売れる予想のジレンマ

Tsukasa OMOTO
9 min readJan 5, 2019

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2018年は AlphaImpact にとって、飛躍の1年となった。

http://www4.nhk.or.jp/P4253/x/2018-12-17/21/20956/2257038/

2018年のAlphaImpact

netkeiba(ウマい馬券)のお気に入り数では、的中型人工知能は3位まで上り詰めた。また、秋のG1シリーズの神がかった追い上げで回収型人工知能も6位まで上昇した。これらの順位はデータ派予想家の中では1位、2位に相当し、存在感を示すことができた。

的中型人工知能のお気に入りランキング at 2019/1/5 1:33
回収型人工知能のお気に入りランキング at 2019/1/5 1:34

また、PyCon JP 2018PyData.Tokyo にて技術発信を行い、培ってきたノウハウを共有した。PyCon での発表は YouTube にて公式にアーカイブされているので、まだ見たことない人は貫井さんの発表を是非見て欲しい。さらに、AlphaImpact の過去の全ての発表資料はこちらで公開している。

秋のG1シーズン中には、競馬新聞の1つである馬サブローの1面にAIの予想が掲載され、これまで人工知能に馴染みがなさそうであった層にリーチできた。そして、年末にはNHKのノーナレに出演し、いよいよ地上波に乗ったのである。

このような大躍進が、特に秋から年末にかけてあったため、知名度は向上し、予想が爆発的に売れるようになった。以下の図は、2018年10月−12月の売り上げランキングである。

2018年10月-12月の売り上げランキング

800万のユーザを抱える国内最大手のプラットフォーム上でこの成績は大健闘である。1ヶ月単位の成績で集計すると12月は1位だった。これには我々開発者も驚いた。

http://www.netkeiba.com/ (2019/1/5 2:00)

2019年も更なる成長を目標に頑張って行こうと思うが、ここで大きな問題に直面する。

競馬予想販売という行為は、逃れられない自己矛盾を抱えている。もしこの予想が優れており、大勢の人が活用するようになると、まさにこのことによりオッズが効率化され、勝てるものも勝てなくなってしまうのである。

売れる予想には何か売れる理由がある。ウマい馬券上には大きく分けて2つのタイプの売れる予想がある。

2種類の予想

1つは、亀谷氏井内氏(この2人はお気に入りランキング1位、2位の人気予想家である)のように予想のタネをコンテンツとして提供するタイプの予想である。これは実例を見た方がわかりやすいだろう。以下は、この2人の平成最後の有馬記念の予想だ。

亀谷氏はハービンジャー産駒ということでブラストワンピースを◎指定、井内氏は調教の良さからシュヴァルグランを○指定している。両氏とも載せている馬券こそ外しているが、明らかに予想の方向性は間違っていない。この読み応えのある予想を買ったユーザーの満足度は高かったものと思われる。

もう1種類の予想は、AlphaImpact が提供しているような馬券の買い目に価値を置く予想である。こちらも比較のために、有馬記念の時の回収型人工知能と的中型人工知能の予想を載せる。

ともに予想のタネを提供しようとする努力は感じられるが(解析チャートやスコア)、これだけを見てもどのように予想に役立てれば良いのかは自明ではなく、すぐに利用できる情報は印と買い目に限られる。

このタイプの予想は回収率が命で、回収率が出ないと全く売れないし、回収率が出ると人がわんさか集まってくる。昨年末の回収型人工知能への波は、回収率の高さに起因する。

さて、ここで最初の問題に戻る。このような回収率の勝負になると、その予想に乗る人が増えれば増えるほど、回収率が各種、勝馬投票券が定める払戻率に収束してしまうのである。つまり、100%を越える回収率が出せなくなり、そのうち全く見向きもされない予想家になるのだ。

私は、昨年の有馬記念のまえ頃から、回収型人工知能がオッズを動かしつつあるのではないかと疑っている。実は、回収型人工知能の買い目戦略を現在のバージョンに更新したのは2018年11月下旬頃で、その頃と比べると最高想定払戻額が感覚的に落ちている気がしている。

この問題はどうすれば解決できるだろうか?
2018年の中央競馬が終わってから、年末年始にずっと考えていた。

販売価格を引き上げて、購入者数を減らす

予想に乗る人が増えすぎることが問題ならば、購入できる層を絞るというのは一見妥当な解決策のように思える。実際のところ、最近の回収型人工知能の販売価格上昇は購入者をフィルタする目的もある。少なくとも、プラットフォーム上で定期的に配布される無料ポイントだけでは購入できないところまで価格を引き上げておくことには、一定の効果があるように感じている(もちろん、他にも意図はあるが)。

ところで、回収型人工知能の予想は全レース乗らないと、その性能は引き出せないようになっている。少なくとも開発者としては、全レース乗ることを前提に作っている。
(ちなみに、的中型人工知能は、当てたいと思った1R単位で役立つ情報を提供しているつもりだ)

この前提の下で改めて考えると、販売価格を引き上げてもなお全レース分の予想を買うようなユーザーは、結構な賭け金で賭けることができるようなリッチなユーザーであり、結局、オッズが下がってしまう可能性が残る。特に、人気薄の三連単で勝負する回収型人工知能には痛い。

中央競馬の馬券市場規模はかなり大きくて、しばらくこれらの悩みは杞憂に終わるかもしれない。しかし、地方競馬はそうは言っていられない。少し調べればわかるが、例えば名古屋競馬の1Rなんて、単勝でも200万も売り上げがなかったりする。この規模になると一瞬でオッズは動かせるのである。中央競馬でも遅かれ早かれこの問題にぶつかるときがくると覚悟しておく必要があるだろう。

提供する予想のタイプを変更する

確かに、買い目重視の予想からシフトするのは問題を回避している。

しかし、この場合、全レース分の予想コンテンツとして、何を提供すればいいのか不明で、現状、何か持ってるわけでもない。コスパよく提供できる価値を見つけるのは、同じぐらい難しい問題である。

また、このタイプの予想を提供すると言うことは、亀谷氏や井内氏と勝負することになり、両氏が提供するコンテンツとクオリティで戦うのはとても得策とは思えない。自分の得意分野で問題を解決しなければならないと思う。

馬券種を分散させる

3連単以外の馬券種を含めることで、問題を先送りすることは出来るかもしれない。ユーザーにとっても、複数の馬券種の中から自身の予算に合う賭け方を選択できるようになり、メリットがあるように思う。

これは技術的には可能であるし、3連単以外の馬券種でもそれぞれ回収率が100%を越える買い目を我々は提供できるが、これまでの経験上、(詳細は言えないが)あまり取りたくない妥協策になる。もし全くユーザー層の違う場所で予想公開ができるなら、十分選択肢になり得る。

結局どうすればいいのかはわからなかった。根本的には、予想公開の影響をも考慮したシミュレーションができればいいのだが、データが足りない。

もちろん、シミュレーション上では勝てる予想なのだから、予想販売から撤退し、自分たちで運用してしまえば、ジレンマは解決されないが、頭を悩ますこともない。競馬で勝てる余地がまだ残っていることは、株式会社ドワンゴが開発・運用する競馬予測 AI Mambaが2018年に示した。

ただ、ことはそんなに単純ではないし、では来週から予想の提供を辞めますともいかない。予想を出す以上、価値を提供し続けなければならない。

板挟みのような状況でそんなことを考え(たまに石原さとみに現実逃避し)ていたら正月が終わり、2019年の中央競馬が始まった。しばらく悩みは尽きそうにない。

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