Amazon Dash Buttonは何がヤバイのか

ところてん
Jan 19, 2017 · 9 min read

Amazon Dash Buttonについて、人と話す機会が何度かあったので、
いかにAmazon Dash Buttonがヤバイかを毎度説明するのだが、

「あんな電池が一年で切れるデバイスは使えない」
「商品がドラッグストアよりも高いのに買うやつはいない」

といった的外れな答えが割と帰ってきて、もんにょりすることが多いので、私が思うヤバさを解説してみようと思う。

エンジニアリング的なヤバさ

Amazon Dash Buttonは、どう考えてもビジネスモデルから逆算してハードウェアを設計しているので、ハードウェアから設計して、ビジネスモデルを作ろうとしている連中は絶対に勝てない。

ビジネスモデルによってハードウェアに対する要求は大幅に変わる。
IoTデバイスはコスト、大きさの面でリソースが限られているため、限られたリソースをどこに割り振るかで、要求を満たせるかどうかが決まる。
Amazon Dash Buttonは自宅にWifiがあるという前提を置き、その前提において、1年で使い捨てにしていいという割り切りからデバイスを設計している。

このような割り切りは、ビジネスモデルが先行していなければ実現することはできず、ビジネスモデルが先行しているからこそ、日本メーカーからしてみたらチープなデバイスが生まれる。

加えて、IoTにおけるデバイスとソフトウェアは日進月歩であり、古いデバイスをサポートし続けると、そのせいでアーキテクチャの進歩が止まってしまう。
古いデバイスを適切に退場させることが、全体のアーキテクチャを健全に保ち、保守コストの低い状態を作り出す。

マーケティング的なヤバさ(メーカー編)

Amazon Dash buttonに対応した商品を見てみると、基本的には消費財で、なおかつ、低関与商材でしめられている。

低関与商材とは、消費者の思考が購買に関与しないで適当に買われる商品のことである。例えば、ガムやスナック菓子、飲料水、ジュース、洗剤など、どれを買っても性能に大差がないものがこれにあたる。

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低関与商材の売上は、ほぼ広告によって決定されるといっても過言ではない。
どれを買っても大差がないからこそ、CMでよく聞いた商品をパッと思い浮かべて、消費者はそれらを買うのである。

それゆえに、消費財メーカーは、莫大な広告費を投下して、テレビCMを行い、自社の商品を消費者の無意識に刷り込む。

東洋経済の2015年の広告費トップ500を適当に眺めてみると、消費財メーカーが実に多いことがわかる(家電と車もブランドで購入されるため、とても多い)。
8位の武田薬品、12位の花王、16位のキリン、19位のユニクロ、21位のサントリー等々。

さて、低関与商材では、広告が売上に寄与すると書いたが、もう一つ強烈に寄与するものがある。それは、消費者は同じ商品を買い続ける、ということである。
そのため、莫大な広告費を投下しても、なかなか消費者は動かず、一人の消費者に自社製品を買うようにブランドスイッチをさせるには、数万円の広告費が必要というケースが良くある。

(ブランドスイッチコストの資料を挟みたかったが、いい資料が見つからなかった)

Amazon Dash Buttonは、ここのブランドスイッチコストの広告費の市場を抑えに行ったのがヤバイ。
消費者はある商品を使い切る事に、次は他のブランドにスイッチする可能性があるが、Amazon Dash Buttonで囲い込んだ消費者はブランドスイッチすることがなくなる。

これは、消費財メーカーにとって、ブランドスイッチの抑制に莫大な広告費を支払っていたのと比べて、大幅なコストダウンを見込める。
したがってAmazonは消費財メーカーから、このぶんのバックマージンを受け取っているであろうと予想する。(仕入れ商品の割引でバックマージンにしているのかな?)

また、1年ごとに電池が切れるのもえげつない。
顧客は電池が切れたら、次のDash Buttonの購入を検討する。つまり、ブランドスイッチのリスクがAmazonのプラットフォーム上で行われることになったのだ。
そのため、1年後に他社のボタンに交換されたくないのであれば、Amazonに広告費を払わなければならない構造がここに生まれる。
1年で電池が切れるからこそ、Amazonプラットフォームが広告市場として成立するのだ。
Amazon Dash Buttonによって、広告費の投入先がテレビCMから、Amazonプラットフォーム上に移動したのだ。

顧客がどのAmazon Dash Buttonを保有しているかはAmazonが握っているため、「競合他社製品のDash Buttonを保有している顧客」に「自社製品のCMを見せる」「自社製品のDash Buttonを顧客に無償で送る」といった広告商材をメーカーに販売することができる。

さらに、1年前後で電池が切れるというのも絶妙で、1年で、あれば商品をディスコン(廃版)にするための猶予としては十分である。
もし電池の寿命が10年持ってしまったら、商品を生産中止にしようとしてもAmazon Dash Buttonからの発注があるから、なかなか生産中止にできない、というジレンマが生まれる。
1年で電池が切れるのは、メーカーにとってもうれしいのだ。

マーケティング的なヤバさ(消費者編)

「Amazon Dash Buttonの商品はドラッグストアより高いから買うやつはいない」
前半は正解だが、後半は嘘だ。

画像はAmazon Dash Buttonで買えるトイレットペーパーだ。ドラッグストアの価格のほうが圧倒的に安い。

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低関与商材は、どれを買っても大差がないからこそ、よく聞くブランド名で選ばれるし、店頭で価格を比較して安いものが選択される。

Amazon Dash Buttonは「比較されない市場」を作ったのだ。低関与商材なので、顧客は品質を気にしないし、価格さえも気にしない。顧客の最大の関心は、その商品が切れているということなのだ。

加えて、水やトイレットペーパーといった車がなくては買いに行けないような大物をこの値段で運んでくれるのであり、その分のコストを勘案したら、大差がない。

まとめ

「浄水器に交換フィルターを発注するためのボタンをつけよう」なんて考え、Amazon Dash Buttonとでは、発想のスケールが全く違う。

発注ボタンで自社製品へのロックインなんてチャチなものじゃない。
その先にある広告費のマーケットや、価格比較の消費者行動までをも抑えにいっている。

IoTは単独でやっては価値が出ない。
プラットフォーマーになり、ビジネスモデルからデバイスを逆算して設計しなくては、勝者になることはできない。

デバイスを先行して作っている日本メーカーの皆さん、息してますか……。
RaspberryPiでGPIOを叩いてみて「IoTをやってみた!」と叫んでいる皆さん、頭大丈夫ですか?

「技適があるせいで日本のIoTが遅れている」と言っている皆さん、ビジネスモデルもきちんと設計していないのに、何IoTとか言ってるんですか?
ビジネスモデルの設計さえできれば、技適を取るのなんで、数十万の申請費用と数週間のリードタイムですよ?

追記

バーチャルなダッシュボタンが発表されました。
もはや物理ボタンである必要はないようです。

電池に関しては、日本版発表当時に「約1年持つ」と紹介されていた記事を目にしていたため、それをもとにしていました。
http://news.mynavi.jp/news/2016/12/05/103/

また、Dash Buttonは普段は完全に電源をカット。ボタンを押してインターネットに接続している間だけしか通電しないため、バッテリーは約1年持つという。

Amazonの発表では「1000回以上使える」「数年使える」と言っています。

分解レポートでは、単四アルカリ電池が入っており、1回の通信で0.4Wの状態が15秒程度続くので、電池の容量1300mAh程度と仮定すると、1100回程度の通信が見込めます。 1300 mAh / (0.4Watt / 1.5V) / 15 second = 1170times
また、待機電力は2μAらしいので、待機だけであれば、27000日(73年)ほど持つようです(その前に自然放電とハードウエア故障で死ぬだろうけど)。

なので、この記事はいろいろと間違っています。
寿命が一年だとした場合の、ある種の思考実験だと思って下さい。
(適当に書いた雑文がこんな反響があるとは思わなかった。)

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