ToshihiroKaseda/加世田敏宏
10 min readDec 6, 2017

Vertical SaaS(業界特化型SaaS)とは何か? 求められる戦い方とは?

追記
Vertical SaaS記事、第二弾が公開されました。

私たちZenportは国際貿易(国際物流)のJobを解決するためのSaaSを提供している.これは業界特化型のSaaSであり、Vertical SaaSという種に分類されるものだ.

さて、このVertical SaaSであるが、業種を問わずに導入されるHorizontal SaaSとは求められる戦略がいくつかの点で異なってくる.

そこで今回はVertical SaaSに求められる戦い方について考察を述べたい.

  1. Vertical SaaSとHorizontal SaaSの違い

まずはVertical SaaSの特徴について説明しよう.

先述したとおり、SaaSは大きく二つに分けられる.一つは業界を問わずに導入されるHorizontal SaaSであり、経理、労務、マーケティング、セールスなどをサポートするソフトウェアがこれに当たる.Intuit、Zenefits、Hubspot、Salesforceなどがその一例だ.

もう一つは業界に特化して導入されるVertical SaaSだ.小売、建設、物流、ヘルスケアなどの業界に特化し、業界特有の課題を解くソフトがこれに当たる.Veeva、Guidewireなどがその一例だ.

このHorizontal SaaSとVertical SaaSは、多くの共通点は持つものの、幾つかの点で性質が異なる.それによって、スタートアップに求められる戦略も変わってくる.

Vertical SaaSの特徴は以下の3点だ.

  • Winner Takes all

一般的に、SaaSで取れるシェアは、リーチ可能な市場の20%程度だと言われている.Salesforceであっても、CRM市場でのシェアが20%であることを鑑みれば、この説は妥当なものだと言えよう.

その理由は、業界と規模によって求められるJobが異なるためだと考えられる.同じセールスだと言っても、EnterprizeとSMBで求められるJobは異なるし、業種が異なってもJobは異なる.またBの先のUserの属性によっても異なる.(BtoBtoBとBtoBtoCでは求められるJobが異なる.)
この複雑性がHorizontal SaaSによるドミナントを阻害する.

しかし、この前提がVertical SaaSでは通用しない.先述したようにVertical SaaSは業種を選定するため、ユーザーの同質性が著しく高まる.そのため、20%の縛りを超えてシェアを握ることが可能になる.

その結果、例えば製薬はVeeva、製造業はInforというように、Vertical SaaS業界はダントツの一強とそれ以外というWinnere Takes Allの状況となりうるのだ.

Better Cross-sell&Upsell

Upsellが行いやすいのもVertical SaaSの特徴だ.例えば1つの業界にCRMのツールとして入った後、マーケティング、ファイナンスの機能を提供するという形でCross-sell&Upsellを行いやすい.

また、昨今トレンドとなっているSaaS→マーケットプレイスの展開を行いやすいのも特徴だ.Vertical SaaSのユーザーはフラグメントではなく相互の関係性が強いため、マッチング効果が高くなる.

Vertical SaaSは業界を特化しているため、Horizontal SaaSよりマーケットが小さく思われやすい.確かに初期のSaaS機能だけを見れば小さいことが多いだろう.だが、たとえ入り口が小さく見えても、その先にはBig marketが広がっている.それはVertical SaaSの代表格であるVeevaが、BoxやHubspotの時価総額を大きく上回っていることからも確かだろう.

Lower CAC

ターゲットの同質性が高いと言うことは、当然だが効率的なマーケティング施策が取れることを意味する. Horizontal SaaSを提供する場合、ターゲット層がフラグメントになるため、テレビCMなどのマス向けのマーケティング施策を打つ必要がある. 結果、CACの高騰を招く.

一方、Vertical SaaSはターゲットの同質性が高いため、効率的なマーケティングが可能になる. ある調査ではVertical SaaSのCACはHorizontal SaaSとくらべて、8xも安いという結果が出ている.

例えば、Veevaは上場前にわずか$7Mしか調達しなかった. これもCACを安く抑えられることが一因だと考えられる.

以上Vertical SaaSの3つの特徴を見てきた. 次章以降、これらを踏まえた上でどんな戦略をとるべきかについて論じていこう.

2. Vertical SaaSの海外プレイヤー

戦略の議論に移る前に、世界の有力なVertival SaaSプレイヤーを紹介しておこう. 国内のVertical SaaS業界は未だ黎明期であるが、世界では$1b超えのビッグプレイヤーが次々と登場している.

  • Veeva(Pharmacy)
    製薬管理のSaaS。現在の時価総額は$8.2B以上。
  • Opentable(Restaurant)
    外食の予約管理のSaaS.日本だとトレタが類似サービスに当たる。
  • Textura(Construction)
    建築管理のSaaS。2016年にOracleに$663Mで買収されている。
  • Guidewire(Insurance)
    損害保険のSaaS。現在の時価総額は$5.8B程度。
  • Fleetmatics(Inland logistics)
    配車管理のSaaS。日本だとMovoが類似サービスに当たるだろう。2016年にVerizonに$2.4Bで買収されている。
  • Infor(Manufacturing)
    製造業のSaaS(オンプレも提供)。知る人ぞ知るユニコーンであり、時価総額は既に10B$を超えている。
    ちなみにInforは、あの有名なコーク・インダストリーズからも出資を受けている。
    (コーク・インダストリーズを知らない方はこちらの記事を参照。)
    また、国際物流業界以外の方には馴染みが無いかもしれないが、Shipping portalの3強の一角であるGT NexusはInforの子会社である(2015年に買収)

以上が世界のVertical SaaSの主要プレイヤーだ。名前こそ知られていないが、大きな成果を上げているプレイヤーが多数いることに気づくだろう。

3.日本におけるVertical SaaSの戦い方

では最後に戦略の議論に移ろう。Vertical SaaSの開発では3つの意識すべきポイントがあることが分かってきた。

1)Cross-sell&Upsellに繋がるデータを握れるか

Section1でも述べたように、Vertical SaaSにとってCross-sell&Upsellの機会を持てるか死活問題となる。その際に重要となるのが、アンカーとなるデータを取得できるかだ。

業界によって異なることもあるだろうが、多くの場合それは決済と商流のデータとなる。取引(所有権)の動きと、それに付随するカネの動きは、身体における大動脈のようなものであり、多くのことを語ってくれるからだ。

かつ、これらのデータはフックとなることで、チャーンレート低下の効果ももたらしてくれる。

ただ一方で、これらの情報は基幹システムがカバーしている部分でもあるため、簡単ではない。後で述べるが、可能であればシード期では基幹システムとの連携は避けたほうが良い。その状況でこれらのデータをいかに取得できるか、それは経営者の手腕の見せ所となるだろう。

2)部門選定

サービスがどの部門で使われるかも重要な点だ。先に述べたように、Vertical SaaSはCross-sell&Upsellが必要となる。しかしCross-sell&Upsellを目指そうと思っても、最初にサービスが入った部門が立場の弱い部門だと、他の部門に展開出来ない可能性が出て来る。

結論を述べると、最初に導入する部門は、社内で力の強い部門にする方が良い。

日本では、売上増加に直結する営業部門の力が強く、バックオフィスに行くに従って力は弱くなる。よって可能であれば、コスト削減ではなくトップライン増加を訴求できるプロダクトを開発出来ることが鍵となる。

同じプロダクトを提供するのであっても、入り口と登り方で結果は大きく変わることを肝に命ずるべきだ。

3)基幹システムとの距離の取り方

Vertical SaaSを導入する上で、必ずぶち当たる壁が基幹システムとの連携だろう。中規模以上の企業の場合、ほぼ基幹システムが導入されており、これに財務、製品マスタなどの主要データが蓄積されている。

また基幹システムの種類もSAP,オラクル、オービックなど様々だ。それだけでなく、多くの場合自社向けにカスタマイズしているため、API連携をする場合、各々チューニングが必要となる。

結論を述べると、シード期に基幹システムとの連携を必須にするのは懸命な戦略とは言えない。多分のリソースが必要となるだけでなく、導入のリードタイムの決定要因の一部を第三者に握られる自体になるからだ。限られたリソースでPMFを完了しなければ行けないStartupにとって、この事態は避けたい。

そのためVertical SaaSには、MVIP(Minimum Valuable & Independent Product)を作ることが求められる。すなわち、最低限ユーザーがお金をだしても使いたいプロダクトであり、かつ基幹システムとの連携なく、独質して価値を提供出来るプロダクトを作る必要があるのだ。

スタートアップのシード期には、MVP(Minimum Viable Product)を作る必要があるが、Vertical SaaSではMVPだけでなくMVIPを作ることが求められると言えよう。

まとめ

Vertical SaaSの戦い方を書いてきた。ただ、今回書いた内容はあくまでも一般論であり、例外も存在することを申し添えておく。

また、これはあくまでも私の考えであり、読者の皆様とは異なる可能性も十分にある。その際は是非ともディスカッションさせて欲しい。以下に私のSNSを記載しているそちらに気軽に連絡いただけると嬉しい。

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参考記事

Vertical SaaS Startups Require Different Go To Market Than Horizontal SaaS Companies

Vertical SaaS: What Is It & How Is It Different?

Vertical SaaS is getting substantially higher valuations

ToshihiroKaseda/加世田敏宏

CEO at Zenport, the global trading mgmt platform. Write about Global Trading, Vertical SaaS, Trade Finance, Human History, Japanese Globalization and Blockchain