IoTとは?2

Tomo
10 min readJun 17, 2018

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前回の「IoTとは?1」では、IoTとはどういった経緯で発展してきたのか、そしてIoTの実用可能性の例を数個述べました。

今回は、IoTの現状、そして今後解決すべき課題を中心に書いていこうと思います。

IoTの現状と課題

前回の「IoTとは?1」の「IoT実用の可能性」でいくつかの例を示したよう、IoTによって様々なことが実現可能なのです。しかし、それらは単純に技術発展のみでは実現することはできず、社会的な変革が必要なのです

なぜ社会的な変革が必要なのでしょか?それはIoTがクローズであるかオープンであるかによって応用の幅や速度が大幅に異なってくるからなのです。

オープンVSクローズ

突然ですが、鉄道と道路について考えて見ましょう。鉄道の場合、基本的に特定の会社が車両から路線、駅、職員まで全てを管理し、運行に責任を持つような「ギャランティ」の体制で運用されています。この場合全体に対する責任者がいるために、そのシステムは強固に保証されているといえるでしょう。

一方で道路網は国道から県道、市道まで管理者が様々おり、道路は繋がっているにも関わらず全体に対しての責任者はいません。国道に関しては国土交通省が責任を負いますが、それらのインフラを誰がどのように使用するかに関してはオープンです。このようにシステムの稼働に複数の関係者が関わるようになると、誰も全体に対しての責任を取ることができなくなります。なのでこの場合、責任分界を前提とした「ベストエフォート」という考え方が発生します。つまり、ベストエフォートとは参加する人はできるだけ努力はするが、システムの機能に関しては誰も保証はできないという考え方です。これは非常に脆弱なように聞こえますが、脆弱だからこそ非常に柔軟とも言えます。

鉄道が決められた運行ルートした通れない一方、車であればふとお腹が空いた時にレストランに寄ることも、ジムにふらっと寄ることも可能です。どこか路線の一部が故障してしまうと鉄道は止まってしまいますが、どこかの道路が通行止めになったとしても、車の場合は大半の場合は迂回して目的地にたどり着くことが可能です。これは脆弱性だからこその柔軟性であり、完全にサービスが止まらないという点ではある意味強靭であるとも言えます。

この道路のようにベストエフォートの考え方の元に運用され、脆弱であるが同時に柔軟であり、柔軟だからこそ強靭な情報通信システムの典型例がインターネットなのです。インターネットをインフラとして、様々なイノベーションが起こり、世界が急速に変革したことは疑う余地がないでしょう。インターネットは「プロトコル」という通信のための決められた手順さえ踏めば誰でも参加することができ、多様な応用が可能になります。

もしインターネットに管理主体がおり、その管理主体が許可を下さなければ個々の主体は使用することができない…そんな「クローズ」なシステム出あった場合、現在私たちが恩恵を受けているような、革新的な事がおこったでしょうか?インターネットとはもともと戦時中にアメリカ国防省が大学間の論文共有などを目的に開発したネットワークであり、戦後に一般に公開しました。もしそのまま国防省が管理主体だった場合、そのインフラ上で起こりうるイノベーションは、彼らの想像の範囲内に限られたでしょう。

つまり、インターネットは「オープン」さを基本哲学にしてきたからこそ、現在の結果があるのです。そしてIoTに関してもこの「オープン」という考え方が重要なのです!現状は「クローズ」なIoTであり、今後それをオープンにしていくことこそ、我々の抱えている課題なのです。

オープンなインフラになるための社会的変革

さてではオープンにしましょうといって簡単にできるものではありません。前回から度々いっているように、そのためには社会的な変革が必要なのですが、以下にそれらの変革を述べて行きます。

API(Application Programming Interface)でのデータ公開

さてIoTの考えを具体的に何かに応用する際に、重要となってくるのはいかにして情報にアクセスするかです。例えばLive Map of London Underground trainsというサイトがあるのですが、このサイトではロンドンを走る地下鉄のリアルタイムの運行状況が、地図上にある地下鉄を表すシンボルがじわじわ動くような形で見ることが可能です。実はこのサイト、ロンドンの地下鉄を運営する会社が作成しているわけでも、外部の会社に作成依頼をしているわけでもないのです。実は個人のエンジニアが作成したのです。

どうやって一個人がそんなものを作れるのか疑問に思いませんか?その答えこそ、APIなのです。APIとは簡単にいってしまうと「あるシステムを外部のプログラムから制御するためのインターフェースであり、ソフトウェアの機能やデータを共有する仕組み」です。例えばみなさんが何かのサービスに新規会員登録をする際、「Facebookで会員登録」というったボタンが表示されたことはありませんか?あれはFacebookのAPIをあなたが新規会員登録をするサービスが使用しており、Facebook上でのあなたの情報(会員登録に必要な年齢や性別など)をそのサービスで使用しているのです。このFacebookのAPIのおかげで、私たちは何か新しいサービスを使用開始する際に、いちいち個人情報を記入してサインアップする必要がなくなるのです。

今回の場合、ロンドンの地下鉄を運営する会社がAPIを公開していました。この場合の公開しているデータとは、人間が読むことを前提としたエクセルや、データを単純に表にまとめたファイルというわけではありません。そういったファイルだと確かに人間が何かの情報を知りたいときにまとまったグラフなどの形である場合は読みやすいかもしれませんが、リアルタイムに機械が読み込んで、結果として反映させるには適していません。例えば公開された大量のデータから何月何日の数値はどうなっているのか、A点からB点までの移動時間はどのくらいかといったということをデータベースに対して問い合わせるコマンドであるAPIにして、データを公開することにより、開発者側が必要な情報を取捨選択してデータを効率的に使用できるのです。

日本的ギャランティ志向の変革

日本の組織や個人は一般に責任感が強く失敗を恐る傾向が強い、いわばギャランティ志向と言えるでしょう。最初からできる限り失敗しないように慎重に細かく作り込む、全ては自己(自社)完結し、擦り合わせによる綿密さを重視するといった考えがあります。これが悪いこととは全く思いませんが、先ほどの説明の通りこのギャランティ志向は、ベストエフォートによって成り立たざるを得ないオープンなシステムとは対局をなすものです。その日本の性質が、インターネットをはじめとするオープンな情報システムを構築する上で日本が後手に回っている原因のように思われます。これはやはり「オープン」という志向が、歴史的に培われてきた日本人の志向に合わないことが原因でしょう。小手先レベルの話ではなく、哲学レベルでこのIoTという流れを捉えなければ、またも遅れをとってしまいます。

幸いなことに、日本ではクローズな環境ではすでにIoTがある程度発達しています。例えばある会社の工場の中で製品を製造・管理する仕組みはあります。電子タグやバーコードでの管理体制は強靭に行われているところもあり、非常に効率的な運用がなされているのです。そうしてすでに土台のあるIoT化を、それらの電子タグや製造管理用IDを外部に公開してもっと色々な人に使わせるようにオープンになる必要があります。そのために解決しなければならないのが「データのガバナンス」と「制御のガバナンス」なのです。

「データのガバナンス」と「制御のガバナンス」

データのガバナンスとは、社会活動の中で生まれてくるデータは誰のものなのかという問題です。例えば携帯電話を持っているユーザの位置情報は携帯会社のサーバに貯蓄されています。それはユーザのものなのか、それとも電話会社のものなのか、誰が使う権利があるのかということを明確にすることです。

一方で制御のガバナンスとは、例えば家庭内にある機器を制御する権利が、その家の人にあるのか、サービスの提供者にあるのかという問題です。その家の人には来客者も含まれるのか、家族全員が含まれるのか、誰が優先順位を持って制御できるのかということを明確にすることです。

IoTによって実現されるとされている理想的なサービスの多くが、政府・自治体・民間・個人の複雑な連携により実現されるオープンなIoTを必要としているのです。しかしそのためには上記のように「誰がそのデータを使用できるのか、管理するのか」「誰が機器を制御するのか、その優先順位とは」というガバナンス面を整えない限り、リスクを恐れて事業者や自治体などがなかなかオープンIoTに取り組めない可能性が高いです。ガバナンスの変更は日本社会が不得意とするものであるため、技術面よりも、むしろその面が日本のIoTの未来を大きく左右する課題点でしょう。

法律面でのハンディキャップ

日本は英米に対し、志向の面のみではなく、法律面でもIoT社会の実現に向けてハンディキャップがあると考えられます。法律には大きく分けて「大陸法」と「英米法」があり、日本は大陸法です。大陸法では法律にやっていいことを書き、書かれていないことは基本的にやってはいけないという「ポジティブリスト」方式をとっています。一方英米法ではその逆で、法律は「やってはいけないこと」の必要最小限に留める「ネガティブリスト」方式です。そして書かれていないことで問題が発生した際に、裁判によって事後判断し、それが判例法になります。

法律に書いていないことをするためには法律が変わるまで待たなければいけない日本と、法律に書かれていなくても事後判断なので実行に移せる英米。特にIoTなどの新しい概念が出てきた際に素早く行動に移れるのはどちらかは一目瞭然でしょう。

まとめ

・ギャランティ志向のクローズなシステムと、ベストエフォート志向のオープンなシステムの対局がある。IoTはオープンなシステムとなるべき。
・日本はギャランティ志向が強く、オープンなシステムとするためには様々な課題を抱える。
・APIでのデータ公開を積極的に行なっていく必要がある。
・「データのガバナンス」「制御のガバナンス」を変革し、オープンIoT実現に適したものにする必要がある。
・日本はポジティブリストの大陸法適応国である関係で、ネガティブリストである英米法の英米よりも行動に移しにくいというハンディキャップを抱えている。

いつも読んでくださっている方々、ありがとうございます!今回はIoTの制度面での話をしました。だいぶ概念的で退屈かも知れなかったのですが大切なことなので記事にしました。次はもっと面白い、IoTの技術に主眼を置いて記事を書いていこうと思います!

トモ

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