モビリティとインターネットの交差点〜GoogleのWaze買収を考える

Toru MORI
10 min readJul 21, 2015

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みなさん、はじめまして。

PR Office Lagrangeの代表、森と申します。今回から、こちらで「モビリティとインターネット」をテーマの中心としてエントリをお届けしたいと思います。

最初にちょっとだけ私のことを。私はPRおよびブランディングの会社を経営しています。ライフスタイルアイテムラグジュアリーアイテムがクライアントとしては多いのですが、一方でクラウドサービス/アプリの国内マーケティングも行っています。いっけん、それぞれバラバラのように見えるかもしれませんが、これで不思議と自分では一本の線に繋がっているのです。その一本の線というのは、インターネットを初めとするテクノロジーがブランドやライフスタイルにどんな変革をもたらすか、ということであり、これが会社としても個人としても大きなテーマとなっています。

その一方で、困ったことに子供のころから今にいたるまで、超がつくほどクルマが大好きで大好きで仕方がありません。そこにテクノロジーとしてのインターネット、データ通信がいよいよ現実のものになって来た昨今、モビリティ(クルマ、自転車、飛行機、電車など公共交通機関を含む移動手段)とインターネット(データ通信)の関連性と研究は、まさに個人的なライフワークとなっています。

モビリティとインターネットの交差点

そこで、このエントリでは、「モビリティとインターネット」に関連するニュースの考察や国内外のトレンドの紹介と気づき、そして、そこから導き出される(ないしは予測される)“ちょっと先の未来”をみなさんと共有できればと思っています。

なお、ここでいう「モビリティ」という言葉は「人が移動するために用いる乗り物」と定義をしておきたいと思います。話題の中心となるのはクルマですが、もちろんモーターサイクル、自転車、飛行機、そして電車にバスにタクシーといった公共的な交通機関も含まれます。通信で繋がることで、これらがフラットに、それぞれが適材適所で有機的に動くことで私たちの生活がより豊かに楽しいものになる……というイメージを私はもっています。

さて、本来はストーリーというか順序良くテーマにそってエントリを書きたいのですが、どうも現実は待ってくれないようです。ここ数週間の動きを見ても、AppleのiOS7の発表、GoogleによるWazeの買収トヨタのビッグデータ公開など立て続けにニュースが生まれています。ファンダメンタルズ的にというかトレンドとしてこの分野がいままで以上に盛り上がっている状況。ですので、目に付いたニュースを元に考察したエントリとすることにいたしました。そして、そうしたエントリが続くうちに大きな円環となって「モビリティとインターネット」のこれからの姿が浮かび上がり、その“ちょっと先の未来”のワクワク感を感じていただければ幸甚です。

GoogleのWaze買収の理由を考える

というわけで、長い前ふりとなりましたが、今回はGoogleによるWazeの買収を考えてみたいと思います。

6月11日に、Googleがイスラエルのスタートアップ、Wazeを11億ドル(約1100億円)で買収しました。WazeはiPhone、Android用の無料カーナビアプリ/サービス企業で、ユーザーが渋滞、事故、道路工事、通行止めから、警察の取り締まりまでを、地図上で投稿することで最新の情報を共有できるのが特徴です。当然ながらそのリアルタイム性は抜きんでており、渋滞情報だけ取っても、普段私たちが接しているカーナビの比ではありません。こうした情報は全ユーザーの地図上に表示されますが、他に地図上でSNS的にフォローができ、フォロー/フォロワー間でPingを飛ばしたり、目的地をシェアして待ち合わせが出来たりといったことも可能です。一つの使い方として複数台のクルマで例えばキャンプ地などを目指す時に、なにも前後で繋がって走らなくともお互いの走っている場所が分かる……というものがあります。

こうしたデータは当然ユーザー数が多ければ多いほど有効なわけですが、一説によれば買収時で5000万人。ですから、ユーザーが世界中に散らばっているとはいえ、十分以上に有効なデータが取れているわけです。

Wazeは理想(に近づいた)のカーナビの一つ

このWazeの地図はもちろんクラウドソースなのですが、面白いのはユーザーが自分の通った道を作っていくということです。私はおそらくWazeを日本で相当早く使いはじめた一人という自負があるのですが、当時はまったく日本語が通らず(今もプアですが)、日本の地図も幹線道路のみというありさまで目的地をムリヤリ設定し、そこに向かって自分が走った経路のほとんどが新規に道になる、というような経験をしました。とても日本でメインのナビとして使えるものではありませんでしたが、一方で私にとって理想のカーナビにかなり近いものという感触がすでにありました(理想のカーナビとは何ぞや?というのはまたの機会に)。また、「いつかGoogle、Apple、Microsoftあたりに買収されるだろうな」という漠とした予感もあったものです。

Wazeで使うたびに地図がどんどん開拓されていき、マップが整備されてくるにつれ、面白いことに気がつきました。ナビを使うユーザーとしてみると、ある程度マップ(というか道)が正確になると、それ以上の正確性を求めなくなるのです。マップの正確性が70%くらいですとそれは不満もありますが、感覚的に95%くらいになるとそこから正確性が96%、97%……99%と上がって行っても実はユーザー体験として余りメリットを感じないのです。Wazeの地図がどのくらいの正確性かの数字は分かりませんが、今ではアメリカはもちろん、日本でも必要にして十分の正確性を備えています。

カーナビの地図に100%の正確性はいらない。

なぜなら、カーナビを使うというのは“目的地に繋がる、自分が通るべき道の両側にどんな道路があるかはほとんど関係がない”からです。一方、既存の地図データをローカルに格納するカーナビは人海戦術で新しい道を探し、それを半年に一度くらいのデータアップデートや新型機種に搭載しています。おそらく100%に限りなく近い正確性を求めていると思うのですが、それでも、ナビ通りにいったら新しい道ができていたとか、ガソリンスタンドに行ったら廃業していた(最近多いですよね)ということが起こっているのは普段カーナビを使っている方ならたびたび経験しているはずです。このサノウラボブログを呼んでいるような方なら自明なように、結局WazeやGoogleMapのクラウドソースのスピードにはかなわないのです。おそらく日本の多くのカーナビの地図に対する正確性の追求は、“地図を全体的に俯瞰し、目視でそこから目的地を見つける”という紙の地図を使うときのメタファーそのままなせいではないかと思えるのです。だって目的地の名前を入れてそれの一致で場所が表示されますよね?途中に何があるかは関係ないと思いませんか。

GoogleがWazeを買収した理由は

さて、Wazeの地図はかなり正確ということを説明しましたが、すると疑問が浮かびます。世界でおそらく一番正確な地図、GoogleMapを持つGoogleがなぜWazeを買収したかということです。一つはApple、そしてチェックインをはじめとして地図サービスを強化しつつあるFacebookに対して敵対的買収という理由が報じられています。これは一つの理由として正しいと思いますが、最大の理由は5000万ユーザーのソーシャルな情報を入手するためでしょう。ソーシャルな情報といってもTwitterの発言やFacebookのウォールポストということではなく、Waze上に投稿されるリアルタイムの渋滞、工事、警察の見張り、そしてガソリンスタンド情報のこと。そして、ガソリンスタンドの価格情報(日本では未対応)やローカルビジネスや大手企業に対する位置情報広告のプラットフォーム、クルマでの検索データのことです。

つまりGoogleMapの上に、Wazeのユーザーによるソーシャルなクルマでの移動に関する情報のレイヤーが乗るというイメージ、Googleからすれば“たったの5000万人”分のデータですが、たったそれだけでもそれが極めて価値があるということに他ならないのです。

クルマでの検索データというのはパソコンやスマートフォンでの検索データとはまったく違う価値を持っています。検索時間(パソコン)、検索時間+場所(スマートフォン)に加えて、クルマの場合、検索をしてからの移動、移動先の属性(レストランなのかショッピングモールなのか、景色の良い湖なのか、親戚の家なのか)、そして移動してから再度検索という風に、時間と座標にいたして移動距離、つまりベクトルが入るわけです。そして、クルマには新車か、中古車か、どのブランドのクルマか、どの形態(クーペかミニバンかなど)か、何人乗っているかなど、よくも悪くもユーザーの趣味、趣向、経済力などが反映されています(たとえ「オレはクルマになんか興味はない。10万円の中古車で荷物と人が運べればいいのだ」といったとしても、クルマに興味がない、クルマにカネをかけない、という属性があります)。ベクトル情報にプラスしてこうした情報も加わるカーナビのデータというのは、これまでの検索では得られない乗数のかかった情報価値があるのです。新宿にいて新宿の蕎麦屋を探すのと、新宿にいて長野の蕎麦屋を探し、そこに行くのでは、明らかに情報の価値が異なります。

さて、こうした文脈で考えると、Google、Microsoft、Appleといったテクノロジー企業にとってマップが、現在考えられる最後の戦場になることは自明の理です。AppleがiOS6で自社のマップサービスに切り替えたのも、先日iOS7で「Siri for the Car」を明らかにし、クルマメーカーと提携を発表したのも、Mac OS X Marvericks 上でマップを使えるようにしたのも同じ文脈下にあるといえます。

パソコン→スマートフォン→クルマ(モビリティ)と戦場が移る中で、もともと優位にあったGoogleがWazeを買収したのは、盤石としかいいようがありません。もっともダメージが大きいのはAppleで、マップ戦争において最大にして最後のチャンスを逃したとさえ感じています。

次回は、モビリティのインフォメーションシステムとして“レイヤー”の概念の重要性を考えてみたいと思います。

Originally published at blog.sanowlabs.jp on June 17, 2013.

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Toru MORI

Owner of tsunagaru Inc & PR Office Lagrange.Board menber of Castalia. Contents Producer,Director.PR agent,Magazine Editor,Board member ofCastalia.MTB,Cigar,Car