたから行く」という”ノリ”だった
- SXSWへ行くことは目的じゃない。大事なのは「連発」すること
- 多様なバックグラウンドのメンバーだったから、よかった
- 枠は枠でしかない。それを超える体験がSXSWだ
インタビュアー
大野真由美
1992年生まれ。大学在学時、2012年より杉本氏が創業したLab-cafeの運営に携わる。TTT2020へ運営スタッフとして参加。
きっかけは「友達が行ってたから行く」という”ノリ”だった
大野:
はじめに現在のエレファンテック株式会社(以下、エレファンテック)が、どのような事業を行なっているか簡単に教えてください。
清水:
我々は電子回路を印刷して作るという新しい製造技術を開発しているベンチャー企業です。従来の電子回路は、要らない部分を捨てるという製法で作られていたのですが、弊社では、必要な部分だけ印刷するという製法を開発しています。この製法で電子回路を造ると、環境負荷が従来よりもすごく下がります。また、水等の使用量が10数分の1になり、環境に良いというメリットがあります。
昨年からは、このフレキシビリティの高い製法を世に広げていこうと試みも始めています。具体的には、我々のフレキシブル基板の製造を量産化しており、今大きな工場を作ろうとしています。また、印刷等の製造技術を他の領域へ転用していこうといった事業も行なっています。
大野:
お二人がSXSWに行くきっかけは何だったのですか?
杉本:
今の会社の創業より前に、OpenPool(※以下注釈)というビリヤード台をSXSWへ持っていくことになったのが最初のきっかけでした。「ビリヤード台を持っていくのはいいけど、折角なら一人でなく、皆で行こうぜ!」みたいなノリがスタートでした。「幅広い人を巻き込んだ方が、価値があって、面白い活動になる」と思ったんですね。そこから周りの色んなスタートアップの人たちに声をかけて、TTTが始まり、AgIC(エレファンテックと名称変更する前の社名)も出展することになりました。当時はかなりスピード感があるテンポで物事が進んでいて、面白かった。
※OpenPool
新しいビリヤード体験を可能にするオープンソースプロジェクト。ビリヤード台に描き出された光と音のエフェクトが、動きに合わせてインタラクティブに反応。2013年・2014年にSXSWへ出展。
大野:
杉本さんと清水さんが出会ったきっかけは”あれ”でしたよね。
杉本:
そう、元々ゲーム仲間。一緒にゲームのオフ会をやってた仲間で、そこからOpenPoolの物作りを一緒にやってくれていました。清水はOpenPoolではビリヤード台でボールを検知する装置”ポケットディテクター”を作ったり、その問題点を解決してくれていました。
清水:
懐かしい。OpenPoolに僕も参加していたのが、今の会社に繋がったとも言えますね。
杉本:
2013年に初めてOpenPoolを出展するためにSXSWへ参加して、AgICとしての参加はその次の2014年。「自分たちだけじゃなく、皆でSXSWに行こうぜ」みたいな話はあったのですが、面白いことにAgICの創業とタイミングが重なったので、「そしたらAgICもSXSWで一緒にローンチしたら良いじゃん!」という流れになり、SXSWへ出展することになりました。
清水:
付け加えると、この頃私達はKickstarter(※アメリカ発クラウドファンディングサービス)に出すことを決めたので、並行してSXSWにも出展しようとなっていました。当時、お金がかかる場合はクラウドファンディングをやりたいねという話が持ち上がっていたのと、もう一つは「これからリリースします」という周知の意味合いを込めて、SXSW展示の初日にKickstarterのリリースを合わせるという流れになりました。
そもそも、当時は日系のクラウドファンディングがほとんど無かったんですよね。日本のクラウドファンディングとKickstarterで集められる額も全然違いました。ですので、クラウドファンディングはKickstarterでやろうとなり、それなら日本でやるよりKickstaterの本国であるアメリカでローンチした方が良いよねと。実際にはそういう順番で決まっていった話ではないのですが、結果としてはそうでした。そして実際に、Kickstarterリリースと同時にSXSWに出展し、相乗効果でのインパクトがありました。
杉本:
ただ、皆さんが行く最初のきっかけはノリでも良いと僕は思っています。そして、行った人に話を聞くのが良いと伝えたいです。本当はそれだけ。「2013年初めてのSXSWはどうして行くことになったんだ?」と言ったら、元々は (今、TTTの運営をしている) 下川君が2012年に行っていたからなんです。友達がSXSWに行ったから自分も行きました、それで良いと思います。行った人が「すげぇ物を見てきた!」みたいな話をするので、僕も「実際にそこ行ってみたい」となり、2013年は、OpenPoolのメンバーたちだけで勝手にSXSWに行こうと画策しました。
そして実際に初めてSXSWへ行き、非常に良い経験となったので、「これはみんなで行った方が良い!」という話になりました。後の世代にも残したいし、他の人も連れていきたい。そうなると、結構な人数をアメリカへ連れていかなければならないので、それなりに費用もかかる。なので何かフォローアップのフレームは作った方が良いと考えました。また、一緒に行く仲間も集めなければならない。ではどこで仲間を集めるのが良いかと考えた際に、アントレプレナー道場(※東京大学で開講されている起業・スタートアップに関する教育プログラム)のOB・OGは合うかもしれないと思ったんです。
そのタイミングでたまたま、僕が別の活動で東大の産学連携の方々とやり取りをしていたんですよね。その中に、アントレ道場を運営している菅原先生(※現 東京大学産学協創推進本部 インキュベーション・ディレクター)がいまして、声をかけにいきました。「アントレ道場から学生やOBがアメリカに行けちゃうことになったりしたら、面白いですよね?そういうのやらないっすか?」と。そこからTTTが生まれました。
SXSWへ行くことは目的じゃない。大事なのは「連発」すること
大野:
先日、菅原先生からお話を伺った際に、「当初、周りの他の人々は実はあまり乗り気ではなかった」と仰っていました。
杉本:
当初は、協力していただいた方たちもSXSWのことを全然知らず、どんなものか分かっていませんでした。でも、実際に行ったら「これはすごい!」となりました。出展してみたら思ったよりも色んな人たちがバズったんです。初年度のTTTの他のメンバーには、僕らの他にスケルトニクスや、アクセルスペースもいて。OpenPoolも出展は2回目だったけど、バズった。AgICだって、そこそこバズった。
清水:
そうだよね、バズったよね。思った以上に色んなところで取り上げていただいたり、有名な方にも実際にブースに見てきてもらえて、とても反応が良かった。
杉本:
ウルフラムさん(Wolfram AlphaやMathematicaの開発者)が、お子さんと一緒に見に来てくれたり。インタラクティブが面白くなり始めた時期でもあったので、タイミングが良かったというのはあると思います。とにかく、SXSW自体が面白かった。
清水:
正直、SXSWに行くまで、僕たちの製品に対して、人なりお金なりお客さんなりがどのくらい集まるかっていうのがよく分からないところがありました。ですので、SXSWの場で”確信を持てた”じゃないですけど、「自分たちの製品はグローバルな環境でも価値がある」と思えるようになりました。自分たちで考えるだけだと、なかなか分からないんですよね。
杉本:
よくあるのは日本の中だと、結構新しいアイデアなのに「そんなのあるけど」と言われて終わってしまうことも多いけど・・・。
清水:
SXSWでは「これはすごい、見たことのないアイデアだね!」とまず言ってくれる。我々自身のモチベーションにもなったし、その後に仲間を採用するときや、投資家と話す際にも役立ちました。
大野:
具体的には当時のAgICではどんな反響がありましたか?
杉本:
「SXSWだから」という反響の境目がもう分かんなくなってきたな。SXSW1発で終わってないんですよ。というのもその後に、アメリカの Maker Faire等へ順番に連発で出したので、だから僕らにとって境目が分かんないんですよね。SXSWとセットで、ミニMaker Faireみたいなものが隅っこで開催されていて。そこの人たちへも声かけたりしました。それでベイエリアもニューヨークも両方、その年のMaker Faireに行っています。スペインでも賞をいただいたり、その他海外でエディターズチョイスを合わせて3、4ついただいているのですが、日本人としては相当珍しいと思います。当時は、回路プリンターの競合もたくさんアメリカで立ち上がっていたこともあり、分野自体が盛り上がっていました。
日本でも、マイクロソフトのInnovation AwardでOpenPoolとAgICの両方で僕らが登壇して、それぞれ賞を頂いたことがあります。当時マイクロソフトにいた馬田さん(※現 東京大学産学協創推進本部 FoundX ディレクター)にもこの頃から色々お世話になりましたね。
要は、SXSWへ行くことが目的じゃない。あくまでも1つの入り口なので、色々なところへ自分たちの事業を打ち込み、連発しないといけない。連発したっていうのが、すごい大事だと思います。大事なのは、まず最初はたたみかけるという事ですね。
余談ですが、当時、そもそも清水はまだマッキンゼーで働いていたので、0時とか1時にならないと帰ってこなかった。深夜1時に作業場に来て、3時まで作業して帰る。朝は普通に出社しなければならないという、すごい感じになっていました(笑)。 ですので、海外へ行くような余裕はなく、僕と当時AgICのシリコンバレーオフィスのリーダーをやっていた西田君と2人で事前ツアーをしてからオースティンへ行きました。
違うバックグラウンドのメンバーだったから、よかった
大野:
そうだったんですね。当初のAgICはどういうメンバー構成だったのでしょうか?
杉本:
西田君という東大の川原研の出身者で、当時カーネギーメロン大学にいながら一緒にやっていたメンバーがいました。西田君は今、別のチャレンジをしていますが、今もよく連絡を取っています。他にも小笠原という大手企業からうちに来て、その後また大手企業に行って、最近BionicM(ロボット義足を開発する東大発スタートアップ。TTT2017へ参加)にジョインしたようなメンバーもいます。
清水:
すごい良い話だよね。
杉本:
そう、本当に良い話。そうやってチャレンジして、スタートアップに行ったり来たりがある状況が、もっと普通になっても良いと思います。一度ジョインしてみて、少し「そうじゃないな」となったら、それぞれの道に1回戻るというのもあり。そうして初めて多様な仲間が集まれる。僕みたいに1度も就職してないパターンもいれば、清水のようにマッキンゼー出身の人もいて、もっと自分の手を動かせるからという理由で大手メーカーから入ってきたメンバーもいます。
清水:
最初にプロジェクトベースでOpenPoolで活動できたのはとても良かったですね。杉本はどちらかというと営業でお金持ってくるみたいな役割で、僕は完全に真逆でエンジニアとして参加でした。プロジェクトをやるとき、違うバックグラウンドの人が一緒にやれるとすごく良いですよね。例えば、マッキンゼーの卒業生同士が起業するみたいなケースって結構難しいんですよ。なぜかというと、分野がかぶるからです。スキルセットや、やる事がかぶるので、案外難しいんですよね。かと言って、働いていると普通はそうなってしまう。例えばコンサル会社で働いているとコンサル会社の人としか仲良くならない。
既存コミュニティを超えた様々なバックグラウンドから集まり、そこから「何か一緒にやろう」と意気投合する人が出てきた、そんな状況が生まれたOpenPoolはとても良かったと思います。そして、目標としてSXSWへの出展するのはとても良かったですね。
杉本:
そういう意味では、TTTに参加したからといって、そのまま起業しなくても良いんですよね。それがチームとして最初のきっかけとなり、また全然違うネタで次のプロジェクトなり、起業なりするのも良いんじゃないかと思います。
枠は枠でしかない。それを超える体験がSXSWだ。
大野:
最後に、杉本さん・清水さんにとって、SXSWはどんな機会だったのか教えてください。
杉本:
SXSWはめちゃくちゃ冒険でした。SXSW1年目の2013年は、airbnbの宿を「プールがついていて良さそうだから」という理由で下川君が選んだのですが、実際には太陽光発電しかない家で、夜にはシャワーが水になるという非常に ”大冒険な” 宿だったり、メンバー間でたくさん喧嘩をしたりと、色々ほぼ初めての状況下だったんで、大変だったんだよね(笑)。
当時は何の情報もなかった。2年目もその状況にかなり近くて、僕の場合はAgICと一緒にOpenPoolを展示して、しかもOpenPoolは同時に2ヶ所 (※TradeShowとGaming Expo) で展示すると言った意味不明なミッションなっていて、もう大変みたいな(笑)。
今のTTTは蓄積があって環境はどんどん良くなっています。でも本当は、何にもない、前回はこうでしたみたいなのが無い状態で、どうなるか分かんなくて突っ込んでいくようなチャレンジもしてもらったら良いよねとは思います。宿題をこなすのではなく、冒険をしてほしい。
そういったチャレンジをしていた人として思い浮かぶのは、今WOTA(※水再生システムを開発。世界の水問題の解決を目指すスタートアップ)のCEOである北川君と、オランダで活躍しているデザイナーの木原君(※ともにTTT2016参加)ですね。僕が3回目のSXSWに行った2015年に、MESHというSONYのプロジェクトとAgICのコラボレーションでTTTに出させていただいたのですが、その後にニューヨークのパーソンズで授業をやりました。木原君はそこについてきて、一緒に授業をやったんですね。ついて来てたっていうのが結構面白くて、彼の“枠を超える”チャレンジ精神が良いなと印象に残っています。
要は、枠は枠でしかないから、それを超える体験全体が本当はSXSWだと思います。何の情報もない、五里霧中な環境に対して、「とりあえずやってみよう」「行ってみよう」というのが良かったなと思ってます。そういう枠を超えた経験が、僕にとってのSXSWだった。皆さんもTTT運営チームにお膳立てしてもらっているだけではなく、自分で枠を超えていって欲しいですね。
清水:
“全く何も決まってない”というのが、企業の中で働くのと、自分で会社やるのとの違いなので、SXSW・TTTは初めてその体験を象徴的に出来た場だったかなと思っています。
杉本と似たような話になるのですが、なんだかんだで企業の中だと、やる事や期待される成果がほぼ決まっています。先達がいるから「だいたい、こういうときはこうした方が良い」というのが決まっているじゃないですか。それはそれで面白いのですが。ただ、そうではなく自分たちで0から考え、自分たちの責任だけでやるというのは、とても良い機会でした。
例えば、僕たちは「KickstarterのことをTechCrunchに記事を載せてもらうためにどうしたら良いか?」と0から考えました。当時TechCrunchに似たような記事を書いてるライターへ「Twitterでメンションを飛ばしまくったら、記事書いてくれるんじゃないか?」という話になり、実際にメンション飛ばしたら、本当に記事を書いてくれました。
大野:
すごい。割と泥臭くやってた事が、色々あるんですね。
杉本:
泥臭くて、思いついた事をやってみた、みたいな感じでした。とにかく全部やってみるみたいな。
清水:
そうそう。そういうのをやる場でした。しかも、お祭りのような雰囲気もあるし、深夜1時から3時を繰り返しているようなおかしなテンションでしたから(笑)。だから「考えて出来る事は何でもやろうぜ!」みたいな。
杉本:
そう、テンションおかしかったから。「やってみるかぁ〜」という感じだよね。
清水:
SXSWはそういう態度やメンタリティが身につくというか、そうなれる良い場所だなと思います。
杉本:
僕らがバリューとされてるのはやっぱりそういうところ。”普通ならやらない”ことをやってみる。大企業は何故かやらなかったみたいな。でもやってみたら、やらない方がおかしく思えてくるような。そういうチャレンジをしていきたい。
なんかね、あんまり後悔はしてないと思うんだよな。僕らは。「あれやっとけば良かったなぁ」というものはないし、そもそも「振り返ってる場合じゃない」みたいなところもありました。「○○しなきゃいけない」がない世界観で、その中でやりたい事をやってみる。なので、そういう後悔は、あんまりしたことはなかった。何が起こるか分かんないですからね。宝くじみたいなのものがあった方が良いですよね。まぁ、ロシアンルーレットかもしれないけど(笑)。
今回のインタビューは、TTTやSXSWという枠を超え、挑戦するすべての人たちに送られるメッセージだと思いました。杉本さんは2015年にもインタビュー記事がありますが、肝心な部分は変わっていないように思います。
皆さんも、”枠を超えて”みませんか?
TTT2020の応募方法は、公式ウェブサイトへどうぞ。